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はじめに 海水は複雑な混合物であり、水、溶解塩、溶解ガス、無機物質、有 機物質で構成されます。海水の平均塩分濃度は 3.5% 1 kg つき塩が 35 g )です。海水の主な塩分は塩化ナトリウム(NaCl です。また、海水には主に、陽イオンの Na + K + Ca +2 Mg +2 および 陰イオンの Cl - SO 4 -2 が 高濃度で含まれています。さらに、無機 炭素、臭素、ホウ素、ストロンチウム、フッ化物も低濃度で含まれ ています。 人間の活動によって、地球全体および局所における海洋の化学組 成に影響が及んでいます。また、産業汚染、石油やガスの探鉱、規 制されていない 継 続 的な 肥 料の 使 用に、気 候 変 動と 大 気 中の CO 2 濃度の上昇が組み合わせられることにより、海水の元素の組 成に変化が起きています。鉛などの微量元素の濃縮は水中で自然 に見られるものですが、この数十年で濃度が上昇しており、今後も 上昇し続けると考えられます。そのため、海水中の元素の効率的 な分析は環境モニタリングにとって不可欠です。 装置 Thermo Scientific™ iCAP™ 7000 シリーズ ICP-OES には、 分 解 能の 高い エ シェ ル 分 光 器とともに、高 度な 電 荷 注 入 型 CID 検出器が搭載されています。 CID 技術の進歩により光電 性領域が広がり、新型の CID 検出器では、これまでの検出器より も感度が向上しノイズが低減されています。この分析には Duo モデルを採用しました。軸方向測光で最大の感度を実現できると 同時に、横方向測光の使用時に非常に優れたマトリックス耐性が 維持されます。 1 に、本分析において iCAP 7600 ICP-OES Duo で用いたパラメーターを示します。ネブライザー先端への塩 の析出を最小に抑えるため、 Burgener Mira Mist © ネブライザー を使用しました。 Application Note EL14016 Thermo Scientific iCAP7000シリーズ  ICP発光分光分析装置による海水中の微量元素分析 サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社 キーワード アルゴンガス加湿器、海水、微量元素 目的 このアプリケーションノートでは、 ICP-OES による海水の微量元素分析について実証 します。アルゴン加湿器を組み合わせることにより分析が簡便化し、安定性を長時間 確保できます。その結果、分析が難しいマトリックスでも感度を下げることなく ppb 以下の検出性能を達成します。 1 :メソッドパラメーター パラメーター 設定 ポンプチューブ タイゴンサンプル (ホワイト/ホワイト) タイゴンドレイン (ブルー/イエロー) ポンプ速度 50 rpm フラッシュポンプ速度 100 rpm ネブライザーガス流量 0.55 L/min 補助ガス流量 0.5 L/min 冷却ガス流量 12 L/min 高周波出力 1250 W トーチ EMT 測光方向 軸方向 センターチューブ 2 mm ネブライザー Burgener Mira Mist スプレーチャンバー ガラスサイクロン データ取得モード Speed 高波長/低波長積分時間 15秒/5繰り返し測定回数 3 ソフトウェア Qtegra ISDS

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はじめに海水は複雑な混合物であり、水、溶解塩、溶解ガス、無機物質、有機物質で構成されます。海水の平均塩分濃度は 3 .5% (1 kg につき塩が 35 g)です。海水の主な塩分は塩化ナトリウム(NaCl)です。また、海水には主に、陽イオンの Na+、K+、Ca+2、Mg+2 および陰イオンの Cl-、SO4

-2 が高濃度で含まれています。さらに、無機炭素、臭素、ホウ素、ストロンチウム、フッ化物も低濃度で含まれています。

人間の活動によって、地球全体および局所における海洋の化学組成に影響が及んでいます。また、産業汚染、石油やガスの探鉱、規制されていない継続的な肥料の使用に、気候変動と大気中の

CO2 濃度の上昇が組み合わせられることにより、海水の元素の組成に変化が起きています。鉛などの微量元素の濃縮は水中で自然に見られるものですが、この数十年で濃度が上昇しており、今後も上昇し続けると考えられます。そのため、海水中の元素の効率的な分析は環境モニタリングにとって不可欠です。

装置Thermo Scientific™ iCAP™ 7000 シリーズ ICP-OES には、分解能の高いエシェル分光器とともに、高度な電荷注入型

(CID) 検出器が搭載されています。CID 技術の進歩により光電性領域が広がり、新型の CID 検出器では、これまでの検出器よりも感度が向上しノイズが低減されています。この分析には Duo

モデルを採用しました。軸方向測光で最大の感度を実現できると同時に、横方向測光の使用時に非常に優れたマトリックス耐性が維持されます。表 1 に、本分析において iCAP 7600 ICP-OES

