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「課題論文」(EE) 指導の手引き 2018 年 第1回試験 ディプロマプログラム(DP)

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「課題論文」(EE)指導の手引き

2018 年 第1回試験

ディプロマプログラム(DP)

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「課題論文」(EE)指導の手引き

2018 年 第1回試験

ディプロマプログラム(DP)

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2015 年1月に発行

英文原本 Extended essay guide の日本語版

2017 年1月発行

本資料の翻訳・刊行にあたり、

文部科学省より多大なご支援をいただいたことに感謝いたします。

注: 本資料に記載されている内容は、英文原本の発行時の情報に基づいています。ただし、ディプロマプログラムの概要を説明している「ディプロマプログラムとは」のセクションに限り、日本語版刊行時現在の新たな情報が反映されています。また、本資料には、デュアルランゲージ・ディプロマプログラム(DLDP)として日本語で開講されている科目のみが掲載されています。他科目についての詳細は、英語版をご参照ください。

ディプロマプログラム(DP)

課題論文(EE):指導の手引き

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IBの使命IB mission statement

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この「IBの学習者像」は、IBワールドスクール(IB認定校)が価値を置く人間性を 10 の人物像として表しています。こうした人物像は、個人や集団が地域社会や国、そしてグローバルなコミュニティーの責任ある一員と

なることに資すると私たちは信じています。

3

探究する人私たちは、好奇心を育み、探究し研究するスキルを身につけます。ひとりで学んだり、他の人々と共に学んだりします。熱意をもって学び、学ぶ喜びを生涯を通じてもち続けます。

知識のある人私たちは、概念的な理解を深めて活用し、幅広い分野の知識を探究します。地域社会やグローバル社会における重要な課題や考えに取り組みます。

考える人私たちは、複雑な問題を分析し、責任ある行動をとるために、批判的かつ創造的に考えるスキルを活用します。率先して理性的で倫理的な判断を下します。

コミュニケーションができる人私たちは、複数の言語やさまざまな方法を用いて、自信をもって創造的に自分自身を表現します。他の人々や他の集団のものの見方に注意深く耳を傾け、効果的に協力し合います。

信念をもつ人私たちは、誠実かつ正直に、公正な考えと強い正義感をもって行動します。そして、あらゆる人々がもつ尊厳と権利を尊重して行動します。私たちは、自分自身の行動とそれに伴う結果に責任をもちます。

心を開く人私たちは、自己の文化と個人的な経験の真価を正しく受け止めると同時に、他の人々の価値観や伝統の真価もまた正しく受け止めます。多様な視点を求め、価値を見いだし、その経験を糧に成長しようと努めます。

思いやりのある人私たちは、思いやりと共感、そして尊重の精神を示します。人の役に立ち、他の人々の生活や私たちを取り巻く世界を良くするために行動します。

挑戦する人私たちは、不確実な事態に対し、熟慮と決断力をもって向き合います。ひとりで、または協力して新しい考えや方法を探究します。挑戦と変化と機知に富んだ方法で快活に取り組みます。

バランスのとれた人私たちは、自分自身や他の人々の幸福にとって、私たちの生を構成する知性、身体、心のバランスをとることが大切だと理解しています。また、私たちが他の人々や、私たちが住むこの世界と相互に依存していることを認識しています。

振り返りができる人私たちは、世界について、そして自分の考えや経験について、深く考察します。自分自身の学びと成長を促すため、自分の長所と短所を理解するよう努めます。

IBの学習

者像

IBの学習者像すべてのIBプログラムは、国際的な視野をもつ人間の育成を目指しています。人類に共通する人間らしさと地球を共に守る責任を認識し、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する人間を育てます。

IBの学習者として、私たちは次の目標に向かって努力します。

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「課題論文」(EE):指導の手引き

目次

はじめに 1「課題論文」について 1

概要 18「課題論文」の概要 18

「課題論文」を支えるために 25

詳細―全科目共通 40「課題論文」への導入 40

研究と執筆のプロセス 53

「課題論文」の評価 68

科目ごとのガイダンス 85

詳細―科目別 90言語と文学 90

経済 103

地理 114

歴史 123

生物 133

化学 143

物理 152

数学 162

ダンス 171

音楽 182

美術 193

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「課題論文」(EE):指導の手引き 1

「課題論文」について

はじめに

ディプロマプログラムについてディプロマプログラム(DP)は 16 歳から 19 歳までの大学入学前の生徒を対象とした、

綿密に組まれた教育プログラムです。幅広い分野を学習する2年間のプログラムで、知識

豊かで探究心に富み、思いやりと共感する力のある人間を育成することを目的としていま

す。また、多様な文化の理解と開かれた心の育成に力を入れており、さまざまな視点を尊

重し、評価するために必要な態度を育むことを目指しています。

DPのプログラムモデル

DPは、中心となる核(「コア」)を6つの教グループ

科が取り囲むモデル図で示すことができま

す(図1参照)。DPは、幅広い教科を同時並行的に学ぶことを奨励します。生徒は、現代

言語を2言語(または現代言語と古典言語を1言語ずつ)、人文または社会科学を1科目、

理科を1科目、数学を1科目、芸術を1科目履修します。多岐にわたる分野を学習するた

め、学習量が多く、大学入学に向けて効果的に準備できるようになっています。生徒は各

教科から柔軟に科目を選択できるため、特に興味のある科目や、大学で専攻したいと考え

ている分野の科目を選ぶことができます。

図1DPのプログラムモデル

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はじめに

「課題論文」(EE):指導の手引き2

科目の選択

生徒は、6つの教科からそれぞれ1科目を選択します。ただし、「芸術」から1科目選

ぶ代わりに、他の教科で2科目選択することもできます。通常3科目(最大4科目)を上

級レベル(HL)、その他を標準レベル(SL)で履修します。IBでは、HL科目の学

習に 240 時間、SL科目の学習に 150 時間を割りあてることを推奨しています。HL科目

はSL科目よりも幅広い内容を深く学習します。

いずれのレベルにおいても、さまざまなスキルを身につけますが、特に批クリティカル

判的な思考と

分析に重点を置いています。各科目の修了時に、学校外で実施されるIBによる外部評価

で生徒の学力を評価します。また、多くの科目で、科目を担当する教師が評価する課題

(コースワーク)を課しています。

2018 年 第1回試験

ディプロマプログラムの「コア」についてDPで学ぶ生徒はすべて、プログラムモデルの「コア」を形づくる次の3つの必修要件

を履修します。

•「知の理論」(TOK)

•「創造性・活動・奉仕」(CAS)

•「課題論文」(EE)

この「コア」の3つの要件は互いに補完し合い、次の共通のねらいを達成するうえで共

に作用します。

•教科学習を支え、教科学習に支えられる

•国際的な視野を育む

•自己認識とアイデンティティーを培う

「知の理論」(TOK)は基本的に、具体的な知識について学習するのではなく、批判的思

考と知るプロセスを探究するコースです。「知識の本質」について考え、私たちが「知っ

ている」と主張することを、いったいどのようにして知るのかを考察します。具体的に

は、「知識に関する主張」を分析し、知識の構築についての問いを探究するよう、生徒に働

きかけていきます。TOKの目的は、「共有された知識」の領域間のつながりを重視し、そ

れを「個人的な知識」に結びつけることで、生徒が自分なりのものの見方や、他人との違

いを自覚できるよう促していくことにあります。

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はじめに

「課題論文」(EE):指導の手引き 3

「創造性・活動・奉仕」(CAS)は、DPの根幹を成すものであり、次の3つの要素で構

成されています。

•創造性(創造的思考を伴う芸術などの活動)

•活動(健康的なライフスタイルの実践を促す身体的活動)

•奉仕(学習に有益であり、かつ無報酬で自発的な交流活動)

CASは、生徒のアイデンティティーの構築に役立つことを重視していて、「IBの使

命」や「IBの学習者像」の倫理原則に沿って生徒が自分自身のアイデンティティーを構

築するのを後押しします。生徒は、DPの期間全体にわたり、教科学習と同時並行して多

岐にわたるCASの活動を行います。

CASは、DPを構成する他のどの要件よりも、「多様な文化の理解と尊重の精神を通じ

て、より良い、より平和な世界を築く」という「IBの使命」に寄与していると言えるか

もしれません。

「課題論文」(EE)では、IBの生徒が関心のあるトピックの個人研究に取り組み、研究

成果を 4000 語(日本語の場合は 8000 字)の論文にまとめます。これには「ワールドスタ

ディーズ」の「課題論文」として執筆するものも含まれます。生徒は、履修しているDP

科目から1科目(世界を対象に学際的な研究を行う「ワールドスタディーズ」の場合は

2科目)を選んで対象とする研究分野を定め、大学で必要とされる個人研究のリサーチス

キルや記述力を身につけます。研究成果は正式な書式に構成された論文にまとめ、選択し

た科目にふさわしい論理的かつ一貫した形式でアイデアや研究結果を伝えます。高いレベ

ルのリサーチスキル、記述力、創造性を育成し、知的発見を促すことを目的としており、

担当教員の指導のもと、生徒が自分自身で選択したトピックに関する研究に自律的に取り

組む機会となっています。

「コア」の一貫性「コア」の3つの必修要件である「知の理論」(TOK)、「創造性・活動・奉仕」(CAS)、

「課題論文」(EE)は、DPのカリキュラムを創設したメンバーによって、全人教育を実

践する手段として導入されました。IBは、全人教育を重視しており、それを最も効果的

に達成する手段が、これら3要件のねらいと相互の関係性を明確かつ明示的に特定し発展

させていくことだと考えています。一貫性のある1つのまとまりとして「コア」を捉える

ことで、具体的には以下のことが達成できると考えています。

•さまざまな学びの関連性を支える

•同時並行的に進行する学びを支える

•IBの一貫教育とIBの学習者像を支える

•科目の学習に対する幅広い視野を支える

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はじめに

「課題論文」(EE):指導の手引き4

教科の学習と相互に支え合う

「コア」は、DPの本質であると見なされています。教科の学習は「コア」とは別のもの

ですが、とはいえつながりがあります。「コア」は教科の学習によって豊かな経験となり、

教科の学習は「コア」によって深みを増します。「コア」を担当する教師は、どのようにす

れば生徒がDPで学習する科目のより深い理解にTOK、CAS、EEを役立てられるか

を注意深く検討し、計画する必要があります。これには以下のような例が含まれます。

•TOKで身につけた批判的思考のプロセスを教科の学習に応用する

•CASでサービスラーニング(奉仕活動を通じた学習)の機会を開発することによ

り、生徒がもっている既存の科目の知識を活用して、その領域でより新たな知識や

深い知識を構築できるようにする

•EEでグローバルな意義のあるトピックや問題を選び、1つまたは複数の教科の枠

組みを用いて探究する

国際的な視野を育む

「コア」は、国際的な視野を育むこと、そして究極的には責任ある「地球市民」を育成す

ることを目標としています。「コア」の大きな原動力となっているのは、次の「IBの使

命」です。

世界各地で学ぶ児童生徒が、人がもつ違いを違いとして理解し、自分と異な

る考えの人々にもそれぞれの正しさがあり得ると認めることのできる人と

して、積極的に、そして共感する心をもって生涯にわたって学び続けるよう

働きかける

(IBの使命)

このため「コア」は、グローバルな意義のある問題の探究を促し、それを通じて「ロー

カル」と「グローバル」の間のつながりを生徒が考察できるように実施されるべきです。

また、他の人のものの見方やその背景について考えることを促し、その過程で生徒が身に

つける信条や価値観がその後の人生にも反映されていくよう促します。

これには以下のような例が考えられます。

•TOKで、異なる文化に基づくものの見方があることを理解し、さまざまな文化の

伝統がどのように私たちの現在の知識の構築に寄与してきたかを考察する

•CASで、グローバルな意義のある問題をローカルな視点から探究して実践できる

ような奉仕のプロジェクトを検討する

•EEで、グローバルなテーマについて学際的な研究を行う「ワールドスタディーズ」

に取り組むことを奨励する

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はじめに

「課題論文」(EE):指導の手引き 5

自己認識とアイデンティティーを培う

「コア」は、生徒の人生に大きな影響を及ぼすことを目標としています。生徒が自分の価

値観や行動について考え、この世界における自分の位置を理解し、そして自己のアイデン

ティティーを形成できる機会をもたらすものであるべきです。これには以下のような例が

考えられます。

•TOKで、異なるバックグラウンドや異なる見方をもった他者と話すことにより、

自分自身の価値観を問い直す機会を設ける

•CASで、恵まれない人々を支援したり、アドボカシー(権利擁護や提言)の概念

を模索したりする自分自身の活動を評価するよう促す

•EEの執筆プロセスを振り返り、そうすることを通じて自分が強みとする領域や改

善が必要な領域を特定するよう促す

指導と学習の方法DPにおける指導と学習の方法(ATL)とは、指導と学習の環境に浸透する熟慮され

たストラテジー、スキル、および態度を指しています。これらのアプローチとツールは、

「IBの学習者像」と密接に関係していて、生徒の学習の質を高めると同時に、DPの最終

評価やその先の学びのための礎をつくります。DPの指導と学習の方法には、次のような

ねらいがあります。

•学習内容の教師となるだけでなく、学習者の教師となるために必要な力を教師にも

たらす

•教師が明確なストラテジーを策定できるよう支援することにより、体系的な探究と

批判的思考や創造的思考に生徒が有意義に取り組んでいけるような学習経験を創

造する

•各科目のねらい(科目別の目標以上のもの)と、それぞれの知識の関連づけ(同時

並行的な学習)の両方を促す

•生徒が卒業後も能動的に学習し続けるために必要となるさまざまな系統的スキル

を身につけるよう奨励し、良い成績を取得して大学に入学するだけでなく、大学や

それ以降の人生で成功していくための準備を支援する

•生徒にとってDPの体験が、より一貫性のある、重要性の高い体験となるようにする

•理想主義と実践主義を融合させるIBのDP教育の性質を学校が理解できるよう

に促す

5つの「学習の方法」(思考スキル、社会性スキル、コミュニケーションスキル、自己管

理スキル、リサーチスキル)と、6つの「指導の方法」(探究を基盤とした指導、概念に重

点を置く指導、文脈化された指導、協働に基づく指導、生徒の多様性に応じて差別化した

指導、評価を取り入れた指導)には、IBの教育を支える重要な価値観と原則が含まれて

います。

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はじめに

「課題論文」(EE):指導の手引き6

指導と学習の方法についての詳細および補足情報は、本資料の次のセクションで説明さ

れています。また、オンラインカリキュラムセンター(OCC)のDPのセクションにも

指導と学習の方法に関する一連の資料が収録されています。以下のセクションは、これら

のリソースを踏まえて書かれています。

指導と学習の方法と「課題論文」指導と学習の方法のいくつかを取り上げた以下の説明は、「課題論文」がこれらのスキル

をどのように伸ばすかを示すための参考という位置づけで提供されています。以下の事例

は、網羅的なものではありません。これらのスキルが「課題論文」の経験にどのようにつ

ながるかについて、教師や生徒が他のあり方を発見する可能性は十分にあります。

6つの「指導の方法」は、以下のとおりです。

•探究を基盤とした指導

•概念に重点を置く指導

•ローカルとグローバルの文脈でとらえる指導

•効果的なチームワークと協働に重点を置く指導

•すべての学習者のニーズに応えるために差別化した指導

•評価(形成的および総括的)を取り入れた指導

5つの「学習の方法」は、以下のとおりです。

•思考スキル

•コミュニケーションスキル

•社会性スキル

•自己管理スキル

•リサーチスキル

「指導の方法」

探究と「課題論文」

「課題論文」はおそらく、生徒が取り組むなかで最も探究の要素が色濃く表れる活動で

す。自分の関心に導かれるかたちで、確固とした正解が存在しない課題に取り組むためで

す。しかし、これは決して偶然の成せる業ではありません。「課題論文」は、重大な意義を

もつ問題や生徒が個人的に気にかけている研究領域に深く踏み込んで、有意義なかたちで

考察するよう生徒に働きかけることを旨として、そもそも設計されているのです。生徒は

研究をするなかで、そのトピックや研究の方法論、および批判的思考について学ぶだけで

なく、時間を管理する能力、意志を貫徹する能力、困難を克服する能力、決定を下す能力

など、応用可能な重要なスキルを学びます。

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はじめに

「課題論文」(EE):指導の手引き 7

探究を基盤とした指導

IBプログラムの基本IBプログラムの探究を基盤とした指導には、生徒の天性の好奇心を伸ばすと同時に、自己

管理、思考、リサーチ、協働的な学習といったスキルを向上させるという考え方がありま

す。これにより、自律的に動機を見つけることのできる生涯学習者になれるようにするため

です。

探究を基盤とした指導には、いくつかのタイプがあります。

•体験的な学習

•問題やプロジェクトに取り組む学習

•実際の事例に基づく学習

•発見的な学習

探究を基盤とした指導の最も重要な側面は、生徒が自分の学習に能動的に取り組み、自分の

理解を構築していくという点です。探究を基盤とした指導が行われている教室では、生徒と

生徒、生徒と教師の間で多大なやりとりが行われます。この状況における教師の主な役割

は、質問するよう促し、学習のプロセスを導いていくことです。生徒は、ある程度の自由を

与えられて、学習をどのように進めていくかについて自分で決定を下すことができます。そ

して、その学習の過程はしばしば、具体から抽象へと進んでいきます。

概念理解と「課題論文」

「課題論文」では、生徒が取り組む研究の焦点に枠組みをもたらすという点で、概念が重

要な役割を果たします。また、概念は、生徒の知識や理解を示す手段にもなります。研究

領域に関係した概念について批判的に議論することのできる生徒は、学習のさまざまな側

面がどのようにつながっているかについて、深いレベルの理解を示すことができます。

概念に重点を置く指導

IBプログラムの基本IBが概念に重点を置く指導を実践している大きな理由は、生徒に有意義かつ複雑な考えが

できるようになってほしいためです。また、トピックの背後にある「大きな理念」の議論も

同様に重要です。こうした議論をすることにより、生徒は、自分がなぜそれを学んでいるの

かの真髄に到達できるようになります。

永続する有意義な理解を構築するうえで概念が果たす役割を真に理解するには、生徒の知的

な枠組みを構成する積み木のブロックのようなものとして概念を理解するとよいでしょう。

概念レベルで学習するということは、新しい知識を既存の理解に組み込んでいくことを意味

します。こうして生徒は、一見するとつながりのないトピックが実はつながっていることを

理解するようになり、学習したことを新しい文脈に応用できるようになるのです。その結

果、個々の科目を包括的でホリスティックな観点からとらえるようになります。概念に重点

を置く指導が行われている教室では、学習対象の事実とそれが何を意味するかについての間

で、常に議論が行き来します。生徒は、学習プロセスの自然な一部として、その事実が何を

意味するのかを問いかけてくるでしょう。

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はじめに

「課題論文」(EE):指導の手引き8

ローカルおよびグローバルの文脈と「課題論文」

「課題論文」の最近の例では、ローカルおよびグローバルな問題にリアルタイムでかか

わったり、そうした問題を事例研究したりすることで、生徒の研究に息吹が吹き込まれる

ことが示されています。これは特に、生徒が「ワールドスタディーズ」の「課題論文」を

書き上げることを選択し、グローバルな意義のある現代の問題を選んだ場合にあてはまり

ます。そうした問題は、流動的で変化に富み、グローバルな社会組織のあらゆるレベルに

存在する傾向にあります。つまり、グローバルな問題はローカルに枝分かれしていて、ロー

カルな問題はしばしば、より大きな現象の一部であることを意味します。生徒が問題を選

ぶ背景には、さまざまな要因が影響することがあります。CASの取り組みが契機になる

こともあれば、いずれかの科目で習ったトピックを別の角度から調べてみたいと思うこと

もあるでしょう。グローバルな問題を選ぶ生徒は、グローバルな問題全般に対して関心を

寄せていて、別の学問領域や学際的な視点からそれを探究してみたいと考える傾向にあり

ます。

ローカルとグローバルの文脈でとらえる指導

IBプログラムの基本ローカルおよびグローバルなコミュニティーの一員である若者として、生徒は、自分の人生

経験や自分の周囲の世の中を通して世界を理解します。IBのプログラムが文脈化された指

導を重視している理由は、学んだことを実生活の文脈に関連づけて考えられるほど、生徒は

学びに熱心になる可能性が高いためです。また、自分が学んだことの使い道を生徒が理解す

るようになることも、同様に重要です。概念に重点を置く指導と同様に、文脈化された指導

を通じて、生徒は、自分がなぜそれを学んでいるのかの真髄に到達できるようになります。

学習において文脈が果たす役割を真に理解するには、生徒が物事を見る際の枠組みとして文

脈を理解するとよいでしょう。文脈化して学ぶということは、抽象的な考えや新しい情報を、

見知った実生活の状況にあてはめることを意味します。文脈化された指導が行われている教

室では、分かりやすく意味のある事例や例証や物語に、概念や理論が関連づけられます。そ

して、この結果として、さらなる概念理解や理論の理解が促されます。

効果的なチームワーク、協働と「課題論文」

「課題論文」は個人研究ですが、そのプロセスでは指導教員の指導を受けるべきです。

指導と振り返りのプロセスは、支援的な環境のなかで生徒がさまざまな発想、問題、課題

を探究できるようにするために設けられています。生徒は、「自己の振り返りジャーナル

(RRS)」を使用して、指導教員と研究の方向性や進捗状況について話し合うことができ

るようになり、それを通じて課題の目標やスケジュールを決めていくことができます。

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はじめに

「課題論文」(EE):指導の手引き 9

効果的なチームワークと協働に重点を置く指導

IBプログラムの基本IBのプログラムでは、学習が社会的な活動であると考えています。生徒と教師が一緒に

なって、独自の人生経験や信念、考え、それに長所と短所を出し合います。学習とは、これ

らの複雑なやりとりの結果です。

学習プロセスの重要な側面と言えるのが、何を理解したか、何を理解していないかについて

のフィードバックを、生徒から教師に対して定期的に提供していくことです。また、生徒の

パフォーマンスについて具体的かつ建設的なフィードバックを教師が生徒に提供すること

も、学習にとって同じように重要です。

すべての学習者のニーズへの対応と「課題論文」

「課題論文」は個人研究であり、すべての科目にわたる共通の規準で評価されます。しか

し、生徒が科目の能力を発揮できるような研究分野を選ぶよう、その過程を導いていくと

いう点で、指導教員は重要な役割を果たします。適切かつ研究可能な研究課題(リサーチ

クエスチョン)を初期の段階で特定し絞り込むことが、非常に重要です。また、指導教員

は、研究の過程全体を通じて、生徒それぞれのレベルに合わせて課題の範囲内で指導とサ

ポートを提供することができます。例えば、許可された5時間の指導をすべて使い切る必

要のない生徒もいれば、その必要がある生徒もいるでしょう。

このプロセスの最初の時点で、DPまたは「課題論文」のコーディネーターが研究方法

と学問的誠実性に関連する学習支援教材を、それぞれの生徒に合わせて提供するとよいか

もしれません。これは、例えば、リサーチやノートのとり方に焦点を絞った学習スキルの授

業のようなものにすることもできれば、それらに関連する参考資料とすることもできます。

すべての学習者のニーズに応えるために差別化した指導

IBプログラムの基本IBのプログラムでは、カリキュラムへの平等なアクセスをすべての学習者に提供すること

を奨励しています。差別化とは、幅広い「指導の方法」を使って一人ひとり異なる生徒のた

めに準備することを意味します。具体的には、学習のためのさまざまなアクティビティーを

行ったり、知識と理解を探究するためのさまざまな形式と伝達様式(モード)を用意したり

することが含まれます。また、生徒一人ひとりが現実的かつやる気の湧く学習目標を策定し

て、それを追求し達成するための最も効果的なストラテジーを、それぞれに対して見つける

必要もあります。特にIBの教育においては、しばしば生徒の言語能力をめぐる状況やスキ

ルに注意する必要があります。生徒のアイデンティティーを受け止め、生徒がすでにもって

いる知識を尊重することも、生徒を一人ひとり異なる人間としてとらえ、包括的でホリス

ティックな若年期の成長を促すうえで重要な側面です。

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はじめに

「課題論文」(EE):指導の手引き10

評価と「課題論文」

「課題論文」は、全般的な評価規準に照らして、かつその規準の科目ごとの解釈を用いな

がら、評価されます。生徒は、「課題論文」のプロセスの初期の段階で、この規準について

知らされるべきです。自分の論文がどのように評価されるかを明確に理解できるようにな

るためです。また、「課題論文」の過去の例を見て、試験官が添えたコメントも読めるよう

にすべきです。

生徒は、学習の一環としての指導と振り返りのプロセスを通じて自分の進歩を確認し、

具体的な問題点をモニターしながら、自分の学習とスキルの向上について振り返ります。

評価(形成的および総括的)を取り入れた指導

IBプログラムの基本IBのプログラムでは、学習を支え、測定するうえで、評価が重要な役割を果たします。正

式なDPの評価は、科目のねらいと目標に従って判断されます。このため、これらの要件に

ついて有効な助言をしていくことも、有効な指導にとって欠かせません。教師が行う形成的

評価は、生徒の学習の質を向上させるためのツールでありプロセスでもあります。このタイ

プの評価では、双方向のプロセスとしてフィードバックを提供するのが最も効果的です。生

徒は自分のパフォーマンスについて知り、教師は生徒が何を理解しているか、何に苦労して

いるか、何に興味を抱いているかを知ることができます。この種のフィードバックは、課題

の評価の際だけでなく、よりインフォーマルに提供することができます。

「学習の方法」

思考スキルと「課題論文」

「課題論文」では、思考スキルが重要な役割を果たします。生徒は、思考スキルによっ

て、非常に特定的な研究分野の深い理解を示すことができるようになります。メタ認知は

DPの科目に組み込まれたスキルですが、「課題論文」では、批判的思考と振り返りのスキ

ルが中心的な役割を担います。特定の研究分野に取り組み、さまざまな文献やデータを用

いる経験を通じて、生徒は、その問題やトピックについての新しい見方や異なる見方に触

れます。

「課題論文」の評価規準では、分析的に評価しながら研究を進めることが求められていま

す。さらに振り返りのスキルも、特に研究を進める過程で非常に重視されています。体系

的な振り返りが生徒の学習と進歩に及ぼすメリットは、必須とされている振り返りのセッ

ションと「取り組み」の評価規準で強調されています。

Page 21: ®] J æ ¯¢ £ ¦ w ¾V...「課題論文」(EE):指導の手引き 1 「課題論文」について はじめに ディプロマプログラムについて ディプロマプログラム(DP)は16歳から19歳までの大学入学前の生徒を対象とした、

はじめに

「課題論文」(EE):指導の手引き 11

生徒は、「自己の振り返りジャーナル(RRS)」で、文章、ビデオ日記、ブログ、

MindMaps© などのさまざまな方法を使って振り返りをするよう奨励されます。

思考スキル

IBプログラムの基本IBプログラムの重要な特徴として、思考スキルを発達させ、考える人、学ぶ人としての自

覚を育てる機会を生徒にもたらすことが挙げられます。「考える人」は「IBの学習者像」の

ひとつであり、批判的かつ創造的に考えるスキルを活用して複雑な問題を分析し、理性的で

倫理的な判断を下すことができる人と定義されています。

思考スキルは、関連する多数のスキルによって構成されています。DPでは、メタ認知、振

り返り、批判的思考、創造的思考、応用といったスキルに、とりわけ重きを置いています。

メタ認知とは、自分の学習の認知プロセスをコントロールすることであり、他の思考スキル

を発達させるための基礎と考えることができます。メタ認知を実践する生徒は、自分が情報

をどのように処理しているか、パターンをどのように見つけているか、概念理解をどのよう

に構築しているかについて考えます。最も初歩的な学習のタスクを遂行する時ですら多岐に

わたる技法やストラテジーを使用しているということを自覚するようになった生徒には、同

じ学習を達成するのにもっと効果的・効率的な方法がないかどうかを考えるよう働きかけ、

それらの新しい方法を試して評価するよう促すことができます。同じように振り返りも、学

習を向上させるという点で重要な役割を担う思考スキルです。振り返りを実践する生徒は、

自分の学習の成果や価値などを考えます。DPの科目のねらい、評価目標、評価課題はいず

れも、批判的思考、創造的思考、応用といった思考スキルに高い価値を置いています。

コミュニケーションスキルと「課題論文」

「課題論文」では、自分が選んだ研究トピックについて、研究論文という特定的な方法で

コミュニケーションする能力を示すことが求められています。生徒は、明確かつ一貫性の

ある議論を構築して、自分で草稿を書き、自分の執筆物を校正しなければなりません。

指導と振り返りのセッションを通じて、生徒は、自分の研究のアイデア、進捗状況、困難

な点、合理性の基準などについてコミュニケーションする能力を発達させます。これには、

口頭でのコミュニケーションと、「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」

に記述する総括的な振り返りの両方が含まれます。

また生徒は、「自己の振り返りジャーナル(RRS)」に取り組むことで、多岐にわたる

コミュニケーションの技法を使用して自分の考え、アイデア、進歩、経過、議論などを

記録することができます。これには、MindMaps©、ブログ、注釈をつけた記事や画像が含

まれるかもしれません。振り返りジャーナルからの抜粋は、議論の材料として振り返りの

セッション中に指導教員と共有することができます。

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はじめに

「課題論文」(EE):指導の手引き12

コミュニケーションスキル

IBプログラムの基本コミュニケーションスキルは、IBのプログラムだけでなく、学習コミュニティーという幅

広い世界において重要なスキルです。コミュニケーションスキルによって、生徒同士や生徒

と大人の間に良好な関係がつくられ、維持されます。さらに、上手にコミュニケーションで

きることは、生徒の自信につながるうえ、社会人としての成功においても重要な要素となる

ことから、明るい将来の展望ももたらします。

コミュニケーションスキルは、一群の異なるスキルで成り立っていて、これらがコミュニ

ケーションを構成します。さまざまな話し言葉のメッセージを聞いて理解する能力、さまざ

まな書き言葉や他の形式のメディアを読んで理解する能力、さらには話し言葉と書き言葉、

およびデジタルの形式で明確かつ説得力をもって反応する能力などが、この世界で他の人と

どうかかわっていくかを左右します。これらのコミュニケーション形式のなかには時代や文

化に依存しないものもありますが、デジタル空間でのインタラクションやデジタル空間との

インタラクションは、ほとんどの生徒のコミュニケーションおよび社会的なかかわりにとっ

て重要な一部となっています。しばしば協働的な性質をもつオンラインのアクティビティー

は、生徒のコミュニケーションスキルの開発にとってエキサイティングな機会をもたらし

ます。

社会性スキルと「課題論文」

自己管理に関係する社会性スキルと感情的スキルの間には明確なつながりがあり、これ

は「課題論文」の学習経験において重要です。とりわけ、「課題論文」に取り組む生徒は、

作業の量と時間という点だけでなく、知的挑戦という意味でも巨大な課題に取り組むこと

から、このスキルの重要性は見逃せません。「課題論文」の過程を支え、導いていくのに役

立つさまざまなストラテジーを生徒に提供することは、生徒が成功するうえで非常に大き

な意義をもつでしょう。指導教員と良好な関係を築くことは、この領域のスキルを育成す

るうえで重要です

社会性スキル

IBプログラムの基本コミュニケーションスキルと密接に関係するのが、社会性スキルです。社会性スキルは、

IBプログラムで重要であるだけでなく、学習者としての全体的な成長において、および学

習のためのコミュニティーの価値において、おそらくはコミュニケーションスキル以上に重

要性が高いでしょう。生徒の社会性スキルを伸ばすうえでスタート地点となるのが、人は内

向性や外向性という点で大きく異なり、その違いを尊重しなければならないと認識すること

です。また、文化によっても、社会的な状況において何が適切な行動であるかの期待値は変

わってきます。他の人のものの見方を理解して、良い関係を築き、自分の感情や行動を抑制

できることは、「IBの学習者像」の多くの項目、および国際的な視野をもった生徒を育て

るというIBの志において、まさに根幹を成しています。青少年の生涯を形成するコミュニ

ティーとしての学校は、彼らの社会性スキルと感情的スキルを育てるうえで重要な役割を果

たします。

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はじめに

「課題論文」(EE):指導の手引き 13

自己管理スキルと「課題論文」

「課題論文」は本格的な独立研究であるため、生徒が必要な自己管理スキルを認識して

向上させないかぎり、この課題で成功できないでしょう。指導教員がサポートや指導を提

供することはできますが、生徒の学習経験は、「課題論文」の過程を自分の力で進んでいく

ことで完成します。これらのスキルを発達させるメリットは、生徒が大学に進学したり社

会に出たりした段階で、仕事や作業の量を管理し、かち合う優先順位の間でバランスをと

らなければならなくなった際に、認識されることでしょう。

「課題論文」を通じて自己管理スキルを伸ばすための方法やアクティビティーには、以

下のようなものがあります。

•明確な期日を設定し、期待値を管理して、それらが満たされなかった場合の結果を

示す

•時間管理、ノートのとり方、マインドマップのつくり方、デジタル上での行動など、

学習の技法についての指導とサポートを提供する

•計画策定と進捗状況の記録のための道具として「自己の振り返りジャーナル(RRS)」

を使用するよう奨励する

•指導と振り返りのセッションを開催して、生徒が自分の進歩について話す機会をつ

くる

自己管理スキル

IBプログラムの基本IBの学習者は、他の人と共存していく方法を学ぶだけでなく、個人として意志を貫徹し、

感情を安定的に保つ方法も学ばなければなりません。当然ながら、これら2つのプロセスは

多くの場合、相互に関係し合っています。コミュニティーに所属してサポートを受けるこ

とは、個人としての幸福にとって欠かせないためです。自己を管理する方法を学ぶことは、

DPのように要求の高い教育プログラムに取り組む生徒にとって重要であるとともに、その

後の人生にも役立つ能力となるでしょう。

自己管理スキルは、物事を整理整頓するスキルと感情的なスキルで構成されます。前者には、

目標を設定するスキル、時間を管理するスキル、タスクを管理するスキルなどが含まれ、後

者には、自分の心の状態をコントロールして、やる気を見出し、困難を克服するスキルなど

が含まれます。

他の学習スキルと同様に、自己管理スキルもモデル化して実践することができます。DPの

生徒にとって、時間管理はしばしば、特に関連性の高い整理整頓のスキルです。時間管理を

向上させるストラテジーとしては、やるべきことを達成しやすい細かなステップに分けて、

それぞれのステップに対してスケジュールを設定すること、テストや試験のための復習と学

習計画を立てること、勉強の時間割を組むことなどが挙げられます。このようなストラテ

ジーの重要な点は、生徒の時間の使い方を向上させるだけでなく、自分の置かれた状況を自

分でコントロールしているのだという意識を長期的にもてるようになることでもあります。

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はじめに

「課題論文」(EE):指導の手引き14

一方、感情的な自己管理のスキルを磨くことで、生徒は、自分の気分や意欲をコントロール

する能力、挫折や困難に対処する能力を高めることができます。生徒の感情的スキルを育成

するには、生徒がある程度の自由と自主性を認められていると感じられ、また最初から成功

しなくてもよいとされる学校環境で、取り組み甲斐があるけれども難しすぎない目標を設定

し、場合によっては気づきの訓練のような心理学的な技法を指導することができます。

リサーチスキルと「課題論文」

「課題論文」はリサーチの課題であり、生徒がリサーチスキルを発揮し向上させるう

えで理想的な機会をもたらします。生徒は、選んだ研究トピックや科目に合わせて、幅広

い研究に取り組むことができます。しかし、研究分野にかかわらず、すべての生徒が、文

献の取捨選択をしなければなりません。これにあたっては、文脈に対する知識と理解を示

し、二次的な情報源の関連性や信頼性、妥当性について確たる情報に基づいた判断を下せ

る必要があります。また生徒は、研究課題と論文の科目にとって適切な研究方法と技法も

選択しなければなりません。さらには、研究に際しての倫理的な側面に関するIBの方針

も認識する必要があります。

文献を批判的に扱わなければならないという要件は、特にインターネット上の情報にあ

てはまります。このため、全般的なリサーチスキルの指導の一環として eAwareness を向上

させることも重要です。

「課題論文」を通じて磨かれ、実証されるもうひとつの重要なリサーチスキルは、学問的

誠実性です。生徒は、この基本的な価値観を理解し、技術的な側面に精通すべきです。ま

た、例えば首尾一貫した効果的な引用と参照のスキル向上に役立つ学習のストラテジーな

どを通じて支えられる必要があります。

リサーチスキル

IBプログラムの基本リサーチスキルは、IBプログラムの探究に基づく教育を構成する中心的な要素です。優れ

たリサーチスキルは、これまで常に学問の追究の中核を成してきましたが、デジタル文献が

氾濫し、生徒にとって簡単に使える情報の量が爆発的に増えたのを受けて、リサーチスキル

の育成は今日の教育においてとりわけ関連性の高い要素となっています。また、学問的誠実

性を保持し、他者の知的貢献に敬意を払うことは、IBのすべてのプログラムで重要な学び

の側面となっています。

基本的なリサーチスキルには、的を絞った緻密な研究課題(リサーチクエスチョン)を考え

るスキル、文献を吟味し、記録し、分析し、評価し、情報を統合するスキル、そして結果を

評価して発表するスキルなどが含まれます。

さらに、今日の研究では、入手できる情報の検証、比較、対比により多くの時間をかけるこ

とで、手に負えるレベルの量にデータを絞り込む一方、重要性が高いものは何かについて鋭

い眼識をもつ必要があります。生徒は、オンラインの情報を閲覧したりオンラインでコミュ

ニケーションしたりすることに対しては自信をもっていますが、情報リテラシーのスキルは

欠いていることがしばしばあります。しかし、このスキルこそが、探究のプロセスで実践す

べき効果的かつ自律的な研究には不可欠です。

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はじめに

「課題論文」(EE):指導の手引き 15

「IBの使命」と「IBの学習者像」DPでは、「IBの使命」と「IBの学習者像」に示された目的の達成に向かって、生徒

たちが必要な知識やスキル、態度を身につけられるよう働きかけます。DPにおける「指

導」と「学習」は、IBの教育理念を日々の実践において具現化したものです。

以下の表は、「課題論文」と「IBの学習者像」との主なつながりを示しています。

学習者像 「課題論文」とのつながり

探究する人 生徒は、探究に必要なスキルの習得と学習に対する興味の両方

を、研究を通じて実証します。

知識のある人 生徒は、最新の文献を読んだり研究したりすることで、選んだト

ピックについての深い知識を習得します。

考える人 生徒は、研究トピックを論理的に分析し、批判的思考のスキルを

創造性豊かな方法で応用します。

コミュニケーションができる人

生徒は、考えや情報を学術的な方法で効果的に表現します。

信念をもつ人 生徒は、課題のあらゆる側面で学問的誠実性を行使し、他者の発

想や成果物に対して敬意を示し、研究する科目とそれ以外の全体

的な学問環境の発展を大切にします。

心を開く人 生徒は、研究者として、それに足る幅広い見解を模索し、表現し

ます。

思いやりのある人 生徒は、選んだトピックの重要性を明確に示すことで、社会貢献

に対する個人的なコミットメントを行動で示します。

挑戦する人 生徒は、新しい分野や珍しい状況を探究し、勇気をもって自分の

立場を弁明します。

バランスのとれた人 生徒は、知的に向上することの重要性に対する理解を、研究の過

程を通じてあらためて確認します。

振り返りができる人 生徒は、選んだトピックについての結論を引き出すことで思慮深

く考察したことを示し、また、自分の長所と短所を評価する機会

を得ます。

学問的誠実性DPは、高いレベルの学問的誠実性を促すプログラムであることを自負しています。

DPにおける学問的誠実性とは、「IBの学習者像」で説明されている一連の価値観と

行動です。指導と学習と評価においては、学問的誠実性を貫くことにより、個人としての

正しい行動が促され、他者とその成果物に対する敬意が生まれ、そしてすべての生徒が学

習を通じて習得した知識とスキルを実証するための平等な機会をもてるようになります。

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はじめに

「課題論文」(EE):指導の手引き16

評価のための課題をはじめすべての学習成果物は、生徒自身が取り組んだものではなけ

ればなりません。つまり、生徒個人のオリジナルな発想に基づき、他者の発想や成果物を

使用する場合はそれを完全に明示しなければなりません。教師が指導する必要のある評価

課題、または生徒が協働する必要のある評価課題は、IBが当該科目に対して提供する詳

細なガイドラインを完全に守って完成させなければなりません。

IBとDPにおける学問的誠実性についての詳細は、以下のIB資料を参照してくだ

さい。

•IB資料(英語版)『Academic honesty in the IB educational context(IB教育の文脈にお

ける学問的誠実性)』

•IB資料(英語版)『Effective citing and referencing(効果的な引用と参照)』

•IB資料『DP :原則から実践へ』

•IB資料『一般規則 :ディプロマ・プログラム』

「課題論文」における学問的誠実性についての具体的な情報は、本資料に記載されてい

ます。

出典を明らかにする

生徒が評価のための課題で使用した文献はすべて明記しなければならないことを、コー

ディネーター、教師、指導教員があらためて認識する必要があります。この要件について、

以下に説明します。

DPの生徒は、評価のための課題をさまざまな形式で提出しますが、これには、印刷媒

体や電子媒体の文献で出版された視聴覚資料、文章、図表、画像、データなどが含まれて

いる場合があります。生徒が他人の成果物やアイデアを用いる場合は、標準的な参考文献

の形式を一貫して使用し、出典を明示しなければなりません。それを怠った場合は、規則

違反の可能性があるとしてIBによって調査され、場合によっては、IBの資格授与委員

会から処分を科される可能性があります。

IBでは、生徒の使用すべき参考文献や文献対照注の形式を指定しておらず、学校のし

かるべき教職員に判断を委ねています。生徒が選ぶ科目、使用言語、および参考文献の形

式が非常に多岐にわたることから、特定の形式を指定することは非合理的であり、また制

約をもたらします。実際には、一定の形式が最も一般的に使われる結果となるかもしれま

せんが、形式の選択はあくまで学校の裁量であり、生徒が選ぶ科目や言語にとって適切で

あることが重要です。

ただし、以下の規準は適用しなければなりません。

•標準的な形式を一貫して使用し、言い換えや要約をして使用した文献を含むすべて

の出典を明らかにします。

•執筆にあたっては、(論文の本文中で)自分の言葉と他人の言葉を明確に区別しな

ければなりません。これには、引用符(または字下げなどの他の方法)を用い、そ

の直後に参考文献目録の文献を指し示す適切な文献対照注を記載します。

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はじめに

「課題論文」(EE):指導の手引き 17

•引用や参照の能力を完ぺきに示すことは求められていませんが、使用したすべての

文献を明示することが求められています。

•自分の成果物にとって重要性が高く、かつ自分自身のものではない視聴覚資料、文

章、図表、画像、データはすべて出典を明示しなければならないことを、生徒に指

導する必要があります。この場合も、参考文献と文献対照注の適切な形式を用いな

ければなりません。

•学校が当該科目に対して選択した形式にかかわらず、以下の情報は最低限盛り込ま

れなければなりません。

- 著者名

- 発行日

- 文献名

- ページ番号(該当する場合)

- アクセスした日(電子文献の場合)

- URL(電子文献の場合)

学習の多様性と学習支援の必要な生徒への取り組み学校は、学習支援の必要な生徒に対して平等なアクセスの配慮と合理的な調整が行われ

ていることを確認しなければなりません。これには、以下のIB資料の内容が適用され

ます。

•IB資料『受験上の配慮の必要な志願者について』

•IB資料(英語版)『Learning diversity in the International Baccalaureate programmes:

Special educational needs within the IB programmes(IB教育と学習の多様性:IBプログラ

ムにおける特別な教育的ニーズ)』

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「課題論文」(EE):指導の手引き18

「課題論文」の概要

概要

「課題論文」のあらまし「課題論文」では、当該セッション中にDPで学習できる科目から的を絞ったトピック

を選んで、深いレベルの研究を行います。通常、IB資格を目指す生徒はDPで選択した

6科目のうちのいずれか、コースを履修する生徒はある程度の知識がある科目を選びます。

「課題論文」は、学術的なリサーチスキルと記述力を伸ばすための課題です。指導教員(適

切な資格をもった学校内のスタッフ)の指導を受けながら、自分で選んだトピックの個人

研究に取り組む機会を生徒にもたらします。研究成果は正式な書式に構成された論文にま

とめ、選択した科目にふさわしい論理的かつ一貫した形式でアイデアや研究結果を伝えま

す。この過程では、指導教員と振り返りのセッションを3回行うことが、すべての生徒に

義務づけられています。そのうち1回は、論文の完成後に行う指導教員との短い結びの面

接、すなわち口答試問となります。振り返りのプロセスの評価は、規準E(取り組み)で行

われ、これに「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」が使われます。

「課題論文」は、選んだ科目にかかわらず共通の評価規準で評価されますが、ただし評価

規準は科目に合わせて適切なように解釈され適用されます。

「課題論文」の主な特徴

•「課題論文」は、IB資格を目指す生徒の場合は必須、コースを履修する生徒の場

合は自由選択です。

•IB資格を取得するには、「D」以上の成績をとらなければなりません。

•「課題論文」は、IBによる外部評価で評価されます。「知の理論」(TOK)の成

績と合計して最高3点が、IB資格の最終成績に加算されます。

•「課題論文」のプロセスは、大学での学業やDP修了後の他の道での成功に向けた

準備として役立ちます。

•「課題論文」の科目を選ぶにあたって、生徒は、当該セッションのDPで学習できる

科目を検討する必要があります。科目のリストは、IB資料『DP手順ハンドブッ

ク』に記載されています。

•「課題論文」は、生徒が学校の指導教員に相談したうえで自分でトピックを選び、

それについて行う独立研究です。

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き 19

•研究成果は、正式な学術研究として 4000 語(日本語の場合は 8000 字)以内にまと

め、500 語(日本語の場合は 1000 字)以内の「計画および進捗についての振り返り

フォーム(RPPF)」を添えます。

•生徒は約 40 時間をかけて「課題論文」に取り組みます。

•生徒をサポートするための指導のプロセスは、3~5時間が推奨されています。こ

れには、必須の振り返りのセッション3回が含まれます。

•最後となる3回目の必須の振り返りのセッションは口頭試問で、指導教員による結

びの面接です。

既習事項「課題論文」は、IB資格を目指す生徒にとっても、コースを履修する自由選択の生徒に

とっても、それぞれに異なる課題です。「課題論文」に取り組むにあたって要件とされる特

定の既習事項はありませんが、生徒はDPで学習している科目で研究を行って、この課題

を終えるのに十分な科目知識があることを確認することが、強く推奨されます。DPの学

習科目ではない科目にある程度の知識がある場合は、DPの観点からその科目に精通して

いることを確認しなければなりません。

「ワールドスタディーズ」の「課題論文」に取り組む場合は、論文で言及する科目のうち

少なくとも1つを履修していることが望まれます。生徒が研究方法に精通していれば有利

ですが、「課題論文」に取りかかる際のプロセスのひとつが、選んだ科目でその研究領域に

とって最も適切な方法論を理解することです。この理解を発達させるには、指導教員、お

よびDPそして/または「課題論文」のコーディネーター、さらに図書館司書の支援と指

導を受ける必要があるでしょう。

「課題論文」の性質「課題論文」は、生徒が個人的に関心を寄せている学問領域を探究することのできる、ま

たとない機会です。具体的には、研究論文を自分の力で執筆するという形式をとり、これ

を通じて生徒は、選んだトピックに対する情熱、熱意、知的活動における主体性、そして

創造的なアプローチを示すことができます。選ぶトピックは、ある教科の特定的な要素に

絞った深いレベルの分析から、「ワールドスタディーズ」の「課題論文」の場合はグローバ

ルな意義のある問題を批判的に評価した反応まで、多岐にわたることができます。生徒は、

リサーチスキル、批判的思考、自己管理など応用可能な重要なスキルを発達させ、これを

学術的な論文の形式で表現します。重視されるのは、研究過程での「取り組み」と「振り

返り」です。これは、知的なレベルと個人的なレベルで生徒がどのような経過をたどった

かを示すとともに、その経過が学習者としての生徒にどのような変化をもたらしたか、最

終的な論文にどのように影響したかを示すためです。

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き20

生徒は、特定の学問領域、あるいは学際的な選択肢として選ぶことのできる領域のなか

から1つを選んで、「課題論文」を完成させます。特定の学問領域の場合は、探究する領

域ならではの理論や道具や技法を知っていること、および理解していることを、選んだト

ピックを通じて示さなければなりません。「ワールドスタディーズ」の「課題論文」を選ぶ

場合は、グローバルな意義のある現代問題に対する自分の理解が、学際的なアプローチを

とることによってどのように深められたかを示さなければなりません。

「課題論文」の重要なねらいのひとつが、DPの「コア」を構成する要件として、教科の

学習と相互に支え合うことです。どの科目を選ぶかにかかわらず、「課題論文」では、証拠

や根拠の解釈と評価、および論理的な議論の構築を通じて、具体的な研究課題(リサーチ

クエスチョン)を探究します。生徒は、「課題論文」に取り組むなかで、教科で学習した要

素を多数使用します。具体的には、学問領域の幅広い文脈に自分のトピックを位置づける

こと、また「ワールドスタディーズ」の「課題論文」の場合は、自分の研究の重要性を正

当化して、構築した議論と使用した文献の全体的な有効性を批判的に評価することが、こ

れにあてはまります。指導教員に導かれてこのプロセスを進めるなかで、生徒は、自分が

得た洞察を振り返り、自分が下した決定を評価し、また研究中に遭遇した困難に対応する

よう奨励されます。

「課題論文」を執筆するプロセスには、「学習の方法」(ATL)の多数の要素が組み込

まれています。リサーチスキルは論文を完成させるうえで不可欠ですが、他の「学習の方

法」のスキルも、この課題の底流に流れています。「課題論文」は独立研究であるため、整

理整頓するスキルのほか、自分で気づくスキル、意志を貫徹するスキル、困難を克服する

スキル、自分で意欲を高めるスキルなどの感情的スキルを養って、自己管理する必要があ

ります。「課題論文」の研究と執筆のプロセスは、「IBの学習者像」を実践することを意

味します。心を開く人、信念をもつ人、振り返りができる人といった側面は、「課題論文」

で生徒が経験する側面です。さらに「課題論文」は、探究するトピックに関係したローカ

ルとグローバルのコミュニティーにかかわることで、国際的な視野に磨きをかける機会も

もたらします。「IBの学習者像」に近づくことで、IBの学習者は、経験を共有する大き

なコミュニティーに参加していけるようになるでしょう。

「課題論文」は、困難でありながら取り組み甲斐のある経験です。この経験を通じて生

徒は、大学と企業の両方が高い価値を置いているスキルを伸ばし、結果としてDP修了後

に進んでいくさまざまな人生に向けた準備をすることになります。「課題論文」は、批判

的思考を用いて探究する生涯学習者を育てるという、IB教育の真髄を具現化する取り組

みです。

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き 21

慎重な取り扱いを要するトピックへの取り組み「課題論文」への取り組みを通じて、生徒は、興味深い刺激的なトピック、自分にとって

重要性の高いトピックに対峙する機会を得ます。しかし、こうしたトピックはしばしば、

慎重な取り扱いを要し、個人的に難しい問題をもたらし得ることにも注意が必要です。

DPまたは「課題論文」のコーディネーターと指導教員は、このことを認識し、そうした

トピックを責任あるやり方で取り扱うにはどのようにアプローチすべきかについて、生徒

に指導すべきです。これには、IBの倫理ガイドラインを参照してください。

「課題論文」に関係する方針「課題論文」に取り組む生徒はすべて、研究にあたっての倫理ガイドラインと学問的誠

実性に関係する方針を読み、認識しなければなりません。また、科学、心理学、社会人類

学、文化人類学など、特定の学問領域に関係する方針にも従わなければなりません。例え

ば、科学では動物実験に関する方針、心理学、社会人類学、文化人類学では研究に際して

の倫理ガイドラインが、これに該当します。

ねらい「課題論文」のねらいは、生徒に以下の機会を与えることにあります。

•知的な独立研究に厳正かつ主体的に取り組む

•リサーチスキル、思考スキル、自己管理スキル、コミュニケーションスキルを養う

•研究と執筆のプロセスを通して何を学んだかを振り返る

評価目標「課題論文」に取り組むことで以下の評価目標を達成することが、生徒には期待されて

います。

評価目標

知識と理解 •選択したトピックと研究課題(リサーチクエスチョン)につい

ての知識と理解を示す

•科目に特有の用語や概念についての知識と理解を示す

•関連性や妥当性の高い研究文献と情報収集に使用する方法につ

いての知識と理解を示す

応用と分析 •研究課題(リサーチクエスチョン)にとって関連性と妥当性の

高い研究を選択し実践する

•研究を効果的に分析し、研究課題(リサーチクエスチョン)に

焦点をあてる

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き22

評価目標

統合と評価 •研究課題(リサーチクエスチョン)に関係する明確かつ論理的

な議論を一貫して用いて研究を論じることができる

•論文で提示した議論を批判的に評価することができる

•研究の過程を振り返り、評価することができる

さまざまな(リサーチ)スキル

•学術的に適切な形式で情報を提示することができる

•学問的誠実性を理解して実践する

「コア」の振り返り振り返りができることは「IBの学習者像」のひとつであり、その意味は以下のように説

明されています。「私たちは、世界について、そして自分の考えや経験について、深く考察

します。自分自身の学びと成長を促すため、自分の長所と短所を理解するよう努めます」。

「創造性・活動・奉仕」(CAS)