Duo で用いたパラメーターを示します。ネブライザー先端への塩の析出を最小に抑えるため、Burgener Mira Mist© ネブライザーを使用しました。

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Thermo Scientific iCAP7000シリーズ ICP発光分光分析装置による海水中の微量元素分析

サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社

キーワードアルゴンガス加湿器、海水、微量元素

目的このアプリケーションノートでは、ICP-OES による海水の微量元素分析について実証します。アルゴン加湿器を組み合わせることにより分析が簡便化し、安定性を長時間確保できます。その結果、分析が難しいマトリックスでも感度を下げることなく ppb

以下の検出性能を達成します。

表1:メソッドパラメーター

パラメーター 設定

ポンプチューブ

タイゴンサンプル(ホワイト/ホワイト)

タイゴンドレイン(ブルー/イエロー)

ポンプ速度 50 rpm

フラッシュポンプ速度 100 rpm

ネブライザーガス流量 0.55 L/min

補助ガス流量 0.5 L/min

冷却ガス流量 12 L/min

高周波出力 1250 W

トーチ EMT

測光方向 軸方向センターチューブ 2 mm

ネブライザー Burgener Mira Mist

スプレーチャンバー ガラスサイクロンデータ取得モード Speed

高波長/低波長積分時間 15秒/5秒繰り返し測定回数 3

ソフトウェア Qtegra ISDS

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アルゴンガス加湿器塩を高濃度で含有する試料の ICP-OESを用いた分析は困難です。塩はネブライザーの先端に析出する傾向があるため、噴霧効率の変化によって、信号ドリフトが起こるとともに、ばらつきが大きくなります。塩を含有する試料を効率的に分析すると同時に、この種の分析の問題を解決するため、iCAP 7000 シリーズ ICP-OES とともに

pergoアルゴンネブライザーガス加湿器(Elemental Scientific)(図1)をオプションとして使用しました。この加湿器は不溶固形物を含有する試料の分析向けに設計されており、ICP-OES の分析に適しています。加湿器には Nafion チューブを使用しており、水蒸気が膜を通って浸透し、ネブライザーで使用するアルゴンガスを加湿します。水によってネブライザーへの塩の析出が防止されるため、分析を中断せずにメンテナンスなしで長時間稼動することが可能です。加湿器の動作原理を図2に示します。

標準溶液の調製検量線溶液が各元素の必要濃度 (50、100、200、500 µg/L) になるよう、高純度標準溶液を使用して 2% (v/v) HNO3 で調製しました。標準物質について回収率 (%) を評価するため、検量線溶液は純水ベースおよび海水ベースで別々に調製しました。

pergoアルゴンネブライザーガス加湿器は取り扱いが簡単です。給水ボトルを大気圧下で使用できるため、高気圧下で稼動する他のアルゴン加湿器と異なり、分析を長時間行う際に必要な安全性が確保されます。さらにiCAP 7000 シリーズ ICP-OESの使用法とメンテナンスは簡単なので、TDS が多い試料分析での検出限界が向上し、長時間の安定性が確保されます。

材料と方法試薬

• 69% HNO3 微量金属グレード(Fisher™ Scientific)• 単一元素の標準液(1000 mg/L の Al、As、Ba、Be、Cd、Cr、Co、Cu、Fe、Pb、Mn、Mo、Ni、Ag、Tl、Sn、Ti、V、Zn)(Fisher

Scientific)Ge (265.118 nm を高波長に、219.871 nm を低波長に使用)を内標準として選択

認証標準物質•海塩(ASTM International 1141-98)•標準添加水標準物質 (LGC Standard)

試料

本分析に使用する疑似海水は、ASTM International 1141-98 の海塩 41.953 gを 1Lの純水に溶かして調製しました。混合後、0.1N NaOH 溶液を用いて pH を 8 .2 に調整し、海塩を標準添加水に溶かす際も同量を使用しました。そして、それぞれ50 mL

を分取して分析に供しました。表 2 に ASTM International

1141-98 の海塩の組成を示します。pergoアルゴンネブライザーガス加湿器は常時使用しました。

図1: pergoアルゴンネブライザーガス加湿器(Elemental Scientific)

表2: ASTM International 1141-98 の海塩の組成物質 組成 (%)

NaCl 58.490

MgCL2 - 6H2 O 26.460

Na2 SO4 9.750

CaCl2 2.765

KCL 1.645

NaHCO3 0.477

KBr 0.238

H3BO3 0.071

SrCL2 – 6H2 O 0.095

NaF 0.007

図2: pergoアルゴンネブライザーガス加湿器の動作原理(Elemental Scientific のご厚意により転載)