「コア」の振り返り

「課題論文」(EE)

「知の理論」(TOK)

「創造性・活動・奉仕」(CAS)の振り返り

•豊かで深みのある「創造性・活動・奉仕」(CAS)の経験をつくるには、振り返りが不

可欠です。生徒は、自分の行動を探究し、個人としての成長を振り返ります。

•「創造性・活動・奉仕」(CAS)における重点は、感情的な振り返りです。具体的には、

態度、気持ち、価値観、信念、動機、感情、自分の成長について振り返るという特徴があ

ります。

•生徒は、「創造性・活動・奉仕」(CAS)のプログラムを通じて自分の経験をインフォー

マルに振り返るよう奨励されていますが、正式な振り返りとしてCASポートフォリオを

制作する際に振り返ることが義務づけられています。

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き 23

「知の理論」(TOK)の振り返り

•「知の理論」(TOK)は、知識の性質についての振り返ることを狙いとしています。生徒

は、知識がどのようにして構築されるのかについて、また異なる学問領域の間の共通点と

相違点について振り返るよう奨励されます。

•「知の理論」(TOK)における重点は、批判的な振り返りです。具体的には、メタ認知、

評価、正当化、立論、主張とそれに対する反論、基本にある前提、さまざまなものの見方

について振り返るという特徴があります。

•生徒は、「知の理論」(TOK)のコースを通じて知識に対する自分の取り組み方をイン

フォーマルに振り返るよう奨励されていますが、正式な振り返りとしてTOKのエッセイ

とプレゼンテーションの過程で振り返ることが義務づけられています。

「課題論文」の振り返り

•「課題論文」の振り返りは、計画、研究、執筆の過程における生徒の進歩に重点を置きま

す。この振り返りは、「課題論文」の作成を支援するとともに、生徒が自分で選択したこ

との有効性を考察し、アイデアを再検討し、変更が必要かどうかを判断する機会ももたら

します。

•「課題論文」における重点は、プロセスの振り返りです。具体的には、概念理解、意思決

定、データの取り扱い、研究の過程、時間管理、方法論、うまく行ったことと困難を感じ

たこと、文献の妥当性について振り返るという特徴があります。

•生徒は、「課題論文」の研究と執筆の過程を通じてインフォーマルに振り返りをするよう

奨励されていますが、正式な振り返りとして、指導教員と振り返りのセッションを行い、

さらに「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」を記入することが義

務づけられています。

「課題論文」の振り返り

「課題論文」における振り返りとは、意思決定のプロセスを批判的に評価することです。

生徒の行う振り返りでは、研究課題(リサーチクエスチョン)と文献に関係する概念理解

がどのように形成され進化したかが示されます。また、意思決定に際しての合理性の基

準、習得したスキルと理解、さらに生徒自身が取り組んだものかどうか、知的活動におけ

る主体性が生徒の「声」に現れているかどうかも、振り返りによって実証されます。振り

返りが効果的に行われていれば、知的かつ個人的なプロセスに取り組むために生徒がどの

ような経過をたどったか、またその経過が学習者としての生徒にどのような変化をもたら

したか、最終的な論文にどのように影響したかが示されるでしょう。

「課題論文」の一環として、知的な成長、批判的かつ個人的な成長、知的活動における主

体性、さらに創造性の証拠を示すことが、生徒には期待されています。この証拠は、「自己

の振り返りジャーナル(RRS)」を活用することで示しやすくなるはずです。能力の高い

生徒は、学習が複雑なものであることを認識して、研究の途中で経験する困難や挫折に対

して自分なりの行動やアイデアを考察することができるという事実も認識することができ

るでしょう。

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き24

深いレベルで振り返りが行われていれば、それは、生徒が学習プロセスに建設的に取り

組んだことを示しています。そのような取り組みは、この経験の結果として生徒が学習者

として成長した証拠となるでしょう。さらに重要な点として、生徒がスキルを身につけた

ことも示します。

そのスキルとは、例えば以下のようなスキルです。

•批判的思考

•意思決定

•全般的なリサーチスキル

•計画策定

•参照と引用

•具体的な研究方法

•時間管理のスキル

振り返りは、「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」に記録し、評

価規準E(取り組み)で明確に評価されなければなりません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 25

概要

「課題論文」を支えるために

「課題論文」の管理手続き上の要件以下のセクションは、「課題論文」の管理手続き上の要件を次の対象者に向けてそれぞれ

説明しています。

•学校

•DPまたは「課題論文」コーディネーター

•指導教員

•生徒

必ずしなければならないこと

学校 •DPまたは「課題論文」コーディネーターが、指導教員に求

められる資格要件を理解していることを確認します。

•指導教員との必須の指導振り返りセッションを3回実施する

ための組織的な構造を整備します。

必ずしなければならないこと

DPまたは「課題論文」コーディネーター

•「課題論文」がIB資料『DP手順ハンドブック』で定められ

た規則に従っていることを確認します。

•5月または11月の当該セッションで学習することのできる科

目(IB資料『DP手順ハンドブック』に記載)を生徒が最

初に選択したうえで、それから「課題論文」のトピックを選

んでいることを確認します。

•学校内の教師で資格要件を満たした指導教員が、生徒全員に

1人ずつついていることを確認します。

•振り返りのプロセスを導入し、説明したうえで、サポートし

ます。

•本資料と教師用参考資料に記載されている「課題論文」の全

般情報とガイドライン、および科目ごとの情報とガイドライ

ンを、指導教員と生徒に提供します。

•「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」

を生徒が記入し、生徒と指導教員が署名したうえで、評価規

準Eの資料として「課題論文」と一緒にIBに提出されてい

ることを確認します。提出の締切日はIB資料『DP手順ハ

ンドブック』に記載されています。

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き26

必ずしなければならないこと

DPまたは「課題論文」コーディネーター(つづき)

•最近の「課題論文」の科目別報告書(subject report)を、指導

教員と必要に応じて生徒に提供します。

•「課題論文」の見本を指導教員と生徒に提供します。

•IB資料(英語版)『Academic honesty in the IB educational context(IB教育の文脈における学問的誠実性)』および同『Effective citing and referencing(効果的な引用と参照)』の内容を指導教員と生徒

が熟知していることを確認します。

•DPの全体的な文脈における「課題論文」の重要性を生徒に

説明します。IB資格を取得するには「D」以上の成績をと

らなければならないことも説明します。

•「課題論文」は最大 40 時間の作業となる見通しであることを

生徒に説明します。

必ずしなければならないこと

指導教員 •生徒との間で必須の振り返りのセッションを3回行います。

•「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」を

生徒が記入して、毎回記入するごとに署名と日付を入れてい

ることを確認します。

•生徒の振り返りを文脈化するための指導教員のコメントを記

入します。

•「課題論文」について生徒と話し合った時間数が3時間の最低

推奨時間に達しなかった場合は、その「課題論文」が本当に

生徒自身が取り組んだものであることをどのようにして認証

できたのかを説明します。

•論文の最終稿で剽窃などの学問的不正行為が疑われる場合に

は、報告書を作成し、学校のDPコーディネーターに提出し

ます。

必ずしなければならないこと

生徒 •学習可能な科目のリストのなかから「課題論文」の科目を選択

します。DPコーディネーターまたは「課題論文」コーディ

ネーターと面談して詳細を聞きます。

•「課題論文」の科目が学習可能な科目のリストに含まれている

こと、あるいは「ワールドスタディーズ」の「課題論文」に

取り組む場合は、「ワールドスタディーズ」の6つのテーマの

いずれかに該当する、グローバル、そして現代における、意

義のある問題を選んだことを確認します。

•「課題論文」に関係する規則(IB資料『一般規則 :ディプロ

マ・プログラム』)とIBの倫理ガイドラインを順守します。

•「課題論文」の科目ごとの要件を読んで理解します。これには

評価規準の解釈が含まれます。

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き 27

必ずしなければならないこと

生徒(つづき)

•「課題論文」に関して学校が定める締切をすべて守ります。

•剽窃や共謀などの学問的誠実性の概念を理解し、情報とアイ

デアの出典をすべて一貫した形式で明記したことを確認しま

す。また、IB資料『一般規則:ディプロマ・プログラム』を守

らなかった場合にどのような結果が生じるかも理解します。

•指導教員との必須の振り返りのセッションに3回出席しま

す。その最後のセッションは口頭試問となります。

•「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」に

自分の振り返りを記録して、評価規準E(取り組み)の一部

として提出できるようにします。

教育上の推奨事項以下のセクションでは、学校、DPまたは「課題論文」コーディネーター、および指導

教員が「課題論文」の研究と執筆の過程をどのようにサポートしていくべきかについて、

推奨事項を説明します。このガイダンスは、「課題論文」の実践とそれを支える組織的な環

境づくりにおいてIBが最も良い実践と考えるものを反映しています。

推奨事項は、以下の対象者に分けられています。

•学校

•DPまたは「課題論文」コーディネーター

•指導教員

•生徒

学校

指導教員と生徒が1対1の面談をする前に、この研究・執筆過程に向けて生徒と指導教

員のために学校ができることがたくさんあり、これらの準備は強く推奨されています。提

案の一部を以下に示しますが、これらは決して網羅的なものではありません。

•指導教員向けの研修セッションを実施します。この研修の講師は、DPまたは「課

題論文」コーディネーター、あるいは経験豊富な指導教員が務めます。

•生徒向けの特別セッションを開催して、「課題論文」の研究にどのようにアプローチ

すべきか、インターネットをどのように使うべきかなどを説明します。生徒に対し

てこのセッションを実施するのは、図書館司書が最も適しているかもしれません。

•引用と参照についてのコースの開発を支援します。指導教員と生徒は、この点に関

係するIB資料の内容を熟知していなければなりません。

•ノートのとり方や論文の構成方法といった学習スキルについて、セッションを開催

する、または推奨します。

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き28

•当該科目にとって関連性と妥当性の高い研究の方法論(アンケート調査の設計、聞

き取り調査の技法など)について、セッションを開催する、または推奨します。

•学校で内部的な締切を設定するなどして、段階的な進歩をサポートします。

これらのアプローチの利点は、指導教員が別の生徒に対して同じ指導を何度も繰り返さ

ずに済むようになることです。生徒と指導教員の間で行う1対1の面談には3~5時間の

推奨時間が設けられていますが、そのなかでこれらの点を指導する必要がなくなります。

早見表:学校の役割

 すべきこと:  すべきでないこと:

指導経験のある科目で指導教員の役割を引

き受けるよう、教師に働きかける。

生徒の選択できる科目を不必要に制限する。

指導教員の役割についての研修を提供して、

教員ごとの個人差なく一貫して効果的にこ

の役割が遂行されるようにする。

指導教員にかかる時間の負担を過小評価す

る。(必要な時間は、担当する生徒数によっ

て異なります。)

学校の定める締切の重要性を学校内で強調

する。

指導教員向けの研修を軽んじる。指導教員と

いうのは公式な役割です。(将来的にこの役

職に就く可能性のある教員に対し、適切な研

修の場で職務内容に精通させると同時に、疑

問や懸念について尋ねることのできる機会

を与えるべきです。)

参考文献の表記法、研究の方法論、倫理的な

研究方法の概念についてのクラスをサポー

トする。

3~5時間の個別指導の時間で主なスキル

に対応しようとする。

DPまたは「課題論文」コーディネーター

DPまたは「課題論文」コーディネーターは、「課題論文」の研究・執筆過程を実施し

管理するという点で重要な役割を果たします。コーディネーターは、「課題論文」の教科主

任として、「課題論文」をどう進めるべきか、生徒と指導教員がこのプロセスにどう取り組

むべきかについての全体的な基調を示します。

提案の一部を以下に示しますが、これらは決して網羅的なものではありません。

•学問的誠実性や eAwareness をはじめ、必要なリサーチスキルについての指導が生

徒に対して行われていることを確認します。

•「課題論文」の重要な一部として「自己の振り返りジャーナル(RRS)」を導入し、

その使用をサポートします。

•指導教員1人あたりの生徒数を制限し、生徒全員に適切なレベルの指導が行われる

ことを確認します。

•指導教員に適切な研修と継続的なサポートを提供します。

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き 29

早見表:DPまたは「課題論文」コーディネーターの役割

 すべきこと:  すべきでないこと:

試験セッションごとに十分な数の指導教員

を確保する。

指導教員にあまりにも多くの生徒を担当さ

せる。

指導教員向けの研修プログラムを開発して、

この重要な役割を積極的に担うよう多くの

スタッフに奨励する。

特に理由なく、特定の科目を選ばないよう生

徒に働きかける。

「自己の振り返りジャーナル(RRS)」の重

要性を強調する。

参考文献の表記法や研究の方法論といった

必要なスキルを生徒がすべてもっているか

どうかを確認する責任を、指導教員のみに任

せる。

学問的誠実性などの方針が「課題論文」の準

備の過程に完全に組み込まれていることを

確認する。

「課題論文」の見本や科目レポートなど、オン

ラインカリキュラムセンター(OCC)のリ

ソースを指導教員が利用できるようにする。

「計画および進捗についての振り返りフォー

ム(RPPF)」が正しく記入されているか

どうかを監督する。

指導教員

指導教員と生徒の関係は、おそらく「課題論文」のプロセスにおいて最も重要な関係で

しょう。指導教員は、生徒が登録している学校のスタッフで、かつ資格要件を満たした人

でなければなりません。

指導教員は、生徒が「課題論文」を計画し、その研究を進めるうえで、重要な役割を担い

ます。生徒と指導教員の関係は、双方向のプロセスであるべきです。指導教員は主に、指

導と振り返りのセッション、計画段階、そして生徒が研究に取り組み論文を執筆する段階

で、生徒をサポートし導いていく役を務めます。そのために指導のプロセスを使用し、具体

的には3回の必須の振り返りのセッションや「計画および進捗についての振り返りフォー

ム(RPPF)」を道具として用います。

指導教員は、生徒が「課題論文」の要件を熟知していることを確認する責任を負います。

生徒と指導教員は、以下の点について話し合わなければなりません。

•「課題論文」の性質

•選択した科目、トピック、および研究課題(リサーチクエスチョン)

•生徒が選んだ科目にとって最も適切な研究方法

•課題を完了したと見なされるための正式な要件

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き30

生徒には、指導教員とのディスカッションを開始してアドバイスや情報をもらうよう奨

励すべきです。また、指導教員の役割を生徒に説明することで、期待されることや責任と

して課されることについて共通の理解をもつようにすべきです。指導教員は、このプロセ

スを通じて生徒をサポートしていくうえで自分が重要な役割を果たすのだと認識しなけれ

ばなりません。ただし、指導教員から多大なサポートを受けなければ生徒がこの課題を完

了できなかった場合は、そのことをDPまたは「課題論文」コーディネーターに報告すべき

です。この報告を受けたコーディネーターは、適切なフォームに詳細を記録しなければな

りません。また、生徒が教師から多大なサポートを受けたにもかかわらず、それが明記され

ていない場合は、指導教員が「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」

に記入する総括コメントで、その旨を記録しなければなりません。学問的不正行為が疑わ

れる場合は、指導教員がDPまたは「課題論文」コーディネーターに最初に報告しなけれ

ばなりません。

指導教員は、以下のことをしなければなりません。

•受け持っている生徒それぞれと、必須の振り返りのセッションを3回行います。

•生徒が「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」に記入した振り

返りすべてに署名と日付を入れ、このプロセスの終了時にコメントを記入します。

フォームと論文が eCoursework システムを通じて提出された場合それは署名され本

人が取り組んだことが認証されたものと見なされます。RPPFが提出されなかっ

た、あるいは白紙だった場合は、規準Eの得点は0となります。

•研究に取り組むためのスキルについて、アドバイスと指導を提供します。

•「課題論文」の研究・執筆過程を通じて、生徒を励まし、サポートします。

•生徒一人ひとりとトピックの選択について話し合い、登録した科目にふさわしい的

を絞った研究課題(リサーチクエスチョン)を形成できるよう支援します。さらに、

その研究課題(リサーチクエスチョン)が、健康、安全、秘密保持、人権、動物愛

護、環境保全などの面で法的・倫理的基準を満たしていることを確認します。

•「課題論文」の規則と評価規準に精通し、そのコピーを生徒に配布します。

•「課題論文」の進歩の過程をモニターして、指導を提供するとともに、生徒自身が

取り組んだ論文であることを確認します(論文の一部を提出して指導教員がコメン

トをつけるなどのことが含まれるかもしれません)。

•「課題論文」の草稿は1回だけ読んでコメントします(草稿を編集してはなりませ

ん)。これは、中間の振り返りのセッションの後、かつ最終の振り返りのセッショ

ンである口頭試問の前に行うべきです。

•最終の振り返りのセッション(口頭試問)の前に論文の最終稿が提出され、その後

は変更されないように確認します。

•最終稿を読み、口頭試問と併せて、本当に生徒自身が取り組んだものであることを

確認します。

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き 31

特定の専門分野に精通した学校外の専門家に、生徒が支援や協力を仰ぐことがあるかも

しれません。しかし、その場合も、学校内の指導教員が上記のすべての要件を満たす責任

を負います。詳しくは、外部メンターの役割のセクションを参照してください。

指導教員は、以下のことをすることが強く推奨されています。

•最近の「課題論文」の科目レポートを読みます。

•生徒1人につき3~5時間を費やします。これには、3回の必須の振り返りのセッ

ションの時間が含まれます。

•「自己の振り返りジャーナル(RRS)」の制作を生徒に奨励します。

•振り返りのセッションの明確なスケジュールを策定します。

•当該科目にとって適切な研究課題(リサーチクエスチョン)が設定されるよう確認

します。

•次の点について生徒に助言します。

- 適切なリソース(人、図書館、実験室や研究所など)へのアクセス

- 研究方法

- 引用と参照の方法

早見表:指導教員の役割

 すべきこと:  すべきでないこと:

指導教員の役割を担うための準備を十分に

する。

指導教員の役割を過小評価する、あるいは十

分に時間を割かない。

課題の範囲と与えられた時間、および生徒の

能力にとって現実的で、かつ的を絞った研究

課題(リサーチクエスチョン)に生徒が到達

できるよう支援する。

振り返りや確認のセッションを使用して、研

究の方法論や参考文献の表記法といった重

要なスキルに対応しようとする。(学年全体

に共通する指導をより効果的に実践できる

よう、DPまたは「課題論文」コーディネー

ターと話すべきです。)

「自己の振り返りジャーナル(RRS)」に

よって詳細に裏づけられた振り返りのセッ

ションの重要性を強調する。

方針、見本、科目レポートなど、OCCで入手

できる関連資料のコピーを生徒に配布する。

指導している科目の評価の要件(本資料の関

連する章で詳述)と全般要件の両方に完全に

精通する。

生徒の進捗状況をモニターして、研究と執筆

にとって重要なスキルを向上させるよう励

ます。

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き32

 すべきこと:  すべきでないこと:

「課題論文」の草稿を1回だけ読んで、認め

られた範囲内でコメントする。

確認と振り返りのセッションを生徒と十分

にできるよう時間をつくる

生徒

「課題論文」はDPの重要な要素であり、また手応えのある本格的な課題です。このた

め生徒は、期待されることを理解して、時間と作業量を効果的に管理しなければなりませ

ん。以下の提案は、そのプロセスを助けるガイダンスとして提示されています。

生徒は、以下のことをすることが強く推奨されています。

•計画策定のための道具として「自己の振り返りジャーナル(RRS)」を制作します。

•「自己の振り返りジャーナル(RRS)」を使用して、振り返りのセッションの準備

をします。

•「自己の振り返りジャーナル(RRS)」からの抜粋を指導教員との振り返りのセッ

ションで共有します。

•最初に科目を選択し、次にトピックを選んでから、論文に使用する研究課題(リ

サーチクエスチョン)を慎重に検討します。

•論文のトピックと研究課題(リサーチクエスチョン)を最終決定する前に、論文に

使用する資料や文献をどこでどのように見つけるかについて計画を立てます。

•「課題論文」の研究と執筆の両段階に対してスケジュールを立て、遅れや不測の問

題が生じる場合に備えて余分の時間も組み込みます。

•研究がすべて終わってから使用した文献のリストをあらためてつくろうとするの

ではなく、研究を進めながら文献を記録していきます。これには、「自己の振り返

りジャーナル(RRS)」を使用します。

•指導と振り返りのセッションに臨む際は、自分の成果について議論する準備をして

から臨むことで、セッションを最大限に活用します。

•論文を書き始める前に、明確な構成を立てます。

•論文の最終稿を読み直し、校正します。

•評価に提出する論文の最終稿にすべての文献が正しく一貫して参照されているこ

とを確認します。

•すべての要件を満たしたことを確認します。

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き 33

早見表:生徒の役割

 すべきこと:  すべきでないこと:

自分が関心をもっていて、かつ自分の理解、

創造性、独創性を向上させ発揮することので

きる科目を選択し、次にトピックを選ぶ。

見本で見かけた使い古されたトピックや研

究課題(リサーチクエスチョン)を選ぶ。

「自己の振り返りジャーナル(RRS)」を制

作して、計画策定と振り返りのセッションの

準備に役立てる。

計画策定の意義を軽視し、「課題論文」の成

功にとって計画がどれだけ重要かを過小評

価する。

指導教員との時間を最大限に活用して、プロ

セスのガイダンスとして役立てる。

最後の段階になって、参考文献のリストをつ

くろうとする。(参照が不十分、不適切であっ

た場合に招く結果を意識すべきです。)

振り返りのセッションに臨む前に十分に準備

する。

学校が設定する締切をすべて守る。

作業を進めながら、参考文献のリストをつく

る。

関連する方針について熟知する。

図書館司書の役割

図書館司書の役割の概要

図書館司書は、「課題論文」のプロセスにおいて、重要かつ有意義な役割を果たす独特な

立場にあります。学際的な教育者として、教科や科目に縛られずに生徒を支援し、探究や

新しい知識の習得と創造、さらに個人的な興味の追求などを通して生徒が生涯学習者にな

るのをサポートすることができます。必要とされる教育的素養をもち、十分な研修を受け

た図書館司書は、情報リテラシーとリサーチスキルを向上させる過程で生徒を支援できま

す。生徒はしばしば、入手できる情報があまりにも多いことに圧倒されてしまいます。こ

のため、質問を提起するスキルや文献の信憑性、有効性、信頼性を評価するスキルを習得

しなければなりません。学校の図書館司書は、自分の知識とスキルを活用することで、生

徒が「課題論文」に上手にアプローチして有効な計画を立て、自分の力で研究を進められ

るようになる過程を支えることができるでしょう。

「課題論文」のプロセスを生徒が上手に進められるようになるため、図書館司書は、リ

サーチスキルを伸ばすための基礎固めを手伝うことができます。願わくば、「課題論文」に

臨む前の数年間の教育でこれらのスキルの一部はすでに習得していて、「課題論文」がその

学習成果を発揮する場となるのが理想的です。しかし、研究という概念が生徒にとって新

しい概念である場合は、図書館司書が重要な役割を果たします。学校の図書館司書は、あ

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き34

らゆる形式の情報リソースや情報技術を選定、入手、評価、整理する方法を率先して生徒

に示し、また情報の倫理的な使用についての専門知識も提供することができます。これら

はすべて重要な概念であり、生徒が理解して実践しなければならない概念です。

「課題論文」を支えるために

「課題論文」を支えるのに役立つ学校の最大のリソースのひとつが、学校の図書館と図書

館司書です。「課題論文」を支えるために、図書館司書が生徒に基本的なリサーチスキルと

情報リテラシースキルを教えるのが最善だと、学校が判断するかもしれません。図書館司

書は、DPまたは「課題論文」コーディネーターと密に連携することで、これらのスキル

の開発において重要な付加的サポートを提供できるでしょう。

これらのスキルには、次のようなものが含まれます。

印刷およびオンラインのリソースにアクセスして評価する 図書館を上手に

活用して、科目に関係した資料(研究論文)を見つける

研究データベースの使い方を学び、適切な参考図書、ジャーナル、雑誌、新聞、一次資料などを

見つける

参考文献の表記法について一貫性のある情報を提出する

研究の枠組みを提出する

学問的誠実性、完全性、剽窃に関係する問題点と概念を理解する

著者の権威と偏見を考察する

生徒のニーズを満たすために必要な情報の範囲と関連性を見極める

自己の振り返りジャーナル(RRS)を制作する 研究課題(リサーチ

クエスチョン)をどのように設定するか、またはトピックの範囲をどのように絞り込むかについてのガイダンスを

提供し、なぜそのトピックが調査に値するかを見極める

学校によっては、学校の図書館司書を「課題論文」コーディネーターに指名することも

あるかもしれません。「課題論文」のプロセスと研究調査の概念は、図書館司書の教育的素

養に重なる部分が大きいかもしれないためです。図書館司書は、DPの教師やDPコーディ

ネーターと連携しながら、「課題論文」の内部的なスケジュールづくりを支援できるでしょ

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き 35

う。このスケジュールは、主な内部評価とIBの外部評価のほか、他の重要な試験や学校

の必須要件も勘案して策定すべきです。学校は、図書館司書がどのようにすればDPまた

は「課題論文」コーディネーターと指導教員にベストの支援を提供して、「課題論文」のプ

ロセスにわたって生徒をサポートしていけるかを見極めるべきです。

また、図書館司書は、地域や大学の図書館と協力関係をつくって、DPの生徒が学校の図

書館以外のリソースにもアクセスしながら「課題論文」を進められるようにすることがで

きます。DPまたは「課題論文」コーディネーター、および校長と協力して、生徒にとっ

て初めての大型独立研究プロジェクトを支えるためのクリエイティブな方法を考えます。

「課題論文」のプロセスで図書館司書が役割を担う場合は、「課題論文」のカテゴリー3

ワークショップで正式に研修を受けることが望まれます。全般的なガイドラインと科目ご

とのガイドラインを十分に理解し、生徒の必要とするサポートを提供できるようにならな

ければなりません。図書館司書はまた、コース管理システムを使って学校全体の体制を整

え、「課題論文」を効果的に実施するための手立てとすることもできます。そのようなシス

テムは、指導教員と生徒の両方にとってメリットをもたらすでしょう。ガイドラインへの

アクセス、および「課題論文」に必要なすべてのリソースへのアクセス方法の説明を、指

導教員と生徒にもたらすためです。

図書館司書は、適切な資格があるのであれば、「課題論文」の指導教員になることができ

ます。

早見表:図書館司書の役割

 してもよいこと:  してはならないこと:

•「課題論文」の過程のスケジュールづくりを監

督する。

•情報リテラシーとリサーチスキルについての

授業やワークショップを開催する。

•公立図書館や大学図書館と協力関係をつくる。

•適切な資格があることを前提として、「課題論

文」の指導教員となる。

•印刷とオンラインの適切な文献へのアクセス

について生徒を支援する。

•「課題論文」のガイドラインと情報の使用に関

する生徒と教師の研修を支援する。

•コンピューターソフトウェアを使った正式な

論文の書式設定について生徒を指導する。

•「自己の振り返りジャーナル(RRS)」の制

作方法について生徒を指導し支援する。

•学問的誠実性の概念についての研修とサポー

トを提供し、正しく一貫して引用する方法に

ついても指導する。

•指導教員になっていないにもかかわら

ず、論文の草稿にコメントをつける。

•研究課題(リサーチクエスチョン)を

提案したり変更したりする。

•生徒に代わって情報を検索し、検索シ

ステムの使い方を見せる以上のことを

する。

•あらかじめ書式を設定した「課題論文」

のテンプレートを提供する。

•参考文献目録や文献対照注に修正を加

える。

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き36

外部メンターについての重要な注意事項理想的には、学校の指導教員から指示を受けながら、生徒が自分1人で論文のための研

究を学校内で行うことが望まれます。しかし、それが適切でないと学校が見なす場合は、

外部メンターの指導の下に研究機関や大学で研究を行うことができます。その場合は、学

校がそれを認めなければならず、また外部メンターには、「課題論文」の性質を概説した書

簡を渡し、許可されている指導のレベルについての明確な説明も提供しなければなりませ

ん。学校は、外部メンターが自分の果たすべき役割の限界を確実に認識するよう促す責任

を負っています。外部メンターが関与する場合も生徒には必ず学校の指導教員がつき、そ

の指導教員と振り返りのセッションを行わなければなりません。「課題論文」の振り返りの

プロセスを生徒と共に完結させることができるのは、そして「計画および進捗についての

振り返りフォーム(RPPF)」に署名とコメントを入れることができるのは、学校の指導

教員に限られています。このコメントの内容に対しては外部メンターが寄与できますが、

コメント自体を外部メンターが書くことはできません。詳細は、教師用参考資料を参照し

てください。

外部メンターに渡す書簡は、外部メンターが電子署名をしたうえで、記録ファイルの一

部として論文の付録に挿入しなければなりません。これだけを別のドキュメントとして提

出することはできません。外部メンターがつく場合は、生徒自身が取り組んだ論文である

ことを認証するうえで、この署名済みの書簡が重要な役割を果たします。

「課題論文」は独立研究であり、正式な評価要素(コンポーネント)であることから、研

究、執筆、校正のいかなる側面においても、指導教員から受けられる以上の支援を生徒が

受けることは認められません。評価に提出される「課題論文」の最終稿が、他者からの支

援なしに生徒1人で完成できたとは思えない場合は、指導教員がDPまたは「課題論文」

コーディネーターに報告し、そのコーディネーターからIBに報告しなければなりません。

報告されたケースは、学問的不正行為の可能性があるとして調査されることがあります。

「自己の振り返りジャーナル(RRS)」「課題論文」で生徒が振り返りをすることは、非常に重要です。効果的な振り返りとは、

知的なプロセスや個人的なプロセスに対する生徒の取り組みの様子を示し、またその取り

組みによって学習者としての生徒にどのような変化があったか、その生徒の論文にどのよ

うな影響が及んだかを示すものです。中等教育プログラム(MYP)を修了した生徒であ

れば、その時代に使用した「プロセスジャーナル(記録日誌)」に似たものと説明するこ

とができるでしょう。IBでは、研究を成功させるうえで「自己の振り返りジャーナル

(RRS)」が不可欠だと考えています。その理由は、次のことに役立つためです。

•研究の過程を通じて、生徒の学習と思考と批判的分析をサポートする

•生徒と指導教員の間の議論を刺激する

•振り返りのプロセスを支援する

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き 37

自己の振り返りジャーナル(RRS)の性質

RRSを使用することは、強く推奨されています。これにより生徒が、自分の意思決

定のプロセスをより明確に理解して説明できるようになり、これが論文の要素を批判的に

評価することに関係するためです。RRSは、学習、思考、批判的分析、評価をサポート

し、優れた「課題論文」に寄与するだけでなく、DP修了後の人生で必要とされるスキル

や能力の習得にもつながります。

RRSは、個人個人の学習環境であり、物理的な形式にすることもできれば、バーチャ

ルな形式にすることもできます。自分が読んでいること、書いていること、考えているこ

とについての振り返りを、自分で記録していくための空間です。生徒は、RRSを使用す

ることで、指導教員との振り返りのセッションの準備ができるようになり、またそのセッ

ションでの会話に際して確固とした情報の裏づけをもてるようになります。振り返りの

セッションに向けた準備として、生徒は次のような目的にRRSを使用します。

•振り返りを記録する

•写真、新聞記事、Twitter のフィード、ブログなどの情報に対する自分の感想を書く

•自分の選んだ科目、あるいはDPのTOKの授業や他の活動を通じて触発された疑

問や問いかけに対する自分の反応を書く

•MindMaps® を作成する

•思いついた質問を記録する

RRSの考え方自体は新しいものではありません。多くの生徒が、「課題論文」の計画、

研究、執筆といった作業過程で、すでに研究ジャーナルをつけています。生徒にRRSを

制作するよう奨励することで、作業の管理がしやすくなり、「課題論文」の焦点を見失わず

に進行できるようになるというメリットがあるでしょう。

自己の振り返りジャーナル(RRS)の役割

RRSは、計画と意思決定のプロセスにおける自分の取り組みを支えるために生徒自身

が制作するもので、批判的に評価するための思考スキルを向上させるのに役立ちます。

研究過程で起きる学習の方法のスキル習得や概念理解の育成に際して足場づくり(スキャ

フォルディング)をもたらす、計画策定のツールでもあります。さらに、RRSは、議論

を構築していく過程で考えがどのように進化したかを記録する手段でもあります。個人的

なレベルで論文のトピックを考えるよう促し、「課題論文」を書き上げようという意欲を刺

激する可能性もあります。指導教員にとっては、RRSに書き込まれた要素が最終的に論

文に反映されているのを見ることで、生徒自身が取り組んだ論文であることを効果的に認

証できるようになるでしょう。このため、指導のプロセスがより有意義になります。

RRSに記録された考えや情報は、論文や振り返りのセッション、および「計画および

進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」の基礎を構成し、これらのなかで直接的に

表現されることもあります。生徒には、RRSからの抜粋を指導教員との面談中に共有す

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き38

ることが期待されています。これらの振り返りを指導セッションの参照点として使用する

ことで、生徒は次のことができるようになります。

•自分の計画策定のプロセスを説明する

•現在学びつつあることを説明する

•自分の進歩の状況を評価する

RRSは、上手に活用すれば、生徒と指導教員の振り返りのセッションにも役立ちます。

そこに書かれた要素を用いながら、会話を進められるためです。この結果、生徒は、自分

の研究過程とその過程で自分が下した選択を、評価的な視点から理解していけるようにな

るでしょう。

また、RRSは、「課題論文」という過程全体を、より個人的に有意義な、取り組み甲斐

のある過程にするのに役立ちます。

生徒と指導教員の関係

生徒は「自己の振り返りジャーナル(RRS)」を使用して、指導教員との振り返りの

セッションに役立てることができます。

振り返りのセッション 説明

初回の振り返りのセッション 最初にトピックをどのように探究したか、どのような文献や

研究方法を使おうと思っているか、暫定的にどのような研究

課題(リサーチクエスチョン)を設定したか、問題点につい

てどのような感想をもったかなどを、RRSに記録するよう、

生徒に奨励します。

指導教員との初めての振り返りのセッションでは、RRSに

書き記したノートを使いながら生徒がこれまでの状況を指導

教員に説明し、どこまで研究が進んでいるかを示すことがで

きます。

中間の振り返りのセッション RRSの記録が増えるにつれ、生徒は、自分の考え方がどの

ように進歩したか、議論がどのように発展しつつあるか、ま

た指導教員に聞いてみたい質問などを盛り込めるようになり

ます。

この段階では、読んだことに対する感想、「課題論文」の完成

に至る経過、考えている議論の骨子、研究の過程で直面した

困難とそれを克服するために使った方法などを、RRSに記

録することができます。

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概要

「課題論文」(EE):指導の手引き 39

振り返りのセッション 説明

最終の振り返りのセッション―口頭試問

「課題論文」の完成後に行われる口頭試問では、RRSを使い

ながら、論文をどのようにして完成させたかを説明すること

ができます。生徒は、トピックについて何を学んだが、どの

ような研究過程をたどったか、自分自身で何を学んだか、ど

んな質問にぶつかったかを示すことができます。口頭試問で

最も重要な点は、この論文が自分にとってどれだけ重要かを

説明するのにRRSが役立ち、結果的に指導教員のレポート

に寄与するという点です。

TIP

RRSの使用は必須ではありませんが、これを制作することが優れた振り返りの実践にとっ

て欠かせない要素であると、IBでは考えています。「課題論文」の過程に足場づくり(ス

キャフォルディング)をもたらすだけでなく、論文という課題を超越して大学やその後の人

生で役立つスキルの構築につながるためです。

RRSは、上手に活用すれば、生徒と指導教員の振り返りのセッションにも役立ちます。そ

こに書かれた要素を用いながら、会話を進められるためです。この結果、生徒は、自分の研

究過程とその過程で自分が下した選択を、評価的な視点から理解していけるようになるで

しょう。

また、RRSは、「課題論文」という過程全体を、より個人的に有意義な、取り組み甲斐のあ

る過程にするのに役立ちます。

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「課題論文」(EE):指導の手引き40

詳細―全科目共通

「課題論文」への導入

「課題論文」に着手する前に、生徒が以下の点を理解していることが重要です。

•「課題論文」の性質とねらい、および要件

•「課題論文」が学校でどのように実施されているか

•「課題論文」にかかわる教師や職員などの役割

•「課題論文」がDPの「コア」のなかでどのように位置づけられているか

•この課題に何が期待されているか

生徒が上記の点をよく理解していることを確認し、また研究方法、学問的誠実性、

eAwareness といった概念を導入するのは、学校とDPまたは「課題論文」コーディネーター

の責任です。

また、生徒には「自己の振り返りジャーナル(RRS)」も導入する必要があります。こ

れは、計画づくりと研究過程の進歩の様子をモニターするのに役立ちます。

指導のプロセス生徒が「課題論文」を無事に完了するには、その過程を体系化して、指導のプロセスを

3~5時間の推奨時間に統合する必要があります。このなかに、生徒と指導教員の間で行

う3回の正式な振り返りのセッションと、確認のセッションと呼ばれる指導のセッション

を組み込みます。

振り返りの記録は「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」に記入

し、これを完成済みの「課題論文」に添えて提出しなければなりません。このフォームは

規準E(取り組み)の評価の材料となります。これらのセッションに向けて準備し、目的

のはっきりした有意義なセッションとするため、生徒は、いくつもの準備のステップを踏

む必要があります。その概要を以下に説明していきます。

指導のセッションと振り返りのセッションの違い独立研究の過程を通じて生徒をサポートしていくには、適切な指導教員がつかなければ

なりません。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 41

確認のセッション

生徒は、正式な振り返りのセッションの間に(追加として)指導教員と面談することが

望まれます。指導時間数は、生徒それぞれのニーズに合わせるべきです。このため、面談

の頻度と長さは、生徒のニーズや指導教員の要求によって異なってくるでしょう。指導時

間には、時折行う 10 分間の確認のセッションを含むことができます。このセッションで

は、スケジュールの進行状況を話し合ったり、指導教員の書いたコメントを説明したりす

ることができます。また、もう少し時間をかけて、例えばリソースへのアクセスといった

具体的な問題点を話し合うこともできます。これらの指導のセッションは、正式な振り返

りのセッションとは区別されます。このため、「計画および進捗についての振り返りフォー

ム(RPPF)」に記録する必要はありません。ただし、指導のプロセスにおいて重要な

セッションであることには変わりはありません。

正式な振り返りのセッション

これらは必須のセッションで、「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」

に記録しなければなりません。毎回のセッションに 20 ~ 30 分かけることが推奨されま

す。これらのセッションでは、生徒が「自己の振り返りジャーナル(RRS)」からの抜

粋を指導教員と共有すべきです。そして、進捗状況に重点を置いて話し合い、今後の研究

過程に対する明確な目標も定めます。生徒は、このセッションに際して事前に準備すべき

です。また、面談では、指導教員が質問をしながら対話を進めます。

必須の振り返りのセッションのサポート必須の振り返りのセッションは、全部で3回行います。これは「課題論文」の正式な構

成要素であり、「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」に記録する必

要があります。生徒は、毎回のセッションを終えるごとに、フォームの当該セクションに

コメントを記入して、指導教員に提出しなければなりません。指導教員は、このフォー

ムに署名して日付を入れます。そして、最終の振り返りのセッションである口頭試問の

終了後に、自分のコメントを記入します。「計画および進捗についての振り返りフォーム

(RPPF)」の記入方法と提出方法についての詳細は、「計画および進捗についての振り返

りフォーム(RPPF)」の記入と提出の手順のセクションを参照してください。

3回のセッションをすべて終えた後、このフォームを「課題論文」と併せてIBに提出

します。フォームの記入が完全でないと、試験官が評価規準E(取り組み)を評価できな

くなるため、この規準の採点が低くなります。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き42

振り返りのセッション

3回の必須の振り返りのセッションに向けた準備とその実施方法について、以下のセク

ションで説明します。

•初回の振り返りのセッションのための準備

•初回の正式な振り返りのセッション

•中間の振り返りのセッションのための準備

•中間の振り返りのセッション

•方向性の変化への対応

•「課題論文」の草稿へのコメント

•提出にあたっての要件

•最終の振り返りのセッション(口頭試問)のための準備

•最終の振り返りのセッション(口頭試問)

初回の振り返りのセッションのための準備初回の振り返りのセッションに向けた準備として、生徒は以下のことをすべきです。

1. 興味のある科目と具体的な領域について考え、背景情報をもたらすような文献を

いくつか読んで、選んだ科目とトピックについての予備知識をつけます。

2. これを出発点として、可能性のあるさまざまな研究トピックを探究します。

3. 興味がある科目について、本資料に記載されている科目別のセクションを読ん

で、その科目の性質とトピックの取り扱い方をよく理解します。

4. 背景情報をもたらす文献をさらに読み、関心のある領域にかかわる情報を集め始

めます。この探究によって、さらなる研究の候補となるトピックや研究課題(リ

サーチクエスチョン)が多数生じるはずです。この段階で重要なのは、候補とし

て考えているトピックに対して信頼性のある有効な文献があるかどうかを考慮

することです。これらの作業はすべて、「自己の振り返りジャーナル(RRS)」

に記録します。

5. 研究提案を書き始めます。これには、アイデアの MindMap® や注釈をつけた記事、

予備的な参考文献目録などが含まれるかもしれません。さらに、以下のような質

問も考え始めなければなりません。

- 自分の選んだトピックは、考えている科目にとって適切だろうか。

- なぜこの領域に関心があるのか。なぜこの領域が重要なのか。

- 予備的な文献を読んでみた結果、どのような質問が生じたか。

- 考慮すべき倫理的な問題点はあるか。

- この領域の研究では、どのような方法やアプローチを使用できるか。それは

なぜか。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 43

この段階では、生徒と指導教員の関係がすでに形成されていることが望まれます。また、

初回の正式な振り返りのセッションに向けた準備ができたと生徒が感じられることも重要

です。

初回の正式な振り返りのセッション初回の振り返りのセッションでは、生徒がすでに行った初期の探究に基づいて、生徒と

指導教員が対話します。生徒が指導教員に研究提案の概要を事前に送信し、指導教員がそ

の内容を確認したうえで、このセッションを行うのが理想的です。これにより、振り返り

のセッションの的が絞れ、生産性が高まるでしょう。

このセッションで話し合うべきトピックには、次のようなものがあります。

•当該科目の要件と評価規準を確認する。

•倫理的・法的な検討事項を確認する(該当する場合)。

•考えられるアプローチや生じ得る問題点について話し合う。

•生徒のアイデアを発展させ、研究を拡大して、論文を形成し始めるためのストラテ

ジーについて議論する。

•生徒が考えを絞り込むのに役立つよう、深く踏み込んだ質問を問いかける。この質

問は、生徒の研究課題(リサーチクエスチョン)の発展につながるべきです。

•研究課題(リサーチクエスチョン)を洗練させるために生徒がとるべき次のステッ

プを示す。これは、研究と執筆のスケジュールをつくるというステップになるべき

です。

TIP

生徒は、この初回のセッションの終了後に「計画および進捗についての振り返りフォーム

(RPPF)」の当該セクションにコメントを記入し、指導教員に提出して、指導教員から署

名と日付を入れてもらう必要があります。詳しくは、「計画および進捗についての振り返り

フォーム(RPPF)」の記入と提出の手順のセクションを参照してください。

中間の振り返りのセッションのための準備生徒は、1回目と2回目の振り返りのセッションの間に、科目の教師、「課題論文」コー

ディネーター、図書館司書、指導教員などとインフォーマルな会話をもつことができます。

また、自分の研究計画を確実に前進させなければなりません。

中間の振り返りのセッションまでに、生徒は、準備として次のことを済ませるべきです。

•研究課題(リサーチクエスチョン)を洗練させて、的を絞った適切な内容にするよ

う努力する。

•研究をはるかに深いレベルへと進め、関連する証拠や情報やデータを「自己の振り

返りジャーナル(RRS)」に記録する。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き44

•使用する方法論を見直して統合する。

•収集した証拠に基づいて議論を構築する。

•研究の参考文献目録に文献を追加する。

中間の振り返りのセッションこのセッションでは、指導教員と生徒が引き続き対話を行います。生徒はそのなかで、

自分の研究がどのように進展したかを示さなければなりません。また、今までに遭遇した

困難についても話し、自分なりに考えられる解決策を示すとともに、必要に応じて助言を

仰ぐことができなければなりません。

このセッションでは、指導教員は以下の点について話すことができます。

•生徒が継続的に書き記した完成物。これについて話し合う目的は、参考文献の表記

法をはじめ学術的な論文執筆の要件を生徒が理解しているかどうかを確認するこ

とにあります。

•適切な幅の文献にアクセスしているかどうか。生徒がそれらの文献をどのように批

判的に評価しているか。

•今後、論文の完全な草稿を執筆するために生徒が何をしなければならないか。その

作業を手に負えるレベルの細かいステップに分解するための方法と手段。

中間の振り返りのセッションを終えた時点で、生徒と指導教員は、以下の点が確立され

たと感じられるべきです。

•明確かつ的を絞った研究課題(リサーチクエスチョン)

•論文の基本となる有効な議論

•十分な幅のある適切な文献

•執筆過程の最終ステップをやり遂げるための明確なビジョン

生徒は、この中間セッションから「課題論文」の執筆終了までの間に、必要に応じて継

続的に指導教員と面談すべきです。ただし、3回目の最終の振り返りのセッションは、「課

題論文」の執筆が終了し、最終稿がアップロードされて提出された後まで行うことはでき

ません。

TIP

生徒は、この中間のセッションの終了後に「計画および進捗についての振り返りフォーム

(RPPF)」の当該セクションにコメントを記入し、指導教員に提出して、指導教員から署

名と日付を入れてもらう必要があります。詳しくは、「計画および進捗についての振り返り

フォーム(RPPF)」の記入と提出の手順のセクションを参照してください。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 45

方向性の変化への対応研究の目標が達成されていないと生徒や指導教員が感じる場合は、さらなる指導のセッ

ションを行うのが適切かもしれません。

研究の方向性を変更したり研究課題(リサーチクエスチョン)の立て方を調整したりす

る必要があると感じる生徒は、なぜその考えに至ったかを「計画および進捗についての振

り返りフォーム(RPPF)」の2回目の振り返りのセクションに記録すべきです。初回の

振り返りに戻って変更することはできません。このフォームの目的は、研究の過程を通じ

て考え方がどのように進化したかを示すことであるためです。

「課題論文」の草稿へのコメント論文の草稿を1つ読んでコメントすることは、このプロセスの後半の段階における非常

に重要な側面です。指導教員にとっては、論文の最終稿が提出用にアップロードされる前

に論文を見ることのできる最後のポイントとなります。このため、正しいレベルのサポー

トを提供することがきわめて重要です。サポートを十分にしなければ生徒の潜在能力が発

揮されなくなり、サポートをしすぎれば独立した学習者の成果物ではなくなってしまい

ます。

この最後の段階でとるべきベストの方法は、指導のセッションの前に生徒に論文を提出

してもらい、指導教員がコメントをつけることです。そのうえで、生徒と指導教員が1対

1のディスカッションを行って、指導教員のつけたコメントを一緒に見直し、それを出発

点として論文についての対話を続けます。このコメントは、論文をどうすれば良くするこ

とができるかという視点からのアドバイスであるべきです。ただし、指導教員が草稿に多

数の注釈を書き込んだり、編集したりすることはできません。

 指導教員がしてもよいこと:コメントは、論文をどうすれば良くすることができるかをアドバイスするためにつける

ことができます。このコメントは、生徒がすべきことを指示するようなものであってはな

らず、また文章を編集するものであってもなりません。例えば、次のような書き方が望ま

れます。

•問題点:研究課題(リサーチクエスチョン)が3か所(表紙、序論、結論)に異な

る表現で書かれている。

論評:あなたの研究課題(リサーチクエスチョン)は、表紙を含めて論文のすべて

の部分で一貫していますか。

•問題点:論文が漫然としていて、論旨がはっきりしない。

論評:あなたの論文は、この部分で明瞭性を欠いています。どうすればもっと明確

にできると思いますか。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き46

•問題点:生徒が計算ミスを犯している。

論評:このページをもう一度よく確認してください。

•問題点:生徒が論文の一部のセクションを飛ばしてしまっている。

論評:ここに何か欠落しているものがあるようです。何ですか。論文の要件と照ら

して確認してください。

•問題点:論文の本論で述べるべきことが、論文の付録に組み込まれている。

論評:この情報は、ここに入れるべきですか。

•問題点:結論が弱い。

論評:ここで言おうとしていることは何ですか。関係する事実をすべて述べました

か。未回答のままになっている質問を考えてみましたか。

•問題点:不完全な形式の引用がある。

論評:このページを見直して、参照の形式が正確かどうかを確認してください。

 指導教員がしてはならないこと:•つづりや句読点を修正する。

•実験や計算の結果を修正する。

•わずかであっても、論文を書き直す。

•論文のセクションをどのように構成すべきかを示唆する。

•論文を校正して間違いを指摘する。

•参考文献目録や文献対照注を修正する。

TIP

生徒が指導教員に論文を部分的に提出して読んでもらうことは認められますが、同じセク

ションを繰り返し指導教員が読むことはできません。また、指導教員が多数の注釈を書き込

んだり、編集したりすることもできません。論文の完全な草稿を1回だけ指導教員が見られ

るという規則を、生徒と指導教員の両方が確実に理解しなければなりません。

提出にあたっての要件最後まで書き上げた草稿にコメントした後、指導教員が次に目にする論文は口頭試問の

前に提出される最終稿となります。この段階の「課題論文」は、清書されたものでなけれ

ばなりません。つまり、指導教員のコメントや他の人の書き込みがないものを意味しま

す。生徒がこのバージョンを指導教員に送付し、話し合いが持たれた後は、生徒はこの原

稿にいっさい変更を加えることはできなくなります。ただし、事務管理上のミスを理由と

して指導教員が認めた場合は例外です。このため、生徒には、論文をアップロードする前

に、提出に際しての要件と書式の要件をすべて満たしたかどうかを今一度確認するよう指

導すべきです。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 47

最終の振り返りのセッション(口頭試問)のための準備このセッションを行う前に、指導教員は、生徒から送られた論文の最終稿を読んでおか

なければなりません。

生徒は、このセッションにあたって、次の準備をします。

•「自己の振り返りジャーナル(RRS)」からの抜粋を持参して、振り返りのプロセ

スを通じて学習者としてどのように成長したかを示せるようにする。

•個人的な経験を指導教員と共有して、「課題論文」を完成させる過程で習得したス

キルと概念理解について話し合うことに積極的な姿勢をもつ。

TIP

このセッションの後に「課題論文」を変更することはできないことを、生徒にあらためて確

認することが重要です。生徒が最終稿として指導教員に論文を送付した後は、変更が行われ

ないことを確認するのは指導教員の責任です。これは、生徒自身に論文をアップロードさせ

ることを許可する学校においては、特に重要なことです。

最終の振り返りのセッション(口頭試問)口頭試問は、生徒と指導教員の間で行う短い面談です。「課題論文」のプロセスを完了す

るには、これを行う必要があります。口頭試問を行わないと、「計画および進捗についての

振り返りフォーム(RPPF)」が完全に記入されなくなるため、規準E(取り組み)の評

価で不利になります。

口頭試問は、生徒が「課題論文」の最終稿をアップロードしてIBの評価用に提出した

後で実施します。論文を提出すると、その後は変更ができなくなります。口頭試問は、論

文を書き上げたことを称賛する機会であり、同時にこのプロセスから生徒が何を学んだか

を振り返る機会でもあります。

口頭試問とは、以下のようなものです。

•「はい」か「いいえ」で単純に答えられないオープンエンドの質問をして、生徒の

学習経験についての包括的な証拠を確認する機会

•論文のアイデアと文献が本当に生徒自身が取り組んだものであることを、指導教員

が確認する機会

•研究を通じて達成した成果や直面した困難について振り返る機会

•「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」に指導教員がコメント

できるようになるための機会

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き48

口頭試問には、20 ~ 30 分をかけるべきです。この時間は、指導教員が生徒に費やすべ

き推奨時間に含まれます。

指導教員は、口頭試問を実施して「計画および進捗についての振り返りフォーム

(RPPF)」にコメントを書くにあたり、次のことに注意すべきです。

•このフォームは、「課題論文」の一部として評価されます。指導のセッションや振

り返りのセッションの際に生徒と話し合ったことを反映する指導教員のコメント、

生徒のコメント、さらに全体として研究過程に生徒がどのように取り組んだかにつ

いての指導教員の印象が、フォームに書き込まれていなければなりません。

•指導教員が振り返りのセッションを行わなかった、あるいは生徒がそれに出席しな

かったためにフォームの記入が不完全になった場合は、規準E(取り組み)の評価

に影響する可能性があります。

•規準E(取り組み)を評価する際、試験官は、このフォームに書かれた情報すべて

を判断材料として使用し、特に際立った知的創造性が見られるかどうかを検討しま

す。この評価は、このプロセスの結果として学んだことや習得したスキルを生徒が

実質的に示した場合に、特に加味されます。

•試験官は、生徒が論文で言及した文献(適切に参照されていなければなりません)

を本当に理解したかどうかを知りたいと考えます。論文での文献の使い方からその

理解の様子がはっきりと伺えない場合、試験官は、口頭試問や「計画および進捗に

ついての振り返りフォーム(RPPF)」のコメントに生徒の理解が表れているか

どうかを確認することができます。

•引用や参照に大きな欠点があると見られる場合は、指導教員が徹底的に調査すべき

です。標榜または何らかの学問的不正行為を生徒が働いた可能性があると指導教員

が感じる場合は、生徒自身が取り組んだものであることを認証してはなりません。

•指導教員のコメントは、試験官の仕事を代行するものではありません。指導教員の

コメントでは、主にプロセスに関係したことに言及し、論文だけからでは伝わらな

いかもしれない情報を伝えるようにすべきです。

•具体的な問題がないかぎり、口頭試問はポジティブな雰囲気で始め、ポジティブな

雰囲気で終わるべきです。「課題論文」のように大がかりな課題を終えたというこ

とは、生徒にとってすばらしい成果です。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 49

TIP

生徒は、この最終のセッションの終了後に「計画および進捗についての振り返りフォーム

(RPPF)」の当該セクションにコメントを記入し、署名と日付を入れたうえで指導教員に

提出して、指導教員からコメント、署名、日付を入れてもらう必要があります。その後、指

導教員は、eコースワーク・システムにこのフォームをアップロードし、フォームと論文の

両方について生徒自身が取り組んだものであることを認証したうえで、1つのポートフォリ

オとしてIBの評価用に提出します。詳しくは、「計画および進捗についての振り返りフォー

ム(RPPF)」の記入と提出の手順のセクションを参照してください。

「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」を完全に記入しなかった場合は、

以下の結果を招く可能性があります。

•「課題論文」の成績の授与に遅れが生じる。

•規準Eの評価が低くなる。情報不足のため試験官が規準Eを評価できなくなる可能性が

あります。

•生徒自身が取り組んだことが認証されない結果として、学問的不正行為の可能性がある

ケースとされる。

本当に生徒自身が取り組んだものであるかどうかの認証評価用にIBに提出される「課題論文」に対しては、本当に生徒自身が取り組んだもの

であるという認証を、生徒と指導教員が必ず添えなければなりません。学問的不正行為で

あることが確定している、あるいはその疑いがある情報をわずかでも含んでいてはなりま

せん。生徒と指導教員は、eコースワーク・システムに成果物をアップロードする際に、

この認証を行う必要があります。生徒が「課題論文」の最終稿をeコースワーク・システ

ムにアップロードし、それが自分の取り組んだものであることを認証すると、その論文は

システムから指導教員に送られます。この段階で、修正のために論文を取り下げたいとい

うリクエストが生徒からあっても、指導教員はこれを認めてはなりません。ただし、事務

管理上のミスがあった場合は例外です。

「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」は、生徒が署名して日付を

入れたうえで指導教員に提出します。これをeコースワーク・システムにアップロードす

るのは、指導教員の責任です。指導教員は、フォームに自分のコメントを記入し、生徒自

身が取り組んだものであることを認証したうえで、すでにアップロードされている論文と

合わせて1つのポートフォリオにまとめ、IBに提出します。詳細は、「計画および進捗に

ついての振り返りフォーム(RPPF)」の記入と提出の手順のセクションを参照してくだ

さい。

指導教員がこのプロセス全体を通してガイドラインに則って生徒の成果物をモニターし

てきたと認証でき、また最終成果物の提出後に、それが生徒自身が取り組んだものである

と認証できることは、きわめて重要です(詳しくはIB資料『DP手順ハンドブック』を

参照してください)。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き50

本当に生徒自身が取り組んだ成果物であると指導教員が認証できない場合は、DPコー

ディネーターに報告しなければなりません。それを受けてDPコーディネーターは、

IB資料『DP手順ハンドブック』に従って対応します。本資料に記載された要件およ

び期待される事項に従っていないにもかかわらず提出された成果物は、学問的不正行為の

ケースとして取り扱われます。

本当に生徒自身が取り組んだものかどうかが不明な場合、指導教員は、まず生徒と話し

合うべきです。また、以下のことを一部または全部実践してみると有益かもしれません。

•生徒自身が書いたことが分かっている他の成果物と文体を比較する

•論文の初稿と最終稿を比較する

•生徒が引用した個所を、文献の原典と照らして確認する

•第三者の立ち会いの下で生徒と面談する

•剽窃を検出するウェブサイトで確認する

学問的誠実性、とりわけ自分自身で取り組むという概念や知的財産権の概念の基本的な

意味と意義を、すべての生徒が理解するよう仕向けていくことは、指導教員の責任です。

指導教員は、評価用に提出される生徒の成果物が、規定の要件に従って作成されている

ことを必ず確認し、また「課題論文」は完全に自分自身の成果物でなければならないこと

を、生徒に明確に説明しなければなりません。

同一の成果物を提出して、「課題論文」と科目ごとの評価要素(コンポーネント)の要件

の両方を満たすことはできません。

このトピックについて、および本当に生徒自身が取り組んだものであるかどうかの認証

について、詳しくはIB資料『一般規則 :ディプロマ・プログラム』および同『DP手順

ハンドブック』を参照してください。

「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」の記入と提出の手順「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」を完成させることは、「課題

論文」の提出に際して求められる必須要件です。このフォームは、最終的に提出された論

文を評価し、また独立研究の過程に対する生徒の取り組みを評価するうえで、重要な役割

を果たします。このフォームの記入と提出についてのガイダンスを、以下に説明します。

DPまたは「課題論文」コーディネーターは、学校のリーダーシップ・チームからの支援

も受けながら、「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」の管理にとっ

て適切なシステムを見極めなければなりません。このシステムを通じて生徒と指導教員の

両方にアクセスを提供し、必須とされる総括コメントを記入できるようにする必要があり

ます。また、フォームが不当に改ざんされないシステムであることも重要です。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 51

 以下のステップは、目安として提案されています。

その後一定期間内に、生徒が初回の振り返りのコメントを記入します。この期

間は、振り返りのセッションで話した内容を忠実に反映できるよう、短く指定

します。

指導教員が日付と署名を入れて、生徒のコメントを認証します。フォームが電

子的に保存されている場合は、電子署名で構いません。

中間の振り返りのセッションを行います。

その後一定期間内に、生徒が中間の振り返りのコメントを記入します。この期

間は、振り返りのセッションで話した内容を忠実に反映できるよう、短く指定

します。

指導教員が日付と署名を入れて、生徒のコメントを認証します。フォームが電

子的に保存されている場合は、電子署名で構いません。

生徒が「課題論文」の最終稿を完成させてeコースワーク・システムにアップ

ロードし、指導教員からIBに提出できるようにします。このアップロード後、

論文は変更できなくなります。いかなる変更も許可されません。

指導教員が論文を読み、最終の振り返りのセッションとなる口頭試問をスケ

ジュールします。

口頭試問を行います。

生徒が「計画と進歩についての振り返りフォーム」に最終の総括コメントを記

入し、署名と日付を入れてから、指導教員に提出します。

指導教員がこのフォームをeコースワーク・システムにアップロードし、自分

の総括コメントを記入します。

その後、指導教員が、2つの必須提出物である論文とフォームの両方を1つの

ポートフォリオにまとめ、評価用にIBに提出します。

初回の振り返りのセッションを行います。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き52

RPPFが提出されなかった、あるいは白紙だった場合は、規準Eの得点は0となり

ます。

重要な注意事項:

生徒が記入した振り返りに指導教員が署名と日付を入れた後は、そのコメントを変更するこ

とはできなくなります。試験官は、3回の振り返りのコメントを通じて生徒の考えがどのよ

うに発展したかを見ようとします。また、研究過程の後のほうの段階で生徒が論文の方向性

を変えた場合は、生徒自身が取り組んだものかどうかの信頼性が下がり、試験官が規準Eを

評価するのに影響します。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 53

詳細―全科目共通

研究と執筆のプロセス

研究と執筆についての最初の指導指導教員は、研究をどのように進め、「課題論文」をどのように執筆するかについて、以

下に挙げる主な要素に特に注意を払いながら、生徒に助言すべきです。

生徒は、以下のステップに従って「課題論文」の研究を進めるべきです。

次のIB資料を読みます。本資料に記載された評価規準と科目ごとのセクショ

ン、IBの倫理ガイドラインと他の関連ポリシー(動物実験についてのポリシー

など)

自己の振り返りジャーナル(RRS)を準備して、「課題論文」の過程を進め

るための計画策定と振り返りの道具として使用します。

トピックを選び、そのトピックの文献をいくつか読んで背景情報を理解します。

暫定的に研究課題(リサーチクエスチョン)を設定します。研究課題(リサー

チクエスチョン)では、できればIBの指示用語を使うようにします。

研究と執筆の過程の大まかな計画を立てます。これには時間的な目安も入れる

べきです。

どこで、どのように、この研究のための情報を収集するかを特定し始めます。

出典の示し方について、どの書式を採用するのかを決め、その形式がIBの最

低要件を満たしていることを確認します。

学校が指定した内部的な締切を考慮に入れながら、自分にとって現実的な締切

を設定します。

論文の構成を考えます。これは研究を進めるにつれ、変わっていくかもしれま

せん。しかし、最初からある程度の方向性をもっておくことは有益です。

提案した研究課題(リサーチクエスチョン)にとって適切な文献を読み、知識

を深め始めます。与えられた時間内に必要な根拠を集められないと生徒が感じ

た場合は、研究課題(リサーチクエスチョン)を変更すべきです。これは早い

段階で行うべきです。事がいずれ良い方向に転じるかもしれないと期待して、

時期を遅らせるべきではありません。生徒は、このステップの3、2、または

1に戻って、自分の研究を通じて答えることのできる研究課題(リサーチクエ

スチョン)を新しく考えます。

研究を進めます。収集した情報は、論文の構成に結びつけながら論理的な順序

に組み立てます。また、提起した研究課題(リサーチクエスチョン)に明確に

焦点をあてる必要があります。この作業を行うことで、論理の各段階に十分な

根拠があるかどうかが分かり、次の段階へ進めるのが適切かどうかを判断でき

るようになります。思いどおりにいかない場合もあることを、生徒は理解しな

ければなりません。時には、すでに確立したと思っていた論理を覆す何かが研

究の後のほうの段階になって見つかることもあります。このようなことが生じ

た場合は、研究の計画を改める必要があります。

当該セッションで学習することのできるDPの科目のなかから「課題論文」に

使用する科目を1つ選択します(選択できる科目について、学校が独自に制約

を課す場合があります)。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き54

次のIB資料を読みます。本資料に記載された評価規準と科目ごとのセクショ

ン、IBの倫理ガイドラインと他の関連ポリシー(動物実験についてのポリシー

など)

自己の振り返りジャーナル(RRS)を準備して、「課題論文」の過程を進め

るための計画策定と振り返りの道具として使用します。

トピックを選び、そのトピックの文献をいくつか読んで背景情報を理解します。

暫定的に研究課題(リサーチクエスチョン)を設定します。研究課題(リサー

チクエスチョン)では、できればIBの指示用語を使うようにします。

研究と執筆の過程の大まかな計画を立てます。これには時間的な目安も入れる

べきです。

どこで、どのように、この研究のための情報を収集するかを特定し始めます。

出典の示し方について、どの書式を採用するのかを決め、その形式がIBの最

低要件を満たしていることを確認します。

学校が指定した内部的な締切を考慮に入れながら、自分にとって現実的な締切

を設定します。

論文の構成を考えます。これは研究を進めるにつれ、変わっていくかもしれま

せん。しかし、最初からある程度の方向性をもっておくことは有益です。

提案した研究課題(リサーチクエスチョン)にとって適切な文献を読み、知識

を深め始めます。与えられた時間内に必要な根拠を集められないと生徒が感じ

た場合は、研究課題(リサーチクエスチョン)を変更すべきです。これは早い

段階で行うべきです。事がいずれ良い方向に転じるかもしれないと期待して、

時期を遅らせるべきではありません。生徒は、このステップの3、2、または

1に戻って、自分の研究を通じて答えることのできる研究課題(リサーチクエ

スチョン)を新しく考えます。

研究を進めます。収集した情報は、論文の構成に結びつけながら論理的な順序

に組み立てます。また、提起した研究課題(リサーチクエスチョン)に明確に

焦点をあてる必要があります。この作業を行うことで、論理の各段階に十分な

根拠があるかどうかが分かり、次の段階へ進めるのが適切かどうかを判断でき

るようになります。思いどおりにいかない場合もあることを、生徒は理解しな

ければなりません。時には、すでに確立したと思っていた論理を覆す何かが研

究の後のほうの段階になって見つかることもあります。このようなことが生じ

た場合は、研究の計画を改める必要があります。

当該セッションで学習することのできるDPの科目のなかから「課題論文」に

使用する科目を1つ選択します(選択できる科目について、学校が独自に制約

を課す場合があります)。

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研究課題(リサーチクエスチョン)の設定生徒は選択した科目にかかわらず、必ず研究課題(リサーチクエスチョン)を質問文の

形式で設定しなければなりません。仮説や意図の表明文の形式は認められません。質問文

の形式を義務づける理由は、論文全体にわたって焦点を維持するのが容易になるためです。

研究課題(リサーチクエスチョン)とは、研究トピックを中心とした明確かつ的を絞っ

た質問です。通常は、生徒が関心を寄せている、あるいは好奇心を抱いている具体的な問

題についての質問が問われた時に、研究課題(リサーチクエスチョン)が浮上します。

研究課題(リサーチクエスチョン)を設定することで、研究の焦点が定まり、研究と執

筆の過程を進めるための道順が明らかになります。明確で的を絞った研究課題(リサーチ

クエスチョン)には、具体的なねらいがあります。それを使うことで生徒は、課題の範囲内

で論理的な議論を構築すべく作業できるようになり、的の絞れていない研究課題(リサー

チクエスチョン)を使った場合に到達しかねない「~についての全般論」のような論文を

避けられるようになるでしょう。

時には、研究課題(リサーチクエスチョン)を変えなければならないこともあります。

このため、論理的な議論を構築するのに十分な研究データが集まるまでは、研究課題(リ

サーチクエスチョン)を暫定的と見なしておくべきです。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 55

個別の研究課題(リサーチクエスチョン)が適切かどうかについて、残念ながらIBは

コメントすることはできません。この点を指導教員は注意してください。IBがコメント

しない理由は、適切な研究課題(リサーチクエスチョン)を形成したかどうかが評価の対

象となるためです。指導教員が研究課題(リサーチクエスチョン)についてのサポートと

アドバイスを必要とする場合は、オンラインカリキュラムセンター(OCC)の「課題論

文」フォーラムにまずアクセスしてみると良いかもしれません。

研究課題(リサーチクエスチョン)を設定するための5つのステップ

 興味のある科目とトピックを選ぶ

生徒が関心を寄せていて、個人的に情熱を抱いている科目とトピックを選ぶことは、この過

程を通じて意欲を維持するうえで重要です。生徒は、幅広い意味で自分が何に興味をもって

いるか、それはなぜかを特定できるべきです。

 文献を読んで予備知識をつける

関心のあるトピックを決めた後、生徒は、そのトピックについての全般的な文献を読んでみ

るべきです。その際に、次のような質問を問いかけます。

•このトピックについて、どのようなことが今までに書かれてきたか。

•文献や情報を見つけるのは簡単だったか。

•幅広く異なる文献が存在しているか。

•このトピックについて幅広い見方や見解が存在しているか。

•この下調べを通じて、どのような興味深い質問が浮上し始めたか。

 浮上し始めた質問を考察する

次に生徒は、このトピック全般に関係する、「はい」や「いいえ」で単純に答えられないオー

プンエンドの質問を考え始めます。通常、この質問は、「どのように」、「なぜ」、「どの程度」

といった言葉で問われます。

 質問を評価する

論文で使える可能性のある研究課題(リサーチクエスチョン)を考えたら、それを評価すべ

きです。この評価は、その質問が明確か、的を絞ったものになっているか、立論が可能かど

うかという視点から行います。

明確か:この質問を読んだ人は、私の研究の性質を理解するだろうか。これから始める研究

に方向性をもたらすだろうか。

的を絞ったものになっているか:この質問は、課題の範囲内で(語数や時間の制約のなかで)

十分に探究できるだけの具体性をもっているか。

立論が可能か:この質問は、分析や評価、論理的な議論の構築が可能か。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き56

 研究の結果について考察する

研究課題(リサーチクエスチョン)を暫定的に設定した後、生徒は、この研究がどのような

方向へ向かうかを考え始めるべきです。具体的には、次のようなことをします。

•考えられる研究の結果を提示する。

•どのような議論が構築できるか、研究がその議論をどのように裏付け、発展させられる

かについて、骨子を考える。

•議論を裏付けるのに十分な研究ができなかった場合の選択肢について考えておく。

研究課題(リサーチクエスチョン)のサンプル不明確で的の絞れていない研究課題(リサーチクエスチョン)と、深いレベルの研究を

可能にする明確で的を絞った研究課題(リサーチクエスチョン)の違いについて、次の表

で説明します。

不明確で、的が絞れておらず、立論が不可能な研究課題(リサーチクエスチョン)

明確で、的が絞れ、深いレベルの研究を可能にする具体的な研究課題(リサーチクエスチョン)

ホー・チ・ミンのレーニンに対する忠誠は、

どのような影響をもたらしたか。

1920 年にホー・チ・ミンがレーニン主義を採

択した際、国粋主義はどの程度、それを導く

要因となったか。

中国の演劇の歴史は何か。 梅蘭芳が遺した遺産は、近代の京劇にどのよ

うに寄与したか。

クロロフィルは植物の生命にとってどのよ

うに重要か。

カイネチン濃度の違いが、葉の劣化とクロロ

フィルの生合成に及ぼす影響は何か。

米国政府の歳出政策は、どのように改革で

きるか。

車両所有権証書の値上がりは、新車・中古車

の個人消費者需要にどの程度影響し、結果と

して 2012 ~ 2016 年にシンガポール経済の計

上する売上高にどの程度影響したか。

重要な注意点

不明確で広すぎる質問を立てると、その問題や出来事の概要を説明するだけに終始して、論

文で分析や論理的な議論を展開する余地がほとんど残されなくなってしまいます。この結

果、試験官は、さまざまな評価規準の項目で、評点をつけることができなくなります。特に、

規準C(批判的思考)の評価が難しくなるでしょう。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 57

「課題論文」の執筆論文の構成は非常に重要です。構成があることによって、議論を整理し、収集した証拠

や根拠を最も効果的に使用できるようになるためです。

提出する最終稿には、6つの要素が含まれていなければなりません。各要素の詳細は、

形式のセクションを参照してください。これらの要素は、必ずしも最終的な順序どおりに

執筆を進めなければならないというわけではありません。

「課題論文」に必ず含めなければならない6つの要素は、以下のとおりです。

1. 表紙

2. 目次

3. 序論

4. 本論

5. 結論

6. 参考文献と参考文献目録

表紙

表紙には、以下の情報のみを記載します。

•論文のタイトル

•研究課題(リサーチクエスチョン)

•論文の登録科目(「言語」の論文の場合は、カテゴリーも記載します。「ワールドス

タディーズ」の論文でこれに該当する場合は、テーマと使用する2つの科目も記載

します)

•語数(字数)

重要な注意点

生徒名と学校名を表紙やページのヘッダーに記載してはなりません。これは、成果物を匿名

で評価できるようにするためです。

タイトル

論文のタイトルは、明確かつ的を絞った文言で、かつ研究内容を総括するような文言に

します。そのタイトルを読んだ読者に、研究トピックを示すようなものであるべきです。

研究課題(リサーチクエスチョン)をタイトルにしてはなりません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き58

タイトル 研究課題(リサーチクエスチョン)

消費の外部不経済:タバコのパッケージに関するオーストラリアの方針

タバコのパッケージをめぐるオーストラリアの方

針は、Xにおけるタバコの消費に関連する外部不

経済を削減するのにどれだけ効果があったか。

商品化と体―臓器提供に関係する人体の社会的表現についての民族学的調査

一般市民が臓器提供に対して示す否定的な姿勢

を、どの程度、支配的な医療モデルの需要に対す

る抵抗として解釈できるか。アルゼンチンの臓器

提供のケース。

戯曲を動機づける力としての悪の探究 クリストファー・マーロウは、悪に対する自分の

見方を『フォースタス博士』のなかでどのように

効果的に提示しているか。

都市全域にわたる無線ネットワーキングの実現可能性

都市全域を対象とする場合に、無線ネットワーク

はどの程度、有線ネットワークの現実的な代替と

なるか。

目次

「課題論文」の最初に目次ページを入れ、すべてのページにページ番号を振らなければな

りません。索引ページは必須の要素ではありません。索引ページをつけた場合も、存在し

ないものとして扱われます。

序論

序論では、この論文から読者が何を期待できるかを伝えます。論文の焦点、研究の範囲、

特に使用する文献、およびどのような議論が展開されるかについての洞察を、読者に対し

て明確にすべきです。

論文の方向性と主な焦点について生徒はある程度の計画をもっているべきですが、時に

は本論を書き上げてから序論を最終的に確定したほうが良い場合もあります。

本論(研究、分析、議論、評価)

主となる課題は本論を書くことであり、これは論理的な議論の形式で提示されなければ

なりません。その形式は、論文の科目によってさまざまですが、議論が展開するにつれ、ど

のような重要な証拠が発見されたか、それがどこでどのように発見されたか、議論をどの

ように支えるかが、読者にとって明らかになるべきです。例えば「理科」のような科目で

は、本論のなかに小見出しを入れることで、読者にとって議論が理解しやすくなるでしょ

う(生徒自身も、議論の展開を把握しやすくなります)。生徒は、「課題論文」の構成を考

える際に、論文を登録した科目で一般的に期待されている形式を考慮に入れる必要があり

ます。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 59

本論を書き上げた後で、序論を最終的に確定させ(読者が期待すべきことを伝えます)、

また結論を仕上げることができます(何が達成されたかを述べると同時に、この研究の限

界やこの研究を通じて解決されなかった疑問を説明します)。

議論を構築するうえで重要な情報は、付録や脚注に入れてはなりません。試験官は注釈

と付録は読まないため、それ自体で完結していない論文は、複数の評価規準にわたって不

利を招きます。

結論

結論は、何が達成されたかを述べる部分です。また、研究に限界がある場合や、研究を

通じて解決されずに残された疑問がある場合は、それらも結論に含めます。自分の発見し

たことに基づいて論文全体を通じて結論を導いていくことはありますが、その場合も、最

後に最終的かつ総括的な結論があることは重要です。この結論は(複数の場合はすべて)、

提起した研究課題(リサーチクエスチョン)に関連づけられていなければなりません。

参考文献と参考文献目録

生徒は、執筆を始めると同時に、自分で選んだ出典の示し方の書式を使い始めなければ

なりません。そうすることにより、引用個所に文献対照注を入れ忘れる可能性が低くなり

ます。また、参照した文献を後で追加していくよりも、最初から入れていったほうが簡単

です。これについて詳しくは、IB資料(英語版)『Effective citing and referencing(効果的な

引用と参照)』を参照してください。

論文を書くのは時間のかかる作業ですが、「自己の振り返りジャーナル(RRS)」と振

り返りのセッションを有意義に活用してきた生徒であれば、議論を構築する準備が十分に

できているはずです。

形式「課題論文」は、明確に、正しく、かつ学術的なスタイル(文体)で書き、選んだ科目に

とって適切でなければなりません。正式な研究論文であるため、プロフェッショナルで学

術的な印象を維持するよう努力すべきです。

これを達成するため、以下の書式に従うことが義務づけられています。

•12 ポイントの読みやすいフォントを使用する

•ダブルスペースにする

•ページ番号をつける

•生徒名と学校名を表紙やページのヘッダーに入れない

この指定の書式に従って「課題論文」を提出することで、適切な印象を与え、試験官が

画面上で読んで評価する際の読みやすさを高めるのに役立つでしょう。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き60

語数(字数)

「課題論文」は 4000 語(日本語の場合は 8000 字)以内で書きます。

注:試験官は、この制限語数を超えた時点で読むのをやめ、それ以降の部分は評価しな

いよう指示されています。つまり、4000 語(8000 字)以上の論文は、すべての評価規準で

不利になることを意味します。評価規準は包括的でホリスティックな評価を意図してつく

られていることから、語数を超えて書く生徒は、すべての評価規準で自ら評点を下げるこ

とになります。例えば、規準Bでは、4000 語以降の部分で述べられている知識や理解はす

べて、存在しないものとして扱われます。規準Cでは、4000 語以降の部分で展開した議論

や評価は、まるで展開されなかったものとして扱われます。

「課題論文」をアップロード(e-upload)することで評価が打ち切られる時点を自動的に検

出できるようになることを、指導教員と生徒は認識すべきです。生徒は、執筆を語数(字

数)制限内に留め、必要に応じて編集すべきです。

語数に含まれるものについては、以下の表を参照してください。

 語数(字数)に含まれるもの  語数(字数)に含まれないもの

序論 目次

本論 地図、グラフ、図式、注釈をつけた図解

結論 表

引用個所 等式、公式、計算

参考文献ではない脚注および/または文末

脚注

文献対照注/参考文献(挿入法と引用順方

式、脚注、文末脚注のいずれの場合も語数・

字数に含まれません)

参考文献目録

「計画および進捗についての振り返りフォー

ム(RPPF)」

語数の要件についての詳細は、IB資料(英語版)『IB DP Assessment Policy(IBDPの評

価方針)』を参照してください。

中国語または日本語で執筆する場合の注意点「課題論文」を日本語または中国語で執筆する生徒は、以下のように語数を字数に換算

してください。

•日本語:1語=日本語では約2字(上限は 8000 字)

•中国語:1語=中国語では約 1.2 字(上限は 4800 字)

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 61

中国語のワードプロセッシングソフトウェアには、文字カウント機能で句読点も数えて

しまうものがあります。論文の文字数に句読点は含めません。文字の数だけで計算して下

さい。

図解資料

形式と全体的な美しさは重要です。そして、図解資料を使用するのであれば、よく整理

され、効果的に使われていることが、きわめて重要です。グラフ、図式、表、地図は、明

確にラベルづけされていて、簡単に解釈できなければ、効果がありません。

ラベルはすべて最小限の情報を含むことで、地図やグラフ、図式、図解の意義を試験官

が理解できるようにすべきです。コメントをつけることはできません。これは論文の議論

の一部と見なされ、語数に含まれるためです。

「課題論文」に含まれたこの種の資料はすべて、文章に直接的に関係し、必要に応じて文

章で言及されていなければなりません。写真やその他の画像の使用は、キャプションか注

釈がつけられていて、かつ論文で訴えようとしている具体的なポイントを例示するために

使われているのであれば認められます。図解資料は、使いすぎれば論文の議論から焦点を

奪ってしまう可能性があるため、注意して使うよう生徒に助言する必要があります。論文

の議論の一部として訴えているポイントに関係があり、そのポイントにとって適切な場合

のみ使うべきです。

表の使用は、慎重に考慮すべきです。表を使うことは、一部の科目においてのみ真に適

切です。語数を減らすために表を使用すべきではありません。

脚注、文末脚注

脚注と文末脚注は、文献の参照を示す目的で使うことができます。その場合は、論文の

語数には数えられません。参照ではない情報を脚注や文末脚注に記載する場合は、語数に

数えなければなりません。参照かどうかを取り違えて不本意に制限語数を超えてしまわな

いようにするため、適切でないかぎり脚注や文末脚注を参照以外の目的で使用しないほう

が良いことを生徒にアドバイスすべきです。

脚注と文末脚注は「課題論文」にとって本質的な部分ではないため、論文の分析や議論

や評価に直接関係する情報はすべて、本論に含む必要があります。

重要な情報を脚注や文末脚注に含むことで語数を減らそうとすれば、複数の評価規準に

わたって不利を招きます。脚注と文末脚注は、登場するごとに語数に追加されることに注

意してください。

付録

付録は「課題論文」にとって本質的な部分ではないため、試験官は読みません。また、

付録に含まれた情報を論文の評価に使用することもありません。論文の分析や議論や評価

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「課題論文」(EE):指導の手引き62

に直接関係する情報はすべて、本論に含む必要があります。このため、以下のものを提示

する場合を除いて、付録は使用すべきではありません。

•アンケート調査票や聞き取り調査の質問の見本

•許可状の見本

•グループ1、カテゴリー1の論文:詩や短編(3ページ未満)のコピー

•グループ1、カテゴリー3の論文:新聞、広告、演説原稿の抜粋

•「言語の習得」、カテゴリー1および2:新聞、広告、演説原稿などの抜粋

•「言語の習得」、カテゴリー3:詩や短編(3ページ未満)の抜粋またはコピー

•外部メンターの手紙(使用した場合)

•実験結果の生データまたは統計表(分析や結論は含まない)

付録に入れた資料に論文内でたびたび言及すべきではありません。論文の流れを阻害す

る可能性があるうえ、試験官は付録に目を通すことは義務づけられていないためです。

外部のリソースへの依存

選択する科目にかかわらず、「課題論文」は、学術ジャーナルや研究論文の形式に則っ

た、完全に独立した研究であるべきです。すなわち、ハイパーリンクなどの外部リンクや

DVDなどの付属資料にアクセスしなくても、それ自体で読んで理解できる必要があり

ます。

試験官が論文を評価する際は、論文に含まれている外部文献にはアクセスしません。議

論の構築に関係する資料は、論文自体に組み込まれていないかぎり、試験官が評価対象と

することはありません。

付録と同様に、議論にとって重要な情報が外部のリンクに含まれていた場合は、その議

論は成されなかったものと見なされ、他の分析の質にもよりますが、例えば規準C(批判

的思考)などいくつかの評価規準に影響する可能性があります。

標本資料

調査のなかで使用された、あるいは制作された標本資料は、「課題論文」のいかなる部分

も構成しません。このため、これらを提出してはなりません。標本資料の代わりとして写真

の証拠を提出することはできます。

学問的誠実性「課題論文」に取り組む際の研究の進め方は、学問的誠実性の原則に則っていなければ

なりません。論文は読者に対して引用個所や見方、見解の正確な出典を伝えるものでなけ

ればなりません。これを達成するため、文中や脚注に文献対照注をつけ、参考文献目録に

参考文献を完全に書き記します。文献対照注や参考文献にどの形式を使用する場合も、最

低要件を必ず満たしていなければなりません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 63

正確な参考文献と参考文献目録を作成するスキルは、「課題論文」の執筆過程ですべての

生徒が向上させるべきスキルです。出典を明らかにすることで研究の記録をつけていくこ

とは重要です。これにより、論文を読む人が証拠や根拠を自分で確認・評価できるように

なるうえ、論文で使われている文献の重要性に対する生徒の理解が示されるためです。

この要件を満たさなかった場合は、学問的不正行為と見なされ、ゆえにIBの規則を違反した可

能性があるとして扱われます。

詳しくは、IB資料(英語版)『Academic honesty in the IB educational context(IB教育の文

脈における学問的誠実性)』および同『Effective citing and referencing(効果的な引用と参照)』を参

照してください。

参考文献目録

参考文献目録(bibliography)とは、研究と論文執筆に使用したすべての文献をアルファ

ベット順に記載したリストです。論文の本論で引用されていないものの、研究のアプロー

チを形成するうえで重要だった文献は、序論か謝辞で明らかにすべきです。参考文献目録

は、論文で使用した文献のみを列挙しなければなりません。

文献対照注

文献対照注(citation)とは、論文の本文中で参考文献を参照するための簡略な記述方法

です。文中に挿入するか、または脚注か文末脚注に記載します。この対照注はその後、論

文の末尾にある参考文献目録に当該文献を完全に記載することで結びつけなければなりま

せん。文献対照注は、使用した文献を読者に正確に示すことで、読者が自分でその文献を

簡単に見つけられるようにするものです。文献対照注をどのように表記するかは、選択し

た参考文献の書き方によって変わってきます。印刷物の文献を参照した場合は、通常、ペー

ジ番号を入れます。これはとりわけ、直接的に引用した場合に重要です。この情報を文献

対照注に入れる形式と、完全な参考文献のほうに入れる形式の両方があります。どの形式

を使う場合も、選んだ形式を一貫して使用して文献を記載しなければならないのだと強調

することが重要です。

参考文献

参考文献(reference)とは、情報をどこから取得したかを体系的に整理して読者に示す

ための方法です。参考文献をつけることで、文献資料を見つけるのに必要な情報がすべて

提示されます。参考文献は、文献対照注を伴っていなければなりません。それにより文献

が使われたことが分かり、読者が原典を見て、提示されたデータを確認できるようになる

ためです。

参考文献は、他者の成果物を引用した場合や要約した場合に必ず記載します。参考文献

には、書籍、雑誌、ジャーナル、新聞、メール、インターネットのサイト、インタビュー

など、さまざまな文献が使われる可能性があります。

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「課題論文」(EE):指導の手引き64

研究論文で参考文献を表記する形式は多数ありますが、そのほとんどは、特定の学問領

域では適切ですが、他の学問領域では不適切とされる形式です。取り組んでいる論文の科

目にとってどの形式が適切かを生徒が判断できるよう、指導教員か学校の図書館司書が支

援すべきです。どの形式を選んだ場合も、それを一貫して使用しなければなりません。生

徒は、研究作業の開始前に形式を選ぶに際して、それがどのように使われているかを明確

に理解する必要があります。そして、選んだ形式は、論文の最終稿だけでなく、初期の段

階でつくるノートにも使用していくべきです。このやり方は、質の高い論文を作成すると

いう観点からだけでなく、剽窃の機会や誘惑を減らすという観点からも、推奨されるやり

方です。

どんな形式を選んだ場合も、それを一貫して使用し、IBの定める最低要件を満たさな

ければならないことを忘れないでください。

•著者名

•発行日

•文献名

•ページ番号(印刷文献の場合のみ)

•アクセスした日(電子文献の場合のみ)

インタビューを参考文献として記載する場合は、インタビューをした人の名前、インタ

ビューを受けた人の名前、インタビューが行われた日付と場所を明記しなければなりま

せん。

文献対照注と参考文献の記載方法について、詳細は、IB資料(英語版)『Effective citing

and referencing(効果的な引用と参照)』を参照してください。

オンライン文献の参照

オンラインの文献を参照した場合は、使用した抜粋のタイトルのほか、ウェブサイトの

アドレス、そのサイトにアクセスした日、そして可能であればその著者を記載すべきで

す。電子文献に関してIBが義務づけているアクセス日の記載要件は、生徒が選んだ参考

文献の形式にかかわらず、必ず守らなければなりません。つまり、電子文献を使用した場

合は、生徒がその文献にいつアクセスしたかを明記しなければなりません(「2016 年3月

12 日にアクセス」など)。ウェブサイトには、参考文献を記載していない情報や、他の文

献と比較して確認することのできない情報も掲載されているため、使用に際しては注意が

必要です。使用する情報が論文にとって重要であればあるほど、文献の質をより入念に吟

味する必要があります。

文献へのアクセス:eAwareness―電子文献の使用

情報を見つけるためにインターネットを使用することは、ますます一般化しています。実

際、インターネットはすばらしいリソースです。しかし、批判的かつ慎重に使う必要もあ

ります。図書館で見つかる、あるいは印刷物として見つかる文献に比べて、インターネッ

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「課題論文」(EE):指導の手引き 65

トで見つかる文献は、確認や編集の過程を経ていない可能性があることに注意しなければ

なりません。

生徒は、以下のことを遂行すべきです。

•適切な検索エンジンを知っておく。

•インターネットで見つかる無料の情報だけに頼らない。

•明確で的を絞った研究課題(リサーチクエスチョン)を設定して、より直接的な検

索をインターネットで行えるようにする(インターネットでは大量の情報を入手で

きるため、研究の的が絞れていないと圧倒されてしまいがちです)。

•インターネットで見た情報の信頼性と有効性を批判的に評価する。

•アクセスしたサイトとその日時の詳細な記録をつけ、URLを正しく書き留めたか

どうか、IBの最低要件を満たしているかどうかを確認する。これには、サイトに

アクセスした日付を記録することが含まれます。この記録をつける作業には、「自

己の振り返りジャーナル(RRS)」が役立つでしょう。

インターネットで見つけた情報の信頼性と有効性を見極めるうえで生徒が自問すべき一

連の質問を、以下の表に示します。これらの質問は、印刷物の文献にも同様にあてはまり

ます。

望ましい文献の特徴 これを見極めるために考えるべき質問

権威 •情報の著者は特定されているか。

•著者が匿名での情報提示を選んでいる場合、その理由はなぜか。

このことは、その情報を評価するうえで重要か。

•著者の信頼性を確認するうえで必要な情報が十分にあるか。

•著者は、学術機関や信頼の置ける組織に所属しているか。

•著者は、このトピックについて書くだけの素養をもっているか。

対象者の妥当性 •その情報は、主に誰に向けられているか。

•その主な対象者にとって適切な情報か。

•その情報は、自分の研究領域に関係があるか。

信頼性と信憑性 •その情報は、よく研究された有効な情報であるように見えるか。

•証拠によって裏づけることができるか。

•他の文献を使って検証することができるか。

•ウェブサイトではない同等の資料を使って、その情報を検証す

ることができるか。

•URL(ウェブサイトのアドレス)は、その文献について何ら

かの情報を示唆しているか。

正確さ •情報の正確さに対して誰が責任を負っているかについて、何ら

かのことが示唆されているか。

•その情報がレビューを受けているかどうかを、あなたは知って

いるか。

•文法、つづり、タイプミスなどの間違いがあるか。間違いがあ

る場合、その事実はこの文献について何を示唆しているか。

•参考文献目録はつけられているか。

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「課題論文」(EE):指導の手引き66

望ましい文献の特徴 これを見極めるために考えるべき質問

客観性 •その情報は、事実か、意見か。

•文言や表現に偏見が混ざっていないか。

•著者の見方は客観的か。あるいは、個人的な意見の表現である

ことを明確にしているか。

•個人的なウェブサイトか。

•著者は、情報に偏見をもたらしかねない機関や組織に所属して

いるか。

最新性 •その情報は、最新の内容に更新されているか。

•情報が最後に更新された日がいつかについて、何らかの示唆が

あるか。

•リンクがすべて更新されていて機能しているか。

オンライン百科事典と他の類似した情報サイトの使用

無料のオンライン百科事典は、研究の道具として貴重なリソースです。しかし、これら

を使う際には注意が必要になる理由がいくつかあります。

•たいていは全般目的の百科事典である

•ほとんどの場合、著者が不明である

•厳密な学術的水準を満たしたコンテンツであるという保証がない。例えば、徹底的

なピアレビューのプロセスが実施されていない可能性がある。

•コンテンツが確定しておらず、随時変更される可能性がある。

教師、指導教員、コーディネーターは、無料のオンライン百科事典や他の類似した情報

ウェブサイトの使用について、生徒に警告することができます。これらの参考文献のみを

記載した参考文献目録や、これらの文献のみに頼って構築された議論は、「課題論文」の

評価規準で求められている「幅広い文献」の要件を満たしません。また、探究する研究課

題(リサーチクエスチョン)にとって、これらの文献は関連性がない、または適切でない

可能性があります。

オンライン百科事典の多くは学術文献ではありませんが、適切に批判的に使用すれば、

生徒が研究を開始する際に有用な出発点となることがあります。これらのサイトの使用を

絶対的に禁止するよりもむしろ、これらのサイトが提供する情報を評価するという観点か

らリサーチスキルと思考スキルを練習するための素材として、これらのサイトの可能性を

探究してみるとより有益かもしれません。

インターネットは教育情報の生態系の一部であり、多くの生徒が使っている「現実世界」

の情報源です。無料のオンライン百科事典が多用されるようになったのを受けて、知識や

専門性といったものに対する見方も変わってきました。そして、権威や専門性の新しい定

義も生まれつつあります。このことから、これらの情報源の賢明な使い方ができるように

なることは、「課題論文」が重視しているリサーチスキル、批判的思考のスキル、振り返り

のスキルを高めるうえで欠かせません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 67

無料のオンライン百科事典を使う際、生徒は以下のことを遂行すべきです。

•百科事典に記載されている参考文献を見ます。これは情報を検証するのに役立つで

しょう。

•その記事が、大きなプロジェクトの一部で、多数の人が議論に参加しているかどう

かを検討します。そうであれば、議論されているトピックについて、書き手は「気

軽な興味を持っている人」という以上の素養を持っているのかもしれません。

•そのサイトに(星の数などによる)レビュー機能があるかどうかを確かめます。あ

るのであれば、何らかの審査を経て評価レーティングがつけられた情報であること

を意味します。これは学術誌の論文審査と同じではありませんが、情報の「質」に

ついて何らかの判断をする助けになる場合があります。

重要なのは、インターネットで見つかる情報を生徒が使用する場合は、その信頼性と正

確さを確認する責任を生徒が負わなければならないという点です。指導教員が学習機会と

してこれを促すには、文献の質について生徒と議論することができます。具体的には、「自

己の振り返りジャーナル(RRS)」の一部として注釈つきの参考文献目録をつくってみ

るよう生徒に促します。注釈つきの参考文献目録とは、それぞれの文献について、その価

値や関連性の簡潔な概要を示すものです。注釈つきの参考文献目録を上手に使用すること

で、以下のことが達成できます。

•使用している文献が自分の研究領域にとって有益かどうかを批判的に考えるよう

生徒に促します。

•自分の研究で使える文献かどうかを見極めるうえで役に立つ方法を生徒にもたら

します。

•文献研究の記録をつけることで、確かな情報に基づいて、論文に使用する文献を決

定できるようになります。

校正生徒は、論文のすべての部分を慎重に読み直して校正しなければなりません(コンピュー

ターのスペルチェックや文法チェックは有用ですが、それがすべてではありません)。他の

人に論文を読んで校正してもらうことはできません。校正は重要な学習経験の一部だから

です。

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「課題論文」(EE):指導の手引き68

詳細―全科目共通

「課題論文」の評価

DPにおける評価

全般

評価は、指導および学習と一体化した要素です。DPでは、カリキュラム目標の達成を

支援し、生徒に適切な学習を促すことを、評価の最も重要なねらいと位置づけています。

DPでは、IBが実施する外部評価と学校の教師が実施する内部評価の両方を行います。

外部評価の評価課題は、IBの試験官が採点します。一方、内部評価の評価課題は、教師

が採点し、IBによるモデレーション(評価の適正化)を受けます。

IBが規定する評価には、次の2種類があります。

•「形成的評価」は、指導と学習の両方に指針をもたらします。どのような学びが起

こっているか、個別の生徒にどのような長所と短所があるかについて、生徒と教師

の両方に対して正確かつ有益なフィードバックをもたらすことで、生徒の理解と能

力の向上に役立ちます。また、形成的評価は、コースのねらいと目標の達成に向け

て生徒がどのように進歩しているかをモニターするための情報をもたらすことか

ら、指導の質を向上させるのにも役立ちます。

•総括的評価は、生徒のこれまでの学習を踏まえて、生徒の到達度を測ることを目的

としています。

DPでは、コース修了時または修了間近の時点で生徒の到達度を測定する総括的評価に

主に重点を置いています。ただし、評価方法の多くは指導と学習の最中に形成的に用いる

こともでき、教師はそうした評価を実施するよう推奨されています。包括的な評価の計画

は、指導と学習、さらにコースの構成を組み立てるうえで欠くことができません。詳細は、

IB資料『プログラムの基準と実践要綱』を参照してください。

IBが採用する評価アプローチは、評価規準に準拠した「絶対評価」です。集団規準に

準拠した「相対評価」ではありません。この評価アプローチは、生徒の成果物を特定の到

達規準に照らし合わせて、そのパフォーマンスを判断するものであり、他の生徒の成果物

と比較するものではありません。DPにおける評価についての詳細は、IB資料(英語版)