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メソッド開発メソッド開発と分析は、Thermo Scientific Qtegra™ ソフトウェアで行いました。メソッドの有効性を評価するため、はじめに標準添加水を測定し、回収率(%)を算出しました。次に、海塩添加混合水を測定して、回収率(%)を評価しました。その際、海水をマトリックスとし、標準添加水をマトリックススパイクとしました。測定は常に軸方向測光で、各元素の波長を一つ以上選択しました。そして、各波長のサブアレーをその都度観察し、干渉の存在、検量線、標準溶液のリードバック値、各元素に必要な検量線範囲を踏まえて、もっとも適切な波長を選択しました。各元素のサブアレープロットは Qtegra ソフトウェアで簡単に操作できるので、最適なピークとバックグラウンド位置を選択することができます。

結果標準添加水標準物質の回収率を計算する際は、前述の純水ベースで調製した検量線溶液を用いて装置の較正を行いました。それ以外の実験では、海水ベースの検量線液を用いて装置の較正を行いました。すべての元素に対して線形近似を適用しました。Qtegra

ソフトウェアで作成した検量線の例を図 4に示します。標準添加水と海塩添加混合水の測定結果および回収率(%)を表 3に示します。海塩添加混合水での回収率は Qtegraソフトウェアに搭載の MXS(マトリックススパイク)テストで評価しました。マトリックスマッチングさせた較正用ブランク(純水に溶かした海塩)を

10 回繰り返し測定した標準偏差を 3 倍して、メソッド検出限界(MDL)を算出しました(図 4に表示)。さらに、海塩添加混合水の測定値の安定性を、3 時間以上にわたり評価しました。グラフ(図

5)に、安定性結果を示します。

図3: Qtegra ソフトウェアによる Zn 213 .856 nm のサブアレープロット、バックグラウンド補正位置も表示

図4: Qtegra ソフトウェアによるMo 202 .030 nm の検量線

表3: 標準物質(標準添加水と海塩添加混合水)の分析結果と回収率(%) 値にともなう不正確さはそれ以上補正せず計算

元素 波長 (nm) 認証値 (µg/L) ±2 s 標準添加水(µg/L) 回収率 (%) 海塩添加混合水

(µg/L) 回収率 (%)

Ag 328.068 20.60 1.80 17.75 86.16 18.00 94.60

Al 167.079 310.00 24.90 293.74 94.75 311.52 107.70

As 189.042 25.40 3.30 27.22 107.15 30.98 127.50

Ba 455.403 148.00 10.70 136.56 92.27 141.92 96.00

Be 234.861 17.60 1.60 17.99 102.20 16.94 96.20

Cd 226.502 90.90 8.10 85.47 94.02 87.21 96.10

Cr 267.716 165.00 11.50 155.98 94.53 161.96 98.70

Co 228.616 136.00 9.10 126.19 92.79 133.47 98.20

Cu 324.754 197.00 15.00 183.62 93.21 190.11 97.40

Fe 259.940 412.00 38.30 395.08 95.89 416.46 112.80

Pb 220.784 358.00 28.70 340.62 95.14 362.11 100.90

Mn 257.610 198.00 14.70 182.27 92.06 191.30 92.70

Mo 202.030 207.00 15.00 206.27 99.65 215.66 104.10

Ni 231.604 274.00 20.00 257.02 93.80 273.55 96.90

Sn 189.989 19.80 2.90 18.79 94.90 26.94 139.90

Ti 323.452 120.00 7.60 115.00 95.84 118.74 100.10

Tl 190.856 18.30 1.70 15.29 83.52 17.07 91.10

V 292.402 145.00 11.20 166.51 114.83 165.30 114.21

Zn 213.856 263.00 25.30 264.87 100.71 256.87 98.59

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元素 波長 (nm) MDL (µg/L)

Ag 328.068 1.131

Al 167.079 1.857

As 189.042 3.369

Ba 455.403 0.552

Be 234.861 0.087

Cd 226.502 0.147

Cr 267.716 0.942

Co 228.616 0.528

Cu 324.754 0.816

Fe 259.940 7.5

元素 波長 (nm) MDL (µg/L)

Pb 220.784 2.046

Mn 257.610 0.357

Mo 202.030 0.537

Ni 231.604 0.627

Sn 189.989 2.580

Ti 323.452 0.762

Tl 190.856 2.811

V 292.402 0.987

Zn 213.856 0.507

表 4: マトリックスマッチングさせたブランクから求めたメソッド検出限界(MDL)

図 5: 海塩添加混合水の長時間安定性。どの元素も ±20% 以内

まとめiCAP 7600 ICP-OES に pergoアルゴンネブライザーガス加湿器を組み合わせると、海水または高塩濃度試料を、問題なく長時間にわたり正確に分析できることが実証されました。標準物質の回収率の結果はきわめて正確であり、MDL は本アプリケーションで達成し得る最小レベルに匹敵します。iCAP 7600 ICP-

OES に搭載した最新設計 CID 検出器により、感度が向上し、ノイズが低減します。そのため、この分析のように要求度の高いアプリケーションであっても、最適な信号を一度に選択し、可能な限り高いS/N 比を実現することが可能です。