『Diploma programme assessment: principles and practice(DPにおける評価 :原則と実践)』を

参照してください。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 69

DPのコースの計画、実施、評価に際して役に立つさまざまな教師用のリソースが、オ

ンラインカリキュラムセンター(OCC)とIBストア(http://store.ibo.org)で見つかりま

す。また、試験問題の見本、マークスキーム(採点基準)、教師用参考資料、科目レポー

ト、評価規準の説明などの付加的な資料も、OCCに収録されています。過去の試験問題

とマークスキーム(採点基準)は、IBストアで購入できます。

評価方法IBは、いくつかの評価方法を使用して生徒の成果物を評価します。

評価規準

評価規準は、「正解」か「不正解」のどちらかで採点できないオープンエンドの評価課題

に対して使用します。それぞれの規準が、生徒の示すべき特定のスキルに重点を置いてい

ます。生徒が何をできるべきかを説明したのが評価目標、どのようにそれをできるべきか

を説明したのが評価規準です。評価規準を用いることにより、答えの違いを差別化して、

さまざまな反応を奨励できるようになります。規準にはそれぞれ、高低の順に並べられた

レベルの説明がつけられています。各レベルには、1つまたは複数の評点が含まれていま

す。最も近似したレベルを選ぶ「ベストフィット」のアプローチを使用して、規準ごとに

独立して評価を下していきます。各規準の配点は、規準の重要度によって異なる可能性が

あります。最終的に各規準の評点を合計して、その成果物の合計点を出します。

マークバンド(採点基準表)

マークバンド(採点基準表)とは、評価する成果物に期待されるパフォーマンスの全体

的な説明です。1つの規準を包括的に示し、それを複数のレベルの説明に分けて示します。

レベルの説明は、評点の幅に対応していて、これにより生徒のパフォーマンスを区別でき

るようになっています。最も近似したレベルを選ぶ「ベストフィット」のアプローチを使

用して、レベルの説明ごとに設けられた幅のなかから評点を選びます。

分析的マークスキーム(採点基準)

分析的マークスキーム(採点基準)は、生徒から具体的な答えを期待する試験問題で使

用します。答えを構成している複数の部分を分解して、設問ごとの合計点をどのように出

すかを試験官に示す、詳細な説明です。

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「課題論文」(EE):指導の手引き70

採点のための注意事項

評価要素(コンポーネント)によっては、評価規準を使った採点のための注意事項が定

められています。採点のための注意事項は、質問の特定の要件に対して評価規準をどのよ

うに適用するかを説明するものです。

「課題論文」の評価「課題論文」の評価は、形成的評価(「計画および進捗についての振り返りフォーム

(RPPF)」)と総括的評価(論文)の組み合わせで行われます。

全般的な評価規準に科目ごとの解釈を加えて使用します。

評価でのインクルーシブな配慮

評価でのインクルーシブな配慮は、受験上の配慮の必要な生徒に対して提供することが

できます。この種の配慮を施すことにより、多様なニーズを抱えた生徒が試験を受け、評

価対象となっている事柄について自分の知識と理解を示せるようになります。

学習支援の必要な生徒に対して提供できるインクルーシブな配慮についての詳細は、

IB資料『受験上の配慮の必要な志願者について』を参照してください。また、IB資料

(英語版)『Learning diversity in the International Baccalaureate programmes: Special educational

needs within the IB programmes(IB教育と学習の多様性:IBプログラムにおける特別な教育的ニー

ズ)』では、多様な学習ニーズを抱えてIBのプログラムを履修する生徒に関するIBの立

場を説明しています。

さまざまな状況から影響を受けた生徒への対応については、IB資料『一般規則 : ディ

プロマ・プログラム』および同『DP手順ハンドブック』を参照してください。

学校の責任

学校は、学習支援の必要な生徒に対して平等なアクセスの配慮と合理的な調整が行わ

れていることを確認しなければなりません。これには、IB資料『受験上の配慮の必要

な志願者について』および同(英語版)『Learning diversity in the International Baccalaureate

programmes: Special educational needs within the IB programmes(IB教育と学習の多様性:IBプ

ログラムにおける特別な教育的ニーズ)』の内容が適用されます。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 71

「課題論文」の評価規準の概要

概要:

規準A:焦点と方法

規準B:知識と理解

規準C:批判的思考

規準D:形式

規準E:取り組み

•トピック

•研究課題

(リサーチ

クエスチョン)

•方法論

•文脈

•科目に特有の

用語と概念

•研究

•分析

•議論と評価

•構成

•レイアウト

•プロセス

•研究の焦点

配点 配点 配点 配点 配点

6 6 12 4 6

最高点:34

「ベストフィット」のアプローチとマークバンド(採点基準表)評価規準は、当該科目の解釈と併せて使用しなければなりません。これらの解釈は、全般的

な評価規準を特定の科目でどのように理解し、適用するかを詳細に示しているためです。

パフォーマンスのレベルは、各レベルにつき複数の説明で表現されています。多くの場

合、レベルの説明に該当する特徴は論文全体を通じて観察されますが、必ずしもそうでは

ないこともあります。また、レベルの説明に書かれた特徴が必ずしもすべて観察されるわ

けではないこともあります。つまり、複数のレベルにまたがるパフォーマンスを生徒が示

すことがあるのです。これに対応するため、IBの評価モデルではマークバンド(採点基

準表)を使用し、個々の規準の評点を決める際には「ベストフィット」のアプローチを使用

するよう、試験官と教師にアドバイスしています。しかし、さまざまな評価を試してきた

経験から、マークバンド(採点基準表)を導入して「ベストフィット」のアプローチを使

うことが必ずしも自明の方法ではなく、指導教員を支援するにはガイダンスが必要である

ことを、IBは認識しています。そこで、以前にマークバンド(採点基準表)を使用したこ

とがあっても、「課題論文」の評価を始める前に以下の説明を注意深く読んでください。

•ここでの目標は、「ベストフィット」のアプローチを使って、生徒の成果物が到達

したレベルを最も正確に伝えるレベルの説明を見つけることです。「ベストフィッ

ト」のアプローチとは、マークバンド(採点基準表)に書かれたさまざまな側面の

到達度にばらつきがあり、複数のレベルが観察される場合に、それを調整すること

を意味します。このような場合は、マークバンド(採点基準表)に照らして到達度

を最もバランスよく反映しているレベルの評点を与えます。つまり、レベルの説明

に書かれた特徴が必ずしもすべて達成されていなくても、その評点を与えることが

できます(例えば、生徒の成果物がマークバンド(採点基準表)の3つの要件のう

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き72

ち2つを満たしているけれども1つは明らかに欠いている場合、最もよく合致して

いるレベルの評点を与えるべきです。ただし、そのマークバンド(採点基準表)の

なかでは低いほうの評点を選ぶことで、1つの要件の欠如を反映させます。生徒の

レベルが複数のマークバンド(採点基準表)にわたっている場合は、評価(AO

3)、議論(AO3)、分析(AO2)のうち優先順位が高いスキルのパフォーマン

スに従って調整します。(下記参照))。

規準C:批判的思考

研究 非常に優れている(10 ~ 12) 研究 良い(7~9)

分析 良い(7~9) 分析 良い(7~9)

議論と評価 まずまずのレベル(4~6) 議論と評価 まずまずのレベル(4~6)

評点 8か9(「研究」は「分析と

評価」に比べて優先順位の低

いスキルであるため、マーク

バンドの7~9が適切です)

評点 7(議論と評価という優先順

位の高いスキルの到達度が

低いため、マークバンドの7

~9のうち最も低いレベル

が適切です)

•生徒の成果物を評価する際、指導教員は、採点基準表の最高点の評価から下に向

かって、その成果物のレベルを最も適切に言い表している説明に至るまで読み進み

ます。

•2つのレベルの説明の間にあたるように見える場合は、両方の説明をもう一度読み

直して、生徒の成果物に近いほうのレベルを選びます。規準Cを評価する際、試験

官は、優先順位の高いスキルに注意する必要があります。

•同じレベルのなかに複数の評点があります。指導教員は、生徒がその品質を広い範

囲にわたって示した場合は高いほうの評点をつけ、その品質を狭い範囲にわたって

示した場合は低いほうの評点をつけます。

•最高レベルの評点は、まったく非の打ちどころのないパフォーマンスを意味するわ

けではありません。生徒にとって到達可能なレベルであるべきです。指導教員は、

これが大学入学前の生徒の成果物であることを念頭に置いて、ゆえにこの年齢の生

徒から期待できることを考慮したうえで、相対的に優れているかどうかを評価すべ

きです。成果物が最高レベルの説明にあてはまるのであれば、躊躇せずに最高点を

つけるべきです。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 73

標準規準

規準A:焦点と方法

この評価規準は、トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、方法論に注目します。

研究の焦点についての説明(トピックと研究課題(リサーチクエスチョン)が含まれま

す)、その研究をどのように行うか、さらにその焦点が論文を通じてどのように維持されて

いるかを評価します。

トピックまたは研究課題(リサーチクエスチョン)が論文の登録科目にとって不適切と見な

された場合、この規準の最高点は4点となります。それは以下のような内容です:

•「言語A」不適切なテクスト

•「言語B」不適切なテクストまたは作品

•「歴史」10年ルールに違反している

•「経済」5年ルールに違反している

•「心理学」一次情報の収集に基づいた論文

•「グローバル政治」現代の課題を取り扱っていない

•「ワールドスタディーズの課題論文」現代の課題が現代のものでない。ここでの「現代」

とは生徒自身が生きている間に問題となっているものを指す。

レベル 指標と要素の説明

0 下記のいずれの水準にも達していない。

1~2 トピックが不明確かつ不完全に述べられている。•トピックの特定と説明が限定的である。研究の目的と焦点が不明確であ

る、または登録科目における体系的な探究を導かない。

研究課題(リサーチクエスチョン)が述べられているが、明確に表現されていない、そして/または幅広すぎる。

•研究課題(リサーチクエスチョン)が、与えられた課題の要件と語数制限

に従って効果的に取り扱うには幅広すぎる、または登録科目における体系

的な探究を導かない。

•研究課題(リサーチクエスチョン)の意図は理解されているが、明確に表

現されていない、または論文の議論が研究課題(リサーチクエスチョン)

に焦点をあてていない。

研究の方法論が限定的である。•使用した文献そして/または方法論が、トピックと研究課題(リサーチク

エスチョン)にとって限定的である。

•情報に基づいて文献と方法論を選定した証拠が限定的にしか見られない。

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「課題論文」(EE):指導の手引き74

レベル 指標と要素の説明

3~4 トピックが述べられている。•研究トピックの特定と説明が述べられている。研究の目的と焦点がまずま

ず明確にされているが、部分的にのみ適切である。

研究課題(リサーチクエスチョン)が明確に述べられているが、部分的にのみ焦点があてられている。

•研究課題(リサーチクエスチョン)は明確だが、論文の議論は部分的にの

み、その研究課題(リサーチクエスチョン)に焦点をあてて結びつけられ

ている。

研究の方法論がほぼ完全である。•使用した文献そして/または方法論が、トピックと研究課題(リサーチク

エスチョン)にとっておおむね関係性があり適切である。

•情報に基づいて文献と方法論を選定した証拠がいくらか見られる。

トピックまたは研究課題(リサーチクエスチョン)が論文の登録科目にとって不適切と見なされた場合、この規準の最高点は4点となります。

5~6 トピックが正確かつ効果的に述べられている。•研究トピックの特定と説明が効果的に述べられている。研究の目的と焦点

が明確かつ適切である。

研究課題(リサーチクエスチョン)が明確に述べられ、焦点があてられている。•研究課題(リサーチクエスチョン)が明確で、論文の議論に適切に結びつ

けられた研究の問題を取り上げている。

研究の方法論が完全である。•適切な幅のある関連性の高い文献と方法論が、トピックと研究課題(リ

サーチクエスチョン)に関係して使用されている。

•情報に基づいて効果的に文献そして/または方法論を選定した証拠が見

られる。

規準B:知識と理解

この規準は、研究内容が研究課題(リサーチクエスチョン)を探究するために使用した

登録科目にどの程度関係しているかを評価します。また、「ワールドスタディーズ」の「課

題論文」の場合は、取り上げた問題と2つの学際的な視点がどの程度使用されているかを

評価します。さらに、知識と理解が適切な用語と概念を使用してどのように示されている

かも評価します。

トピックまたは研究課題(リサーチクエスチョン)が論文の登録科目にとって不適切と見な

された場合、この規準の最高点は4点となります。それは以下のような内容です:

•「言語A」不適切なテクスト

•「言語B」不適切なテクストまたは作品

•「歴史」10年ルールに違反している

•「経済」5年ルールに違反している

•「グローバル政治」現代の課題を取り扱っていない

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 75

•「心理学」一次情報の収集に基づいた論文

•「ワールドスタディーズの課題論文」現代の課題が現代のものでない。ここでの「現代」

とは生徒自身が生きている間に問題となっているものを指す。

レベル 指標と要素の説明

0 下記のいずれの水準にも達していない。

1~2 知識と理解が限定的である。•文献資料の選定が、限定的である、または研究課題(リサーチクエスチョ

ン)にとって部分的にのみ適切である。

•トピック/学問領域/問題の知識が、個別事例であり、構造化されておら

ず、おおむね記述的であって、文献が効果的に使用されていない。

用語と概念の使用が不明確かつ限定的である。•科目に特有の用語そして/または概念が、欠落しているか、または不正確

であり、知識と理解が限定的であることを示している。

3~4 知識と理解が良い。•文献資料の選定が、研究課題(リサーチクエスチョン)にとってほとんど

の場合に関連性があり、適切である。

•トピック/学問領域/問題の知識が、明確である。使用した文献の理解が

認められるが、その使い方は部分的にのみ効果的である。

用語と概念の使用がまずまずである。•科目に特有の用語と概念が、ほとんどの場合に正確であり、適切なレベル

の知識と理解を示している。

トピックまたは研究課題(リサーチクエスチョン)が論文の登録科目にとって不適切と見なされた場合、この規準の最高点は4点となります。

5~6 知識と理解が非常に優れている。•文献資料の選定が、研究課題(リサーチクエスチョン)にとって明らかに

関連性があり、適切である。

•トピック/学問領域/問題の知識が、明確で、一貫性があり、文献が理解

されたうえで効果的に使用されている。

用語と概念の使用が良い。•科目に特有の用語と概念が、正確かつ一貫して使用されていて、効果的な

知識と理解を示している。

規準C:批判的思考

この規準は、研究の分析と評価に批判的思考スキルがどの程度使われたかを評価します。

トピックまたは研究課題(リサーチクエスチョン)が論文の登録科目にとって不適切と見な

された場合、この規準の最高点は3点となります。それは以下のような内容です:

•「言語A」不適切なテクスト

•「言語B」不適切なテクストまたは作品

•「歴史」10年ルールに違反している

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き76

•「経済」5年ルールに違反している

•「グローバル政治」現代の課題を取り扱っていない

•「心理学」一次情報の収集に基づいた論文

•「ワールドスタディーズの課題論文」現代の課題が現代のものでない。ここでの「現代」

とは生徒自身が生きている間に問題となっているものを指す。

レベル 指標と要素の説明

0 下記のいずれの水準にも達していない。

1~3 研究が限定的である。•提示された研究の実践が限定的であり、研究課題(リサーチクエスチョン)

にとっての関連性が明確でない。

分析が限定的である。•限定的な分析が行われている。

•個別の分析点に対しては結論が導かれているものの、それらは限定的であ

り、証拠との一貫性がない。

議論/評価が限定的である。•議論の構築が行われているが、限定的、不完全、記述的、または説明的な

性質である。

•議論の構築が不明確、そして/または構成に一貫性がなく、そのため理解

しにくくなっている。

•最終的な結論は導かれているものの、それらは限定的であり、提示された

議論/証拠との一貫性がない。

•研究を評価しようとする試みは見られるが、表面的である。

トピックまたは研究課題(リサーチクエスチョン)が論文の登録科目にとって不適切と見なされた場合、この規準の最高点は3点となります。

4~6 研究がまずまずの程度である。•研究のいくつかの実践はまずまずの程度、そして/または研究課題(リ

サーチクエスチョン)に関連性のあるものになっている。

分析がまずまずの程度である。•分析が行われているが、研究課題(リサーチクエスチョン)にとって部分

的にのみ適切である。関連性のない研究が含まれていて、議論の質を下げ

ている。

•個別の分析点に対する結論が、証拠によって部分的にのみ支えられている。

議論/評価がまずまずである。•議論を構築して研究を説明しているが、その論理には一貫性が欠けている

部分が含まれている。

•議論には明確さが欠け、筋が通らない部分があるかもしれないが、それに

よって大きく理解が阻害されることはない。

•最終的または総括的な結論が導かれているものの、提示された議論や証拠

との一貫性が部分的である。

•研究は評価されているが、批判的な評価ではない。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 77

レベル 指標と要素の説明

7~9 研究が良い。•研究の大半は適切で、その実践は研究課題(リサーチクエスチョン)に

とって明らかに関連性がある。

分析が良い。•研究は、研究課題(リサーチクエスチョン)にとって明らかに関連性のあ

る方法で分析されている。関連性の低い研究が含まれていても、全体的な

分析の質を下げることはほとんどない。

•個別の分析点に対する結論が、証拠によって支えられているが、小さな矛

盾がいくらか見られる。

議論/評価が良い。•効果的に論理で裏づけられた議論が研究から展開されており、結論は提示

された証拠で支えられている。

•この論理的な議論は、明確に構成されていて一貫性があり、最終的または

総括的な結論で支えられている。小さな矛盾が、全体的な議論の力を落と

している可能性がある。

•研究は評価されていて、一部は批判的な評価である。

10 ~ 12 研究が非常に優れている。•研究が、研究課題(リサーチクエスチョン)にとって適切で、その実践は

研究課題(リサーチクエスチョン)にとって一貫して関連性がある

分析が非常に優れている。•研究が、研究課題(リサーチクエスチョン)に効果的かつ明確に焦点をあ

てて分析されている。関連性の低い研究が含まれていても、全体的な分析

の質を大きく下げているわけではない。

•個別の分析点に対する結論が、証拠によって効果的に支えられている。

議論/評価が非常に優れている。•効果的に、かつ的を絞り、論理で裏づけた議論を研究から展開しており、

結論は提示された証拠を反映している。

•この論理的な議論は、よく構成されていて一貫性がある。一貫性に欠ける

部分が少しはあるが、全体的な議論や最終的・総括的な結論の力を落とし

ているわけではない。

•研究が批判的に評価されている。

規準D:形式

この規準は、学術的な論文に期待される標準的な形式にどの程度従っているか、それに

より効果的なコミュニケーションがどの程度高められているかを評価します。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き78

レベル 指標と要素の説明

0 下記のいずれの水準にも達していない。

1~2 正式な形式が許容範囲である。•論文の構成が、論文のトピックや議論、および登録科目から期待される通

常の技法という点でおおむね適切である。

•レイアウト上考慮すべき点がいくらか欠けている、または不正確に使用さ

れている。

•構成および/またはレイアウト上の弱点が、「課題論文」の読みやすさ、理

解しやすさ、評価のしやすさに大きく影響していない。

3~4 正式な形式が良い。•論文の構成が、論文のトピックや議論、および登録科目から期待される通

常の技法という点で明らかに適切である。

•レイアウト上考慮すべき点が熟考されており、正確に使用されている。

•構成とレイアウトが、「課題論文」の読みやすさ、理解しやすさ、評価の

しやすさを支えている。

規準E:取り組み

この規準は、研究の焦点と研究過程に対して生徒がどのように取り組んだかを評価しま

す。「課題論文」と指導教員のコメントの文脈の中で、「計画および進捗についての振り返

りフォーム(RPPF)」に詳述された生徒の振り返りのみに基づき、論文の評価の最後に

試験官がこの規準の評価を下します。

レベル 指標と要素の説明

0 下記のいずれの水準にも達していない。

1~2 取り組みが限定的である。•意思決定と計画についての振り返りが、おおむね記述的である。

•これらの振り返りは、研究の焦点そして/または研究過程に対する限定的

なレベルの個人的な取り組みを伝えている。

3~4 取り組みが良い。•意思決定と計画についての振り返りが分析的で、概念理解とスキルの習得

についての言及を含んでいる。

•これらの振り返りは、研究の焦点と研究過程に対する中程度のレベルの個

人的な取り組みを伝えており、知的活動における主体性をいくらか示して

いる。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 79

レベル 指標と要素の説明

5~6 取り組みが非常に優れている。•意思決定と計画についての振り返りが評価的で、研究過程で直面した困難

への反応として行動や考えを検討する生徒の能力についての言及を含ん

でいる。

•これらの振り返りは、研究の焦点と研究過程に対する高度なレベルの知的

かつ個人的な取り組みを伝えており、生徒自身が取り組んだ成果物である

こと、知的活動における主体性をもって取り組んだものであること、そし

て/または創造的なアプローチが生徒自身の「声」の中に示されている。

「課題論文」の成績評価の説明2018 年5月より適用

成績評価の説明

評価A

選択したトピックの範疇で探究できる、的を絞った、適切な研究課題(リサーチクエスチョ

ン)を生み出す結果となった効果的な調査スキル、関連性が高い調査領域や手法、また文献

への効果的な取り組み、トピックに関する関連性の高い学問領域におけるより広い文脈のな

かでの非常に優れた知識と理解、文献資料の効果的な適用および科目特有の専門用語そして

/またはそれをさらに支える概念の正確な使用、一貫していて関連性が高く高度に分析され

た結論、効果的に証拠で支えられた持続的で妥当な論拠;批判的に評価された調査、筋が

通っており一貫性のある姿勢によって支えられた非常に優れた論文の形式、明らかに正確な

構造的そしてレイアウト的要素の適用を示している。

プロセスへの取り組みは概念的そして個人的であり、将来的な事柄に対する考察も含めて、調査の過程における重要な決定は記録され、個人的な振り返りは証拠として残されている。

評価B

選択したトピックの範疇で探究できる、適切な研究課題(リサーチクエスチョン)を生み出

す結果となった適切な調査スキル、関連性が高い調査領域や手法、また文献へのそこそこの

効果的な取り組み、トピックに関する関連性の高い学問領域におけるより広い文脈のなかで

の良い知識と理解、文献資料の効果的な適用および科目特有の専門用語そして/または概念

のそこそこ効果的な使用、適切に分析されている一貫した結論、概ね証拠によって支えられ

た妥当な論拠、ときに批判的評価を見てとることのできる調査、明らかな構造的そしてレイ

アウト的要素の適用を示している。

プロセスへの取り組みは、調査の過程における振り返りおよび重要な決定の記録によっておおむね証拠として残されている。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き80

評価C

選択したトピックの範疇では必ずしも探究できるとは言い切れない研究課題(リサーチクエ

スチョン)を生み出す結果となった調査を行った証拠、ほとんどの部分においては適切な調

査領域や手法、また文献への部分的に効果的な取り組み(しかしこれにはプロセスにおける

何点かの不一致もあるが、それは計画やアプローチを阻害するほどのものではない)、ほと

んどが関連性の高いトピックに関する学問領域における、より広い文脈のなかでのいくらか

の知識と理解、文献資料および科目特有の専門用語そして/または概念を適用させようと試

みた形跡、部分的に適切な分析を調査に知識統合させようと試みた形跡、弱みもあるがそれ

が論文全体の阻害になっているというほどではない基準を満たした論文の形式、いくらかの

構造的そしてレイアウト的要素の欠如または誤用を示している。

プロセスへの取り組みは証拠として残されているが、ほぼ事実情報に基づくものであり、個人的な振り返りは手続き的な事柄にほぼ限定されている。

評価D

選択したトピックの範疇で答えることのできない研究課題(リサーチクエスチョン)と基準

を満たしているとは言えない的の絞り方を生み出す結果となった調査の欠如、ときには適切

な調査や手法また文献への取り組み(しかしこれにはプロセスにおける不一致があり、たま

に計画やアプローチを阻害している)、ときに関連性のないトピックに関する学問領域にお

ける、より広い文脈のなかでのいくらかの関連性のある知識と理解、科目特有の専門用語そ

して/または概念の誤用または少なすぎる使用があるものの文献資料を適用させようと試

みた形跡、説明的な議論の結果としての不適切な分析と一貫性のない結論、評価の欠如、と

きに非論理的でありそれが論文全体の阻害になっている論文の形式、構造的そしてレイアウ

ト的要素の欠如を示している。

プロセスへの取り組みは証拠として残されているが、表面的であり、個人的な振り返りは叙述的なものと手続き的な事柄にとどまっている。

評価E(不合格)

選択したトピックの範疇で答えることのできない研究課題(リサーチクエスチョン)と基準

を満たしているとは言えない的の絞り方を生み出す結果となった調査の欠如、ときには適切

な調査や手法また文献への取り組み(しかしこれにはプロセスにおける不一致があり、たま

に計画やアプローチを阻害している)、ときに関連性のないトピックに関する学問領域にお

ける、より広い文脈のなかでのいくらかの関連性のある知識と理解、科目特有の専門用語そ

して/または概念の誤用または少なすぎる使用があるものの文献資料を適用させようと試

みた形跡、説明的な議論の結果としての不適切な分析と一貫性のない結論、評価の欠如、と

きに非論理的でありそれが論文全体の阻害になっている論文の形式、構造的そしてレイアウ

ト的要素の欠如を示している。

不明瞭な論文の性質、おおむね系統立っていないアプローチとその結果としての的の絞れて

いない研究課題(リサーチクエスチョン、限定的な調査および文献への限定的な取り組み、

関連性の高いトピックに関する学問領域におけるより広い文脈のなかでのおおむね限定的で

あり部分的にしか正確ではない知識と理解、文献資料の適用における有効でない結びつけ、

使用された専門用語そして/または概念の誤用、一貫性のない分析と調査結果の要約、その

性質はおおむね説明的であるものの議論の概要を示そうと試みた形跡、ほとんどない、ある

いはいくつかの要素を誤用しているだけの構造的要素やレイアウト的要素を示している。

プロセスへの取り組みは限定的であり、限定的な事実に基づくまたは決定に関する情報があり、プロセスに関しての個人的な振り返りはない。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 81

規準の説明以下の説明は、各規準の各レベルを論文がどのように達成するかを確実に理解するため

の一助として提供されています。

規準はそれぞれ、3つのレベルの情報で整理されています。1つ目はマークバンド(採

点基準表)で、これは可能性のある評点の幅を示すものです。2つ目は要素で、何が評価

されるかを示します。3つ目は要素の表れ方で、そのマークバンド(採点基準表)におけ

る当該要素の到達度を説明しています。以下に例を示します。

マークバンド(採点基準表)1~2

(要素)トピックが不明確かつ不完全に述べられている。

(要素の表れ方)•トピックの特定と説明が限定的である。研究の目的と焦点が不明

確である、または登録科目における体系的な探究を導かない。

(要素)研究課題(リサーチクエスチョン)が述べられているが、明確

に表現されていない、または幅広すぎる。

(要素の表れ方)•研究課題(リサーチクエスチョン)が、与えられた課題の要件と

語数制限に従って効果的に取り扱うには幅広すぎる、または登録

科目における体系的な探究を導かない。

•研究課題(リサーチクエスチョン)の意図は理解されているが、明

確に表現されていない、または論文の議論が研究課題(リサーチ

クエスチョン)に焦点をあてていない。

(要素)研究の方法論が限定的である。

(要素の表れ方)•使用した文献と方法論が、トピックと研究課題(リサーチクエス

チョン)にとって限定的である。

•情報に基づいて文献と方法論を選定した証拠が限定的に見られる。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き82

規準 規準の説明

A:焦点と方法 この評価規準は、トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、方法

論に注目します。研究の焦点についての説明(トピックと研究課題(リ

サーチクエスチョン)が含まれます)、その研究をどのように行うか、

さらにその焦点が論文を通じてどのように維持されているかを評価し

ます。

i. 選んだトピックが、読者に対して明確に提示されている。また、

トピックに文脈をもたらしその重要性を正当化するという観点

から、説明されている。

•選んだトピックを、研究論文がどのように上手に特定し、

説明しているか。

ii. 「課題論文」の 4000 語の範囲内で扱う研究の目的と焦点が、序

論で概説されていて、研究課題(リサーチクエスチョン)とし

て特定されている。

•研究課題(リサーチクエスチョン)は、この課題の範囲に

とって適切か。例えば、課題の要件内で取り上げるのに十

分な狭さにトピックの的が絞られているか。

•研究課題(リサーチクエスチョン)が明確に述べられ、的

が絞られているか。選んだ科目や研究領域の背景的な知識

と理解に基づいているか。

•研究課題(リサーチクエスチョン)に対する焦点が論文を

通じて維持されているか。

iii. 研究課題(リサーチクエスチョン)に取り組むための研究が計

画され、適切なデータ収集方法(方法論)が選ばれて特定され

ている。

•情報に基づいて効果的に文献や方法論を選定した証拠が見

られるか。文献や方法論の範囲を狭めるなど、情報を収集

するために適切な文献や方法論を選択することで、語数制

限内で研究課題(リサーチクエスチョン)に取り組もうと

しているか。

iv. 文献や方法論が、適切かつ関連性があると見なされている、ま

たは当該領域の学術的な水準にとって十分であると見なされて

いる。例えば、経済学の論文であれば、教科書だけを使用して

いたのでは十分ではなく、報告書やデータを用いる必要がある。

それだけでは研究課題(リサーチクエスチョン)を考察したこ

とにならない。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 83

規準 規準の説明

B:知識と理解 この規準は、研究内容が研究課題(リサーチクエスチョン)を探究する

ために使用した登録科目にどの程度関係しているかを評価します。ま

た、「ワールドスタディーズ」の「課題論文」の場合は、取り上げた問

題と2つの学際的な視点がどの程度使用されているかを評価します。

さらに、知識と理解が適切な用語と概念を使用してどのように示され

ているかも評価します。

i. 探究する研究課題(リサーチクエスチョン)を、科目、学問領

域、問題、あるいは背景状況の文脈にあてはめて考えている。

•適切かつ関連性の高い文献が使用されている。

ii. 選んだトピックと提起した研究課題(リサーチクエスチョン)に

対する知識と理解が、科目特有の適切な用語を使って示されて

いる。

•科目特有の用語や概念の使用は、議論する領域や問題の知

識と理解を示す指標となる。

iii. 文献や方法論を、研究課題(リサーチクエスチョン)にとって

の妥当性という観点から評価している。

C:批判的思考 この規準は、研究の分析と評価に批判的思考スキルがどの程度使われ

たかを評価します。

i. 研究の選定と実践が、研究課題(リサーチクエスチョン)にとっ

て適切かつ関連性がある。

ii. 文献や方法論が、議論を展開させるなかで適切に使われている。

iii. 研究の分析が効果的であり、研究課題(リサーチクエスチョン)

に焦点をあてている。

iv. 研究の議論が、研究課題(リサーチクエスチョン)に関係して、

明確かつ一貫した論理で構築されている。

v. 論文で提示された議論に対して批判的な評価が行われている。

vi. 不測の結果や予想外の結果も、批判的思考を示すことができる。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き84

規準 規準の説明

D:形式 この規準は、学術的な論文に期待される標準的な形式にどの程度従っ

ているか、それにより効果的なコミュニケーションがどの程度高めら

れているかを評価します。

i. 構成:論文の構成が、登録科目の研究論文に期待される通常の

技法に一致している(試験官、指導教員、生徒は、本資料の当

該科目のセクションを確認すべきです)。

ii. レイアウト:表紙、目次、ページ番号、セクションごとの見出し

(該当する場合)、例示資料(適切なラベルをつけた表、グラフ、

図解)の効果的な使用、引用とその参照および参考文献目録。

•参照の形式は正しく一貫して使用し、本資料に記載されて

いる最低要件の情報を含んでいなければならない。*

•「課題論文」は、制限語数を超えることはできない。**

* 参考文献がこの最低要件を満たさなかった場合は、学問的不正行為の可能性があるケースとして扱われます。

** 論文が 4000 語(日本語の場合は 8000 字)を超えた場合、試験官は、それ以降の部分を読みません。制限語数を超えて書く生徒は、「課題論文」のすべての評価規準の評価を不利にします。例えば、規準Bでは、4000 語以降の部分で述べられている知識や理解はすべて、存在しないものとして扱われます。規準Cでは、4000 語以降の部分で展開した議論や評価は、まるで展開されなかったものとして扱われます。評価規準は包括的でホリスティックな評価を意図してつくられていることから、語数を超えて書く生徒は、すべての評価規準で自ら評点を下げることになります。

E:取り組み この規準は、研究の焦点と研究過程に対して生徒がどのように取り組

んだかを評価します。試験官が「計画および進捗についての振り返り

フォーム(RPPF)」を検討したうえで、論文の評価の最後にこの規

準の評価を下します。

i. 研究過程への取り組み:研究の計画と進歩について指導教員と話

し合う際に積極的に臨んだ。研究過程を振り返って向上させ、

また研究課題(リサーチクエスチョン)を探究するなかで得た

洞察に反応することができた。研究過程で下した意思決定を評

価して、自分自身のやり方を改善する方法を提案することがで

きた。

ii. 研究の焦点への取り組み:生徒の思考、知的な活動における主体

性、研究過程や考えについての振り返りを通じた創造的なアプ

ローチについての洞察。指導教員や学識者の声ではなく、生徒

自身の声がどこまで表現されているか。生徒の取り組みが反映

されているか。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 85

詳細―全科目共通

科目ごとのガイダンス

概要このセクションでは、「課題論文」における個々の科目の要件を、以下の点について説明

します。

•トピックの選択

•トピックの取り扱い

•評価

- 規準A:焦点と方法

- 規準B:知識と理解

- 規準C:批判的思考

- 規準D:形式

- 規準E:取り組み

このセクションは、すでに教師がIB資料『「課題論文」指導の手引き』の全般部分と教

師用参考資料を理解していて、特に生徒がどのような過程で科目とトピックを選択し、研

究課題(リサーチクエスチョン)を設定し、その課題を探究して質問に答えるための研究

方法を選定するかについて熟知しているという前提で書かれています。

これらの概要については、プロセスを示した図解と全般的な評価規準のセクションを参

照してください。

簡単に復習する必要がある場合は、本資料の「全般要件」のセクションを読んでくだ

さい。

この科目ごとのガイダンスは、IBの「課題論文」で登録できる 28 科目すべてを対象と

して、以下の7つに分けて説明しています。

1. 言語と文学:

- カテゴリー1、2、3

2.「言語の習得学」:

-「言語の習得学」

-「古典ギリシャ語」と「ラテン語」

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き86

3.「個人と社会」:

-「経営」

-「経済」

-「地理」

-「グローバル政治」

-「歴史」

-「グローバル社会の情報技術」

-「哲学」

-「心理学」

-「社会・文化人類学」

-「世界の宗教」

4.「理科」:

-「生物」

-「化学」

-「コンピューター科学」

-「デザインテクノロジー」

-「物理」

-「スポーツ・エクササイズ・健康科学」

5.「数学」:

-「数学」

6.「芸術」:

-「ダンス」

-「映画」

-「音楽」

-「演劇」

-「美術」

7. 学際的論文:

-「環境システムと社会」

-「文学とパフォーマンス」

-「ワールドスタディーズ」

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 87

全般要件「課題論文」は、あるトピックに焦点をあてて深く踏み込む研究です。これを通じて、生

徒は次のことをする機会を得ます。

•知的な独立研究に厳正かつ主体的、創造的に取り組む

•リサーチスキル、思考スキル、自己管理スキル、コミュニケーションスキルを養う

•研究と執筆の過程で何を学んだかを振り返る

生徒は、次のことをしなければなりません。

•トピックの選択を、論理的かつ一貫した理由で正当化する

•そのトピックについて、どのようなことが今までに書かれてきたかを研究する

•明確な研究課題(リサーチクエスチョン)を設定する

•その質問を探究するために使用する研究方法を具体的に説明する

•研究課題(リサーチクエスチョン)に答えるための文献研究と独立研究に基づいて、

合理的な解釈と結論を導く

トピックの選択

「研究と執筆についての最初の指導」のセクションも参照してください。

生徒はまず、興味のある探究の領域を幅広く特定する必要があります。

そのアイデアは、次のようなところから得られるかもしれません。

•その科目で以前に学習したこと

•学術誌や定評ある学術的オンライン文献、例えば会議論文、論文、書籍の数章、専

門誌の記事などをいくつか読んで得た知識(これについては学校の図書館司書が助

言できます)

•教師、他の生徒、図書館司書との会話

文献研究生徒は、選んだトピックについてこれまでに書かれたものを、できるだけたくさん読も

うとすべきです。研究の初期の段階で文献研究に費やした時間が、その後の取り組みに方

向性をもたらし、成果物を向上させるでしょう。文献研究は、以下のことに役立ちます。

•研究課題(リサーチクエスチョン)とその後の発見に文脈をもたらす

•規準B(研究の文脈における知識と理解)の要件を満たす

生徒は文献研究に取り組む間、注釈つきの参考文献目録を作成して、読んだことに対す

る自分の感想を「自己の振り返りジャーナル」(RSS)に記録していくと良いでしょう。

インターネットを使用するのであれば、専門的な学術検索エンジンを使用して、「課題論

文」で引用するのに適した文献を見つけることが推奨されます。

使用した文献を適切に引用し、それが剽窃されたものでないかどうかを確認するのは、

生徒自身の責任です。文献の引用形式はIBの要件に従っていなければならず、また同じ

形式を一貫して使用しなければなりません。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き88

研究課題(リサーチクエスチョン)

生徒は、初期の段階で研究課題(リサーチクエスチョン)を暫定的に設定しますが、意

図した研究をするには入手できる情報が少なすぎる場合など、必要に応じて変更する心積

もりがなければなりません。

また、生徒は、自分の書いているものが重要なのだという考えをもつ必要があり、その

理由は以下のいずれかであるべきです。

•選んだトピックについて理解が欠けている部分を、この研究が補うため

•意見の分かれる議論に対して、この研究が何らかの解決策をもたらすため

このため、研究課題(リサーチクエスチョン)は、些細な内容であるべきではありませ

ん。また、そのトピックに関する既存の文献の延長線上にあるべきです。以下の要件を満

たすことが求められます。

•具体的かつ的が絞れていて、4000 語(日本語の場合は 8000 字)の論文で答えるこ

とができる

•論文の序論と表紙で明確に述べられている

•選択したトピックに関係している

あまりにも狭い範囲の質問や答えが明らかな質問は避ける必要があります。論理的な議

論を構築しにくくなるためです。

質問に対する答えは、記述的ではなく、分析的でなければなりません。

ほとんどの科目では、研究課題(リサーチクエスチョン)を質問文の形式で書かなけれ

ばなりません。ただし、科目によっては、見解の表明や命題として書くことができます。

トピックの取り扱い

生徒は、トピックを選択し、研究課題(リサーチクエスチョン)を設定した後、その答

えを研究するための方法を決めることができます。これには、幅広いアプローチを大雑把

に説明した表明文を書くとよいかもしれません。

「研究」の定義や、「一次データ」と「二次データ」といった用語の定義は、科目によっ

て異なります。

一部の科目では、一次データと二次データの両方を使用することが義務づけられます。

一方、二次データだけに頼ることが認められる、あるいはそうすることが義務づけられる

科目もあります。

どちらにしても、生徒は必ず、自分の選んだトピックの文献研究という点で二次研究を

しなければなりません。

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詳細―全科目共通

「課題論文」(EE):指導の手引き 89

2つの重要な注意点1.「課題論文」は、決して容易な課題ではありません。このため、計画を立てること

がきわめて重要です。生徒は、早くから論文を書き始め、途中で問題が生じた場

合は指導教員に相談する必要があります。指導教員だけでなく図書館司書も、生

徒に情報と助言、サポートを提供するうえで重要な役割を果たします。

2. 生徒は、学問的不正行為を犯したと判断されれば、ディプロマを取得できなくな

る可能性があります。

- 学問的誠実性:生徒の成果物は、IBの学問的誠実性に関する方針に照らし

て確認されます。このため、生徒はこの方針をよく理解しておかなければな

りません。

-「使い回し」:他の評価要素(コンポーネント)のために提出した成果物を

「課題論文」の一部として提出してはなりません。詳細は、科目ごとのガイ

ダンスを参照してください。

コンポーネント間で資料の共有は可能ですが、できるだけ避けたほうがいいでしょう。

たとえば、内部評価(IA)に用いた資料を「課題論文」の一部に使用することはできる

ものの、内容が「かぶる」ことはわずかでも許されません。生徒は両者に共通部分が生ま

れないようにまったく違う角度から研究をしなければならず、まったく違う部分に焦点を

当てることが求められます。

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「課題論文」(EE):指導の手引き90

詳細―科目別

言語と文学

概要言語と文学の「課題論文」は、この科目の範囲内で興味のあるトピックを独立研究する

機会を生徒にもたらします。高いレベルのリサーチスキル、記述力、創造性を育成し、知

的発見を促すことを目的としています。

この論文は、「言語A」に相当する能力を持った言語で書く生徒を対象としています。

登録した言語で書かなければなりません。

グループ1の「課題論文」をグループ2の言語で提出することは認められません。

言語と文学の「課題論文」は、次の3つのカテゴリーに分けられます。

カテゴリー1 論文の執筆言語で原書が書かれた文学作品1つまたは複数の研究

カテゴリー2 論文の執筆言語で原書が書かれた文学作品1つまたは複数と、別の言語で

原書が書かれた文学作品1つまたは複数の比較研究(原書が別の言語で書

かれた作品は、翻訳版を使って研究することができます)

カテゴリー3 論文の執筆言語で原書が書かれたテクスト1つまたは複数に基づく言語

の研究

「言語A」の論文のカテゴリーは提出の段階で、そのカテゴリーを指定します。

カテゴリー1および2

カテゴリー1と2の「課題論文」は、生徒に次の機会をもたらします。

•文学トピックを深く研究する

•独立した作品批評を行う

•定評ある批評文を吟味する(適宜)

•文学研究にとって適切な言語使用域(レジスター)を使用しながら、自分の見解を

うまく構成だてたうえで、説得力をもって伝える力を身につける

生徒は、この学問領域の幅広い文脈のなかで、選択したテクストの分析を位置づけなけ

ればなりません。これには、他の文学テクスト、とりわけ批判的な見方や洞察を含む可能

性があります。ただし、この幅広い文脈の議論によって、選択したテクストへの焦点がぼ

やけないようにします。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 91

カテゴリー3

言語と文学のカテゴリー3の「課題論文」に取り組むことで、生徒は次の成果を得るこ

とができます。

•テクストのなかで意味が構築されていくプロセスに対して言語や文化や文脈がど

のように影響するかを考察することによって、テクスト分析するスキルを実証する

•テクスト、およびその受け手や目的の間に存在するさまざまな関係やかかわりを批

判的に考察する

•定評ある(またはあまり知られていない)批評文を適宜吟味する

•科目にとって適切な言語使用域(レジスター)を使用しながら、自分の見解をうま

く構成だてたうえで、説得力をもって伝える力を身につける

トピックの選択「課題論文」のトピックは、科目の学習中に生徒が完成させた成果物に関連していても

構いませんが、その場合も、関連性のある幅広い文献研究と独立研究を行ったことは実証

しなければなりません。

「課題論文」のトピックが「言語A」の評価用に取り組んでいる他の成果物といっさい重

複していないことを確認するのは、生徒の責任です。例えば、「文学」や言語と文学で取

り組んでいる記述課題と重ならないようにします。学問的不正行為があったと判断されれ

ば、ディプロマを取得できなくなる可能性があります。

カテゴリー1および2―文学

1. 論文の執筆言語で原書が書かれた文学作品1つまたは複数の研究を行います。

2. 論文の執筆言語で原書が書かれた文学作品1つまたは複数と、別の言語で原書が

書かれた文学作品1つまたは複数の比較研究を行います。(原書が別の言語で書

かれた作品は、翻訳版を使って研究することができます)

これまでに取り組んだ学習を通じて、生徒は、さらに探究してみたいと思う分野をすで

に見つけている可能性があります。例えば、次のような分野が考えられます。

•特定のジャンル

•特定の作家

•文学作品が取り上げている哲学的、政治的、社会的な問いかけ

カテゴリー1および2―適切なテクスト生徒は、あらゆる文献から文学作品を選ぶことができ、これにはIBの「指定作家リス

ト」(PLA)が含まれます。

ただし、生徒の選ぶテクストが、深い分析をするのに十分な文学的性質をもっているこ

とは、非常に重要です。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き92

カテゴリー1および2―トピックの例以下の例は、あくまでも参考という位置づけです。(表の右側のような)幅広いトピック

ではなく、(表の左側のような)的の絞れたトピックを選ばなければなりません。

トピックの例―カテゴリー1

 的の絞れたトピック  幅広いトピック

ジョージ・エリオットの『ミドルマーチ』に

見られる不完全なものとしての結婚の描き方

ジョージ・エリオットの小説における結婚

シェークスピアの『尺には尺を』と『リア王』

に見られる深刻な問題を探究するための喜劇

的な登場人物の使い方

シェークスピアの戯曲における喜劇

セサール・アイラの『Cómo me hice monja』に

見られる自叙伝的技法の役割と読者への影響

『Cómo me hice monja』における自叙伝的な

詳細

トピックの例―カテゴリー2

 的の絞れたトピック  幅広いトピック

『ハックルベリー・フィン』と『カンディード』

の主人公の旅に込められた風刺の重要性

『ハックルベリーフィン』と『カンディード』

の主人公の比較

シェークスピアのいくつかのソネットとパブ

ロ・ネルーダの『二十の愛の詩と一つの絶望

の歌』における愛のテーマの取り扱い

シェークスピアのソネットとパブロ・ネ

ルーダの『二十の愛の詩と一つの絶望の歌』

の比較

カテゴリー3

論文の執筆言語で原書が書かれたテクスト1つまたは複数に基づく言語の研究を行い

ます。

カテゴリー3の「課題論文」は、社会的、歴史的、文化的な文脈におけるテクストの制

作と受理に焦点をあてます。あるトピックの全般的な概要を提示するだけの論文は、適切

ではありません。

カテゴリー3―適切なテクストカテゴリー3の「課題論文」における「テクスト」とは、世の中に存在する口述、記述、

視覚素材を含む、最も幅広い定義の用語です。

•文字で書かれたテクストはあってもなくても構わない。また、画像についてもその

枚数は問わない。

•文学作品のテクスト、もしくは文学作品から抜粋されたテクスト

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 93

•メディアテクスト(例:広告キャンペーン、映画、ラジオ番組、テレビ番組、およ

びそれらの台本原稿)

•電子テクスト(メディアテクストと多くの共通点がある。例:動画共有サイト、ウェ

ブサイト、携帯メール、ブログ、ウィキ、ツイート)

•口述テクスト(例:朗読、演説、放送、録音された会話を原稿に起こしたもの)

記述的または説明的な素材を論文に含める場合は、それが批判的分析に直接関係してい

るべきです。生徒はこのことを認識しなければなりません。読んだ文献を生徒なりに概説

するだけでは十分ではありません。

選んだトピックにとって重要性が高いのであれば、さまざまな言語と文化を比較・対比

することはできます。ただし、論文の主な焦点は、生徒が取り上げる言語とその文化であ

るべきです。

カテゴリー3―トピックの例以下の例は、あくまでも参考という位置づけです。(表の右側のような)幅広いトピック

ではなく、(表の左側のような)的の絞れたトピックを選ばなければなりません。

 的の絞れたトピック  幅広いトピック

女性の体について特定のイメージを構築する

ためにイギリスのファッション・美容雑誌「コ

スモポリタン」、「グラマー」、「ルック」が使

用している言語と画像

女性の美に対する見方に対してメディアが

及ぼす影響

米国のイデオロギーに挑むためにマルコムX

や他の市民権活動家が使用した言語と他の説

得技法

効果を上げた政治的キャンペーン

現代の読者と歴史的なテーマの間の距離を埋

めるためにクールマンが『Measuring the World』で使用したユーモア

『Measuring the World』のユーモア

さまざまな新聞がアルゼンチンのデモ行進を

報道した際に使用した異なる報道手段

アルゼンチンのデモ行進

「言語A」の「課題論文」におけるノンフィクションの使用について

文学的価値があるものである限り、文学研究の対象とする作品はフィクション、ノン

フィクションを問いません。生徒は、研究の対象とする作品がすでに相当程度の文学批評

の対象となっていることを確認してから、その作品を取り扱うかどうかを決定するといい

でしょう。議論を支えるための二次文献の存在は規準C(批判的思考)を満たすために不

可欠です。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き94

トピックの取り扱い研究にあたっては、一次文献と二次文献を両方使用すべきです。

一次文献とは、研究の焦点となる作品を書いた著者による小説、詩、物語、戯曲、随筆

のコレクションを指します。

二次文献は、以下についての学術的文献です。

•一次文献の著者の作品と伝記

•論文で取り上げるジャンル

•文学的な技法

二次文献には、以下のものが含まれます。

•書籍

•学術誌の記事

•編集済み書籍コレクションの随筆

•研究の焦点となっている発行物に統合された批評

カテゴリー1および2―文学

文学作品としてのテクストがどのような効果を達成しているか、どのような方法を使用

しているか、どのように書かれているかといった側面から、常に考察すべきです。

哲学的、政治的、社会的な問題文学作品に見られる哲学的、政治的、社会的な問題をトピックに選ぶことができます。

ただし、論文の主な焦点は、その問題の文学的な扱い方であるべきです。その問題を議論

する過程で文学作品を単なる記録証拠として引き合いにするだけの使い方は認められま

せん。

また、その問題に関する自分の意見を表明するためだけの道具として論文を使用すべき

でもありません。著者の考え方がどのように表現されているかについての分析に、まず焦

点をあてる必要があります。そのうえで、そのテーマを著者がどのように扱ったかについ

て、自分の個人的な見方を提示することができます。

文学批評の使用経験豊富な批評家の知恵を利用することと、生徒の個人的な新しい要素を導入すること

の間で、妥協点を見つけようと努力すべきです。定評ある文学批評の見方を単に反復した

だけの論文は、高い評点を得られないでしょう。

伝記の使用文学作品を著者の生涯という観点から解釈する論文は、二次情報に基づく還元主義的な

論文に帰着する傾向があります。このような論文は高い評点にはならないため、IBでは

伝記的なトピックを避けるよう助言しています。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 95

トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、アプローチ提案の例―カテゴリー1生徒は、トピックを選択し、研究課題(リサーチクエスチョン)を設定した後、その答

えを研究するための方法を決めることができます。これには、幅広い視点について、おお

まかに説明した短い文章を付け加えると良いでしょう。以下の例は、あくまでも参考とい

う位置づけです。

トピック 戯曲を動機づける力としての悪の探究

研究課題(リサーチクエスチョン)

クリストファー・マーロウは、悪に対する自分の見方を『フォー

スタス博士』のなかでどのように効果的に提示しているか。

アプローチ 『フォースタス博士』を詳細に研究し、引用を用いながら議論を

支えるほか、必要に応じて二次文献にも言及する。

トピック 小説における偏見の取り扱い

研究課題(リサーチクエスチョン)

『アラバマ物語』と『君のためなら千回でも』は、偏見と差別に

対してどのように異なるアプローチをとっているか。

アプローチ 2つの小説における偏見の種類(宗教、人種、階級、性別など)を

特定し、詳細な出来事や登場人物を研究して深く分析する。1950

年代の米国と 1970年から 1990年代半ばのアフガニスタンについ

て背景情報を研究することで、議論とその比較要素の文脈を確立

するのに役立つ可能性がある。

トピック ニカノール・パラの詩における社会批判

研究課題(リサーチクエスチョン)

『Poemas y antipoemas』と『Hojas de Parra』の間でニカノール・パ

ラの社会批判には変化があったか。

アプローチ パラの文筆キャリアにおいて異なる時代に書かれた2作品(例え

ば『Poemas y Antipoemas』と『Hojas de Parra』)の詩を選んで使用

し、パラの作品に社会批判がどのように埋め込まれているかを例

証する。このアプローチでは、トピック、テーマ、詩的技法、そ

してパラの文学的発展に重点を置き、初期と後期の2つの例を使

用する。また、批判的研究と他の二次文献も使用して、この研究

のアプローチに深みを持たせる。

トピック フリードリヒ・デュレンマットの戯曲『老貴婦人の訪問』における色の使用

研究課題(リサーチクエスチョン)

フリードリヒ・デュレンマットの色の使用は、戯曲『老貴婦人の

訪問』のメッセージを伝えるのにどれだけ効果的だったか。

アプローチ デュレンマットの戯曲『老貴婦人の訪問』で使われている色の象

徴性を分析し評価する。

Page 106: ®] J æ ¯¢ £ ¦ w ¾V...「課題論文」(EE):指導の手引き 1 「課題論文」について はじめに ディプロマプログラムについて ディプロマプログラム(DP)は16歳から19歳までの大学入学前の生徒を対象とした、

詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き96

トピック 『Auretourdesoiesblanches』と古典悲劇

研究課題(リサーチクエスチョン)

マルセル・デュベの『Au retour des oies blanches』において、古典

悲劇のパターンはどのような役割を果たしているか。

アプローチ デュベのすべての作品に古典悲劇の影響が表れているとするミ

シェル・トレンブレーの論に基づく分析を行う。論文では、まず

古典悲劇について考察したうえで、この作品を詳細に分析して、

議論を支える。

トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、アプローチ提案の例―カテゴリー2生徒は、トピックを選択し、研究課題(リサーチクエスチョン)を設定した後、その答

えを研究するための方法を決めることができます。これには、幅広いアプローチを大雑把

に説明した表明文を書くとよいかもしれません。以下の例は、あくまでも参考という位置

づけです。

トピック 小説における子供時代の描き方

研究課題(リサーチクエスチョン)

ナボコフの『記憶よ、語れ』とプルーストの『スワン家のほうへ』

において、子供時代の記憶はどのように、どのような目的で使わ

れているか。

アプローチ 両作品を深く分析し、二次文献も適宜参照する。また、比較要素

を用いて議論を構築する。

トピック 小説における罪悪感の表現

研究課題(リサーチクエスチョン)

ベルンハルト・シュリンクの『朗読者』とティム・オブライエン

の『本当の戦争の話をしよう』における罪悪感の扱い方にとって、

物語の構成はどのように重要か。

アプローチ 両作品を深く分析し、二次文献も適宜参照する。また、比較要素

を用いて議論を構築する。

カテゴリー3―「言語」

生徒は、1つまたは複数のテクストに焦点を絞り、批判的に考察すべきです。このカテ

ゴリーのアプローチでは、バランスのとれた一貫性のある議論を構築して、裏づけとなる

関連性の高い事例で例証することを目指します。

具体的には、以下を実践すると良いでしょう。

•分析的、批判的な立場をとる

•テクストとその社会的文脈における意味に関して相反する見方が存在する可能性

を認識し、その認識を示す

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 97

論文の分析には、テクストが制作され理解される文脈についての幅広い議論が含まれて

いなければなりません。

元来の受け手と文脈を考慮しないでテクストを解釈しようとする論文は、説得力のある

完全な議論を構築しないまま終わる可能性が高まります。

トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、アプローチ提案の例―カテゴリー3以下の例は、あくまでも参考という位置づけです。例1と例7を除く他の例は、言語を

指定して研究課題(リサーチクエスチョン)を絞り込んでいますが、他の言語や文脈にも

あてはまる可能性があります。

例1、2、3―文化的な文脈における言語特定の文化的文脈において言葉がどのように発展しどのような影響力をもつのか、また

言葉がどのようにして個人や社会のアイデンティティーを形成するのかについて研究する

ことができます。

トピック ジェンダー

研究課題(リサーチクエスチョン)

男性用パーソナルケア製品における男性の描き方は、1980 年代か

ら今までの間にどのように変化したか。

アプローチ 対象とする言語および文化の具体的な広告キャンペーンを少な

くとも2つ取り上げ、その文脈とそこで使われた表現を詳細に分

析し、また比較要素を用いて議論を構築する。

トピック 言語とコミュニティー

研究課題(リサーチクエスチョン)

スペインの新聞は、マドリード・ダービーとバルセロナ・ダービー

の最中に起きた議論をどのように報道したか。

アプローチ バルセロナとマドリードの新聞(El País、El Periódico de Catalunya、Marca、As、El Mundo)が賛否の分かれる出来事を表現するのに使

用した感情的な言葉を、あるシーズンに絞って詳細に分析する。

さまざまな新聞がとった社会的・政治的なスタンスと偏見の分析

も評価する。

トピック 言語とコミュニティー(国家や地域、サブカルチャー)

研究課題(リサーチクエスチョン)

トルコ系の二世および三世の若者は、ドイツのメディアでどのよ

うに描写されているか。

アプローチ 3つのメディア形態の間で、さまざまな視点から分析と比較を行

う。トルコ系の二世および三世の若者(15 ~ 25 歳)を描写する

のに使われている言葉の性質に重点を置く。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き98

例4、5、6、7―言語とマスコミ言葉がメディアでどのように使用されているかを考察することができます。また、テク

ストの制作と受理が、テクストの書かれた媒体によってどのように影響されているかを考

察することもできます。

トピック 演説の言葉と形式

研究課題(リサーチクエスチョン)

クリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネルは、国際的な

ハゲタカ・ファンドを批判する目的で、修辞的な技法をどの程度

使用しているか。

アプローチ フェルナンデス・デ・キルチネルが国際的なハゲタカ・ファンド

を批判した演説を選りすぐって、そのなかで使用した修辞的な技

法とその文脈を詳細に分析する。また、比較要素を用いて議論を

構築する。

トピック 啓発的な演説における説得のための言葉の使用

研究課題(リサーチクエスチョン)

スティーブ・ジョブズとマーティン・ルーサー・キングは、特定

の受け手にインスピレーションをもたらすために、どのような手

段を使用したか。

アプローチ スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学卒業式での演説

(2005 年)とマーティン・ルーサー・キングの「I Have a Dream」

演説(1963 年)の文脈、使われた修辞的・感情的技法を詳細に分

析し、また比較要素を用いて議論を構築する。

トピック ニュース報道

研究課題(リサーチクエスチョン)

イギリスのサッカーリーグで生じた人種差別的な出来事を報じ

た新聞が、どのように異なる報道手法を用いたか。

アプローチ サッカー界の人種差別的な出来事を描写するのに日刊紙(The Guardian、Daily Telegraph、Daily Mirror、スポーツ紙など)が使用

した感情的な言葉を詳細に分析し、この問題に対するスタンスが

各新聞の社会的、政治的、階級的な偏見をどのように反映してい

るかを評価する。

トピック テクストに表れる偏見

研究課題(リサーチクエスチョン)

さまざまな新聞が社説で政治的見解を伝える方法は、どのように

異なるか。

アプローチ 2大紙である朝日新聞と読売新聞が5月3日の憲法記念日に使

用した言葉(キーワードの選択、修辞的な技法)とその文脈を、

過去5年分にわたって詳細に分析し、比較要素を用いて議論を構

築する。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 99

「課題論文」の評価規準の解釈

規準A:焦点と方法

(要素:トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、方法論)3つのカテゴリーすべてにおいて、言語と文学の論文における「研究」とは、「研究資

料」、「考察する領域」、または「考察するトピック」と解釈すべきです。

トピックの選択という点では、具体的かつ狭い範囲に絞られた研究課題(リサーチクエ

スチョン)が、論文の序論で明確に述べられなければなりません。これは、表明文や議論

のための命題として提示するのではなく、質問文の形式にすべきです。研究課題(リサー

チクエスチョン)の目的は、読者に明確にされ、また研究の文脈における知識と理解に関

連しているべきです。

語数制限の範囲内で十分に取り扱うことのできない幅広すぎるトピックは、避けるべ

きです。同様に、答えが明らかすぎるトピックも、規準Cで高い評点を得られなくなるで

しょう。

なぜその研究課題(リサーチクエスチョン)を選んだのか、また、それを研究することに

より、どのように知識を深めることができるのかを、序論で簡潔に述べます。ここでは、

自分の研究が当該トピックの既存の知識にどのように関係するかを明確に述べる必要があ

ります。

これに続く論文の計画と議論の焦点では、研究課題(リサーチクエスチョン)の視点に

立ったテクスト分析を盛り込みます。二次文献資料についての批判的な見方を含んで、批

評家の見解を用いて自分の議論を支えることもできます。使用する文献は、研究課題(リ

サーチクエスチョン)にとって関連性の高い議論と結論を展開し支えるのに十分な文献で

なければなりません。

•カテゴリー1と2の論文では、考察の焦点となる1つまたは複数の文学テクスト、お

よび必要に応じて、そのテクストについての出版済みの批評などの二次文献が、適

切な文献と見なされます。

- この2つのカテゴリーでは、例えば児童文学や青少年向け小説など、詳細な

文学分析の余地がないテクストを選ぶと、論文のレベルに限界を設けてし

まう可能性があることに注意すべきです。

•カテゴリー2の論文では、なぜそのテクストの組み合わせを選んだかについて、理

由を簡単に説明し、この比較研究から何が得られる可能性があるかを示す必要があ

ります。比較対象のテクストを2つの別々の議論で取り上げるようなアプローチは

避けるべきです。

•カテゴリー3の「言語」の論文は、科目ガイドに示された幅広い一次テクストに基

づいて執筆します。二次文献も使用して、言語や文化や文脈がどのように意味を形

成するかの批判的分析に枠組みをもたらす必要があります。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き100

規準B:知識と理解

(要素:知識と理解、コミュニケーション)3つのカテゴリーのいずれを選んだ場合も、議論を支えるための文献資料は、適切に選

定し、目的に沿って効果的に使用することで、介在する幅広い問題の理解を示さなければ

なりません。

言語と文学の論文において明確かつ正確にコミュニケーションするということは、言葉

を正しく使用することが含まれます。生徒は自分の考えを、優れた筆致で明確に伝えるこ

とができるべきです。また、学問領域にとって適切な、科目に特有の用語を使用して、選

んだトピックに対して意識的に応用できるべきです。

•カテゴリー1と2の「文学」の論文では、文脈を簡潔に説明します。この部分に多

くの語数を割いて、文学テクストの歴史的または伝記的な文脈を長々と説明すべき

ではありません。一次テクストを生徒がどのようによく理解しているかを示すこと

が、この論文の主な目的です。二次文献資料を使用することは、議論に幅広い枠組

みをもたらすという点では有益です。ただし、これにより、一次テクストに対する

生徒の個人的な取り組みが脇へ押しやられないようにしなければなりません。

•カテゴリー3の「言語」の論文では、選んだトピックを序論で浮き彫りにし、また

そのトピックが当該科目の既存の知識にどう関係するのか、あるいは対象とする言

語や文化にとってなぜ重要な関心事であるのかを、序論で明確にすべきです。テク

ストは、具体性のある文化的または言語学的な背景に照らして批判的に考察するこ

とで、探究し理解する必要があります。生徒の個人的な体験や意見は、例えばテク

ストが対象としている受け手に言及する場合など、議論にとって重要性がある場合

のみ盛り込むべきあって、裏づけのない主張として述べるべきではありません。

規準C:批判的思考

(要素:研究、分析、議論と評価)3つのカテゴリーすべてにおいて、言語と文学の論文の分析と議論は、研究課題(リサー

チクエスチョン)に焦点をあて、かつ個人的な解釈を支えるために展開すべきです。

生徒は、単に批評家の見解に賛同するのではなく、詳細かつ批判的な考察を通じて自分

なりの議論を展開することを目指すべきです。二次文献のみを根拠とした二次的な解釈や

見解、あるいは純粋に記述的な論文は、高い評点を得られないでしょう。

論文では、提示した研究素材の分析に焦点をあてる必要があります。個人的な見解は、

単に述べるだけでなく、論理的な議論で支えられていなければなりません。

結論では、議論を通じて当該トピックを考察した評価、および(該当する場合は)研究

から分かったことや結果を提示します。

また、二次文献について批判的な見方をとることも奨励されます。特に、インターネッ

トの文献を使用する場合は、信頼性に欠ける可能性があることを十分に理解したうえで、

慎重かつ批判的に使用すべきです。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 101

•カテゴリー1と2の「文学」の論文では、文学テクストのあらすじをまとめたり出

来事を語ったりするだけの単純な記述では、通常、議論を展開することができませ

ん。このため、このような論文は一般に避けるべきです。

•このことはカテゴリー3の「言語」の論文にもあてはまります。批判的な分析を欠

いた、テクストの単純な記述や説明のみの論文は、一般に避けるべきです。

規準D

(要素:構成とレイアウトの要素)この規準では、生徒の論文が学術的な研究論文の形式にどこまで則っているかを評価し

ます。また、これらの形式が、論文を読み、理解し、評価するという点でどれだけ効果を

示しているかも評価します。

言語と文学の論文は、通常、継続的な地の文の形式で執筆します。ただし、カテゴリー

3のトピックのなかには、論文をセクション、サブセクションに区切って、適切な情報を

もたらす見出しをつけるとよいトピックもあるかもしれません。

グラフ、画像、表の使用も、カテゴリー3の論文では適切な場合があります。ただし、

研究課題(リサーチクエスチョン)に直接的に関係し、議論の理解に寄与し、かつ見た目

の質が高いもののみを使用します。

オリジナルでない素材はすべて、注意して認識しなければなりません。特に、引用やア

イデアの参照と明記には注意する必要があります。このことは、印刷媒体や電子媒体の文

献で出版された視聴覚資料、文章、グラフ、データにあてはまります。参照がこの手引き

で定められた最低要件(著者名、発行日、文献名、必要に応じてページ番号)を満たして

いない場合、かつ一貫して使用されていない場合は、学問的不正行為の可能性があるケー

スと見なされます。

参考文献目録はきわめて重要であり、標準的な形式で付記されなければなりません。表

紙、目次、ページ番号などは、論文の形式の質を高めるものになっている必要があります。

論文は、4000 語(日本語の場合は 8000 字)以内で書かなければなりません。グラフ、

図解、および他の例示的な資料は、この語数制限には含まれません。4000 語(日本語の場

合は 8000 字)を超えた時点で、試験官はそこから先を読まず、また評価もしないことを、

生徒は認識する必要があります。

規準E:取り組み

(要素:計画および進捗についての振り返り)この規準は、研究の焦点と研究過程に対して生徒がどのように取り組んだかを評価しま

す。「課題論文」と指導教員のコメントの文脈の中で、「計画および進捗についての振り返

りフォーム(RPPF)」に詳述された生徒の振り返りのみに基づき、論文の評価の最後に

試験官がこの規準の評価を下します。

生徒は、論文を完成させる過程で自分がどのような考えで、どのような選択をしたのか、

またどのように計画を立てたのかについての振り返りを提出します。この振り返りでは、

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き102

どのようにしてトピックを選んだか、使用した研究方法やアプローチを選んだかを示さな

ければなりません。この規準で評価するのは、計画のプロセスを通じて意思決定にどの程

度の理由づけが見られたか、および生徒がスキルと理解をどのように発達させたかです。

生徒は、例えば以下のような点を振り返ることができます。

•選択したアプローチとストラテジー、その相対的な成功度

•自分が習得した「学習の方法」のスキル、学習者として自分がどのように成長したか

•研究の結果として、自分の概念理解がどのように発展あるいは変化したか

•研究の過程で直面した困難、それをどのように克服したか

•研究の結果として浮上した疑問

•同じ研究をもう一度やるとしたら、何をどのように変えてみるか

効果的な振り返りとは、「課題論文」の過程を通じて生徒がたどった道のりを示すもので

す。生徒は、自分の取り組みの姿勢を実証するため、自分が実践した手順を単純に描写す

る以上の批判的思考と振り返りの証拠を示さなければなりません。振り返りは、研究過程

における生徒の思考、創造性、オリジナリティについて、試験官に洞察をもたらす必要が

あります。生徒の「声」が明確に伝わり、研究の過程で起こった学びが示されていなけれ

ばなりません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 103

詳細―科目別

経済

概要「経済」の「課題論文」は、以下の機会を生徒にもたらします。

•「経済」の興味のあるトピックに深く踏み込んで研究する

•リサーチスキルを伸ばす

•経済理論を実社会の状況に応用する

•実社会のデータに基づいて推論する

•研究の成果を分析し評価する

研究の成果は、一貫性があり構成のしっかりした分析的な論文にまとめ、この論文を通

じて、具体的な研究課題(リサーチクエスチョン)に効果的に答える必要があります。

トピックの選択生徒は、現行のIB資料『「経済」指導の手引き』のシラバスの範囲内でトピックを選

ぶことができるほか、他のトピックも選ぶことができます。

経済理論、モデル、ツールの使用

生徒は、経済学の原則を基本として特定のトピックを研究するような論文に取り組むべ

きです。経済にかかわる最近の出来事、問題、政策などを取り上げて、データを集め、経

済学の理論やモデルやツールを応用してそれを評価することもできます。

経済理論を使用した体系的かつ有意義な考察を促さない研究課題(リサーチクエスチョ

ン)、批判的な分析と詳細な理解を必要としない研究課題(リサーチクエスチョン)は、

「経済」にとって適切ではないでしょう。

多教科にわたるトピック

経済学の理論や概念を使って質問に答え、他の科目に逸れてしまわないようにすること

は、きわめて重要です。トピックのなかには、「経営」、「地理」、「心理学」など異なる学問

領域からアプローチすることのできるトピックもあります。しかし、「経済」を選択する場

合は、経済学の理論やモデルやツールを使用してこの科目の要件を満たさなければなりま

せん。

または、「経済」に加えてDPで学習するもう1つの科目の視点からトピックをとらえて

みたい場合は、学際的な「ワールドスタディーズの課題論文」(WSEE)とすることがで

きます。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き104

5年ルール

歴史的なトピックを選ぶことはできません。トピックは、過去5年前後の間の経済情報、

政策、結果、出来事などに関連しているべきです。あまりにも回顧的なトピック、例えば

「世界金融危機が 2007 年から 2010 年の米国の失業率に及ぼした影響は何だったか」など

は、ほぼ間違いなく記述的な論文に陥ってしまうでしょう。

また、経済にかかわる将来の出来事を材料とした論文も認められません。例えば、「2026

年のサッカー・ワールドカップ大会がX国に及ぼす効果は何か」といったトピックは、完

全に推論的で証拠に支えられていない論文となるため、適切ではありません。

分析の機会

トピックは、収集する情報に対して何らかの批判的分析をする機会をもたらすトピック

であるべきです。二次データの要約だけに依存するトピックは、避けるべきです。このよ

うなトピックは、基本的に説明や記述に終始する論文へとつながる傾向にあるためです。

論文の範囲を限定することは、焦点を明確にするうえで必要です。また、経済学の詳細

な理解と批判的な分析を示す機会をもたらすでしょう。

適切な経済学の領域

マクロ経済のトピックを選ぶことはできますが、研究課題(リサーチクエスチョン)が

合理的なレベルに絞られていて、経済学全体ではなく経済学の具体的な部分に焦点をあて

たものとなっていることが非常に重要です。

経済開発を研究するトピックはきわめて適当ですが、ただし研究課題(リサーチクエス

チョン)が開発の具体的側面や限定的な地域に関係しているべきです。例えば、ある政府

の政策が経済全体に及ぼした影響を考察するといったトピックは、適切ではありません。

トピックの例

以下の例は、あくまでも参考という位置づけです。(表の右側のような)幅広いトピック

ではなく、(表の左側のような)的の絞れたトピックを選ばなければなりません。

 的の絞れたトピック  幅広いトピック

オーストリアで最近導入された最低賃金の

義務づけが、グラーツのファーストフード業

界の失業率に及ぼした影響

オーストリアの最低賃金が失業率に及ぼす

影響

米ドル為替レートの下落の影響とそれがカ

リフォルニア州カーメルの観光業に及ぼし

た影響

米ドル為替レートの下落が米国経済にどの

ような影響を及ぼしたか

水道事業の民営化がザンビアの私の住んで

いる地域の農業に及ぼした経済的な影響

水道事業の民営化がザンビアにどのような

影響を及ぼしたか

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 105

トピックの取り扱い

研究課題(リサーチクエスチョン)

複数の質問を盛り込んだ研究課題(リサーチクエスチョン)、すなわち“二重”の研究課

題は、推奨されません。例えば、「X社は独占的な商慣行を実践しているか。しているとす

れば、それは売上高の拡大にどのように寄与しているか」や「欧州の金利政策がギリシャ

の総需要に及ぼす影響は何か。また、総需要を拡大するために政府は何をすべきか」が、

これに該当します。

最初の例では、論文を進めるには質問の前半部に対する答えが肯定にならなければなり

ません。さもなければ、質問の後半部は答えられなくなります。

2つ目の例では、論文の範囲が単純に広すぎます。

研究課題(リサーチクエスチョン)に対する答えが自明であってもなりません。質問を

研究して、一見したところ明らかではない議論を組み立てる余地がなければならないので

す。例えば、「X国の携帯電話サービス市場は、どの程度、寡占市場か」という質問は、

サービス会社が3社しかなければ明らかに寡占であるため、適切ではありません。

研究方法

生徒は、二次文献だけに基づいて論文を書くことができます。また、一次研究を行うこ

ともできます。

二次文献生徒は、十分な幅のある二次文献を研究すべきです。二次文献には、以下のようなもの

が含まれます。

•「経済」の教科書

•全般的な経済学の書籍

•OECD(経済協力開発機構)やニュー・エコノミクス財団といったシンクタンク

の研究

•政府の発行物

•世界銀行や国連などの国際機関の発行物

•新聞や雑誌の記事

一次研究トピックによっては、一次研究を行うことでアプローチが充実する可能性があります。

一次研究には、以下のようなものが含まれます。

•聞き取り調査

•調査

•アンケート調査

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き106

そのトピックの専門家に聞き取り調査(対人やバーチャルまたは電子メール)を行う

ことも非常に有益な場合があります。例えば、以下のような人に話を聞くことができるで

しょう。

•大学の講師

•ジャーナリスト

•行政の担当者

•企業の担当者

一次研究を行う場合は、学術的な方法でアプローチしなければなりません。

•調査票やアンケートは、意味のある関連性の高いデータを集められるように構成し

なければなりません。

•統計的に有意な結果をもたらすのに十分な回答者数を集めなければなりません。

また、調査やアンケートを行った場合は、以下のことも必要になります。

•そのプロセスを論文で説明する(誰を対象に何人から回答を集めたか、どこで行っ

たか)

•関連性のある結果を要約して分析する

調査結果をまとめた円グラフを何ページにもわたって示しても、それが適切と見なされ

ることはほとんどありません。

また、推論的、逸話的な回答に基づいたアンケートは、適切なデータをもたらすことが

ほとんど、あるいはまったくないため、用いるべきではありません。

理論の使用関連性の高い経済学の理論、モデル、ツールを、研究で取得した証拠や根拠に統合し

て、論文全体に反映させるべきです。理論を別立てのセクションで提示すべきではありま

せん。別のセクションで理論に言及するだけで、具体的な研究課題(リサーチクエスチョ

ン)に応用していない論文は、分析という点で効果を示さない可能性が高いでしょう。

裏づけとなるデータや証拠を示して自分のケーススタディに経済理論を有意義に結びつ

けることができないのであれば、経済学の理論やモデルやツールを使って断定すべきでは

ありません。

研究課題(リサーチクエスチョン)に答えるうえで理論がどこまで有効または有益かを

判断することによって、生徒は、分析や評価のスキルを実証することができます。

トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、アプローチ提案の例

生徒は、トピックを選択し、研究課題(リサーチクエスチョン)を設定した後、その答

えを研究するための方法を決めることができます。これには、幅広いアプローチを大雑把

に説明した表明文を書くとよいかもしれません。以下の例は、あくまでも参考という位置

づけです。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 107

トピック X国における喫煙の負の外部性を減らすためのシンプルなタバコのパッケージの政策

研究課題(リサーチクエスチョン)

タバコのパッケージをめぐるX国の方針は、X国における喫煙の

負の外部性を減らすのにどれだけ効果があったか。

アプローチ 深く研究する理論:

•消費の負の外部性

二次研究(医療データ、行政データ、新聞記事)を通じて収集す

るデータ:

•政策導入前の喫煙に伴う外部費用

•政策導入後の外部費用の変化

•政府による理由や目的の説明についての情報

•タバコの消費の変化に関する情報

考えられる一次研究:

•調査またはアンケートで消費パターンがどれだけ影響を受

けたかを評価し、市場を3つのカテゴリー(喫煙歴の長い喫

煙者、それほど長くない喫煙者、喫煙を始める前に影響を受

ける可能性のある若者)に分ける

•行政担当者、医療経済学者、またはこの分野を専門とする新

聞記者に聞き取り調査を行う

トピック Y国のファーストフード業界におけるX社の独占力の乱用

研究課題(リサーチクエスチョン)

X社はY国のファーストフード業界において、どの程度、独占力

を乱用しているか。

アプローチ 深く研究する理論:

•独占力に関係するポジティブとネガティブな結果

二次研究(または一次研究)を通じて収集するデータ:

•Y国における価格設定、革新性、企業の社会責任という観点

からX社がとっているポジティブな行動

•Y国における価格設定、革新性のなさ、反競争慣行という観

点からX社がとっているネガティブな行動

•会社の行動についての新聞記事

考えられる一次研究:

•顧客に聞き取り調査を行って、顧客満足度を確認する

•国の競争委員会の担当者に宛てた電子メールで質問し、X社

の競争行動について情報を取得する

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き108

トピック Y国の公式インフレ率とX市のインターナショナル・スクール教師の賃金の関係

研究課題(リサーチクエスチョン)

X市のインターナショナル・スクールの教師の賃金を調整するう

えで、過去4年間にわたる公式なインフレ率はどの程度、正確な

方法をもたらしたか。

アプローチ 深く研究する理論:

•Y国のインフレ率はどのように計算されているか

•公式インフレ率の正確さにはどのような限界があるか

二次研究を通じて収集するデータ:

•Y国の消費者物価指数(CPI)の構成品目と比重

•Y国のCPIの当該期間中の変化

考えられる一次研究:

•X市のインターナショナル・スクールの人事担当者に聞き取

り調査を行って、賃金がどのように決定されているか、特に

CPIの役割を尋ねる

•調査またはアンケートを実施して、インターナショナル・ス

クールの“平均的”な教師が購入している物品とサービスに

おける品目別の比重を見極める

トピック 携帯電話がY国の商業地であるX町の経済開発に及ぼした影響

研究課題(リサーチクエスチョン)

携帯電話の使用増加は、ある発展途上国の商業地の町の経済開発

にどのように寄与したか。

アプローチ 深く研究する理論:

•経済開発の理論

•経済開発に伴う特徴

•携帯電話を発展途上国で使用することで達成される理論上

の利点

二次研究を通じて収集するデータ:

•携帯技術が使えるようになる前にY国の市場機能に見られ

た課題(NGOの報告書)

•携帯電話がY国のX町の市場機能をどのように変化させた

か(NGOの報告書、新聞記事)

考えられる一次研究:

•地元で商売を営んでいる人に聞き取り調査を行って、携帯電

話が事業運営の能力をどのように変えたかを聞く

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 109

トピック X国における排出ガス量の高い車への課税と低排出ガス車の購入の関係

研究課題(リサーチクエスチョン)

X国で排出ガス量の高い車に対する間接税が最近変更されたこ

とにより、低排出ガス車の購入にどの程度、影響があったか。

アプローチ 深く研究する理論:

•自動車の排気ガスという文脈における市場の失敗の理論、消

費に関連する負の外部性とそれへの対策、特に間接税

•排出ガス量の高い車とその代替としての低排出ガス車

二次研究を通じて収集するデータ:

•車の排出の外部費用を裏づける証拠(行政の文書、新聞記

事、環境団体の発行物)

•税制の変更がどの程度、排出削減の目標のためであったか

(行政の文書、新聞記事)

•税制の変更前と変更後の低排出ガス車の台数についての

データ

考えられる一次研究:

•車の販売店のマネージャーに聞き取り調査を行って、税制の

変更に関する見方を聞く

•新車購入者に聞き取り調査を行って、購入する車を決める際

の理由を聞く

「使い回し」についての重要な注意事項生徒は、「課題論文」がDPの評価のために提出する他の成果物と大幅に重複しないよう

にしなければなりません。例えば、「経済」の「課題論文」のために収集したデータを、他

の科目の内部評価の課題要件を満たすために使用してはなりません。

「経済」の「課題論文」と内部評価内部評価の課題であるコメンタリーのポートフォリオが、深く研究してみたいトピック

のアイデアをもたらすことはあります。が、「課題論文」をこの課題の延長とすることはで

きません。

内部評価と「課題論文」の間には以下のように明らかな違いがあることを、生徒は理解

しなければなりません。

•どちらも経済理論を具体的な実社会の状況に応用する機会をもたらしますが、内部

評価はニュースメディアで報道された特定の記事に基づいています。

•「課題論文」では、生徒の選んだトピックと研究課題(リサーチクエスチョン)に

よってどの経済理論が関連性があるかが決まってきます。内部評価のコメンタリー

では、記事がこれを決定します。

•どちらも二次文献を使用しますが、内部評価では、特定の新聞記事以外の文献を調

べることは期待されていません。

•内部評価では、一次研究は期待されていません。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き110

•内部評価では、各コメンタリーに対してより厳しい語数制限が課されています。

4000 語(日本語の場合は 8000 字)が許される「課題論文」は、はるかに深く幅広

い研究であることを意味します。

これらの違いを生徒に理解させるうえで、指導教員は重要な役割を果たします。学問的不正

行為があったと判断されれば、生徒はディプロマを取得できなくなる可能性があります。

「課題論文」の評価規準の解釈

規準A:焦点と方法

(要素:トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、方法論)「経済」の「課題論文」のトピックと文脈は、論文の冒頭で明確に提示されなければなり

ません。具体的には、この論文が経済学のどの理論領域に関係するのか、選んだトピック

がその領域にどのようにあてはまるのか、またなぜ探究に値するのかを明確に示すことが

含まれます。

トピックが具体的な出来事、問題、政策に関係する場合は、過去5年以内のものである

べきです。将来の出来事や仮定的な出来事を論じることはできません。

生徒は、研究課題(リサーチクエスチョン)の形式でトピックを表明しなければなりま

せん。質問は具体的で的が絞れており、経済理論を使って、かつ語数制限以内で効果的に

論じることができる必要があります。

“二連式”の質問、すなわち複数の質問を含むべきではありません。

研究課題(リサーチクエスチョン)は、研究して答えを探す必要のある、真の質問であ

るべきです。つまり、研究課題(リサーチクエスチョン)に対する答えが最初から明らか

であってはなりません。

生徒は、十分な幅のある適切かつ関連性の高い文献を選定したことを示さなければなり

ません。これには、ケーススタディと関連する経済理論、例えばその領域における最新ま

たは近年の学術分析などについての二次研究が含まれます。

また、一次研究をすることもできます。例えば、関係分野の知識や素養をもった人々へ

の聞き取り調査、および調査やアンケートなどが考えられます。調査やアンケートを実施

する場合は、入念に計画して、研究課題(リサーチクエスチョン)に関係する情報のみを

集めなければなりません。結果は、適切な幅のある回答者に基づいていて、統計的に有意

でなければなりません。一次研究は必須ではありません。

論文の最初のほうで方法論を明確に説明し、研究のステップと収集するデータの性質を

解説すべきです。

5年ルールトピックが具体的な出来事、問題、政策に関係する場合は、過去5年以内のものである

べきです。将来の出来事や仮定的な出来事を論じることはできません。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 111

規準B:知識と理解

(要素:知識と理解、コミュニケーション)論文は、関連する経済理論の有効な理解を示し、またその理論と収集したデータをど

のように使用して研究課題(リサーチクエスチョン)に対応するかを明確にしなければな

りません。論文で使用するデータと理論はすべて、研究課題(リサーチクエスチョン)に

とって明らかに関連性があり、かつ適切であるべきです。

生徒は、関連するモデルを適切かつ正確に応用することで、経済理論の健全な理解を示

す必要があります。できるかぎり、トピックについて取得した実社会の具体的な情報に基

づいて、モデルを応用すべきです。

知識と理解は、経済学の用語を適切に用いることを通じて、効果的に示すことができま

す。定義を脚注に含めるべきではありません。

また、知識と理解は、正確に作図して適切なラベルと説明をつけた図解によっても効果

的に示すことができます。二次文献から引用した一般的な図解は使用すべきではありませ

ん。関連するラベルや数字を使って、論文の文脈に図解をあてはめる必要があります。

研究の文脈における知識と理解であることを示すには、背景的な理論や用語を別立ての

セクションで説明するのではなく、論文全体にわたって研究課題(リサーチクエスチョン)

に統合させる必要があります。図解は、その関連性を裏づける証拠で支えられている場合

のみ、論文に含めるべきです。

規準C:批判的思考

(要素:研究、分析、議論と評価)研究とは、関係する経済理論についての研究と、自分のトピックについて集めた情報に

ついての研究の両方を意味します。使用する研究は、研究課題(リサーチクエスチョン)

にとって常に関連性がなければなりません。研究課題(リサーチクエスチョン)にとって

の関連性が明らかでない資料を含めれば、分析の焦点がぼやける結果になり、この規準で

高い評点を得られなくなります。

経済理論と実社会の証拠をつなぎ合わせて議論を構築し、研究課題(リサーチクエス

チョン)に対する確固とした答えに帰着することが期待されています。分析に含まれるポイ

ントは、生徒が研究を通じて選定した具体的かつ関連性の高い文献によって常に支えられ

ていなければなりません。明確で論理的な議論は、研究課題(リサーチクエスチョン)に

幾度も言及することによって構築できるかもしれません。記述や説明が大半を占める論文

は、分析スキルの証拠を示さないため、この規準で高い評点を得られないでしょう。

図、チャート、表、画像、グラフなどの形式のデータは、すべて論文内に含め、その表

示個所にできるだけ近いところで分析しなければなりません。研究課題(リサーチクエス

チョン)に答えるのに使用しないデータを含めるべきではありません。また、データの分

析を読者任せにすべきでもありません。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き112

議論を構築する際は、自分の研究や使用した経済理論に限界があることを認識・理解し

て、それを示さなければなりません。論文で扱ったケーススタディの現実を説明するうえ

で、どの経済理論がどの程度有効か、または有効でないかを、批判的に評価すべきです。

この評価は、論文の別立てのセクションに含めたり、結論でのみ言及したりするのではな

く、分析を有効に支える個所に統合すべきです。

結論は、論文で提示した証拠や分析と一貫性のある内容を述べなければなりません。論

文全体を通じて提示した議論に反応しながら結論を導くことができます。研究課題(リ

サーチクエスチョン)に対する生徒自身の答えを総括する結論がなければなりません。研究

の結果として生じた疑問は、批判的に認識した証拠として最後に言及することができます。

5年ルール5年ルールに従わなかった場合は、この規準の最高評点は6点となります。

規準D:形式

(要素:構成とレイアウトの要素)この規準では、学術研究論文の形式に関する一般的な基準に、生徒の論文がどの程度

則っているかを評価します。また、これらの形式が、論文を読み、理解し、評価するとい

う点でどれだけ効果を示しているかも評価します。

生徒は、論文をセクションとサブセクションに分け、適切な情報を伝える見出しをつけ

る構成にまとめることができます。ただし、小見出しをつける際は、論文で提示している

議論の全体的な構成を邪魔しないようにすべきです。

文献からグラフ、チャート、画像、表を引用する際は、思慮深く選定し、適切なラベル

をつけなければなりません。研究課題(リサーチクエスチョン)に直接的に関係し、議論

の理解に寄与し、かつ見た目の質が高いもののみを使用します。

自分で収集した生データを記載した大きな表は、付録に含めるのが賢明です。その場合

も、適切なラベルをつけるべきです。グラフ、チャート、表をあまりにも多く使用すれば、

全体的なコミュニケーションの質を下げる結果になります。

論文の議論にとって不可欠な処理加工済みのデータのみを本論に含め、そのデータに最

初に言及する個所にできるだけ近いところに表示すべきです。

表は、記述文の説明を補って高めるものであるべきです。また、表中に大量の文字を含

んでいるべきではありません。表中に文字が多く含まれている場合は、論文の語数として

数えられます。付録は試験官に読まれないため、慎重に使用する必要があります。論文の

分析や議論や評価に直接的に関係する情報はすべて、論文の本論に含めなければなりま

せん。

オリジナルでない素材はすべて、注意して認識しなければなりません。特に、引用やア

イデアの参照と明記には注意する必要があります。このことは、印刷媒体や電子媒体の文

献で出版された視聴覚資料、文章、グラフ、データにあてはまります。参照がこの手引き

で定められた最低要件(著者名、発行日、文献名、必要に応じてページ番号)を満たして

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 113

いない場合、かつ一貫して使用されていない場合は、学問的不正行為の可能性があるケー

スと見なされます。

参考文献目録はきわめて重要であり、標準的な形式で付記されなければなりません。表

紙、目次、ページ番号などは、論文の形式の質を高めるものになっている必要があります。

論文は、4000語(日本語の場合は 8000字)以内で書かなければなりません。グラフ、図、

計算、図解、公式、等式は、語数には数えられません。4000 語(日本語の場合は 8000 字)

を超えた時点で、試験官はそこから先を読まず、また評価もしないことを、生徒は認識す

る必要があります。

規準E:取り組み

(要素:計画および進捗についての振り返り)この規準では、試験官がおよびおよび進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」を

検討したうえで、論文の評価の最後に評価を下します。研究の過程と科目の領域に対する

生徒の取り組みについて試験官が抱いた全体的な印象が、評価の対象となります。

生徒は、論文を完成させる過程で自分が下した意思決定や計画策定のプロセスについて

の振り返りを提出します。この振り返りでは、どのようにしてトピックを選んだか、使用

した研究方法やアプローチを選んだかを示さなければなりません。この規準で評価するの

は、計画のプロセスを通じて意思決定にどの程度の理由づけが見られたか、および生徒が

スキルと理解をどのように発達させたかです。

生徒は、例えば以下のような点を振り返ることができます。

•選択したアプローチとストラテジー、その相対的な成功度

•自分が習得した「学習の方法」のスキル、学習者として自分がどのように成長したか

•研究の結果として、自分の概念理解がどのように発展あるいは変化したか

•研究の過程で直面した困難、それをどのように克服したか

•研究の結果として浮上した疑問

•同じ研究をもう一度やるとしたら、何をどのように変えてみるか

効果的な振り返りとは、「課題論文」の過程を通じて生徒がたどった道のりを示すもので

す。生徒は、自分の取り組みの姿勢を実証するため、自分が実践した手順を単純に描写す

る以上の批判的思考と振り返りの証拠を示さなければなりません。振り返りは、研究過程

における生徒の思考、創造性、オリジナリティについて、試験官に洞察をもたらす必要が

あります。生徒の「声」が明確に伝わり、研究の過程で起こった学びが示されていなけれ

ばなりません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き114

詳細―科目別

地理

概要「地理」の「課題論文」は、さまざまな地理のスキルを応用して深いレベルの個人研究を

行い、地理学の概念、方法論、理論、および地理情報に明確な重点を置いた文献を使用す

る機会を生徒にもたらします。

トピックの選択論文のトピックには、DPの「地理」の領域に関連したものを選ぶことができますが、

そうでないものも選ぶことができます。他の幅広い科目領域を考察することができ、例え

ばグローバルな問題を地理学の目を通して眺めてみるといったことが可能です。

研究トピックの例

以下の例は、あくまでも参考という位置づけです。(表の右側のような)幅広いトピック

ではなく、(表の左側のような)的の絞れたトピックを選ばなければなりません。

 的の絞れたトピック  幅広いトピック

土壌の特性が、XYZ州ABC町における農

地使用に及ぼす影響の度合い

土壌の特性が農業に及ぼす影響

XYZ州ABC町の島で持続可能な観光業

を実現するうえでの課題

慎重な対処が求められる環境で優先課題と

される観光業の管理

X国に移住する難民のパターンの変化に影

響している要因

難民の移住に見られるさまざまなパターン

ABCショッピングセンター再開発の結果

としてXYZに生じたポジティブな影響

商業地区の再開発とその効果

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 115

トピックの取り扱い指導教員は、研究課題(リサーチクエスチョン)が以下の要件を満たしていることを確

認しなければなりません。

•科目にとって関連性が高い

•地理学的な文献を使用することができる

•関連する科目の概念、理論、考え方の応用を促す

生徒は、論文の早い段階で、研究課題(リサーチクエスチョン)の地理学的な文脈と理

論的な文脈を確立すべきです。そして、地理学的な文脈を明確に説明し、その文脈のなか

で以下のものを使用して研究を行います。

•注釈つきの地図(1つまたは複数)

•関連する場合は写真や衛星写真

研究方法

方法論一次研究は必須ではありませんが、出版済みの文献のみに基づいた論文が高い評点を得

ることはほとんどありません。

良い論文に結びつく研究トピックの多くは、国勢調査や気象統計などのデータに基づい

ています。

また、国・地域のスケールで行った調査も、通常、以下の点において優れた論文を導き

ます。

•ローカルな現象や事例と科目の間のつながりを明確にする

•焦点が狭く絞られるため、出版済みの文献に頼りすぎず、オリジナルな研究を奨励

する

•馴染みがあり自分で行ってみることのできる場所で調査をすることによって、生徒

の主体性が高まる

生徒は、個人研究に重点を置き、グループでデータを収集するフィールドワークのアプ

ローチは回避すべきです。「課題論文」を、フィールドワークの単なる拡大版と理解しては

なりません。

調査方法についての情報は、きわめて重要です。生徒が自分でデータを収集した場合は、

高い品質のデータでなければなりません。研究課題(リサーチクエスチョン)に合わせて

適切に調査し、慎重に計画を立てた証拠を示すことが欠かせません。

評価されるのは、データの収集と処理の技法ではなく、分析のスキルです。「課題論文」

の重点は、以下の点に置かれるべきです。

•記述による分析

•解釈

•議論

•批判的評価

•一貫した論理的な議論の構築

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き116

リソース

「地理」の「課題論文」にとって適切なリソースには、以下のようなものが含まれます。

•一次および二次データ

•定量的および定性的情報

•書籍、新聞、雑誌

•聞き取り調査、アンケート調査

•インターネット

•地図

•空撮写真、衛星写真

•デジタル地形シミュレーション

•ビデオ

•地理情報システム(GIS)

•図解、模型

生徒は、適切な定量的、統計的、または定性的な技法を使ってデータを分析し、その結

果を批判的に評価すべきです。

トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、アプローチ提案の例

生徒は、トピックを選択し、研究課題(リサーチクエスチョン)を設定した後、その答

えを研究するための方法を決めることができます。これには、幅広いアプローチを大雑把

に説明した表明文を書くとよいかもしれません。以下の例は、あくまでも参考という位置

づけです。

トピック インド2州の出生率の違いを説明する要因

研究課題(リサーチクエスチョン)

ウッタル・プラデーシュ州とケーララ州の合計特殊出生率の違い

は、どのように説明することができるか。

アプローチ インドの2州、北部のウッタル・プラデーシュ州と南部のケーラ

ラ州を、合計特殊出生率の違いという観点から対比する。各州の

合計特殊出生率の推移を考察する。農村部と都市部の人口割合、

男女の割合、乳児死亡率、女性の識字率、宗教、収入、現地の慣

習の違いを考察し、対照的なレベルにある合計特殊出生率と各州

の変化率の違いを説明する。

トピック シンガポールの交通機関「サークルライン」の持続可能性

研究課題(リサーチクエスチョン)

シンガポールのサークルラインは持続可能な交通機関であると、

どこまで議論することができるか。

アプローチ

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 117

トピック 韓国の寿城区のグローバル化

研究課題(リサーチクエスチョン)

寿城区は、社会的にグローバル化されたコミュニティーと見なす

ことができるか。

アプローチ KOFグローバル化指数の社会的グローバル化の定義を用いる。

アンケート調査を行って、寿城区の 13 地区それぞれの社会的グ

ローバル化のレベルについて情報を集める。具体的には、衣服、

音楽、食、言葉、技術、外国のテレビ放送、新聞、サービスへの

アクセスを調べる。また、土地使用状況を調査して、外国のレス

トラン、ファーストフード店、小売店、サービスの幅を把握する。

さらに、個人的な接触、情報の流れ、文化面の密接度(KOF指

数)のレベルを、調査区域の抽出サンプルについて評価する。

イラストや地図

「地理」の「課題論文」は、図解、地図、表、画像、グラフなどの適切な例示資料で支え

る必要があります。これらの文献資料は、出典を明記しなければなりません。

地図•良質な論文は、通常、序論で地図を示し、研究に明らかな地理的文脈をもたらして

います。

•地図を使う際は必ず、方角と縮尺、さらに凡例を示すべきです。

•使用した地図はすべて出典を明らかにし、自分で作成した以外に基本となった地図

がある場合も明示すべきです。

•スキャンした地図や衛星写真、およびダウンロードしたままで改変していない地図

が有効に機能することはほとんどなく、地図を扱うスキルの証拠もほとんど示しま

せん。ただし、これらの画像を変更または調整することは奨励されます。

•以下のものを論文に含むことが奨励されます。

- スケッチの地図

- ラベルや注釈をつけた図解

- 自分で作成した地図

•コンピューター・ソフトウェアを使って地図を作成した場合は、使用したプログラ

ムを明記すべきです。手描きの地図は、きれいで明確であるべきです。また、標準

的な地図の決まりに則って作成すべきです。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き118

画像や写真•画像や写真は、論文にとって不可欠な例示要素である場合のみ使用します。単なる

装飾目的であってはなりません。

•画像や写真を使って示そうとしている点を説明すべきです。また、以下の条件を満

たす必要があります。

- 方角が示されている

- 出典が示されている

- ラベル、注釈、説明がつけられている

•地理の例示資料ではしばしば色が使われます。このため、オリジナルのカラーの

バージョンの論文を提出することが重要です。

「使い回し」についての重要な注意事項生徒は、「課題論文」がDPの評価のために提出する他の成果物と重複しないようにしな

ければなりません。

「地理」の「課題論文」と内部評価「地理」の「課題論文」は、内部評価課題の延長ではありません。生徒は、この2つの違

いを理解しなければなりません。

これらの違いを生徒に理解させるうえで、指導教員は重要な役割を果たします。学問的不正

行為があったと判断されれば、ディプロマを取得できなくなる可能性があります。

「課題論文」の評価規準の解釈

規準A:焦点と方法

(要素:トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、方法論)「地理」の「課題論文」のトピックは、冒頭で明確に述べられていなければなりません。

これには、研究の領域、目的、および論文の焦点が含まれます。これを述べることによっ

て、研究課題(リサーチクエスチョン)の文脈を明確に確立します。通常は、場所につい

ての全般的な背景情報を盛り込むほか、研究課題(リサーチクエスチョン)がどのように

設定されたかを理解するのに必要となる地理学の理論や概念を説明するのが適切です。何

よりも重要な点として、地理学の要素が明確に存在しているべきです。例えば、論文のト

ピックが「ムンバイ南部における衣料品小売店の分布」であれば、このトピックの説明に

は主な道路や市場への道順といった場所についての情報が含まれるかもしれません。

研究課題(リサーチクエスチョン)は、実際に質問文の形式で述べるのが最も望ましい

方法です。例えば、「クイーンズランドの土着民族の教育水準にとって、場所がどの程度、

影響しているか」などの形式です。研究課題(リサーチクエスチョン)は、明確に特定し、

論文の冒頭と表紙ページではっきりと提示すべきです。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 119

生徒は、自分の研究方法が十分な計画のうえで選ばれたことを、論文で実証しなければ

なりません。トピックをリサーチしたうえで、研究課題(リサーチクエスチョン)に答える

という目的に適した地理学的アプローチを選定したことを示すことが期待されています。

このことは、文献研究と実際的なデータ収集にもあてはまります。収集するデータは一次

データでも二次データでも構いませんが、優れた論文は両方を使用する傾向にあります。

生徒は、自分の選んだ研究方法と文献が研究課題(リサーチクエスチョン)にとって適切

であることを確認し、実証しなければなりません。調査方法は、明確に説明されているべ

きです。十分に明確にすることで、必要であれば他の人が同じ調査の作業を繰り返せるよ

うにする必要があります。また、その研究の信頼性も議論すべきです。

これまでによく議論されてきた標準的なトピックを調査する場合は、新しいアプローチ

や観点をもたらすようにすべきです。これはおそらく、自分の町など生徒自身が経験した

ことのある特定の場所を選ぶことで達成できるでしょう。例えば、気候変動を取り上げる

トピックであれば、あるスキー場の積雪量の変化を見ることができるかもしれません。こ

のように、生徒の手に負える範囲のローカルな規模で研究を行います。

規準B:知識と理解

(要素:知識と理解、コミュニケーション)使用する文献は、研究課題(リサーチクエスチョン)にとって明らかに関連性があり、

かつ適切であるべきです。効果的に文献を参照して論文の本論に組み込むことで、生徒の

理解を示す必要があります。引用する文献は、主に定評ある発行物などから取得したもの

であるべきです。生徒は、自分で選んだ文献と方法を効果的に使用して、自分の議論を構

築する能力を示さなければなりません。

「地理」の論文では、適切な用語を理解して適切に使う能力があることを示す必要があり

ます。技術的な用語や概念を使用する場合は明確に説明し、文章のなかで適切に使うこと

によって、理解を示さなければなりません。また、論文全体を通じて、首尾一貫した文体

を維持するよう努めなければなりません。

規準C:批判的思考

(要素:研究、分析、議論と評価)研究とは、文献の研究と自分で収集したデータの研究の両方を意味します。

研究課題(リサーチクエスチョン)にとっての関連性が常に保たれなければなりません。

研究過程でサンプル抽出を行う場合は、有効な分析ができるようなサンプルの抽出方法

とサンプルサイズを使用しなければなりません。

生徒は、データと文献を適切に示して分析すべきです。データは、結論に至るまでの議

論を支えて明確にするような方法で分析し、提示しなければなりません。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き120

この分析には、例えば以下のようなものが含まれます。

•さまざまな縮尺と種類の地図

•統計的な分析

•処理加工済みのデータの表

•グラフ

データを統計的に分析する場合は、なぜその統計検定を選んだのか、その結果が何を意

味するのかについての理解を、明確に示さなければなりません。

地図、グラフ、情報グラフィックを使用する場合は、正しく選定し、分析の主な要素を

例示するように作成する必要があります。これらの素材は、論文の中で情報を効果的に伝

えることに役立つ場合のみ使用すべきです。

生徒は、研究課題(リサーチクエスチョン)に焦点をあてて、理にかなった論理的な議

論を構築するよう努めるべきです。多数の変数が伴う論文は、焦点がぼやけ、一貫性を失

いがちです。

明確で論理的な議論は、研究課題(リサーチクエスチョン)とそれから導いた仮説に幾

度も言及することによって構築できます。データによって仮説がどこまで実証されたか、

または研究課題(リサーチクエスチョン)がどこまで回答されたかの評価は、議論の一部

を構成すべきです。

結論は、論文で提示した研究と一貫性のある内容を述べなければなりません。

地理学の研究では予想外の結果が出ることも多々あります。その場合は、それを指摘す

べきです。最初に立てた研究課題(リサーチクエスチョン)が、調査によって完全には回

答されない可能性もあります。その場合は、未解決の問題を説明し、その点をさらに突き

詰めて考察するには何を行うとよいと思うかを提案すべきです。

さらに生徒は、自分の研究の信頼性、量、バランス、質についてもコメントしなければ

なりません。これには、データ収集と文献の両方の側面が含まれます。自分の選んだアプ

ローチに内在する限界や不確定性に対する認識を示すべきです。特に、データの有効性と

信頼性については、調査に際しての変数の管理方法という観点から批判的にコメントすべ

きです。

規準D:形式

(要素:構成とレイアウトの要素)この規準では、学術研究論文の形式に関する一般的な基準に、生徒の論文がどの程度

則っているかを評価します。また、これらの形式が、論文を読み、理解し、評価するとい

う点でどれだけ効果を示しているかも評価します。

生徒は、論文をセクションとサブセクションに分け、適切な情報を伝える見出しをつけ

る構成にまとめなければなりません。図解要素は、論文の最後にまとめて示すのではなく、

論文内の関連する箇所に表示して分析します。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 121

「地理」は図解を用いる科目であるため、文献からの地図、グラフ、情報グラフィック、

画像、表などを論文に含めることができます。使用にあたっては、慎重に選定し、ラベル

をつけ、出典を明記しなければなりません。研究課題(リサーチクエスチョン)に直接的

に関係し、議論の理解に寄与し、かつ見た目の質が高いもののみを使用します。

生徒自身が作成する図解資料も、やはり慎重に選定すべきです。スキャンした場合は、

品質が良く、読みやすいものである必要があります。

自分で収集した生データを記載した大きな表は、付録に含めるのが賢明です。その場合

も、適切なラベルをつけるべきです。処理加工済みのデータの表は、最も適切な形式で情

報を示すようなデザインであるべきです。データを図解として示すこと、特に地理学的に

示すことは、奨励されています。

優れた地図作成の技法は、きわめて重要です。分析済みのデータに基づいて作成した地

図、グラフ、情報グラフィックは、議論にとって最も関連性のある側面のみを示すよう選

定すべきです。グラフ、チャート、表などを多用しすぎれば、全体的な印象を邪魔する可

能性があります。表に文字が多く含まれている場合は、語数に数えられます。

オリジナルでない素材はすべて、注意して認識しなければなりません。特に、引用やア

イデアの参照と明記には注意する必要があります。このことは、印刷媒体や電子媒体の文

献で出版された視聴覚資料、文章、グラフ、データにあてはまります。参照がこの手引き

で定められた最低要件(著者名、発行日、文献名、必要に応じてページ番号)を満たして

いない場合、かつ一貫して使用されていない場合は、学問的不正行為の可能性があるケー

スと見なされます。

参考文献目録はきわめて重要であり、標準的な形式で付記されなければなりません。表

紙、目次、ページ番号などは、論文の形式の質を高めるものになっている必要があります。

論文は、4000 語(日本語の場合は 8000 字)以内で書かなければなりません。地図、グラ

フ、図、情報グラフィック、計算、図解、公式、等式は、語数には数えられません。4000

語(日本語の場合は 8000 字)を超えた時点で、試験官はそこから先を読まず、また評価も

しないことを、生徒は認識する必要があります。

規準E:取り組み

(要素:計画と進捗についての振り返り)この規準は、研究の焦点と研究過程に対して生徒がどのように取り組んだかを評価しま

す。試験官が「計画と進捗についての振り返りフォーム」を検討したうえで、論文の評価

の最後にこの規準の評価を下します。

生徒は、論文を完成させる過程で自分が下した意思決定や計画策定のプロセスについて

の振り返りを提出します。この振り返りでは、どのようにしてトピックを選んだか、使用

した研究方法やアプローチを選んだかを示さなければなりません。この規準で評価するの

は、計画のプロセスを通じて意思決定にどの程度の理由づけが見られたか、および生徒が

スキルと理解をどのように発達させたかです。

Page 132: ®] J æ ¯¢ £ ¦ w ¾V...「課題論文」(EE):指導の手引き 1 「課題論文」について はじめに ディプロマプログラムについて ディプロマプログラム(DP)は16歳から19歳までの大学入学前の生徒を対象とした、

詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き122

生徒は、例えば以下のような点を振り返ることができます。

•選択したアプローチとストラテジー、その相対的な成功度

•自分が習得した「学習の方法」のスキル、学習者として自分がどのように成長したか

•研究の結果として、自分の概念理解がどのように発展あるいは変化したか

•研究の過程で直面した困難、それをどのように克服したか

•研究の結果として浮上した疑問

•同じ研究をもう一度やるとしたら、何をどのように変えてみるか

効果的な振り返りとは、「課題論文」の過程を通じて生徒がたどった道のりを示すもので

す。生徒は、自分が実践した手順を単純に描写する以上の批判的思考と振り返りの証拠を

示さなければなりません。

振り返りは、研究過程における生徒の思考、創造性、オリジナリティについて、試験官

に洞察をもたらす必要があります。生徒の「声」が明確に伝わり、研究の過程で起こった

学びが示されていなければなりません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 123

詳細―科目別

歴史

概要「課題論文」は、自分の興味のある領域に深く踏み込んで、ローカル地域にとっての意

義、またはグローバルな意義のあるトピックを研究する機会を生徒にもたらします。

研究の成果は、一貫性があり構成のしっかりした論文にまとめ、この論文を通じて、研

究課題(リサーチクエスチョン)として表現された具体的な問題に効果的に答える必要が

あります。

研究課題(リサーチクエスチョン)は、分析的かつ批判的な論評を導くような考察を促

す質問であるべきです。「何が」や「どのように」といった単刀直入な質問は、記述的な扱

いにつながる可能性が高いため避けるべきです。「どれほど重要であったか」や「どれだけ

効果があったか」といった表現のほうが、分析を促す可能性が高まります。

「どの程度」は分析的な答えを要求しますが、この表現や似た表現の質問を選ぶ場合は、

答えるにあたって他の要因も考察する必要のある内容にしなければなりません。

トピックの選択トピックは、以下の要件を満たさなければなりません。

•人間の過去(10 年以上前)に焦点をあてている

•研究に値する

•規定の評価規準に則った体系的な探究の機会をもたらす

10 年ルール

過去 10 年以内の出来事に焦点をあてた論文は認められません。10 年以内の出来事は、

歴史ではなく現代事情と見なされるためです。10年以内の出来事を取り扱った論文は、複

数の評価規準にわたって不利を招きます。

トピックをDPの「歴史」のコース内容から選ぶ必要はありませんが、指導教員が認め

るトピックでなければなりません。

トピックは、文献資料の批判的分析を可能にし、かつ全般的な二次文献(教科書や百科

事典など)の要約に終始しないものであるべきです。このようなアプローチは、単に説明

的あるいは記述的な論文に終わってしまうでしょう。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き124

トピックは、4000 語(日本語の場合は 8000 字)という制限語数内で効果的に探究でき

るトピックでなければなりません。歴史の多数の側面、あるいは長期にわたる期間を取り

上げる論文は、効果的な論文にならない可能性が多々あります。

論文の範囲を狭めることは、以下の点で重要です。

•明確な焦点のある論文を執筆するうえで欠かせない重要なステップとなる

•詳細かつ具体的な歴史の知識と理解、および批判的分析を示せるようになる

トピックの例

以下の例は、あくまでも参考という位置づけです。(表の右側のような)幅広いトピック

ではなく、(表の左側のような)的の絞れたトピックを選ばなければなりません。

(研究課題(リサーチクエスチョン)に加えてタイトルをつける必要はありません。むし

ろ研究課題(リサーチクエスチョン)とタイトルが同じであるほうが焦点が明確になるた

め、推奨されます)

 的の絞れたトピック  幅広いトピック

江戸幕府の崩壊へとつながった経済的理由

の考察

江戸幕府の崩壊

1945 ~ 1948 年にドイツの米国占領地域で行

われた非ナチ化の効果の評価

第二次世界大戦後のドイツの非ナチ化

ウクライナで1932~ 1933年に起きたホロド

モールは、どの程度、スターリンによる集団

化政策の失敗であったかについての考察

ソ連における集団化の導入

1973 年のアジェンデの失権は、どの程度、外

部要因の結果であったかについての考察

1973 年のアジェンデ政権に対するクーデ

ター

生徒がトピックを絞り込めるようにするための1つの方法として、DPの「歴史」で取

り上げる以下の主要概念を考えるよう促すことが挙げられます。

•原因

•結果

•変化

•継続

•意義

•観点

原因と結果は、「歴史」の「課題論文」で最もよく使われる焦点です。主要概念すべてに

ついて考えることで、生徒は、これらの概念を超える考えを持てるようになるでしょう。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 125

トピックの取り扱い

科目の焦点

トピックのなかには、「経済」や「地理」など他の科目の観点からアプローチできるもの

もあります。社会的な歴史には、音楽やスポーツといった領域も含まれます。

生徒は、自分のトピックの扱い方が、以下の「歴史」の科目要件を満たしていることを

確認しなければなりません。

•社会的な歴史には音楽やスポーツなどの領域が含まれる一方で、「歴史」の「課題

論文」としては、これらの領域は歴史的な観点からアプローチした場合のみ容認さ

れます。

研究課題(リサーチクエスチョン)は、以下のものを導くような内容でなければなりま

せん。

•体系的な探究

•批判的な分析

•詳細な理解

また、十分に文献が手に入ることも重要です。リサーチの初期の段階で文献が十分にな

いことが分かった場合は、研究の焦点を変更すべきです。必要に応じて指導教員が生徒に

変更を促すべきです。

文献

研究に際して一次文献と二次文献の両方を使用することにより、最も高いレベルの評価

を得やすくなるでしょう。

二次文献のみを使用する場合は、評価規準に対応するため特に注意を払う必要が生じ

ます。

研究課題(リサーチクエスチョン)へのアプローチ方法としては、以下のようなものが

考えられます。

•一次文献と二次文献を使用して、さまざまな解釈を確立し、評価する。

•文献を分析して、特定の出来事や展開についての見方が時間の経過とともにどのよ

うに変化したかを説明する。

•事例研究や地域史のプロジェクトに文献を使用する。例えば、地域レベルの展開と

国レベルの展開を比較することなどができる。

•家族や他の人から口述や記述でデータを収集して分析し、過去に起こった出来事の

説明に役立てる。例えば、地域レベルの展開と国レベルの展開を比較することなど

ができる。

•利用可能なすべての文献を使って、研究課題(リサーチクエスチョン)に答える。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き126

トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、アプローチの例

生徒は、トピックを選択し、研究課題(リサーチクエスチョン)を設定した後、その答

えを研究するための方法を決めることができます。これには、幅広い視点について、おお

まかに説明した短い文章を付け加えると良いでしょう。以下に示す例は、すべて過去に生

徒が選んだものであり、あくまでも参考という位置づけです。

トピック 1945 ~ 1948 年のヨーロッパにおける冷戦の起源

研究課題(リサーチクエスチョン)

1948 年のイタリアの選挙におけるキリスト教民主党の勝利は、ど

の程度、冷戦の緊張に影響されていたか。

アプローチ 戦後の共和国イタリアとして初めて行われたこの選挙の文脈と

重要性を完全に理解するために、文献を研究する。イタリア共産

党とキリスト教民主党が支持を取り付けるために使用した方法

を見極めると同時に、ソ連と米国が選挙の結果に影響を及ぼすた

めに果たした役割があるのであればそれを理解するために、より

詳細な研究も行う可能性がある。一次文献と二次文献の両方が使

えるため、どちらも使用する。さらに、さまざまな解釈を考察・

評価し、国内要因も考察することにより、冷戦の影響を検討して、

結論に到達する。

トピック オスマン帝国の衰退

研究課題(リサーチクエスチョン)

1683 年の(第二次)ウィーン包囲のオスマン帝国軍の失敗の背景

(原因)として、指導力の乏しさがどの程度影響を与えたのだろ

うか。

アプローチ トピックの前後関係を知るために文献を研究し、特にオスマン帝

国の性質と 17 世紀末までに見られた弱さを理解する。これによ

り、これらの要因が敗戦にどれだけ寄与し得たかを見極める。ま

た、スレイマン1世が 100 年以上前に死去した後、帝国の指導力

がどのように低下したかについての文献も研究する。ヨーロッパ

のキリスト教勢力が団結を強めつつあり、それが 1683 年の勝利

にどのように寄与したかも考察する。一次文献と二次文献の両方

を研究するほか、さまざまな歴史的解釈も参照して、当時のハプ

スブルク帝国を理解し、さらにこの包囲戦が収束した理由を理解

する。オスマン帝国の敗退を導いた要因に関するさまざまな解釈

の理非、およびキリスト教諸侯の連盟の成功を考察し、一次文献

と二次文献の両方を使用して判断を下す。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 127

トピック 1968 年のシカゴ民主党大会

研究課題(リサーチクエスチョン)

「私は最善を尽くした。そして負けた。ニクソン氏が勝った」(ハ

ンフリー・ヒューバート)。1968 年の大統領戦でヒューバート・ハ

ンフリーが敗れた原因は、どの程度、シカゴ党大会のせいであっ

たか。

アプローチ 暴動、デモ、暗殺などで揺れた 1968 年の出来事を知るため、全

般的な文献を研究する。一次文献と二次文献の両方を使用し、さ

まざまな解釈に触れることで、民主党から大統領選に出馬したハ

ンフリーの敗北の理由を発見する。その理由を特定し評価したう

えで、選挙の結果に影響した要因としての党大会の重要性につい

て判断を下す。

トピック アパルトヘイト終焉後の南アフリカにおける真実和解委員会

研究課題(リサーチクエスチョン)

真実和解委員会は、2002 年までに真実を確立し、和解を実現する

という2つの目標を、どこまで達成したか。

アプローチ 委員会議事録と報告内容を記載した一次文献と二次文献の両方

を使用して、背景情報を把握し、ノートをとる。また、委員会に

対する批判を考察し、それらの批判がどこまで正当化され得るか

を検討する。2002 年(委員会が解散した年)時点の結果を含める

ことで、探究の焦点を明確にし、範囲を十分に絞り込む。

批判的な分析と評価

生徒は、文献の価値と信頼性を無批判に受け入れるべきではありません。特に文献の正

統性が疑われる場合は、慎重になるべきです。

生徒は、研究で使用する主な文献の出所、目的、内容を分析することによって、文献の

価値と限界に対する認識を示すべきです。

•著者は誰か

•想定される読者は誰か

•この文献が制作された明らかな理由、および隠された理由は何か

生徒は、文献に対する評価を論文の本論に組み込むべきです。文献に対してそれだけを

頼りにするというアプローチをとるべきではありません(「『使い回し』についての重要な

注意事項」を参照)。

生徒は、文献資料や異なる説明と解釈についての健全な評価を実践することで、優れた

批判的分析と歴史的な判断を示すことができます。

さまざまな解釈があることを指摘し、それらを評価する機会は、選んだトピックによっ

て異なります。歴史学者の解釈を単に記述するだけでなく、なぜその学者がその解釈を形

成したのかを説明することには価値があります。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き128

論文の議論

生徒は、次のような議論を構築しようとすべきです。

•歴史学的な理解を一貫して示している

•研究課題(リサーチクエスチョン)を文脈のなかでとらえている

•研究課題(リサーチクエスチョン)に完全かつ効果的に答えている

•十分な根拠があり、関連性の高い具体的な証拠を基本として、それに分析的なコメ

ントを加えている

歴史の「課題論文」は、正式な論文であり、評価規準に則って採点されます。このため、

評価規準を意識せずに書かれた論文や、評価規準に対応しようとしていない論文は、良い

評点を得られません。

「使い回し」についての重要な注意事項生徒は、「課題論文」がDPの評価のために提出する他の成果物と大幅に重複しないよう

にしなければなりません。

歴史の「課題論文」と内部評価歴史の「課題論文」は、歴史の内部評価の延長ではありません。生徒は、この2つの違

いを理解しなければなりません。

「課題論文」 内部評価

振り返り •より全般的である

•自分の研究過程について振り返

ることを求める

•「知の理論」(TOK)の影響を受

けている

•歴史学的な方法を使用して、歴

史学者が直面した具体的な問題

と困難について振り返ることを

求める

目的 •歴史的な出来事についての学術

的な研究論文を執筆する

•歴史的な方法に重点を置く

トピック:「課題論文」と内部評価を同じ期間や類似したトピックで書くことはできます。

文献:一次文献と二次文献を幅広く研究したことを示すため、文献は十分に違いがなけ

ればなりません。つまり、内部評価と「課題論文」を完全に同じ文献のみに基づいて執筆

することはできません。同じ文献を部分的に含むことはできますが、それぞれの課題に独

自の他の文献も使用しなければなりません。

これらの違いを生徒に理解させるうえで、指導教員は重要な役割を果たします。学問的不正

行為があったと判断されれば、生徒はディプロマを取得できなくなる可能性があります。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 129

「課題論文」の評価規準の解釈

規準A:焦点と方法

(要素:トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、方法論)生徒は、人間の過去から意義のあるトピックを選ばなければなりません。過去 10 年以内

の出来事、個人、運動などについて論文で論じることはできません。例えば、2018 年の評

価用に提出される論文は、2008 年よりも前の出来事について論じなければなりません。こ

の規則に従わなかった場合は、この規準の最高評点は4となります。

選んだトピックは、研究課題(リサーチクエスチョン)の形式で表明しなければなりま

せん。研究課題(リサーチクエスチョン)は、的が絞れ、制限語数以内で有効に議論でき

るものでなければなりません。また、トピックについての歴史的な文脈と意義を確立し、

なぜそれが研究に値するかを説明しなければなりません。

生徒は、十分な幅のある適切かつ関連性の高い文献を選定したことを示さなければなり

ません。できるかぎり一次文献と二次文献の両方を使用するよう努めるべきです。また、

事実を説明する文献と歴史学者の意見を述べる文献の両方を使用すべきです。これらの文

献は、研究課題(リサーチクエスチョン)にとって関連性の高い議論と結論を展開し支え

るのに十分な文献でなければなりません。

入念に計画することと、よく的の絞れた研究課題(リサーチクエスチョン)を設定する

ことの間には、関係性があります。これが行われたかどうかは、研究課題(リサーチクエ

スチョン)に答えるにあたって関連性のある適切な文献が幅広く包括的に選ばれているか

どうかに表れます。

10 年ルール10 年ルールに従わなかった場合は、この規準の最高評点は4となります。

規準B:知識と理解

(要素:知識と理解、コミュニケーション)生徒は、研究課題(リサーチクエスチョン)の位置づけを幅広い歴史的な文脈で理解し

ていることを、論文で示さなければなりません。例えば、マーシャル・プランを冷戦の起

源に関連づけてとらえるといったことを意味します。つまり、マーシャル・プランについ

て論じるのであれば、なぜこの焦点が冷戦の起源の理解にとって重要であるかを示さなけ

ればなりません。

生徒は、研究課題(リサーチクエスチョン)にとって関連性の高い歴史の用語と概念を

理解し、正確に使う能力があることを示さなければなりません。

意味や文脈を明らかにするのが有益だと思われる場合は、その用語や概念の説明または

定義を述べることができます。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き130

また、自分の選んだ文献から得た知識を示し、それを分析したうえで、議論を構築して、

研究課題(リサーチクエスチョン)の結論に到達できる能力も示さなければなりません。

10 年ルール10 年ルールに従わなかった場合は、この規準の最高評点は4となります。

規準C:批判的思考

(要素:研究、分析、議論と評価)「歴史」の論文における研究とは、関連する文献を通して過去を批判的に眺めることを意

味します。生徒は、研究課題(リサーチクエスチョン)に対する自分なりの反応となる具

体的な議論や立場を構築し、提示し、効果的に証明しなければなりません。

この議論は、研究資料の価値と限界を分析または考察することによって支え、展開しな

ければなりません。

論文全体を通じて、研究課題(リサーチクエスチョン)の分析に関係する考えや概念を

提示する必要があります。関係のない考えや概念を含めれば、分析の価値から焦点を逸ら

すことになり、この規準で高い評点を得られなくなります。

議論と分析に含まれるポイントは、生徒が研究を通じて選定した具体的かつ関連性の高

い文献によって常に支えられていなければなりません。

完全に、またはほとんどが説明的あるいは記述的な性質の論文とすべきではありません。

そのような論文は分析スキルの証拠を示さないため、評点が低くなります。

「歴史」の論文において、歴史的な文献の分析に基づいた論理的な議論を展開するという

ことは、研究課題(リサーチクエスチョン)に対する自分の立場を述べることから始まる

可能性があります。その後、この立場を証拠で支えて、論理的な議論へと発展させます。

これが最終的に結論へとつながります。

結論とは、研究課題(リサーチクエスチョン)に対する自分なりの回答を要約するもの

です。この結論は、論文を通じて提示した立場や証拠と矛盾しないものでなければなりま

せん。論文の本論で言及しなかった文献を結論に含めることはできません。

研究の結果として将来の研究に値する可能性のある疑問が生じた場合は、これを結論に

含めることができます。

文献の相対的な価値と限界についての評価は、証拠の分析と論理的な議論の展開にとっ

て不可欠です。この評価は、論文の別のセクションにまとめるのではなく、本論に統合さ

せるべきです。そうすることにより、生徒が参照している文献や歴史学者の意見について

有益な情報や洞察をもたらし、議論を支えるのに役立つでしょう。

10 年ルール10 年ルールに従わなかった場合は、この規準の最高評点は4となります。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 131

規準D:形式

(要素:構成とレイアウトの要素)この規準では、学術研究論文の形式に関する一般的な基準に、生徒の論文がどの程度

則っているかを評価します。また、これらの形式が、論文を読み、理解し、評価するとい

う点でどれだけ効果を示しているかも評価します。

生徒は、論文をセクションとサブセクションに分け、情報を伝える見出しをつける構成

にまとめることができます。ただし、小見出しをつける際は、論文で提示している議論の

全体的な構成を邪魔しないようにすべきです。

チャート、画像、表の使用チャート、表、画像は、その表出箇所で議論を例証したり明確にしたりする場合のみ、

使用することができます。関係のない資料や表面的な資料を使用しても、良い採点には結

びつかず、むしろ議論にとって邪魔になる可能性があります。

表を使用する際は、文章の説明を補足するものであるべきです。また、表に大量の文字

を含めるべきではありません。表中に文字が多く含まれている場合は、論文の語数として

数えられます。付録は試験官に読まれないため、慎重に使用する必要があります。論文の

分析や議論や評価に直接的に関係する情報はすべて、論文の本論に含めなければなりませ

ん。チャート、画像、表はすべて、適切に参照し、出所を明示しなければなりません。

オリジナルでない素材はすべて、注意して認識しなければなりません。特に、引用やアイ

デアの参照と明記には注意する必要があります。このことは、印刷媒体や電子媒体の文献

で出版された視聴覚資料、文章、グラフ、データにあてはまります。参照がこの手引きで

定められた最低要件(著者名、発行日、文献名、必要に応じてページ番号等)を満たして

いない場合、かつ一貫して使用されていない場合は、学問的不正行為の可能性があるケー

スと見なされます。

参考文献目録はきわめて重要であり、標準的な形式で付記されなければなりません。表

紙、目次、ページ番号などは、論文の形式の質を高めるものになっている必要があります。

論文は、4000 語(日本語の場合は 8000 字)以内で書かなければなりません。チャート、

表、画像は、語数には数えません。4000 語(日本語の場合は 8000 字)を超えた時点で、

試験官はそこから先を読まず、また評価もしないことを、生徒は認識する必要があります。

規準E:取り組み

(要素:計画および進捗進捗についての振り返り)この規準は、研究の焦点と研究過程に対して生徒がどのように取り組んだかを評価しま

す。試験官が「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」を検討したうえ

で、論文の評価の最後にこの規準の評価を下します。

生徒は、論文を完成させる過程で自分が下した意思決定や計画策定のプロセスについて

の振り返りを提出します。この振り返りでは、どのようにしてトピックを選んだか、使用

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き132

した研究方法やアプローチを選んだかを示さなければなりません。この規準で評価するの

は、計画のプロセスを通じて意思決定にどの程度の理由づけが見られたか、および生徒が

スキルと理解をどのように発達させたかです。

生徒は、例えば以下のような点を振り返ることができます。

•選択したアプローチとストラテジー、その相対的な成功度

•自分が習得した「学習の方法」のスキル、学習者として自分がどのように成長したか

•研究の結果として、自分の概念理解がどのように発展あるいは変化したか

•研究の過程で直面した困難、それをどのように克服したか

•研究の結果として浮上した疑問

•同じ研究をもう一度やるとしたら、何をどのように変えてみるか

効果的な振り返りとは、「課題論文」の過程を通じて生徒がたどった道のりを示すもので

す。生徒は、自分が実践した手順を単純に描写する以上の批判的思考と振り返りの証拠を

示さなければなりません。

振り返りは、研究過程における生徒の思考、創造性、オリジナリティについて、試験官

に洞察をもたらす必要があります。生徒の「声」が明確に伝わり、研究の過程で起こった

学びが示されていなければなりません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 133

詳細―科目別

生物

概要生物の「課題論文」では、生徒は興味のあるトピックの研究を通じて、さまざまなスキ

ルを応用する機会を得ます。

生物は、生物や生命プロセスを扱う科学です。生物の「課題論文」は、生物学的理論を

取り入れ、科目の本質的な性質を強調したものであるべきです。

トピックの選択トピックは、生物に明確に関連するものでなければなりません。トピックは異なる観点

からアプローチすることができますが、題材の取り扱いは生物の観点から行われなければ

なりません。例えば、生化学などの学際領域での「課題論文」は、生物の科目として登録

された場合、その生物学的内容のみで判断されます。

ヒトの疾患を扱う論文は、多くの場合、生物学的、医学的、社会的、経済的などのさま

ざまな観点から扱うことができます。このような論文では、疾患の医学的診断や治療にで

はなく、生物学的側面に焦点を当てるべきです。

同様に、スポーツ生理学と体力を扱う論文は、明確に生物学的な側面を強調したもので

なければなりません。生徒は、生物学的な観点から問題を探究し、結果に対して生物学的

説明を行う必要があります。

不適切なトピック

非倫理的であることが原因で、トピックが許容できない場合があります。例えば、以下

のような調査です。

•生物に痛みや不要なストレスを与えるような実験に基づくもの

•健康に有害な影響を持っている可能性があるもの。例えば、体温(37℃)またはそ

の付近で微生物を培養する

•機密医療情報の公開またはアクセスを伴うもの

調査の基礎として人間の被験者が使用されるすべての場合において、IBのガイドライ

ンに従ってインフォームドコンセントの明確な証拠を提供しなければなりません。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き134

安全上の理由から研究に適さないトピックもあります。次のような危険物質を含む実験

には、適切な安全装置と資格を満たした監督者を必要とします。

•毒性または危険な化学物質

•発がん性物質

•放射性物質

結果がすでによく知られており、標準的な教科書に記載されているようなトピックは不

適切かもしれません。

トピックの例

以下の例は、あくまでも参考という位置づけです。(表の右側のような)幅広いトピック

ではなく、(表の左側のような)的の絞れたトピックを選ばなければなりません。

 的の絞れたトピック  幅広いトピック

土壌細菌への洗剤毒性の効果 環境の中に存在する洗剤

インドネシアにおける栄養失調児と栄養改

善管理期間後の回復の研究

子供の栄養失調

インゲンマメ属の成長に対する異なる pH レ

ベルの効果の研究

植物の成長への酸性度の影響

ミドリゾウリムシの共生関係における競争

的・進化的性質

動物の共生

種子の発芽へのバナナの皮の効果 種子の発芽に影響を与える要因

ゲル電気泳動:装置の製作および熱処理後の

牛乳中のタンパク質の分離

ゲル電気泳動法の使用

トピックの取り扱い生徒は、どのように研究課題(リサーチクエスチョン)を考え出し、それを絞り込んだ

かを、論文で考慮しない側面を概説することを通して、論文の冒頭で説明すべきです。

生徒は研究課題(リサーチクエスチョン)に基づいて、少なくとも1つの仮説を立てる

ことが推奨されます。よく練られた研究課題(リサーチクエスチョン)であれば、そこか

ら少数の明確な仮説を立てることができるはずです。

一次調査

生物の論文は、生徒が以下の方法で収集したデータに基づいて執筆することができます。

•実験

•(アンケートなどを含む)調査

•顕微鏡観察

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「課題論文」(EE):指導の手引き 135

•生物学的なスケッチ

•フィールドワーク

•または他の適切な生物学的アプローチ

研究が、実験室やフィールドワークにおいて行われる実習を含む場合には、論文内で実

験方法を簡潔かつ明確に説明すべきです。

実験的なアプローチを取る生徒は、二次文献を参照する必要があります。

二次調査

また、生徒は文献から得られたデータや情報を基にして論文を作成することもできます。

彼らがそのようなデータを独自の方法で使用し、操作し、分析できることが理想的です。

文献から得た事実やデータを単に書き写したような論文にはほとんど価値がありません。

いずれのアプローチを選んだ場合でも、生徒はトピックについて効果的に研究を行うの

に十分なデータや情報が入手できることを確認しなければなりません。

生徒は、研究のアプローチと方法をどのように決定したかを説明し、検討したが採用し

なかったアプローチを示すように務めるべきです。

監督

理想的には、学校の指導教員から指示を受けながら、生徒が自分1人で論文のための研

究を行うことが望まれます。これまでの最高水準の「課題論文」の一部は、学校内で利用

可能な標準的な装置を使って、比較的単純な現象を研究した生徒によって書かれたもので

す。このアプローチは推奨されるものです。

生徒は、使用したアプローチや手法の選択に際して自分がどう貢献したのかを論文の中

で証拠を提示しなければなりません。

外部監督者の指導の下、研究機関や大学で生徒が行った研究に基づいた論文は、監督の

性質と指導の程度を概説した添え状(カバーレター)を添付しなければなりません。

論文の執筆

データを生成し、提示すること自体が目的であってはなりません。適切な科学的技術を

用いた解析が不可欠です。

論文の本文は、提示されたデータや情報に基づいた議論や評価で構成すべきです。ここ

では、生徒はグラフ、表、またはダイヤグラムの重要性を示すべきです。

生徒は本文がよく構成され、明確な論理的進行を持った論文が執筆されていることを確

認すべきです。生徒は、段落に数字や見出しをつけることで明確な構造を持たせることが

できます。論文で検討された内容は、生徒がそのトピックにおける学問的文献を幅広く読

みこなしたこと、その文脈の中で研究の結果およびその重要性を理解していることを示す

べきです。

異常または予期しない結果が出た場合、生徒はそれについて説明し、同時にその結果は

なにか別の方法によって説明が付くのではないかということを探るべきです。必要なら、

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「課題論文」(EE):指導の手引き136

論文で既に述べた仮説の修正案と、それを検証するためのアプローチを提案しても良いで

しょう。

生徒には、自分が行った研究を批判的に評価することを必ず推奨してください。分析にお

いて、生徒は、以下のような要因によって研究に課される制約を記述し、説明すべきです。

•利用した文献の適合性と信頼性

•測定装置の正確さと精度

•サンプルサイズ

•統計の信頼性と妥当性

彼らはまた、以下のような生物学的な制限を考慮する必要があります。

•生物を用いる場合の再現性と制御の問題に起因するもの

•1種類の生物または環境に基づいた研究から一般化することの難しさ

トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、推奨されるアプローチの例

自分のトピックを特定し、研究課題(リサーチクエスチョン)を決定した後、生徒はそ

れに対する答えをどのように調査するかを決めることができます。全体的なアプローチの

概要を記述することが役に立つかもしれません。これらの例は、あくまでも目安でしかあ

りません。

トピック 塩湿地コミュニティの塩生植物の分布と個体数に対する土壌塩分の影響

研究課題(リサーチクエスチョン)

ウラギクの分布と個体数は、土壌塩分にどの程度依存するか

アプローチ 分布と個体数を測定するために、部分刈りなどの生態学的手法を

用いる。土壌試料中の塩分濃度の測定に、導電率計を用いる。

トピック 大豆ウレアーゼ

研究課題(リサーチクエスチョン)

ウレアーゼ活性のレベルは乾燥させた大豆と新鮮な大豆の間で

どの程度異なるか。

アプローチ 乾燥させた大豆と新鮮な大豆から酵素を抽出する。ウレアーゼ活

性は、pH プローブまたは標識などの適切なアプローチを用いて、

溶液の pH をモニターすることによって測定する。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 137

トピック 植物抽出物の抗菌効果

研究課題(リサーチクエスチョン)

25℃で増殖させた大腸菌のK -12 株(または他の安全株や承認株)

に対する、市販のグレープフルーツ種子抽出物(GSE)の抗菌

特性についてどのような証拠があるか。

アプローチ 大腸菌の培養物を寒天プレート上の適切な成長培地で増殖させ

る。様々な濃度のGSEに浸漬した濾紙ディスクを接種プレート

上に配置し、一定の培養時間後の抑制域を測定する。

「使い回し」についての重要な注意事項生徒は、「課題論文」において、ディプロマプログラムのために提出する他の成果物を複

製しないようにする必要があります。例えば、科学において、科学の授業または内部評価

課題の一貫として行われた実験のために収集されたデータは、生物の「課題論文」を構成

するものとして使用することはできません。

生物の「課題論文」と内部評価生物の「研究論文」は、内部評価(IA)課題を拡張したものではありません。生徒が

両者の違いを理解していることを確認する必要があります。

•内部評価は、シラバスの内容に集中する可能性が高く、課題論文ではシラバスに記

載されていない生物の側面を探究することができます。

•内部評価は、(実践的な実験、データベース、シミュレーション、モデリングなど

からの)データの収集と分析を含まなければならず、純粋な文献レビューを行うこ

とはできません。

•「課題論文」では、選択されたトピックの基礎となる生物における理論的枠組みを

構築しなければなりません。一方内部評価では、関心のある問題に対する科学的手

法の応用に焦点を絞り、背景情報のみが含まれます。

•「課題論文」は、生徒の科学的議論を分析し、評価する能力を明確に測定します。

これらの違いを生徒に理解させるうえで、指導教員は重要な役割を果たします。学問的不正

行為があったと判断されれば、ディプロマを取得できなくなる可能性があります。

「課題論文」の評価規準の解釈

規準A:焦点と方法

(要素:トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、方法論)生物の「課題論文」のトピックは、論文の冒頭で概説されなければなりません。またそ

れは、明確に研究課題(リサーチクエスチョン)の文脈を確立すべきです。これには、研

究分野と課題論文の目的と焦点を含めるべきです。

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「課題論文」(EE):指導の手引き138

研究課題(リサーチクエスチョン)がどのようにして導かれたのかを理解する上で必要

な生物の一般理論を序論に含めることは、多くの場合において有効です。例えば、「カリ

フォルニア湾岸での海草の分布に影響を与える要因」という論文のトピックがあったとし

ます。このトピックの説明には、沿岸生態系、環境汚染、海草の減少、さらにはラッコの

個体数が関係している可能性、などを含むことができるでしょう。

研究課題(リサーチクエスチョン)は質問の形をとるとき最もうまく表すことができま

す。課題は、研究が答えを与えようとする質問として、正確に策定されたものでなければ

なりません。カリフォルニア湾岸での海草の分布に影響を与える要因に基づいての研究課

題(リサーチクエスチョン)は次のようになります。「海水タンク内の異なる硝酸アンモニ

ウムの濃度は、海草(アマモ科)の3カ月間での成長にどのように影響するか」

研究課題(リサーチクエスチョン)は必ず以下の要素を兼ね備えていなければなりま

せん。

•生徒が自由に使える資源、時間、言葉の制限内で回答可能である

•明確に特定されている

•生物の学問的枠組みの中で明確に設定されている

•論文の冒頭ではっきりと提示されている

この研究課題(リサーチクエスチョン)から、生徒は検証する仮説を設定することがで

きます。

生徒は「課題論文」の中で研究が十分に計画されたものであると実証する必要がありま

す。彼らは、トピックを調査し、研究課題(リサーチクエスチョン)に応えるために適切

な生物学的なアプローチをとったことを示すべきです。このことは、文献調査と、実際の

データ収集の両方に適用されます。

生徒は、自分が選んだ方法および題材が研究課題(リサーチクエスチョン)に回答する

うえで適切であることを示さなければなりません。実用的な方法を選択するうえでの彼ら

の理論的根拠を説明しなければなりません。実験作業を行う場合は、繰り返し行われる作

業の方法について十分な情報を含まなければなりません。

参考にした文献は十分なもので、それぞれが論文の研究の焦点に貢献しなければなりま

せん。研究が二次データの調査に基づいている場合、生徒は文献の選択が十分に幅広いも

ので、信頼性があることを確認する必要があります。

生徒が外部の研究室での指導の下で調査を実施する場合、生徒は以下の点を明確に示さ

なければなりません。

•使用される方法および題材への理解

•それらを選択し、使用するうえでの彼らの役割

十分に立証されたトピック、または標準的なトピックを調査する場合、生徒はその問題

に対する新たな観点を探すように試みるべきです。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 139

規準B:知識と理解

(要素:知識と理解、コミュニケーション)実験は、生物の「課題論文」の必須要件ではありません。一方で、理論的な側面は、い

かなる実証的調査においても必ず含めなければなりません。

参照する文献は以下のようなものであるべきです。

•研究課題(リサーチクエスチョン)と明白な関連を持ち、適切なものである。

•生徒の理解を実証する形で、効果的に参照され、論文の本文に組み込まれている。

•主に広く認知された科学的文献からのものである。

生徒は、選択した文献および方法を活用し、妥当なつながりを形成し、効果的に持論を

支持する能力を示さなければなりません。

生徒は、適切な専門用語の使用における流暢さと熟練を示す必要があります。同時に、

生徒は専門用語の過度の使用を避け、読み手が理解しやすいような明確な表現を心がける

ことに焦点を絞る必要があります。

生徒は使用されているすべての専門用語を説明しなければならず、論文内で適切にそれ

らを使用し、用語に対する理解を示さなければなりません。

生徒は論文全体で一貫性のある文体を維持しようと務めなければなりません。

記号、数式、有効数字、および SI 単位は、適切かつ一貫的に適用されるべきです。

規準C:批判的思考

(要素:研究、分析、議論と評価)「研究」は、文献の文献と、生徒自身が収集し、処理したデータの両方を指します。研

究は、研究課題(リサーチクエスチョン)に一貫して関連しているものでなければなりま

せん。

データの使用生徒は、データ、文献、および関連する不確実性を分析することが期待されます。分析

には通常以下の内容を含みます。

•数学的変換

•標準偏差や検定などの統計分析

•加工済みデータの表

•グラフ

データを統計的に分析する場合、生徒は論文の本文に以下の点に対する明確な理解を示

さなければなりません。

•その特定の方法またはテストが選ばれた理由

•それらの適用方法

•文脈の中で結果が何を意味するか。

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「課題論文」(EE):指導の手引き140

グラフを使用する場合、分析の主要な要素を説明するために、正しく選択し、描かなけ

ればなりません。読み手の理解の助けになる場合のみ、これらは含まれるべきです。

生徒は、結論に至るまでの議論を支持し、明らかにするように自身のデータを分析し、

提示する必要があります。

生徒は、研究課題(リサーチクエスチョン)に焦点を絞り、根拠のはっきりとした、論

理的な議論を展開するように、特に努めなければなりません。多数の変数に対応しようと

する論文は、的を絞った、一貫性のあるものにはなりにくいです。研究課題(リサーチク

エスチョン)およびそれに由来する仮説を繰り返し参照することによって、明確かつ論理

的な議論を構築することができます。

データまたは利用した情報のいずれかによって、どの程度仮説が支持され、課題に対す

る回答が得られたのか。この点を評価し、議論の中に盛り込むべきです。

述べた結論は、論文の中で提示された研究に基づいたもので、その内容との矛盾があっ

てはなりません。生物学的研究は多くの場合、予期せぬ結果を明らかにするもので、その

点も明らかにするべきです。

元々の研究課題(リサーチクエスチョン)に対する完全な回答が得られないこともありま

す。この場合生徒は、未解決の問題を指摘し、さらに調査を行うための方法を提案します。

生徒は、使用する二次文献とデータの品質、バランス、量について見解を述べなければ

なりません。さらに、自身のアプローチ固有の限界や不確実性についての認識を示すこと

が期待されます。特に、調査における変数の管理との関係から、データの相対的な妥当性

と信頼性について批判的に見解を述べなければなりません。

規準D:形式

(要素:構成とレイアウトの要素)この規準では、学術研究論文の形式に関する一般的な基準に、生徒の論文がどの程度

則っているかを評価します。また、これらの形式が、論文を読み、理解し、評価するとい

う点でどれだけ効果を示しているかも評価します。

構造生徒は、段落に数字や見出しをつけることで明確な構造を持たせることができます。提

示された論文や議論の全体的な構造から注意をそらすような小見出しは避けるべきです。

実験の記録生徒は料理レシピ本のようなアプローチではなく、科学論文のスタイルを目指すべきで

す。記録には以下を含めるべきです。

•実験設定の重要な要素を導入するための科学的な注釈つきのダイヤグラム

•主要な装置の関連する詳細情報

•不可欠な手続きの過程の概要

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「課題論文」(EE):指導の手引き 141

生徒は、重要性が低い、または無関係な詳細と、繰り返しを含めないようにする必要が

あります。ただし、信頼性、再現可能性のために必要な要素は含まなければなりません。

チャート、画像、グラフ、表•生徒によって作成された、または文献から引用されたグラフ、図、表などは慎重に

選択し、名称をつけなければなりません。主張を説明するのに貢献し、優れた画像

品質のもので、研究課題(リサーチクエスチョン)に直接関連している場合にのみ

使用すべきです。

•生徒は、画像、グラフ、および表とともに、どうしたらさらに論文の議論を深めら

れるかを示す分析と考察を含めなければなりません。

•議論の要となるような加工済みデータのみ、論文の本文でそのデータに最初に言及

する箇所のできるだけ近くに含めるべきです。

•表は、説明を強化するものであるべきですが、表の中には長い文章を含むべきでは

ありません。長い文章が含まれる場合は、制限語数(字数)にそれを含めなければ

なりません。

•表やグラフ(凡例)の明確さが重要であり、不必要に懲りすぎた書式の使用は読み

手の理解のしやすさを損なうことがあるため、注意するべきです。

•生徒が大量に収集した生データの代表的なサンプルは、不確実性および単位を含

め、データの表として、論文の「コア」に含めなければなりません。表は、最も適

切な形式で情報を明確に表示するように構成するべきです。

•生徒が収集した生データの大きな表は、慎重にラベルづけし、付録に含まれるべき

です。

•分析されたデータから得られたグラフや図は、議論に関連した最も適切な側面のみ

を強調するように選択すべきです。あまりにも多くのグラフ、図、表を含めること

は、論文全体のわかりやすさを妨げます。

•集計表(一覧表)と、複数のグラフをまとめた1つのグラフ(曲線群)の使用で、

不必要な繰り返しを避けることができます。

•生徒は、例を挙げて主要な数学的変換を説明すべきです。文中に言及された数式に

は番号をつけるべきです。

引用句や考えに対する参照・引用に注意し、オリジナルではないデータは、慎重に引用

しなければなりません。引用は、印刷物、電子文献に発表された視聴覚素材、文章、グラ

フ、データに対して適用されます。手引きに示されている最低基準(作者、発行日、文献

のタイトル、ページ番号等のうち該当するもの)に沿って引用が行われておらず、一貫し

て適用されていない場合、学問的不正行為に該当しないか検討されます。

参考文献は必須であり、標準的な形式で提示されなければなりません。表紙、目次、ペー

ジ番号などは、体裁の品質に貢献するものでなければなりません。

論文は、4000 語(日本語の場合は 8000 字)以内で書かなければなりません。グラフ、

図、計算式、ダイヤグラム、公式、方程式は語数(字数)に含まれません。4000 語(日本

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「課題論文」(EE):指導の手引き142

語の場合は 8000 字)を超えた時点で、試験官はそこから先を読まず、また評価もしないこ

とを、生徒は認識する必要があります。

規準E:取り組み

(要素:計画および進捗についての振り返り)この規準は、生徒の研究の焦点と研究プロセスへのエンゲージメントを評価するもので

す。生徒の「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」を考慮した後、指

導教員は論文評価の最後にこの規準を適用します。

生徒は、論文を完成させるうえで、意思決定および計画プロセスについての考察を提供

することが期待されています。生徒は、採用したトピック、および方法とアプローチにど

のようにたどり着いたのかを示さなければなりません。この規準では、生徒が、計画プロ

セス全体での意思決定に対する理論的根拠、およびスキルや理解を発展させたかをどの程

度証明しているかを評価します。

生徒は、例えば以下のような点を振り返ることができます。

•選択したアプローチとストラテジー、その相対的な成功度

•自分が習得した「学習の方法」のスキル、学習者として自分がどのように成長したか

•研究の結果として、自分の概念理解がどのように発展あるいは変化したか

•研究の過程で直面した困難、それをどのように克服したか

•研究の結果として浮上した疑問

•同じ研究をもう一度やるとしたら、何をどのように変えてみるか

効果的な振り返りとは、「課題論文」の過程を通じて生徒がたどった道のりを示すもので

す。生徒は、自分が実践した手順を単純に描写する以上の批判的思考と振り返りの証拠を

示さなければなりません。

振り返りは、研究過程における生徒の思考、創造性、オリジナリティについて、試験官

に洞察をもたらす必要があります。生徒の「声」が明確に伝わり、研究の過程で起こった

学びが示されていなければなりません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 143

詳細―科目別

化学

概要「化学」の「課題論文」(EE)は、私たちの周りにある物質の、特定の側面に注目して

調査する機会を生徒にもたらします。論文は、より一般的な一連の研究規準の中で、特に

化学を強調したものでなければなりません。

化学は物質の構成、特性、変化を研究する科学です。「化学」の「課題論文」は、化学の

原理と理論を組み込み、物質と物質が受ける変化についての研究を重視したものであるべ

きです。

研究の成果は、特定の問題や研究課題(リサーチクエスチョン)を効果的に論じた後、

研究課題(リサーチクエスチョン)に対する特定の結論または回答(できれば独自のもの)

を導き出す、一貫性があり構成のしっかりした論文にまとめます。

トピックの選択トピックは、化学的にアプローチできるものでなければなりません。トピックはさまざ

まな視点からアプローチすることができるでしょうが、題材の取り扱いは、化学の視点か

ら行わなければなりません。「化学」の「課題論文」として登録される場合、例えば、生化

学などのIBシラバスのオプション領域での「課題論文」は、シラバスの生化学オプショ

ンでカバーされる範囲の中で、その内容が判断されます。

トピックの範囲とそれに関連する研究は、すべての規準の対象となるものである必要が

あります。研究課題(リサーチクエスチョン)は明確な焦点を持ったもので、かつ制限字

数内で効果的に扱えるものでなければなりません。

トピックの適切さ

範囲が広い、あるいは複雑な文献に基づいたトピックは、生徒が相反する考えや理論に

ついて議論することができず、独自の分析を制限語数(字数)内で詳細に行うことができ

ません。したがって生徒は、このようなトピックを避けるべきです。(例:水質汚染による

健康上の問題、がん治療における化学療法、化学分析における分光法の使用)

安全上の理由から研究に適さないトピックもあります。これらはIB資料『「化学」指導

の手引き』に明記されており、すべての生徒は「課題論文」に着手する前に、これを認識

しておく必要があります。毒物、危険な化学物質、発ガン性物質、放射性物質などを用い

た実験は厳しく禁止されています。

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「課題論文」(EE):指導の手引き144

結果がすでによく知られており、標準的な教科書に記載されているようなトピックも適

当とはいえません。

トピックが適しているか否かを決定する際には熟考、注意が必要です。例えば、以前で

あればつまらないトピックと考えられたであろう炭素の同素体の研究などは、今ではそう

は思われていません。

トピックの例

これらの例は、あくまでも目安でしかありません。生徒によるトピックの選択は、より

的の絞れたもの(左側の列)で、幅広いもの(右側の列)でないことを確認しなければな

りません。

 的の絞れたトピック  幅広いトピック

海水中の塩化物、硝酸塩、及びカルシウムイ

オン濃度の決定

海水の研究

牛乳中のビタミンB2含有量の吸光光度決定 牛乳の研究

ロケット燃料として灯油をヒドラジンで代

用する可能性の調査

ヒドラジンの理論的研究

二つの異なる第一級アルコールを使用して、

エンドウ豆からDNAを抽出

植物中のDNA

トピックを選択したら、生徒はそれを研究課題(リサーチクエスチョン)の形で表現す

ることにより、研究に向けてそれをさらに明確にし、洗練する必要があります。

トピックの取り扱い「化学」の「課題論文」は、下記のようなものに基づきます。

•文献

•理論モデル

•実験データ

いずれのアプローチを選んだ場合でも、生徒はトピックについて研究を行うのに十分な

データが入手できることを確認しなければなりません。

文献または調査に基づいて論文を執筆しようとする生徒は、それが化学的な根拠を明確

に示していることを確認するべきです。新聞・雑誌の記事レベルの「課題論文」では、高

得点は望めません。

化学は実験科学の分野に属するため、生徒は研究の一部として実験を行うことが強く推

奨されます(ただし、必須ではありません)。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 145

適切な文脈の中での自身の研究の位置づけを行うため、実験を始める前に、生徒は自分

の研究の領域について調査を行うべきです。可能であれば、生徒は自身の研究について以

下のものを参考にすべきです。

•学術誌

•直接人に聞く

•インターネットを利用して得る情報

•教科書

決してインターネットが唯一の資料であってはなりません。

生徒による実験が研究に含まれる場合には、論文内でその内容について簡潔明瞭に記述

すべきです。生徒は、独自に実験を設計したのか、既存の方法を使用しているかを明確に

示すべきです。既存の方法を使用する場合、生徒は出典を提供し、それをどのように適応

し、改善したのか述べなければなりません。

監督

すべての「課題論文」は学校内の指導教員によって監督されなければなりません。

これまでの最高水準の「課題論文」の多くは、比較的単純な現象を、ほとんどの学校の

実験室にあるような装置や物質を使って研究した生徒によって書かれており、このような

アプローチをとることが推奨されます。

もし実験が産業研究所や大学の研究所で実施された場合には、どのような指導がどの程

度提供されたのかについての概要をまとめた、外部指導監督者からのレターを論文ととも

に提出しなければなりません。論文に記載される実験は、生徒本人が実施した本物の実験

であると学校内の指導教員が確信できるものでなくてはなりません。

指導教員は、生徒が「課題論文」において、内部評価の研究トピック、データ、また

は結果を複製が禁止されているのを理解していることを確認する責任があります。その旨

は、「課題論文」の表紙の指導教員のコメントに含まれるべきです。

データを生成し、提示すること自体が論文の目的であってはなりません。生徒は、適切

な技術を使用してデータを分析し、それを評価し、必要に応じてそれを適切なモデルや文

献値と比較しなければなりません。

二次データの使用

生徒は他の場所で収集されたデータを使用することもできます。例えば、反応における

エンタルピー変化の計算を必要とする研究課題(リサーチクエスチョン)において、生徒

はデータベースから平均結合エンタルピーを入手し、課題を解決するために、これらを計

算に用いることができます。

しかし、高い評価を達成するためには、生徒は自身の研究の課題に対する具体的な答え

につながるように、二次データを分析する独自の方法を考案する必要があります。

すべての「化学」の「課題論文」において、生徒は実験の基盤となる理論を理解してい

ることを示さなければならず、用いた仮定を全て述べなければなりません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き146

生徒は実験で得られた結果を理解していることを示し、それを研究課題(リサーチクエ

スチョン)に関連づけて解釈することが望まれます。

さらに、不適切な実験の設計、実験方法の限界、および系統的誤差について批判的であ

るべきです。

自身の研究では解明できなかった問題について考察し、新たな課題やさらなる研究領域

について提案することが推奨されます。論文の中で、生徒は自分自身の手で直接行った研

究内容について明確に強調すべきです。

トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、推奨されるアプローチの例

自分のトピックを特定し、研究課題(リサーチクエスチョン)を決定した後、生徒はそ

れに対する答えをどのように調査するかを決めることができます。全体的なアプローチの

概要を記述することが役に立つかもしれません。以下の例は、あくまでも目安でしかあり

ません。

トピック アルカリ電池の放電時間に対する保存温度の影響

研究課題(リサーチクエスチョン)

保存温度はアルカリ電池の動作寿命にどのように影響するか。

アプローチ 実験方法:3個で1セットの電池を、5℃、20℃、30℃、40℃、

50℃で一定時間保存したあと、電池の放電を行う。保存期間の前

後で電圧を測定する。

トピック 還流時間を変更した際のアスピリン収率についての調査

研究課題(リサーチクエスチョン)

還流時間を長くすることで、無水酢酸とサリチル酸との反応から

生じるアスピリンのパーセント収率は増加するか。

アプローチ 実験的なアプローチ:還流時間間隔を変化させ、無水酢酸とサリ

チル酸からアスピリンを合成する。

トピック 天然ガスによる発電用の石炭の置換

研究課題(リサーチクエスチョン)

ドイツにおいて、すべての石炭火力発電所を近代的な CH4 発電所

で置き換えると、どれだけ CO2 を減少させられるか(質量%の変

化として測定)。

アプローチ データに基づくアプローチ:キロワット時あたりの CO2 排出量

を、一般公開されている燃焼熱、組成、石炭発電所および天然ガ

ス発電所の効率のデータから計算する。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 147

トピック 超重元素 113 ~ 118 の定期的な性質

研究課題(リサーチクエスチョン)

(原子番号 118 以上の)未発見元素の物理的および化学的性質は、

周期性の法則を用いて予測することができるか。

アプローチ 文献に基づくアプローチ:イオン化ポテンシャル、電子親和力、

およびその他の定期的な傾向を調べ、超重元素が周期律に従うか

どうかを予測する。

「使い回し」についての重要な注意事項生徒は、「課題論文」がDPの評価のために提出する他の成果物と大幅に重複しないよう

にしなければなりません。

「化学」の「課題論文」と内部評価「化学」の「研究論文」は、内部評価の延長ではありません。生徒が両者の違いを理解し

ていることを確認する必要があります。

•内部評価は、シラバスの内容に集中する可能性が高く、課題論文ではシラバスに記

載されていない化学の側面を探究することができます。

•内部評価は、(実践的な実験、データベース、シミュレーション、モデリングなど

からの)データの収集と分析を含まなければならず、純粋な文献レビューを行うこ

とはできません。

•「課題論文」では、選択されたトピックの基礎となる化学における理論的枠組みを

構築しなければなりません。一方内部評価では、関心のある問題に対する科学的手

法の応用に焦点は絞られ、背景情報は限られた範囲でしか含まれません。

•「課題論文」は、生徒の科学的議論を分析し、評価する能力を明確に測定します。

生徒がこれらの相違点を理解する上で、指導教員は重要な役割を果たします。学問的不正行

為が発覚した場合、生徒はディプロマを取得できない恐れがあります。

「課題論文」の評価規準の解釈

規準A:焦点と方法

(学習要素:トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、研究方法)「化学」の「課題論文」は、明確に化学に重点を置いたものでなければならず、調査の化

学的側面に焦点を絞ったものであるべきです。

化学的原則を取り入れ、物質とその化学的変化に関係するものであるべきです。

トピックは以下から選ぶことができます。

•「コア」

•HL発展項目トピック

•IB「化学」のシラバスの中の項目の1つ

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き148

ただし、重点は化学に置く必要があります。

研究課題(リサーチクエスチョン)は、「傍観イオンは酸化還元反応の速度に影響を与え

るか」のような、実際の問いとして設定しなければなりません。

研究課題(リサーチクエスチョン)の調査を行うために、生徒はトピックに関する既存

の文献を調査し、適切な研究方法を以下より選択しなければなりません。

•実験室で作業を行う

•既存のデータタをもとに研究を行う

実際の作業が行われる際には、その手順を選択した理論的根拠を明確に説明すべきです。

調査が外部の研究室で行われる場合、生徒はデータ収集における方法と材料、および自

分の役割に対する理解を明確に示す必要があります。

規準B:知識と理解(学習要素:知識と理解、コミュニケーション)

生徒は、関連する化学的原理や考え方に対する理解を示し、それらを正しく適用するこ

とが期待されます。

生徒は研究課題(リサーチクエスチョン)、技術、選択された装置の基礎となっている化

学的原理を明確に示さなければなりません。

参照する資料は以下のようなものであるべきです。

•研究課題(リサーチクエスチョン)と明白な関連を持ち、適切なもの

•生徒の理解を実証する形で、効果的に参照され、論文の本文に組み込まれるもの

文献は主に、広く認知された科学的資料から引用するべきです。

生徒は、選択した資料および方法を活用して、持論を効果的に支持する能力を示さなけ

ればなりません。

生徒は論文全体で一貫性のある文体を維持しようと務めなければなりません。

論文全体を通して、正確な化学の命名法と用語を、効果的に、一貫性をもって使用する

べきです。また、生徒は以下についても適切かつ一貫して使用すべきです。

•関連する化学式および構造式

•状態記号を含む平衡方程式

•反応メカニズム

•有効数字

•SI単位

規準C:批判的思考

(学習要素:研究、分析、考察と評価)「化学」の「課題論文」において、「研究」は、文献資料と生徒自身によって収集される

データの両方を指します。研究は、研究課題(リサーチクエスチョン)に一貫して関連し

ているものでなければなりません。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 149

データを適切に提示し、分析することが生徒に期待されています。分析には通常以下の

内容を含みます。

•数学的変換

•統計分析

•加工されたデータの表とグラフ

統計的なデータ分析を行う場合、その特定の試験がなぜ選ばれ、結果が何を意味するか

に対する理解を、生徒は明確に示さなければなりません。

グラフを使用する場合、分析の主要な要素を説明するために、正しく選択し、描かなけ

ればなりません。このグラフを提示したことによって 、読み手に論文の内容がよりよく伝

わると判断される場合のみ、これらは含まれるべきです。

生徒は、結論に至るまでの議論を支持し、明らかにするように自身のデータを分析し、

提示する必要があります。

生徒は、研究課題(リサーチクエスチョン)に焦点を絞った、根拠があり、論理的な議

論を維持するように、特に努めなければなりません。多数の変数に対処しようとする論文

は、的を絞った、筋の通ったものにはなりにくいものです。研究課題(リサーチクエスチョ

ン)に繰り返し立ち返ることで、明確で論理的な議論を展開することが可能になります。

検索によって得たデータまたは情報によって、課題に対する答えがどの程度得られたの

かを自ら評価し、それを議論の中に盛り込むべきです。

述べた結論は、論文の中で提示された研究に基づいたもので、一貫性があるものでなけ

ればなりません。

結論では、元々の研究課題(リサーチクエスチョン)に対する完全な答えを述べなけれ

ばならないわけではありません。この場合、生徒は、未解決の問題を指摘し、さらに調査

を行うための方法を提案します。

不適切な実験設計や系統的誤差は明らかにすべきです。測定の不確実性を評価し、議論

すべきです。

生徒は、自身の資料の品質、バランス、および量についてコメントしなければなりませ

ん。さらに、自身の手法や装置に固有の限界や不確実性についての認識を示すことが期待

されます。特に、調査における変数の管理との関係から、データの相対的な妥当性と信頼

性について批判的にコメントすべきです。

規準D:形式

(学習要素:構造とレイアウトの要素)この規準は「課題論文」がどの程度、学術的に定められた研究論文の形式に沿っている

かという点に関するものです。また、論文を読み、理解し、評価するうえで、これらの要

素が論文をどの程度サポートするかという点に関するものです。

生徒は、段落に数字や見出しをつけることで明確な構造を持たせることができます。論

文や提示している議論の全体的な構造から注意をそらすような小見出しは避けるべきです。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き150

図、画像、表の使用論文に含まれる文献資料からの図、画像、表は慎重に選択し、ラベルづけされなければ

なりません。議論の理解に貢献し、優れた画像品質のもので、研究課題(リサーチクエス

チョン)に直接関連している場合にのみ使用すべきです。

生徒が収集した生データの大きな表は、慎重に名称をつけ、付録に含めるべきです。加

工済みデータの表は、最も適切な形式で情報を明確に表示するように構成するべきです。

分析されたデータから得られたグラフや図は、議論に関連した最も適切な側面のみを強調

するように選択すべきです。あまりにも多くのグラフ、図、表は、全体的にわかりづらい

ものとなってしまいます。

議論の要となるような加工済みデータのみ、論文の本文でそのデータに最初に言及する

箇所のできるだけ近くに含めるべきです。表は、説明を強化するものであるべきですが、

表の中には長い文章を含むべきではありません。長い文章が含まれる場合は、制限語数(字

数)にそれを含めなければなりません。

実験方法が長く複雑である場合、生徒は生データを付録に記載し、論文の本文には方法

の要約を記載しても構いません。この場合、生徒は、要約に調査の最も大事な部分はすべ

て含まれていることに注意しなければなりません。付録は「課題論文」の本質的な部分で

はないため、試験官はそれを読むことを要求されていないためです。

言い換えれば、とった方法の有効性を表す重要な情報は、付録ではなく論文の本文に含

めなければならないということです。ある1つの変数を変えることで得られたデータから

数値結果が計算される実験では、論文の本文には計算例を1つだけ示せばいいでしょう。

残りについては、表またはグラフで表示することができます。

引用句や考えに対する参照・引用には特に注意し、自分のものではない資料は、慎重に

引用しなければなりません。参照・引用は、印刷および電子資料に発表された視聴覚素材、

文章、グラフ、データに対して適用されます。手引きに示されている最低基準(作者、発

行日、資料のタイトル、ページ番号のうち該当するもの)に沿って引用が行われておら

ず、一貫して適用されていない場合、論文は学問的不正行為に該当する可能性があるもの

として検討されます。

参考文献目録は必須であり、標準的な形式で提示されなければなりません。表紙、目次、

ページ番号などは、論文の形式の質を高めるものになっている必要があります。

「課題論文」は 4000 語(日本語の場合は 8000 字)を超えてはなりません。生徒は、試

験官は、4000 語(日本語の場合は 8000 字)の以降の内容を読まず、それ以降に提示され

た内容を評価しないことを認識しなければなりません。グラフ、図、計算式、ダイヤグラ

ム、公式、方程式は語数(字数)に含まれません。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 151

規準E:取り組み

(学習要素:計画および進捗についての振り返りこの規準は、生徒の研究の焦点と研究課程に対して生徒がどのように取り組んだかを評

価するものです。生徒の「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」を考

慮した後、指導教員は論文評価の最後にこの規準を適用します。

生徒は、論文を完成させる過程で自分がどのような考えで、どのような選択をしたのか、

またどのように計画を立てたのかについての振り返りを提出します。この振り返りでは、

どのようにしてトピックを選んだか、使用した研究方法やアプローチを選んだかを示さな

ければなりません。この規準で評価するのは、計画のプロセスを通じて意思決定にどの程

度の理由づけが見られたか、および生徒がスキルと理解をどのように発達させたかです。

生徒は、例えば以下のような点を振り返ることができます。

•選択したアプローチとストラテジー、その相対的な成功度

•自分が習得した「学習の方法」のスキル、学習者として自分がどのように成長したか

•研究の結果として、自分の概念理解がどのように発展あるいは変化したか

•研究の過程で直面した困難、それをどのように克服したか

•研究の結果として浮上した疑問

•同じ研究をもう一度やるとしたら、何をどのように変えてみるか

効果的な振り返りとは、「課題論文」の過程を通じて生徒がたどった道のりを示すもので

す。生徒は、自分の取り組みの姿勢を実証するため、自分が実践した手順を単純に描写す

る以上の批判的思考と振り返りの証拠を示さなければなりません。

振り返りは、研究過程における生徒の思考、創造性、オリジナリティについて、試験官

に洞察をもたらす必要があります。生徒の「声」が明確に伝わり、研究の過程で起こった

学びが示されていなければなりません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き152

詳細―科目別

物理

概要「物理」の「課題論文」(EE)では、焦点を絞り、証拠に基づいた議論を通じて、物理

の研究課題(リサーチクエスチョン)に答える必要があります。証拠は、生徒の個人的な

実験、書籍、またはインターネットに基づいた研究から得られるかもしれません。どの研

究方法を採用した場合でも、生徒は物理の原理を使用する必要があります。

論文は、単に読者に情報を与えることを超えて、積極的な、独自の思考の要素が関与し

なければなりません。

論文の想定読者

論文は、ディプロマプログラムの物理コースの内容をよく知る、世界中の学習者を読者

として想定して書かれるべきです。したがって、例えばニュートンの法則など、コースに

おける物理の内容に証明や説明なしで言及することができます。

しかし、物理コース外の題材は、十分に説明し、必要に応じて出典を記載する必要が

あります。生徒は自分の研究課題(リサーチクエスチョン)に沿うように生き生きと説明

し、関連する物理の内容を本質的に理解していることを読み手に示すべきです。

生徒はまた、ある文化に特有な事柄については、それを物理との関連の中で記述した場

合に説明することもできます。例:クリケットや野球など

トピックの選択トピックは、専門的になり過ぎない範囲で、生徒にとって挑戦となるなものでなければ

なりません。物理コースで得た知識を用いて、コースの内容を上回る研究課題(リサーチ

クエスチョン)に答えるものであるべきです。研究課題(リサーチクエスチョン)は、本

質的に自明なものであってはなりません。

不適切なトピック

生徒の理解を超えた理論が必要となるトピックは避けるべきです。量子コンピューター

やブラックホールの調査のような、「課題論文」の範囲を超えた、幅広い、または複雑なト

ピックも避けるべきでしょう。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 153

研究課題(リサーチクエスチョン)

調査領域を決めたら、生徒は、範囲が狭く、十分に焦点を絞った研究課題(リサーチク

エスチョン)を定義します。この段階で、得られうる結果と結論を想像しておくことが重

要です。このことは、質問を定義し、方法論を選択するプロセスに役立ちます。

トピックや研究課題(リサーチクエスチョン)の選択は、生徒の調査にとって重要なス

テップです。生徒の選択が、適切で、関連性が高く、現実的で、かつ有望であることを確

認するうえで指導教員の指導は不可欠です。

トピックの例

これらの例は、あくまでも目安でしかありません。生徒は、トピックの選択について、

より的の絞れたもの(左側の列)で、幅広いもの(右側の列)でないことを確認しなけれ

ばなりません。

 的の絞れたトピック  幅広いトピック

ひとつのドミノが落下するのに要する時間

は、その高さと幅に依存する

ドミノの落下

バイオリンの音の周波数は、室温に依存する 楽器

膨らませた風船から気体が拡散する速度の

気体の種類による違い

風船の収縮

トピックの取り扱い「物理」の論文には、通常、調査のエッセンスをまとめたタイトルをつけます。これは、

生徒の選んだトピックの領域に基づいたものになります。

研究課題(リサーチクエスチョン)によって、トピックをさらに洗練し、定義すること

ができます。研究課題(リサーチクエスチョン)は、意見ではなく、疑問文の形式で表現

されなければなりません。明確かつ正確に表現し、論文の導入部の冒頭か、論文の表紙に

表示します。

例えば、生徒は生卵を回転させることが困難であると気づいたかもしれません。指導教

員との話し合いの後、生徒は粘度の異なる液体で缶を満たし、ある傾斜面でそれを転がす

ことにしたとします。その場合、論文のタイトルは以下のようになります。「角加速度の増

加に対する物体の粘度の影響」

ただし、研究課題(リサーチクエスチョン)は、もっと具体的にする必要があり、「ある

傾斜面を転がる円筒状の缶の角加速度と内容物の粘度にはどんな関係があるか。」のように

なります。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き154

アプローチの方法

生徒は研究課題(リサーチクエスチョン)に対して理論のみに基づいて答えることも、

データと理論の両方に基づいて答えることもできます。

論文がデータに基づいたものである場合、生徒は自分で一次データを収集することも、

すでに他者によって収集された二次データを使用することもできます。

生徒は、計画段階のはじめに、一次資料と二次資料両方ともその信頼性を検討すべきで

す。生徒は、二次データと、それを収集した実験の設計を、自分で実験を実施する場合と

同様に批判的に評価しなければなりません。

理論の重要性

「物理」の「課題論文」は、選択したトピックに関連した理論の適用を必ず含まなければ

なりません。生徒は、既存の情報からの優れた背景調査に基づいて実験作業を行わなけれ

ばなりません。

実験作業に着手する前に、生徒はその実験の基礎となっている物理の理論を探究し、モ

デル化する余地があることを確認しなければなりません。理論的な基礎が存在せず、さま

ざまな変数が係わる純粋に経験的な調査は決して満足のいくものにはなりません。

例えば、屈折率に対する塩溶液の濃度に関連する調査をする場合は、生徒は屈折率に対

する濃度に関連した物理理論をモデル化しなければなりません。

二次データの使用

他者が収集したデータを用いる生徒も、すべての評価規準を満たし、最高点を獲得する

ことができます。例えば、生徒は、太陽系外の惑星の証拠を探すという研究課題(リサー

チクエスチョン)を解決するために、データベースから天文データを取得し、それを操作

することができます。

生徒が独自の方法でこの二次データを操作したり、分析したりすることが理想です。文

献から得た事実やデータを単に書き写したような論文にはほとんど価値がありません。独

自の分析・評価の要素が極めて重要です。

一次データの収集

生徒は、装置製作に多大な時間を必要とする実験を選択するべきではありません。高度

に洗練された装置が必要となることは稀で、そのような実験は生徒の現象理解を妨げうる

ものです。これまでの最高水準の「課題論文」の一部は、学校内で利用可能な標準的な装

置を使って比較的単純な現象を研究した生徒によって書かれており、このようなアプロー

チをとることが推奨されます。

他者によって再現できるように、生徒は、実験手順を明確かつ簡潔に説明しなければな

りません。これには通常、明確な注釈つきの科学的なダイヤグラムを含みます。網羅的な

機器のリストや手順の詳細な記述は避けるべきです。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 155

理論的論文

理論的論文は、既存の題材を新しい方法で探究するという挑戦を生徒に提供します。こ

れは、意外な領域に物理の理論と技術を適用することを意味することもあるでしょう。

生徒は数学やコンピューターサイエンスを組み込みたいと考えるかもしれませんが、分

析・評価の焦点は物理の領域にあることを確認しなければなりません。

物理の観点から分析、使用されたコンピュータープログラムは付録に記載されるべきで

す。論文の本文中に含まれているプログラム文は、(論文の)字数制限に対して、1行につ

き2語として数えられます。

トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、推奨されるアプローチの例

自分のトピックを特定し、研究課題(リサーチクエスチョン)を決定した後、生徒はそ

れに対する答えをどのように調査するかを決めることができます。全体的なアプローチの

概要を記述することが役に立つかもしれません。これらの例は、あくまでも目安でしかあ

りません。

トピック 排気管の寸法とそれが発する音との関係

研究課題(リサーチクエスチョン)

排気管の長さと、それが発する音の周波数との間にはどんな関係

があるか。

アプローチ 理論を応用する明確な機会があり、生徒が設計したシミュレー

ションでこれを裏づけることができる。実験を実施することは困

難かもしれないが、記録された音を分析することによって達成す

ることができる。

トピック 最終速度に到達するまでの時間

研究課題(リサーチクエスチョン)

最終速度に達するのに要する時間は、物体が通過する流体の粘度

にどのように依存するか。

アプローチ これは、粘性の液体を使用して、実験を行う良い機会となる。定量

的に粘度を測定し、さらなる課題を生む他の変数を変更すること

なく、粘度を変化させる。スプレッドシートシミュレーションを

用いて数学的にモデル化することで期待される答えを決定する。

トピック 流れる水の音の温度依存性

研究課題(リサーチクエスチョン)

どの流水の音の周波数スペクトルは、温度にどのように依存して

いるか。

アプローチ これは十分に実行可能な挑戦である。生徒は実験を行い、観察さ

れた周波数の変化を説明する方法を提供し、モデル化を行うこと

が期待される。

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「課題論文」(EE):指導の手引き156

「使い回し」についての重要な注意事項生徒は、「課題論文」がDPの評価のために提出する他の成果物と大幅に重複しないよう

にしなければなりません。

「物理」の「課題論文」と内部評価「物理」の「研究論文」は、内部評価の延長ではありません。生徒が両者の違いを理解し

ていることを確認する必要があります。

•内部評価は、シラバスの内容に集中する可能性が高く、「課題論文」ではシラバス

に記載されていない物理の側面を探究することができます。

•内部評価は、(実践的な実験、データベース、シミュレーション、モデリングなど

からの)データの収集と分析を含まなければならず、純粋な文献レビューを行うこ

とはできません。

•「課題論文」では、選択されたトピックの基礎となる物理における理論的枠組みを

構築しなければなりません。一方内部評価では、関心のある問題に対する科学的手

法の応用に焦点を絞り、背景情報のみが含まれます。

•「課題論文」は、生徒の科学的議論を分析し、評価する能力を明確に測定します。

指導教員は、これらの区別に対する生徒の理解を助ける上で重要な役割を果たしています。

学問的不正行為が発覚した場合、生徒はディプロマを取得できない恐れがあります。

「課題論文」の評価規準の解釈

規準A:焦点と方法

(学習要素:トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、研究方法)論文のタイトルは以下のようなものであるべきです。

•調査の本質を反映する

•それ自体で明確に論文のトピックまたは目的を説明している

•長すぎない

•必要なら、論文の冒頭で明らかにされる

•研究課題(リサーチクエスチョン)とは異なる

•通常、見解として提示される

論文の冒頭で、研究課題(リサーチクエスチョン)の文脈を明確に定義するために、生

徒は、研究領域と論文の目的と焦点を概説すべきです。研究課題(リサーチクエスチョン)

に関連する物理の原則を特定することは、通常効果的です。

例えば、銅パイプの中を落下する円柱磁石の運動を理解するには、電磁誘導の法則と

ニュートンの運動の法則を考慮する必要があります。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 157

このために、生徒は、落下磁石に作用する力の定性的な説明、およびその経路に沿って

起こりうる変化を記述すべきです。その説明には、ダイヤグラムやグラフの概形を含むと

便利でしょう。

研究課題(リサーチクエスチョン)に関連する理論の正式な展開は、論文の中でその後

さらに続きます。

研究課題(リサーチクエスチョン)は、理科の中の1科目としての物理を中心にしてお

く必要があります。物理の歴史や、物理における発見の社会的影響などの、周辺のことが

らに焦点を当てるべきではありません。

生徒の調査計画は、彼らが選択したアプローチに依存します。生徒は、自分が選んだ方

法および題材が研究課題(リサーチクエスチョン)に対する回答を与えるものであると示

さなければなりません。

論文が、データに基づくものである場合、生徒の計画には以下が含まれているべきです。

•信頼性が高く、適切な文献調査に基づいた、関連する物理の理論

•技術やデータ収集のための装置が持つ不確実性と限界の認識

生徒は、特定の実験方法を選択するうえでの理論的根拠を説明しなければなりません。

しかし、準備作業が論文の中心の一部であってはなりません。

研究が二次データの調査に基づいている場合、生徒は資料の選択が十分に幅広いもので、

信頼性があることを確認する必要があります。

規準B:知識と理解

(学習要素:知識と理解、コミュニケーション)論文で焦点を当てた物理の内容に対する理解を、論文の中で明確に示さなければなりま

せん。

調査に適用される物理の既存原則や、一般的な知識を説明することは必要ではありま

せん。

研究課題(リサーチクエスチョン)と関連がある資料は、生徒の理解を実証する形で、

効果的に参照し、論文の本文に組み込むべきです。

しかし、理論的な側面は、いかなる実証的調査においても、その一部でなければなりま

せん。このために、生徒は自分のモデルを開発するか、認知された資料からの情報を、関

連性を持たせ、適切な方法で使用するべきです。

生徒は、選択した資料および方法を活用して、持論を効果的にサポートする能力を示さ

なければなりません。

文献資料が論文の中で占める重みは、生徒がどのアプローチを選択するかによります。

IBの物理コースで触れていない内容については、生徒は明確に定義を述べなければな

りません。生徒は、自分の推論のすべてのステップが読み手に明確に理解されるものであ

ることを確認する必要があります。生徒は、自分が取り組んでいることを十分に理解して

いることを証明する必要があります。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き158

研究課題(リサーチクエスチョン)に関連する物理の用語は、適切に使用し、自らの理

解を示すように説明すべきです。

言語の面で欠くことのできない品質は、正確さと精密さ、そして「~に依存する」、「~

に比例する」といった典型的な表現が特定の意味で使われていることです。グラフの曲線

を、適切な分析をせずに「指数関数」や「二次方程式」として定性化することはできま

せん。

使用する記号は、使用される文脈の中で明確かつ完全に特定され、論文全体を通じて一貫

的に適用されなければなりません。例えば、「t を時間とする」では不十分ですが、「t を磁

力を印加する時間とする」なら正確で有用でしょう。

適切かつ正確な物理の用語は、単位を含みます。

不確実性および単位に関連した数式にはSI規格のみが適用されるべきです。

実験設定、理論、分析のための注釈つきのダイヤグラムの使用は、物理におけるコミュ

ニケーションにおいて効率的であり、かつ非常に便利なツールです。これは、生徒の物理

の言語の一部であり、正しく統合されるべきです。

規準C:批判的思考

(学習要素:研究、分析、考察と評価)調査の研究資料と収集したデータは、研究課題(リサーチクエスチョン)と本質的に一

貫して関連するものであり、焦点を絞ったものでなければなりません。

生徒は、関連する物理の代わりにしたり、目標そのものにするのではなく、ツールとし

て数学を使用すべきです。例えば、データ分析では、生徒はソフトウェアプログラムに

よって自動的に生成された統計と数学的関係への理解を示し、不確実性および引用された

フィッティングパラメーターの有効桁数に注意を払うべきです。

任意のソフトウェアによる自動カーブフィッティングおよびパラメータ推定(例:n 次

の多項式)は、意味のある物理モデルや理論によって正当化されなければなりません。

統計は、物理の原則を覆すものであってはなりません。純粋に経験的なアプローチは、

この規準での最高得点を達成することはありません。

生徒は、平均値およびグラフでは特に、不確実性、有効桁数と不確実性を適切に操作す

ることができるはずです。彼らはまた、該当する部分でのエラーの伝播を理解する必要が

あります。

生徒は、調査が持つ本質的な限界と、得られた結論の意味に対する理解を示すべきです。

実験結果を標準値と比較するなどして、提案されている限界が最終的な結果と結論にどん

な影響を与えるかを示すべきです。

生徒は、資料からのデータや情報の妥当性と信頼性を評価しなければなりません。彼ら

は、使用した資料とデータについて、品質、バランス、量にコメントすべきです。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 159

論文を通して、生徒は研究課題(リサーチクエスチョン)に基づいて、明確で、一貫

性があり、焦点を絞った議論を展開しなければなりません。生徒は個人的な見解をただ単

に述べるのではなく、その妥当性を読み手に納得させるためにも、理路整然とした議論に

よって自分の見解を補強するようにしなければなりません。

分析を伴わない短絡的な記述や説明は、通常、議論を進めるのに有効ではないため、避

けるべきです。

洞察力と理解の深さ:この資質は、綿密な研究、豊富な知識に基づいた徹底的な熟考、

研究課題(リサーチクエスチョン)に対するよく構成された一貫性のある議論の構築の結

果として最も顕著に表れます。

十分に整理され、十分に説明された論文は、議論の明確さを高めます。

結論は、一貫性があり、議論を通して明確に展開されるべきです。新たな証拠や無関係

なことがらを導入するべきではありません。結論は生徒独自のもので、議論を踏まえて新

たな統合性を提示するものであるべきです。

分析および結論は、理論モデル、収集した実験データおよび実験デザインにおける限界

についての調査に与える影響を明らかにするべきです。自分の研究課題(リサーチクエス

チョン)が完全に回答できない場合、生徒はこれらの未回答の要素をさらに調査する方法

を簡単に提案してもよいでしょう。

規準D:形式

(学習要素:構造とレイアウトの要素)この規準は、「課題論文」がどの程度学術的に定められた研究論文のあるべき形式に沿っ

ているかと関連します。また、論文を読み、理解し、評価するうえで、これらの、形式の

要素が論文をどの程度サポートするかという点に関するものです。

生徒は、適切で有益な見出しを設定し、自分の論文にセクションとサブセクションの構

造を設定しなければなりません。

実験調査では、科学的な注釈つきのダイヤグラムが、実験の設定における重要な要素を

効率的に紹介することができます。主要装置の関連する情報のみ詳細を記載すべきで、装

置の網羅的なリストは避けるべきです。料理本のレシピのようなアプローチよりも、科学

論文に見られる、手順の主要段階のまとめが適切です。

生徒によって作成された、または文献資料から引用されたグラフ、図、表などは慎重に

選択し、ラベルづけされなければなりません。議論の理解に貢献し、優れた画像品質のも

ので、研究課題(リサーチクエスチョン)に直接関連している場合にのみ使用すべきで

す。表やグラフの明確さが重要であり、不要な「過剰な書式設定」はコミュニケーション

を損なうことがあるため、使用を避けるべきです。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き160

生徒が大量に収集した生データの代表的なサンプルは、不確実性および単位を含め、デー

タの表として、論文の本文に含めなければなりません。生データの残りの部分は、慎重に

ラベルづけして付録に記載すべきです。論文の本文に記載する加工済みデータの表は、最

も適切な形式で情報を明確に表示するように構成するべきです。

分析されたデータから得られたグラフや図は、議論に関連した最も適切な側面のみを

強調するように選択すべきです。あまりにも多くのグラフ、データの表は、コミュニケー

ションの全体的な質を損ない、議論の展開を邪魔します。

加工済みデータ、グラフ、ダイヤグラム、画像などのうち、議論の要となるもののみを、

論文の本文でそのデータに最初に言及する箇所のできるだけ近くに含めるべきです。

データの表は、説明を強化するものであるべきですが、表の中には長い文章を含むべき

ではありません。長い文章が含まれる場合は、制限語数(字数)にそれを含めなければな

りません。

集計表と、複数のグラフをまとめた1つのグラフ(曲線群)の使用で、不必要な繰り返

しを避けることができます。文中に言及された数式には番号をつけるべきです。

引用句や考えに対する参照・引用に注意し、オリジナルではないデータは、慎重に引用

しなければなりません。引用は、印刷物、電子資料に発表された視聴覚素材、文章、グラ

フ、データに対して適用されます。手引きに示されている最低基準(作者、発行日、資料

のタイトル、ページ番号のうち該当するもの)に沿って引用が行われておらず、一貫して

適用されていない場合、学問的不正行為に該当しないか検討されます。

参考文献目録は必須であり、標準的な形式で提示されなければなりません。表紙、目次、

ページ番号などは、全体の見やすさに貢献するものでなければなりません。

「課題論文」は 4000 語(日本語の場合は 8000 字)を超えてはなりません。生徒は、試験

官は、4000 語(日本語の場合は 8000 字)の以降の内容を読まず、それ以降に提示された

内容を評価しないことを認識しなければなりません。

規準E:取り組み

(学習要素:計画および進捗についての振り返り)この規準は、生徒の研究の焦点と研究プロセスへのエンゲージメントを評価するもので

す。生徒の「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」を考慮した後、指

導教員は論文評価の最後にこの規準を適用します。

生徒は、論文を完成させる過程で自分がどのような考えで、どのような選択をしたのか、

またどのように計画を立てたのかについての振り返りを提出します。この振り返りでは、

どのようにしてトピックを選んだか、使用した研究方法やアプローチを選んだかを示さな

ければなりません。この規準で評価するのは、計画のプロセスを通じて意思決定にどの程

度の理由づけが見られたか、および生徒がスキルと理解をどのように発達させたかです。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 161

生徒は、例えば以下のような点を振り返ることができます。

•選択したアプローチとストラテジー、その相対的な成功度

•自分が習得した「学習の方法」のスキル、学習者として自分がどのように成長したか

•研究の結果として、自分の概念理解がどのように発展あるいは変化したか

•研究の過程で直面した困難、それをどのように克服したか

•研究の結果として浮上した疑問

•同じ研究をもう一度やるとしたら、何をどのように変えてみるか

効果的な振り返りとは、「課題論文」の過程を通じて生徒がたどった道のりを示すもので

す。生徒は、自分の取り組みの姿勢を実証するため、自分が実践した手順を単純に描写す

る以上の批判的思考と振り返りの証拠を示さなければなりません。

振り返りは、研究過程における生徒の思考、創造性、オリジナリティについて、試験官

に洞察をもたらす必要があります。生徒の「声」が明確に伝わり、研究の過程で起こった

学びが示されていなければなりません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き162

数学

詳細―科目別

概要「数学」の「課題論文」は、数学に主眼を置いたトピックをテーマにして執筆するもので

すが、純粋な数学理論のみにこだわる必要はありません。

このグループの「課題論文」のテーマは、次の5つのカテゴリに大別されます。

•具体的および抽象的な問題の解決に数学を応用できる可能性

•幾何学やフラクタル理論などに現れる数学の美的側面

•整数論などの定理の証明に見られる数学の優雅さ

•数学のある特定分野の起源と、その後何十年、何百年、あるいは何千年にわたる発

展の歴史

•テクノロジーによる、数学への影響:

- テクノロジーによってもたらされる数学の異分野間のつながり

- テクノロジーによってもたらされる、数学の新分野の誕生、または特定分野

の著しい進展

数学はさまざまな視点から、その楽しさを味わったり有効利用したりすることができま

すが、上に記したのはそうした視点のごく一部です。

トピックの選択「課題論文」のテーマは、数学に主眼が置かれたものであればどのようなトピックでもよ

く、純粋な数学理論のみにこだわる必要はありません。

生徒は、数学のみならず、工学、自然科学、社会科学などの分野から数学のトピックを

選択することも可能です。

また、他の教科で得られた実験結果についての統計的な分析をトピックとして選択する

こともできます。その場合は、モデル化のプロセスに重点を置き、実験結果の限界につい

て論じるようにします。「課題論文」の中で、数学以外の事柄について詳しく述べることは

避けるべきです。

さらには、数学の歴史をトピックとして選択することもできますが、この場合は数学の

発展の系譜を明らかにすることが条件となります。数学者の生涯や私的な対立関係に重

きを置くことは適切とはいえず、評価規準に照らしても高い評価を得ることはできないで

しょう。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 163

設定されている評価規準は、探究の質や内容のほか、適切な研究課題について理路整然

とした論証がどの程度なされているかを正当に評価するためのものです。

生徒は、取り組む価値のある研究課題を見出すことができないようなトピックや、十分

に的が絞り込まれていないために「課題論文」にふさわしい論証を展開できないようなト

ピックを選択することは避けるべきです。

本来生徒には、ディプロマプログラムの数学科目で学習した内容にとどまらず知識をさ

らに広げること、また適切に選択されたトピックについてモデル化を行う際に数学科目の

履修過程で使用した手法を応用することが期待されます。

ただし、執筆する「課題論文」は高度な数学の専門誌に寄稿するための研究論文ではな

い、ということを理解しておくことは非常に重要です。どれほど感銘を受けた研究成果で

あっても、生徒自身がその内容を十分に理解しているという証拠を示すことなく引用する

ことは避けなければなりません。

トピックの例

以下の例は、あくまで参考用に示したものです。生徒は、幅広いトピック(右欄)では

なく、的の絞れたトピック(左欄)を選択するよう心がけることが必要です。

 的の絞れたトピック  幅広いトピック

暗号法における素数 素数

フラクタル集合のハウスドルフ次元 フラクタル

出生死滅過程における連分数 連分数

平方剰余の相互法則の証明 カール・フリードリヒ・ガウス:数学者

グラフ理論を使用したコスト最小化 グラフ理論

トピックの取り扱い生徒は、「課題論文」がどのようなタイトルであるかにかかわらず、以下のように、選択

したトピックにふさわしい数学的アプローチを実践する必要があります。

•適切な手法を用いてデータを分析する

•理路整然とした論証を行う

•適切な方法に従って状況をモデル化する

•問題を明確に述べ、その解法に対して適切なレベルの手法を適用する

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き164

研究の進め方

また、数学の研究とは、各自が行った観察に基づいて相互に関連する数学の問題群を設

定し、それらの探究を長期間に渡って自由に取り組むことも周知しておく必要があります。

これらの各問題に対する解答は、時間をかけて相互に関連し合いながら組み立てられてい

くものです。

生徒は、一次資料および二次資料の分析を通じて数学の研究を進めることが推奨され

ます。

数学の研究における一次資料の分析とは、以下のような作業を指します。

•データ収集

•視覚化

•抽象化

•予想

•証明

数学の研究における二次資料の分析とは、既刊の書籍や論文集など広範な学術資料の調

査を指します。

数学の場合、調査する文献の量は他の教科ほど多くはありませんが、生徒は「課題論文」

の中で扱う数学的な内容について、過去の応用事例や他分野での応用事例を述べるなど、

より幅広い文脈の中で自身の知識や理解度を示すことが求められます。

「課題論文」の執筆

「課題論文」では以下のような場合を含め、全体を通して数学的なコミュニケーションを

実践する必要があります。

•自身の考え方を述べる場合

•定義や予想を記述する場合

•記号、定理、グラフ、図を用いる場合

•結論が正当であることを示す場合

「課題論文」では、数学の記号や公式、分析過程が数多く列記されるため、その中で読み

手が論文の趣旨を見失うことのないよう、全体を通じて十分な説明やコメントを付記する

必要があります。

また「課題論文」全般を通して、数学特有の記述形式に準拠することも必要です。関連

するグラフや図は重要であることが多いため、付録に掲載するのではなく本文内に組み込

むことが推奨されます。ただし、印刷出力した情報、結果の一覧表、コンピューター用に

記述したプログラムなどのうち、かなりの行数にわたるものについては、論旨の展開の妨

げにならないよう、脚注または付録に別途記載するとよいでしょう。また、主要な結果に

対する証明は記載してもかまいませんが、その他の結果に対する証明は省略するか、それ

が重要な点の裏づけになっている場合は、付録に記載することが推奨されます。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 165

トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、および推奨されるアプローチの例

生徒は、テーマとなるトピックを決定し研究課題(リサーチクエスチョン)の内容を書

き終えたら、次に結論を導くための探究方法を決定します。幅広いアプローチの概略を書

き出しておくと便利でしょう。参考までに、それらの例を以下にまとめました。

トピック 航海術の幾何学

研究課題(リサーチクエスチョン)

人類が星を頼りに航海していた時代に、数学、特に幾何学はどの

ような役割を果たしたのだろうか。人工衛星がある現代でも、幾

何学は何らかの役割を果たしているだろうか。

アプローチ 地球を幾何学的に表現した2つの立体(球体と楕円体)のいずれ

かを用いて、かつて航海に役立った地図や海図がどのように作成

されていたかを説明する。

トピック 平方三角数とペル方程式

研究課題(リサーチクエスチョン)

平方数であり、なおかつ三角数でもある数は、どの程度存在し、

どのように分布しているだろうか。ペル方程式に帰着される問題

は他にどのようなものがあるか。

アプローチ 平方数および三角数について説明し、そのどちらにも該当する数

が、なぜペル方程式の解になるのかを明らかにする。ペル方程式に

帰着されるその他いくつかの問題(できれば整数論や幾何学に関

する問題)を、ペル方程式の簡単な歴史と併せて紹介してもよい。

トピック 指数関数と年代や成長の測定

研究課題(リサーチクエスチョン)

原子核物理学、地質学、人類学、人口統計学などの学問領域で

は、指数関数とその微積分からどのような知見を得ているのだろ

うか。

アプローチ 世界の人口動態をモデル化したものなど、指数関数的な成長が観

測される状況設定を1つ取り上げ、そこで起こる現象を説明す

る。現実世界に見られるその他の状況についても、その数学モデ

ルに指数関数的な成長がどのような形で現れるのかを示す。

トピック 有理数による無理数の近似

研究課題(リサーチクエスチョン)

π、e、 2 などの無理数は、有理数を用いてどの程度まで近似す

ることができるだろうか。

アプローチ 最初に無理数の小数表示を使って有理数による近似を導入する。

さらに、無理数の連分数展開も有理数近似になっていることを示

し、誤差限界と近似度について論じる。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き166

トピック アルキメデスの求積法

研究課題(リサーチクエスチョン)

円や放物線で囲まれた領域の面積を求めるアルキメデスの方法

は、現代の積分法にどう受け継がれているだろうか。

アプローチ アルキメデスが内接多角形を用いて円の面積を決定した方法と、

そこから円周率 πの値も計算できることを説明する。またアルキ

メデスは、放物線と弦で囲まれた領域の面積の計算方法をどのよ

うに発見したかについても説明する。

「使い回し」についての重要な注意事項「課題論文」は、ディプロマプログラムに提出する他の学習成果物を流用したものであっ

てはなりません。例えば、内部評価の対象である成果物の内容を「課題論文」に重複使用

することや、逆に「課題論文」の内容を内部評価の対象である成果物に重複使用すること

は認められません。

数学の「課題論文」と内部評価「課題論文」は、内部評価の対象となる作業の延長線上に位置するものではありません。

以下に述べるように、両者には明確な違いがあることを生徒は理解する必要があります。

•「課題論文」は、正式な調査研究を必要とする本格的な成果物である。

•内部評価の対象となる作業は、数学的なアイデアの探究である。

内部評価の対象となる作業で扱ったトピックと同じものを「課題論文」のテーマとして

選ぶことは不適切です。重複使用の危険性がきわめて高くなるため、生徒はそれを控える

ことが推奨されます。

これらの違いを生徒に理解させるうえで、指導教員は重要な役割を果たします。学問的不正

行為があったと判断されれば、ディプロマを取得できなくなる可能性があります。

「課題論文」の評価規準の解釈

規準A:焦点と方法

(要素:トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、方法論)「数学」の「課題論文」では、疑問文や命題、あるいは主張という形でタイトルをつけま

す。それにより、タイトルそのものを通じて「課題論文」のトピックやねらいを明確に示

すことができます。タイトルはあまり長くすべきではありません。タイトルについて何ら

かの説明が必要な場合は、それを数学の分野や手法と併せて「課題論文」の冒頭に述べる

ことが推奨されます。

例えば、「πの近似法の歴史」というタイトルをつけた場合は、「本課題論文では、πの近

似法として、アルキメデスの方法と、それ以降の時代に考案された無限級数による方法、

無限積による方法、および連分数展開による方法を述べる。」などと説明します。つまり

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 167

「課題論文」の中心テーマや趣旨を、読み手に対して明確にすると同時に、文脈の中で知識

や理解度に関連づけることが必要です。これについては、研究課題(リサーチクエスチョ

ン)を述べる中で、適用する数学的手法に言及されていれば、はっきり示すことができます。

参照資料は十分な数が準備されている必要があり、なおかつそれぞれの資料が「課題論

文」における研究の中心テーマに活用されていなければなりません。

「課題論文」は、数学の適切な書式に従い順序立てて記述する必要があります。それぞれ

のセクションは、前のセクションに続くものとして、関連のある内容になっていなければ

なりません。

生徒は、中心テーマと研究課題(リサーチクエスチョン)を明確に書き記しておくと、

「課題論文」を 4000 語(日本語の場合は 8000 字)以内にまとめやすくなるでしょう。

規準B:知識と理解

(要素:知識と理解、コミュニケーション)「課題論文」には、中心テーマに関連する数学的内容を理解している証拠が示されていな

ければなりません。生徒は、どれだけ幅広い数学の知識を披露しようとも、それが自身の

研究課題(リサーチクエスチョン)の探究にとって必要不可欠なものでなければ、高い評

価を得ることはできません。

例えば、フラクタルに関する「課題論文」では、解析学に関する高度な定理や結果を用

いるのではなく、フラクタル理論の基礎をなす数学的な概念について述べなければなりま

せん。

生徒は自身の理解度を以下によって示すことができます。

•テーマに関連する専門用語について正確で不備のない説明を行う

•原典資料について知識が十分であることをうかがわせるようなコメントを記す

•原典資料を適切に使用する

「課題論文」は、そのテーマについて高度な知識がある読み手だけではなく、テーマに強

い関心をもっている読み手にとってもわかりやすい内容でなければなりません。

生徒は、数学的な内容に関するコミュニケーションや説明を明瞭に行うことが必要です。

単に数学について述べるだけでなく、実際に数学的手法を駆使して論証を展開し、数学的

推論のすべての過程を詳述して自身がその数学の内容を理解していることを明確に示さな

ければなりません。

また生徒は必ず、定義を完全な形で述べるようにします。証明が極端に難しい定理を用

いる場合は、わかりやすい具体例を使ってその説明をすることが必要です。全体を通して

生徒は、自身が扱っている数学的な内容を完全に理解しているということを具体的な形で

示すことが求められます。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き168

規準C:批判的思考

(要素:研究、分析と議論/評価)「数学」においては批判的思考が特に必要であるということを、生徒は認識しなければな

りません。

生徒は、以下のような能力があることを「課題論文」の中で示す必要があります。

•演繹的な推論や論証を正しく行うことができる

•仮説を立てることができる

•数学モデルを定式化できる

例えば、統計学に基づいて仮説を立てる場合、生徒は適切な検定方法を選択、適用し、

その結果を正しく解釈できるよう、適切なデータを収集した上で、集約したデータとグラ

フを提示することが求められます。

論証の内容や結果の評価は簡潔でなければなりません。

単に数学について述べるのではなく、実際に数学的手法を駆使して論証を展開すること

が重要です。代数計算を行う場合であれば、生徒はその内容をよく理解していることの裏

づけとして、計算の各過程を示す必要があります。また外部資料から引用する場合は、出

典を明示しなければなりません。

生徒は、証明のしやすい予想を証明すべきです。「課題論文」は、単に結果を引用したも

のであってはなりません。生徒が数学的手法を使いこなせる証拠を示すことが必要です。

規準D:形式

(要素:構成とレイアウトの要素)この評価規準は、学術界で標準とされる研究論文の体裁に「課題論文」がどの程度準拠

しているかを評価するためのものです。また、体裁に関わるさまざまな要素が、「課題論

文」の読みやすさ、内容の理解や評価のしやすさにどの程度寄与しているかについても、

この規準に照らして評価されます。

「課題論文」は、複数の章や節に分けて構成し、それぞれの冒頭には内容を端的に表す見

出しを記すことが求められます。生徒は、対象となる数学的概念を十分理解しているとい

うこと、また数学的な手段を用いてそれらをわかりやすく表現できるということが読み手

にわかるよう心がける必要があります。グラフや図、重要性の高い証明が盛り込まれ、な

おかつそれらによって論旨の展開が妨げられていない簡潔で明快な論文が推奨されます。

グラフ、図、表の使用図や画像は本文内に配置し、そのすぐ隣に説明を記さなければなりません。データ表は、

大きなものでなければ本文内に配置してもかまいませんが、比較的大きなものは付録に掲

載するようにします。ただし、平均、標準偏差、相関係数などは本文内に記述します。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 169

コンピューター用のプログラムは、それが「課題論文」の内容を理解する上で必要不可

欠な場合に限り記載するようにします。またその場合は、必ず付録に記載しなければなり

ません。

他者の資料を利用する場合は、その出典を漏れなく明記しなければなりません。特に、

引用箇所やアイデアの出典明記には細心の注意が必要です。出典を明記すべき対象となる

のは、印刷物および電子媒体により公開されている視聴覚資料、教科書、グラフ、および

データです。出典の明記方法が手引きに記載された最低限の基準(著者名、刊行年、タイ

トル、およびページ番号等が明記されている)を満たしていない場合や、出典と引用文の

間に不整合がある場合、その「課題論文」は学問的不正行為の可能性があるケースに相当

すると見なされます。

参考文献目録は必須であり、標準的な形式のものを掲載することが求められます。また、

タイトルページ、目次、ページ番号などを添えることで、体裁を整えることも必要です。

数学の場合、優れた「課題論文」にとって字数が重要な要素になることはほとんどあり

ません。方程式や公式は(生徒が展開する数学的推論の一部であっても)字数に含まれな

いため、字数が比較的少なくても内容の充実した「課題論文」にすることは可能です。

グラフや図、重要性の高い証明が盛り込まれ、なおかつそれらによって論旨の展開が妨

げられていない簡潔で明快な論文が推奨されます。ただし、字数が極端に多い場合、中で

も不要な内容がその原因になっている場合、その「課題論文」は減点の対象となる場合が

あります。試験官が目を通す字数の上限は 4000 語(日本語の場合は 8000 字)であり、そ

れ以降に記載されている資料も評価の対象になりません。生徒はこの点を十分に認識して

おく必要があります。

数学の「課題論文」に必要最低字数は課されていません。評価の上では、ページ数や字

数ではなく、内容が効果的かつ読みやすい形にまとめられているという点が重視されます。

対象となる数学的概念を十分理解することや、数学的な手段を用いてそれらをわかりやす

く表現できることが目標とされるべきです。膨大な原データやコンピューター用のプログ

ラムを記載する際は、必要に応じて付録を利用することができます。ただし、「課題論文」

の論旨を理解する上で不可欠である数学的な内容は、本文内に記述しなければなりません。

規準E:取り組み

(要素:計画および進捗についての振り返り)この規準は、研究の焦点と研究過程に対して生徒がどのように取り組んだかを評価しま

す。試験官が「計画および進捗についての振り返りフォーム」(RPPF)を検討したうえ

で、論文の評価の最後にこの規準の評価を下します。

生徒は、「課題論文」が完成した時点で、意思決定および計画のプロセスについて振り返

る作業に着手することが求められます。生徒は、用いた手法やアプローチ、トピックにど

のようにしてたどり着いたのかを明らかにしなければなりません。この評価規準では、計

画プロセス全体を通じてなされたさまざまな意思決定の根拠や、習得したスキル、理解し

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き170

た学習内容について、生徒がどの程度、客観的な裏づけを示すことができているかが評価

されます。

生徒は、例えば以下のような点を振り返ることができます。

•選択したアプローチとストラテジー、その相対的な成功度

•自分が習得した「学習の方法」のスキル、学習者として自分がどのように成長したか

•研究の結果として、自分の概念理解がどのように発展あるいは変化したか

•研究の過程で直面した困難、それをどのように克服したか

•研究の結果として浮上した疑問

•同じ研究をもう一度やるとしたら、何をどのように変えてみるか

効果的な振り返りとは、「課題論文」の過程を通じて生徒がたどった道のりを示すもので

す。生徒は、自分が実践した手順を単純に描写する以上の批判的思考と振り返りの証拠を

示さなければなりません。

振り返りは、研究過程における生徒の思考、創造性、オリジナリティについて、試験官

に洞察をもたらす必要があります。生徒の「声」が明確に伝わり、研究の過程で起こった

学びが示されていなければなりません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 171

概要「ダンス」の「課題論文」は、興味のある「ダンス」のトピックに深く踏み込んで研究す

る機会を生徒にもたらします。

論文の焦点は、舞踏家の身体と動作を通じて伝達される意図、目的、そして形式を伴っ

た表現的な運動としてのダンスでなければなりません。

生徒は、自分で選んだ研究課題(リサーチクエスチョン)に沿って、1つまたは複数の

ダンスの様式や伝統について、一貫した分析と解釈を論文で展開することを目指します。

論文では、批判的思考を実践すべきです。個人的な見解を論理的に提示し、筋の通った議

論を展開しなければなりません。

DPの「ダンス」を履修していなくても、「ダンス」の「課題論文」を書くことはできま

す。ただし、この科目のさまざまな側面と要件に精通していなければなりません

トピックの選択生徒は、指導教員と相談して、興味のあるトピックを慎重に選びます。これにあたって

は、研究に必要な文献が手に入るかどうかに注意すべきです。

具体的なダンス、様式、伝統をトピックに選ぶことができます。そして、そのダンス、

様式、伝統それ自体を考察するとともに、文化的文脈のなかでそれが果たす役割を、次の

観点から考察すべきです。

•歴史的にどのように実践されてきたか、また現在はどのように実践されているか

•社会的、宗教的、政治的、知的な意義

研究の少なくとも一部は現代の問題に焦点をあてることにより、一次的な情報を使用で

きるようにしなければなりません。

アイデアの源

以下はあくまでも参考という位置づけであり、網羅的なリストではありません。

•DPの「ダンス」

•(特定の)ダンスのパフォーマンスや異なる解釈

•自分が体験したダンスの文化や伝統

•振付師、アレンジャー、舞踏家との個人的な接触

•ダンス制作に直接かかわった経験

詳細―科目別

ダンス

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き172

•映画、ビデオ、DVD、インターネットのダンスの鑑賞経験

•ダンスの領域に関する個人的な興味や気になる点

トピックの例

以下の例も、あくまでも参考という位置づけです。(表の右側のような)幅広いトピック

ではなく、(表の左側のような)的の絞れたトピックを選ばなければなりません。

 的の絞れたトピック  幅広いトピック

17世紀の宮廷における身振りや動作の要素が

日本の舞いの様式に及ぼした影響

日本の伝統舞踊の様式

アラスカ先住民のダンスにおける慣習と儀式

の重要性を、ユピク族のいくつかのダンスの

分析を通して考察する

アメリカ先住民のダンス

マンデのパフォーマンスの伝統とバレエの様

式の融合から発展したフォデバ・ケイタのア

フリカ・バレエ団のダンスの振付を考察する

西アフリカのダンスの様式

ネザーランド・ダンス・シアターの作品がヨー

ロッパのモダンバレエの様式に及ぼした影響

モダンバレエの様式

トピックの取り扱い論文の構成は重要です。単純に情報を列挙するだけでこの要件を満たすことはできま

せん。

生徒は論文の冒頭で以下のことをすべきです。

•研究課題(リサーチクエスチョン)をどのようにして考えついたかを概説する

•個人的な興味や経験を通してまたは

•対応が必要とされる現代の問題を通して

•研究課題(リサーチクエスチョン)との関係を示しながら、研究の目的と方法論を

説明する

研究方法

トピックを選択した後、(柔軟性のある)研究の計画を立てることが奨励されます。この

計画策定にあたっては、どのような情報が現在入手できるか、または今後入手できるよう

になるかを考慮すべきです。生徒は十分なリソースへのアクセスを持っていなければなり

ませんが、時には情報を探すことが挑戦の一部となり、論文自体の構成要素になることが

あります。

研究には、一次文献と二次文献の両方を含まなければなりません。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 173

一次文献一次情報源には、以下のものが含まれます。

•トピックに直接的に関係するパフォーマンスの鑑賞やクラスまたはワークショッ

プへの参加

•映画、ビデオ、DVD、インターネットを介したダンスの鑑賞

•ダンスの振付ノート(ただし、振付師や民族誌学者が使用しているコンテンポラ

リーダンスの振付ノートは、たいていの生徒にとって入手できない可能性があり

ます)

•ダンスのパフォーマンスの写真

•実践者への聞き取り調査

•書籍に引用されているダンス実践者の発言

20世紀よりも前のダンスを研究する際の制約実践者への聞き取り調査も、一次文献と見なされます。その種の聞き取り調査の発言を

原稿に起こしたもの、あるいはその抜粋を、論文の付録に入れることが適切な場合もあり

ます。ただし、発言を原稿に起こすのは非常に時間のかかる作業であることを、生徒は認

識すべきです。

20 世紀よりも前の作品の研究には、以下のような困難が伴います。

•映画やビデオは 20 世紀半ばまで発明されなかった

•古代のダンスの指導書はほとんど現存せず、特定の様式や文化から創出されたごく

わずかな数の傑作のみが振付ノートとして残されている

•ダンスの振付の表記法は、抜本的な変化を経てきた

このため、トピックと研究課題(リサーチクエスチョン)のなかに 20世紀以降の要素を

含めることが要件となります。

二次文献研究課題(リサーチクエスチョン)は、以下のような二次文献を参照することによって、

ダンスの研究という幅広い文脈のなかに位置づけなければなりません。

•教科書

•専門誌、ジャーナル

•インターネット

選択する二次文献は、トピックに直接的に関係しているべきです。これらの文献を読む

ことによって生徒の独自の考えが刺激され、論文の構成の手本とすることができる可能性

があります。

ただし、二次文献だけに基づいて「課題論文」を書くことはできません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き174

生徒は、研究と執筆の過程で以下の質問を使用して、分析や議論を発展させるなかで検

討しなければならない問題をすべて検討したかどうかを確認することができます。

•研究対象に選んだダンスの起源と目的を分析することによって、このダンスの価値

と限界に対する認識を示しているか。

•研究課題(リサーチクエスチョン)に文脈をもたらし、その質問に完全かつ効果的

に答えるにあたって、ダンスに対する十分な理解を一貫して示しているか。

•この研究が何を目的としているか、ダンスの分野に対してどのように情報をもたら

すかについての明確な意識を示しているか。

•自分の研究に限界があるかもしれないことについての認識を示しているか。自分の

研究に基づいて行われる将来の研究に対して何らかの提案をすることができるか。

議論の展開

論文では、一次文献と二次文献の両方の研究から得た証拠や根拠を使って、議論を裏づ

けなければなりません。これに際しては、以下の質問が役立つかもしれません。

•どのような証拠を、自分のコメントや結論を支えるのに使えるか。

•その証拠は、関連性と信頼性が高いか。単純に自分の先入観に基づいたものではな

いか。

また、使用した文献を批判的に評価する必要もあります。それには、以下のような質問

を自問できるでしょう。

•自分の考えや意見や主張を支えるには、どの文献が重要か。

•自分の分析に寄与しないのは、どの文献か。

研究課題(リサーチクエスチョン)にとって適切なアプローチは、いくつも存在するか

もしれません。例えば、以下のようなアプローチです。

•一次文献(ダンスや舞踏家)と二次文献(ダンスについての資料)を使うことで、

さまざまな解釈を確立し評価することができているか。

•文献(一次および二次)の分析では、ダンスの特定の側面を探究し説明しているか。

•使用した一次文献は、ダンスの特定の側面に焦点をあてているか。

•伝承されたダンスのパフォーマンスの収集と分析によって、類似した形式や異なる

形式のダンスが比較されているか。

トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、アプローチ提案の例

生徒は、トピックを選択し、研究課題(リサーチクエスチョン)を設定した後、その答

えを研究するための方法を決めることができます。これには、幅広い視点について、おお

まかに説明した短い文章を付け加えると良いでしょう。以下の例は、あくまでも参考とい

う位置づけです。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 175

トピック バラタナティヤム舞踊の様式にルクミニ・アランデールが及ぼした影響

研究課題(リサーチクエスチョン)

インドのバラタナティヤム舞踊の復興に対し、ルクミニ・アラン

デールはどの程度、影響を及ぼしたか。

アプローチ •バラタナティヤム舞踊の歴史的起源と様式を簡潔にまとめる

ことで、ダンスの具体的な文脈にこのトピックを位置づける。

特に、イギリス統治時代の社会的な圧力と強制された変化に

よって舞踊の様式が変化したことについての議論を含める。

•ルクミニ・アランデールの背景情報と彼女がバラタナティヤム

の舞踊様式にどのようにかかわるようになったかを説明する

ことで、文脈をもたらす。

•ミーナクシ・スンダラム・ピライに師事しアンナ・パヴロワと

いった舞踏家と学んだことが、ルクミニ・アランデールの芸術

的発展にどのように影響したかを議論して、彼女の様式と興味

に与えた影響をさらに明確にする。

•彼女のパフォーマンスをこれらの影響という観点から分析・議

論して、論文の議論を支える。

•ルクミニ・アランデールのバラタナティヤムへの関与と、特に

この舞踊様式の復興に対する寄与を論じて、論文の議論をさら

に支えることができる。

•カラクシェトラ芸術学校の設立に努めた彼女の努力と、彼女の

哲学やカリキュラムがこの舞踊の復興において果たした重要

性を概説することで、研究課題(リサーチクエスチョン)に答

える。

•結論では、ルクミニ・アランデールがバラタナティヤムの舞踊

様式の復興に最も影響を及ぼした一人であったことを特定する。

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「課題論文」(EE):指導の手引き176

トピック 「狂騒の 20年代」のダンスが女性の役割の変化に及ぼした影響

研究課題(リサーチクエスチョン)

1920 年から 1925 年の米国において、チャールストンはどの程度、

女性の役割の変化に影響したか。

アプローチ •19 世紀と 20 世紀初頭の米国における女性の参政権についての

文脈を簡潔に概説して、1920 年の米国憲法改正第 19 条により

性別を理由に選挙権を否定してはならないと定められたこと

を説明する。参政権運動に寄与したスーザン・B・アンソニー、

エリザベス・ケイディ・スタントンなどの女性指導者を特定し、

彼女たちがどのようにして変化をもたらしたかを説明する。

•参政権運動に至る時代に流行したワルツやフォックストロッ

トなどのダンスについてまとめ、また 1920 ~ 1925 年の間に進

化したダンスの様式、例えばタンゴやチャールストンなどを説

明することで、ダンスの具体的かつ適切な文脈にこのトピック

を位置づける。

•当時の女性の態度と影響、例えばジャズ音楽、ファッション、

映画などについて議論し、女性が行動や服装やメイクアップを

どのように変えたかを説明して、議論の流れを支える。この

変化の最先端を率いた女性、クララ・ボウやメアリー・ピック

フォードなどに言及する。

•チャールストンに特有の体の動きと、それが社交ダンスに及ぼ

した影響を分析する。特に、このダンスが当時のエネルギーや

時代の雰囲気をどのように反映していたかを議論する。

•結論では、チャールストンというダンスの意義と、それが女性

に関する当時の社会変化をどのように反映したかを特定する。

トピック ルイ 14世が政治とバレエの発展において果たした役割

研究課題(リサーチクエスチョン)

ルイ 14 世は、どの程度、バレエの発展に影響したか。ダンス、特

にバレエは、当時の社会や政治の標準を反映していたのか。

アプローチ •ルイ 14 世が宗教、貿易、政治に及ぼした影響を簡潔に説明し

て、このトピックに文脈をもたらす。

•フランス宮廷の舞踊の歴史を概説して、特にダンスが当時、社

会的にどのような重要性を有したかを見ることにより、ダンス

の具体的かつ適切な文脈にこのトピックを位置づける。

•バレエの発展とパフォーマンス芸術としてのダンスの確立に

おいてルイ 14 世が果たした役割を説明して、議論を支える。

•ルイ 14 世が確立した社会的・政治的な標準をバレエがどのよ

うに固定化したかを分析する。具体的には、社交的な作法の厳

格な規則、ダンスと武芸に長けていることを貴族に求めた要件

などを分析して、議論を支える。

•結論では、バレエの意義を特定し、またルイ 14 世が統治の目

的でダンスをどのように使用したかを説明する。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 177

外部のリソースの使用

「ダンス」の「課題論文」は、学術ジャーナルや研究論文の形式に則っているべきです。

読み手が、ウェブサイトのリンク、ビデオファイル、DVDといった論文以外のリソース

にアクセスしなくても、論文を読んで理解できるようになっているべきです。

試験官が論文を評価する際は、論文に含まれている外部文献にはアクセスしません。議

論の構築にとって欠かせない情報が外部のリンクに含まれている場合は、その論点の議論

はなされなかったものとして扱われます。

「使い回し」についての重要な注意事項生徒は、「課題論文」がDPの評価のために提出する他の成果物と重複しないようにしな

ければなりません。例えば、「世界のダンス」の課題で提出したのと同じ成果物を提出する

ことは認められません。

「ダンス」の「課題論文」と他の評価要素(コンポーネント)「ダンス」の「課題論文」は、この科目の他の評価課題の延長ではありません。生徒は、

これらの間の違いを理解しなければなりません。

•自分がアレンジしたダンスの考察や、創作と分析の評価要素(コンポーネント)と

して提出した成果物に影響を及ぼしたダンスの研究を、「課題論文」に提出するこ

とはできません。

•ダンス研究の評価要素(コンポーネント)のために行った研究、あるいはそれに関

係する研究を、「課題論文」に提出することはできません。

•パフォーマンスの評価要素(コンポーネント)に選んだダンスを研究することはで

きません。

これらの違いを生徒に理解させるうえで、指導教員は重要な役割を果たします。学問的不正

行為があったと判断されれば、ディプロマを取得できなくなる可能性があります。

「課題論文」の評価規準の解釈

規準A:焦点と方法

(要素:トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、方法論)トピックの焦点は、実際のダンスの分析、考察、議論、評価でなければなりません。つ

まり、ダンスが文献資料とならなければないことを意味します。

論文の冒頭で研究課題(リサーチクエスチョン)を明確に述べることにより、トピック

を示すべきです。この質問は、的が絞れていて、具体性があり、研究の発展を不必要に制

限しないものであるべきです。

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「課題論文」(EE):指導の手引き178

研究課題(リサーチクエスチョン)は、何らかの見方、焦点、解釈を導くものであるべ

きです。

トピックを選ぶにあたって個人的なダンスとの出合いやダンスに関する経験がインスピ

レーションになることはありますが、選ぶトピックは重要性が高く、明らかな研究の目的

を伴っていることが重要です。

論文では、研究を通じて使用する方法論を明確に述べなければなりません。これには、現

代の問題についての研究が含まれるべきです。例えば、以下のようなものが考えられます。

•パフォーマンスの分析

•振付家や舞踏家への聞き取り調査

•アンケート調査

•楽譜や振付ノートの分析

•データ収集(解釈や聞き取り調査の比較分析を通じて行う)

•他の一次文献

データの収集、分析、評価をすることにより、研究トピックについての深い洞察を反映

する批判的な議論ができるようになります。

また、自分の研究を幅広い文脈のなかでとらえるために、二次文献も参照しなければな

りません。

さらに、以下のことを実証する必要があります。

•十分に計画を立てたうえで論文を執筆したこと

•研究に使用した方法論やアプローチが、研究課題(リサーチクエスチョン)にとっ

て適切であること

規準B:知識と理解

(要素:知識と理解、コミュニケーション)この規準を満たすには、研究トピックに対する事前の知識を実証し、既存の洞察を基に

してどのように研究を発展させたかを示す必要があります。このため論文では、選んだト

ピックの批判的かつ優れた理解を示さなければなりません。

この規準で高い評点を得るには、トピック自体についての優れた理解を示すことが重要

です。研究課題(リサーチクエスチョン)に関係しない一般的なダンスの形式や舞踏家、

振付家に対する幅広い知識を示すことでは、高い評点は得られません。十分に準備をして

トピックを正しく理解することが、優れた論文を書くうえで欠かせません。

また、データの出典、分析、評価の信頼性が高く、有効であることも確認しなければな

りません。

使用する文献の質、量、バランスについても批判的な意識をもっていることを実証しな

ければなりません。使用する文献は、研究課題(リサーチクエスチョン)にとって明らか

に関連性があり、かつ適切であるべきです。また、関連する問題についての理解を実証す

るために、効率よく意図的に文献を使用すべきです。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 179

提示する情報と証拠は、批判的に評価する必要があります。自分の選んだアプローチに

内在する限界や不確定性に対する認識を示すことが、生徒には期待されています。

研究結果の有効性と信頼性を、調査に際しての変数の管理方法という観点から適宜批判

的にコメントすべきです。

論文では、注意深く構成を立てて、議論を展開させるべきです。議論の根拠を無駄なく

明確に示さなければなりません。

科目に特有の用語を適切に使用して、ダンスの概念を正確に用いながら、自分の研究結

果を伝えるべきです。

規準C:批判的思考

(要素:研究、分析と議論/評価)研究課題(リサーチクエスチョン)は、関連性のある適切な文献で裏づけながら、明確

かつ論理的な議論を用いて答えるべきです。生徒は、批評家の見解を単純に流用するので

はなく、自分なりの議論を構築することを目指すべきです。

説明や記述に終始し、単純に題材を説明するだけの論文は、分析スキルの証拠を示さな

いため、高い評点を得られません。

主観的な議論は適切ではありません。個人的な見解は、重要性があることもありますが、

一次文献や二次文献を参照することによって支えられている必要があります。

生徒は、特に以下の観点に立って、自分の研究を評価する必要があります。

•自分の研究の結果として未解決のまま残された問題やさらなる研究課題(リサーチ

クエスチョン)

•使用した文献の相対的な価値と限界

これらの評価は、論文の本論に統合させることで、舞踊史の専門家、振付家、舞踏家の

意見や文献についての有用な洞察を示すべきです。

生徒は、文献を調査して証拠を集め、論理的な議論を構築して研究課題(リサーチクエ

スチョン)に答えることができなければなりません。その議論は、最後の結論で総括し

ます。

議論や分析に盛り込んだ論点は、自分が研究した題材を使って裏づけるべきです。そし

て、論文全体を通じて研究課題(リサーチクエスチョン)に焦点をあてながら、論理的な

議論を維持すべきです。

研究で使用した情報によって研究課題(リサーチクエスチョン)がどこまで回答された

かの評価は、この議論の一部を形成すべきです。

論文全体を通じて、構築した論点や議論から結論を導いていくことはできます。そして

最終的な結論は、論文を通じて提示した立場や証拠と矛盾しないものでなければなりませ

ん。最後の結論で、それまでに議論しなかった新しい題材に言及すべきではありません。

研究の結果として浮上した疑問は、重要性が高いと思われるのであれば、結論に盛り込む

ことができます。

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「課題論文」(EE):指導の手引き180

規準D:形式

(要素:構成とレイアウトの要素)この評価規準は、学術界で標準とされる研究論文の体裁に「課題論文」がどの程度準拠

しているかを評価するためのものです。また、体裁に関わるさまざまな要素が、「課題論

文」の読みやすさ、内容の理解や評価のしやすさにどの程度寄与しているかについても、

この規準に照らして評価されます。

生徒は、論文をセクションとサブセクションに分け、適切な情報を伝える見出しをつけ

る構成にまとめることができます。

文章以外の資料の使用文献からチャート、画像、表を引用する際は、思慮深く選定し、適切なラベルをつけな

ければなりません。また、以下の条件を満たす場合のみ、使用すべきです。

•研究課題(リサーチクエスチョン)に直接的に関係する

•議論を理解するうえで役立つ

•見た目の質が良い

写真、画像、図、振付ノートなど、論文の議論にとって不可欠な資料のみを本論に含め、

そのデータに最初に言及する箇所にできるだけ近いところに表示すべきです。

生徒が実施した聞き取り調査の発言を原稿に起こした資料のサンプルは、付録に含める

のが賢明です。その場合も、適切なラベルをつけるべきです(発言を原稿に起こすのは非

常に時間のかかる作業であることを、生徒は認識すべきです)。

付録は試験官に読まれないため、慎重に使用する必要があります。論文の分析や議論や

評価に直接的に関係する情報はすべて、論文の本論に含めなければなりません。

オリジナルでない素材はすべて、注意して認識しなければなりません。特に、引用やア

イデアの参照と明記には注意する必要があります。このことは、印刷媒体や電子媒体の文

献で出版された視聴覚資料、文章、グラフ、データにあてはまります。参照がこの手引き

で定められた最低要件(著者名、発行日、文献名、必要に応じてページ番号)を満たして

いない場合、かつ一貫して使用されていない場合は、学問的不正行為の可能性があるケー

スと見なされます。

参考文献目録はきわめて重要であり、標準的な形式で付記されなければなりません。表

紙、目次、ページ番号などは、論文の形式の質を高めるものになっている必要があります。

論文は、4000 語(日本語の場合は 8000 字)以内で書かなければなりません。4000 語

(日本語の場合は 8000 字)を超えた時点で、試験官はそこから先を読まず、また評価もしな

いことを、生徒は認識する必要があります。写真、画像、図、振付ノートのタイトルは、

語数には含まれません。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 181

規準E:取り組み

(要素:計画および進捗についての振り返り)この規準は、研究の焦点と研究過程に対して生徒がどのように取り組んだかを評価しま

す。試験官が「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」を検討したうえ

で、論文の評価の最後にこの規準の評価を下します。

生徒は、論文を完成させる過程で自分が下した意思決定や計画策定のプロセスについて

の振り返りを提出します。この振り返りでは、どのようにしてトピックを選んだか、使用

した研究方法やアプローチを選んだかを示さなければなりません。この規準で評価するの

は、計画のプロセスを通じて意思決定にどの程度の理由づけが見られたか、および生徒が

スキルと理解をどのように発達させたかです。

生徒は、例えば以下のような点を振り返ることができます。

•選択したアプローチとストラテジー、その相対的な成功度

•自分が習得した「学習の方法」のスキル、学習者として自分がどのように成長したか

•研究の結果として、自分の概念理解がどのように発展あるいは変化したか

•研究の過程で直面した困難、それをどのように克服したか

•研究の結果として浮上した疑問

•同じ研究をもう一度やるとしたら、何をどのように変えてみるか

効果的な振り返りとは、「課題論文」の過程を通じて生徒がたどった道のりを示すもので

す。生徒は、自分が実践した手順を単純に描写する以上の批判的思考と振り返りの証拠を

示さなければなりません。

振り返りは、研究過程における生徒の思考、創造性、オリジナリティについて、試験官

に洞察をもたらす必要があります。生徒の「声」が明確に伝わり、研究の過程で起こった

学びが示されていなければなりません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き182

概要「音楽」の「課題論文」は、純粋に興味をもっている音楽のトピックに深く踏み込んで研

究する機会を生徒にもたらします。

論文では、多様な文脈における意図と目的と意味を伴った表現形式としての音楽を、中

心的なトピックとして扱うべきです。以下のいずれかの手段を通して生徒が自分で体験し

た特定の音楽作品に焦点をあてなければなりません。

•録音

•楽譜

•演奏やコンサート

生徒は、音楽作品を体系的かつ秩序立てて想像力豊かに探究しなければなりません。「課

題論文」においてこの探究の基本となるのは、音楽分析です。

この探究の結果は、学術的な研究論文の形式に則って、一貫性があり構成のしっかりし

た論文にまとめるべきです。それには、以下の要素が必要です。

•一次文献と二次文献の両方に基づく分析的な研究のアプローチ

•科目に適切な用語を使用した正式な言葉遣い

•細部にまで注意を払った表現

また、生徒は、以下の資質を実証する必要があります。

•選択した音楽的な文脈とジャンルについての知識と理解

•論理的な立論、議論、解釈、評価を通したトピックの批判的思考

DPの「音楽」を履修していなくても、「音楽」の「課題論文」を書くことはできます。

ただし、この科目のさまざまな側面と要件に精通していなければなりません。

トピックの選択「課題論文」の研究と執筆を通じて、生徒は、音楽についての理解を深めます。音楽作品

を単純に分析するだけでは十分ではありません。また、生徒は、例えば音楽的な文脈や理

論に対する洞察を深めるという目的の下に、批判的な議論を構築しなければなりません。

このため、選択するトピックが、これらのことをするだけの余地を持っていなければな

りません。

アイデアは、次のようなところから得られるかもしれません。

詳細―科目別

音楽

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「課題論文」(EE):指導の手引き 183

以下はあくまでも参考という位置づけであり、網羅的なリストではありません。

•DPの「音楽」

•演奏やコンサート

•生徒が自分で体験した音楽的な文化

•作曲家や演奏家との個人的な接触

•音楽制作に直接かかわった経験

•(さまざまな形態で流通している)録音

•生徒が特に興味をもっている、感情的に惹かれている、あるいは生徒にとって特別

な重要性のある他の音楽

避けるべきトピックと研究課題(リサーチクエスチョン)

•基本的に説明や記述に終始する論文へとつながるような研究課題(リサーチクエス

チョン)

•4000 語(日本語の場合は 8000 字)以内で効果的な分析や議論を展開するには幅広

すぎる研究課題(リサーチクエスチョン)(例えば、「アフリカ音楽とは何か」、「マ

イケル・ジャクソンが 20 世紀に及ぼした影響は何か」など)

•すでに研究され尽くされたテーマ(自明あるいは予測できる論文につながる)

•音楽的でないトピック

- ある演奏家の生涯

- 楽器や技術の特徴と発展

- 歌詞

- 生物学的、神経学的、教育学的、あるいは治療法に関係する問題

研究課題(リサーチクエスチョン)

生徒は、研究領域を決定した後、的の絞れた研究課題(リサーチクエスチョン)を考え

なければなりません。この質問は、明らかに音楽的な焦点を有していなければなりません

が、研究の発展を不必要に制限しないものであるべきです。

例えば、「バルトークの『管弦楽のための協奏曲』で対位法はどのように使われている

か」という研究課題(リサーチクエスチョン)は、以下のような理由から、良い研究課題

(リサーチクエスチョン)であると言えます。

1. 次の点を明らかにしているため。

- 研究の対象とする音楽―バルトークの『管弦楽のための協奏曲』という適

切な範囲の音楽的な文献を選んでいる

- 研究の重点とする作曲要素―対位法

2. 研究の発展の可能性を不必要に制限しないため。

3. バルトークの協奏曲で対位法がどのように使われているかを探究することに

よって、DPの「音楽」における創作の評価要素(コンポーネント)のための学

習に情報がもたらされる可能性があるため。

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「課題論文」(EE):指導の手引き184

トピックの例

以下の例は、あくまでも参考という位置づけです。(表の右側のような)幅広いトピック

ではなく、(表の左側のような)的の絞れたトピックを選ばなければなりません。

 的の絞れたトピック  幅広いトピック

バルトークの『管弦楽のための協奏曲』にお

ける民俗音楽の役割

バルトークの音楽

ディジー・ガレスピーの作品XとYの様式に

見られるリズムとハーモニーの側面

ビバップの特徴

バリ島のガムランの作品XとYに見られる作

曲技法

インドネシアの音楽の特徴

スタンダード作品XとYとZの解釈に見られ

るエラ・フィッツジェラルドとサラ・ヴォー

ンの歌唱様式の比較

ジャズヴォーカルの理解

トピックの取り扱い音楽分析は探究の出発点となりますが、優れた論文を完成させるには十分ではありませ

ん。生徒には、自分の分析を文脈のなかで位置づけ、以下のことを実践することが期待さ

れています。

•自分の結論を幅広い音楽の分野に関連させる

•可能であれば、自分なりのクリエイティブな見方を追加する

論文で展開する議論は、自分の行った研究の結果として分かったことを使って支えなけ

ればなりません。

生徒は論文の冒頭で以下のことをすべきです。

•研究課題(リサーチクエスチョン)を明確に述べる

•それに答えるための方法論を概説する

研究の方法論

一次文献音楽分析は、研究とデータ収集の出発点です。これには、楽譜や録音の研究が必要にな

る可能性があります。生徒は、独自の分析を通じて音楽的な要素と作曲技法を特定し、そ

れらがどのように使われているかを理解します。

当初の分析に使える一次情報源には、以下のものが含まれます。

•録音

•楽譜

•コンサート

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 185

•観察

•演奏家への聞き取り調査

•アンケート調査やその他の調査

生徒はまた、大局的な状況も考察すべきです。典型的な質問は「なぜ」を問うものとな

る可能性があり、例えば以下のようなものが挙げられます。

•その作曲家が特定の音楽的な決定を下したのはなぜか。

•特定の組み合わせが他の組み合わせよりも効果を発揮するのはなぜか。

•ある文脈で有効に機能する音楽作品が別の文脈では有効に機能しないのはなぜか。

また、生徒は、以下の点を議論するとよいかもしれません。

•特定の作品を演奏する際の決まりや解釈

•その作品やジャンルに及んでいる影響

•その作品が当時有した重要性

二次文献選んだ音楽作品を説明し解釈するのに必要な情報を得るため、他の人が以下の点につい

てどう言っているかも探究すべきです。

•音楽作品そのもの

•その音楽的な文脈

•同じジャンルや様式の他の音楽

そのための文献としては、以下が考えられます。

•教科書

•音楽についての書籍

•音楽分野の学術ジャーナル

•インターネット

「課題論文」は、教科書や原稿、またはインターネットからの資料だけに基づいて執筆す

べきではありません。

トピックを選ぶ際は、十分に幅広く、関連性のある適切な文献が入手できることを確認し

なければなりません。手に入る文献が少なすぎることが研究の初期の段階で明らかになっ

た場合は、トピックを変更すべきです。

議論の展開

最終的に、生徒の分析は、論理的な議論の形成につながる必要があります。これには、

以下の質問が役立つかもしれません。

•この研究の結論は何か。この研究はどのような影響を有するか。

•この研究の結果や結論は、音楽という分野について私たちに何を語ってくれるか。

•この作品を音楽的に分析することから学べる教訓は何か。

•この研究は、他の音楽家にどのように影響するか。自分自身の作曲や演奏の勉強に

どう影響するか。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き186

研究の結論は、以下の項目のすべて、または一部に言及すべきです。

•自分なりの分析を通じて学んだこと

•このトピックの研究分野における自分の研究の位置づけ

•研究の欠点と未解決のまま残された質問

トピックの焦点をさらに絞り込むため、トピックと研究課題(リサーチクエスチョン)

に続いて、研究課題(リサーチクエスチョン)に答えるために使用する研究のアプローチ

を概説することができます。

トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、アプローチ提案の例

生徒は、トピックを選択し、研究課題(リサーチクエスチョン)を設定した後、その答

えを研究するための方法を決めることができます。これには、幅広い視点について、おお

まかに説明した短い文章を付け加えると良いでしょう。以下の例は、あくまでも参考とい

う位置づけです。

トピック エンニオ・モリコーネの映画音楽

研究課題(リサーチクエスチョン)

エンニオ・モリコーネが映画『ミッション』のための作曲した音

楽の特徴と言える作曲技法は何か。

アプローチ •『ミッション』のサウンドトラックから選んだ3つの楽曲で使

われている音のピッチ、モチーフ、管弦楽編成、テクスチャー

を研究する(音楽分析)。

•エンニオ・モリコーネによる音楽的要素と作曲技法の使用が、

映画の特徴をどのように支えているかを考察して見極めため

うえで議論する(比較分析、アンケート調査、文献研究など)。

トピック アストル・ピアソラの音楽

研究課題(リサーチクエスチョン)

ピアソラが打ち出した新しいタンゴ様式がこのジャンルの発展

において果たした意義は何か。

アプローチ •アストル・ピアソラの『リベルタンゴ』に見られるハーモニー、

メロディー、リズム、および様式的な要素を分析して、彼のタ

ンゴ様式の重要な特徴を特定する(音楽分析)。

•タンゴの歴史を簡単に紐解いて、その特徴がジャンルをどのよ

うに変容させたかを特定する(文献研究など)。

•特定された特徴がこの様式のさらなる発展にどのように影響

したかを考察する(文献研究、音楽分析、作曲家への聞き取り

調査など)。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 187

トピック ロックバンド、ミューズの音楽的な寄与

研究課題(リサーチクエスチョン)

ロックバンド、ミューズの楽曲X、Y、Cに見られる音楽的な影

響は、聴き手の体験にどのように影響しているか。

アプローチ •ミューズの楽曲X、Y、Cに見られるメロディー、リズム、ハー

モニーの要素を分析して、それぞれがショパン、シューベル

ト、ラフマニノフからの影響をどのように受けているかを理解

する(音楽分析)。

•ロマン派作曲家の影響がバンドの音楽的な様式をどのように

形成したかを議論する(文献研究など)。

•これらの影響が聴き手に及ぼす影響を考察する(アンケート調

査または聞き取り調査)。

トピック 琴の音楽

研究課題(リサーチクエスチョン)

沢井忠夫の 20 世紀の琴の作曲は、どの程度、独自性があるか。

アプローチ •沢井忠夫による 20 世紀の特徴的な筝曲3作品を研究して、伝

統的な要素と革新的な要素を詳細に把握する(音楽分析)。

•これらの伝統的および革新的な要素の起源を探究し、これらの

作曲における効果的な使用にインスピレーションを与えたも

のは何だったか、それらの要素が沢井忠夫の作曲様式をどのよ

うに形成したかを考察する(文献研究、これらの作品の演奏家

への聞き取り調査など)。

•20 世紀に書かれたこれらの筝曲の独自性を高めているもの(ま

たは高めていないもの)は何かを議論する(比較分析、演奏家

への聞き取り調査など)。

証拠についての重要な注意事項

「課題論文」は、学術ジャーナルや研究論文の形式に則っているべきです。読み手が、

ウェブサイトのリンク、ビデオファイル、CD、DVDといった論文以外のリソースにア

クセスしなくても、論文を読んで理解できるようになっているべきです。

試験官が論文を評価する際は、論文に含まれている外部文献(付録に収められている文

献も含めて)にはアクセスしません。議論の構築にとって欠かせない情報が外部のリンク

に含まれている場合は、その論点の議論は成されなかったものとして扱われます。

ただし、以下の文献は、「課題論文」の分析を直接的に支え、かつ関連性が高いものであ

れば、有益な証拠と見なされます。

•作曲家が記した楽譜の例

•楽譜の抜粋

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「課題論文」(EE):指導の手引き188

•楽器用に書き直した楽譜

•グラフ

•添付した楽譜への参照

「使い回し」についての重要な注意事項生徒は、「課題論文」がDPの評価のために提出する他の成果物と重複しないようにしな

ければなりません。例えば、音楽的なつながりの探究のために取り組んだ成果物を、「課題

論文」に提出することはできません。同様に、所定課題に選んだ音楽作品を「課題論文」

のトピックに選ぶことも認められません。

「音楽」の「課題論文」と内部評価「音楽」の「課題論文」は、内部評価課題の延長ではありません。生徒は、この2つの違

いを理解しなければなりません。

•パフォーマンスの評価要素(コンポーネント)に選んだ作品を、「課題論文」で研

究することはできません。

•創作の評価要素(コンポーネント)として提出した成果物に影響を及ぼした作品の

研究を、「課題論文」に提出することはできません。

これらの違いを生徒に理解させるうえで、指導教員は重要な役割を果たします。学問的不正

行為があったと判断されれば、ディプロマを取得できなくなる可能性があります。

「課題論文」の評価規準の解釈

規準A:焦点と方法

(要素:トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、方法論)この規準を満たすには、実際の音楽の分析、考察、議論、評価に焦点をあてるトピック

を選びます。つまり、音楽が文献資料となることを意味します。

トピックを選ぶにあたって個人的な音楽との出合いや音楽に関する経験がインスピレー

ションになることはありますが、選ぶトピックは重要性が高く、明らかな研究の目的を伴っ

ていることが重要です。

選んだトピックは、明確に述べた研究課題(リサーチクエスチョン)を通して表明しま

す。この質問は、的が絞れていて、具体性があり、研究の発展を不必要に制限しないもの

であるべきです。

論文では、研究を通じて使用する方法論を明確に述べなければなりません。これには以

下の点を盛り込むべきです。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 189

•演奏、楽譜、編曲の音楽分析

•データの収集と評価(例えば以下の比較分析を通じて)

- 解釈

- 聞き取り調査

- アンケート調査

データの収集、分析、評価をすることにより、研究トピックについての深い洞察を反映

する批判的な議論ができるようになります。

また、自分の研究を幅広い文脈のなかでとらえるために、二次文献も参照しなければな

りません。

さらに、以下のことを実証する必要があります。

•十分に計画を立てたうえで研究と論文の執筆を進めたこと

•研究に使用した方法論やアプローチが、研究課題(リサーチクエスチョン)にとっ

て適切であること

規準B:知識と理解

(要素:知識と理解、コミュニケーション)この規準を満たすには、研究トピックに対する事前の知識を実証し、既存の洞察を基に

してどのように研究を発展させたかを示す必要があります。このため論文では、選んだト

ピックの批判的かつ優れた理解を示さなければなりません。

生徒は、二次文献を研究したうえで、考察のすべての段階にわたって既存の知識を活用

して以下を行ったことを実証すべきです。

•自分の研究に裏づけをもたらす

•議論と結論に深みをもたせる

このため、効果的な研究をするには、十分に音楽的な準備をし、音楽についての十分な

理解をもち、さらに科目特有の用語を適切に使用して、音楽的な概念を参照または応用す

ることが欠かせません。

また、すべての研究や考察において重要となるもうひとつの側面が、研究の信頼性と有

効性です。これは、文献の選定と使用、音楽分析、および関係する音楽的文脈のなかで収

集したデータの評価を意味します。

提示する情報と証拠は、批判的に評価する必要があります。使用する文献の質、量、バ

ランスについても批判的な意識をもっていることを実証しなければなりません。自分の選

んだアプローチに内在する限界や不確定性に対する認識を示すことが、生徒には期待され

ています。

主観的な議論は適切ではありません。

科目に特有の用語を適切に使用して、音楽的な概念を参照または応用する能力があるこ

とを実証すべきです。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き190

規準C:批判的思考

(要素:研究、分析、議論と評価)生徒は、音楽や批評の文献を選定して調査し、論理的な議論を構築して結論へと導き、

研究課題(リサーチクエスチョン)に答えることができなければなりません。

生徒は、批評家の見解を単純に流用するのではなく、自分なりの議論を構築することを

目指すべきです。二次文献から引用した見解を主に述べただけの論文や、説明や記述に完

全あるいはほぼ一貫して終始している論文は、分析スキルの証拠を示さないため、高い評

点を得られません。

議論と分析に含まれるポイントは、生徒が研究を通じて選定した具体的かつ関連性の高

い文献によって常に支えられていなければなりません。

生徒は、研究課題(リサーチクエスチョン)に焦点をあてて、理にかなった論理的な議

論を維持するよう特に努力すべきです。

研究で使用した情報によって研究課題(リサーチクエスチョン)がどこまで回答された

かの評価は、この議論の一部を形成すべきです。

結論では、研究課題(リサーチクエスチョン)に対する自分なりの反応をまとめるべき

です。また、結論は、論文を通じて提示した立場や証拠と矛盾しないものでなければなり

ません。最後の結論で、それまでに議論しなかった新しい題材に言及すべきではありませ

ん。研究の結果として浮上した疑問は、重要性が高いと思われるのであれば、結論に盛り

込むことができます。

規準D:形式

(要素:構成とレイアウトの要素)この評価規準は、学術界で標準とされる研究論文の体裁に「課題論文」がどの程度準拠

しているかを評価するためのものです。また、体裁に関わるさまざまな要素が、「課題論

文」の読みやすさ、内容の理解や評価のしやすさにどの程度寄与しているかについても、

この規準に照らして評価されます。

生徒は、論文をセクションとサブセクションに分け、適切な情報を伝える見出しをつけ

る構成にまとめることができます。

チャート、画像、表の使用文献からチャート、画像、表を引用する際は、思慮深く選定し、適切なラベルをつけな

ければなりません。研究課題(リサーチクエスチョン)に直接的に関係し、議論の理解に

寄与し、かつ見た目の質が高いもののみを使用します。写真、画像、図、楽譜など、論文

の議論にとって不可欠な資料のみを本論に含め、そのデータに最初に言及する箇所にでき

るだけ近いところに表示すべきです。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 191

楽譜の抜粋を含める場合は、それを適切に読むために必要とされる情報が提示されてい

ることを確認する必要があります。これには、作品名、作曲家名、情報の出典、楽譜、録

音、または演奏からの抜粋箇所、音部記号、調号、テンポなどが含まれます。大きさ的に

可能であれば、抜粋は論文の本論に収録し、関係する文章に近い部分に表示することが望

まれます。

時には、注釈をつけた楽譜を別途含めることで論文を読みながら参照できるようにする

のが最も効果的な方法である場合もあります。その場合は、論文の付録に入れることがで

きます。ただし、論文の分析や議論や評価に直接的に関係する情報はすべて、論文の本論

に含めなければならないことを、生徒は認識しなければなりません。試験官は、付録の情

報を読むことは義務づけられていません。

オリジナルでない素材はすべて、注意して認識しなければなりません。特に、引用やア

イデアの参照と明記には注意する必要があります。このことは、印刷媒体や電子媒体の文

献で出版された視聴覚資料、文章、グラフ、データにあてはまります。「音楽」の場合は、

音楽の楽譜とライブ演奏も出典を明らかにし、録音やトラック内の何分何秒目、楽譜内の

何小節目といった情報も記載しなければなりません。参照がこの手引きで定められた最低

要件(著者名、発行日、文献名、必要に応じてページ番号)を満たしていない場合、かつ

一貫して使用されていない場合は、学問的不正行為の可能性があるケースと見なされます。

参考文献目録はきわめて重要であり、標準的な形式で付記されなければなりません。表

紙、目次、ページ番号などは、論文の形式の質を高めるものになっている必要があります。

論文は、4000 語(日本語の場合は 8000 字)以内で書かなければなりません。4000 語

(日本語の場合は 8000 字)を超えた時点で、試験官はそこから先を読まず、また評価もし

ないことを、生徒は認識する必要があります。

規準E:取り組み

(要素:計画および進捗についての振り返り)この規準は、研究の焦点と研究過程に対して生徒がどのように取り組んだかを評価しま

す。試験官が「計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」を検討したうえ

で、論文の評価の最後にこの規準の評価を下します。

生徒は、論文を完成させる過程で自分が下した意思決定や計画策定のプロセスについて

の振り返りを提出します。この振り返りでは、どのようにしてトピックを選んだか、使用

した研究方法やアプローチを選んだかを示さなければなりません。この規準で評価するの

は、計画のプロセスを通じて意思決定にどの程度の理由づけが見られたか、および生徒が

スキルと理解をどのように発達させたかです。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き192

生徒は、例えば以下のような点を振り返ることができます。

•選択したアプローチとストラテジー、その相対的な成功度

•自分が習得した「学習の方法」のスキル、学習者として自分がどのように成長したか

•研究の結果として、自分の概念理解がどのように発展あるいは変化したか

•研究の過程で直面した困難、それをどのように克服したか

•研究の結果として浮上した疑問

•同じ研究をもう一度やるとしたら、何をどのように変えてみるか

効果的な振り返りとは、「課題論文」の過程を通じて生徒がたどった道のりを示すもので

す。生徒は、自分が実践した手順を単純に描写する以上の批判的思考と振り返りの証拠を

示さなければなりません。

振り返りは、研究過程における生徒の思考、創造性、オリジナリティについて、試験官

に洞察をもたらす必要があります。生徒の「声」が明確に伝わり、研究の過程で起こった

学びが示されていなければなりません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 193

概要「美術」の「課題論文」は、興味のある「美術」の領域のトピックに深く踏み込んで研究

する機会を生徒にもたらします。

ここでの「美術」とは、建築、デザイン、コンテンポラリーな形式の美術文化を含む広

義にとらえられています。

研究の結果は、適切な例示をうまく統合しながら、一貫性があり構成のしっかりした論

文にまとめるべきです。「美術」にふさわしい具体的な研究課題(リサーチクエスチョン)

に効果的に対応した論文を執筆します。

研究は、美術作品を自分で創作した直接的な経験や、特定の作家、様式、時代の作品に

対する興味からインスピレーションを受けて、生じることがあります。生徒自身の文化的

背景や他の文化的文脈に関係した研究をすることができます。

作家や学芸員のほか、美術に能動的に参加している人と個人的に接触すること、および

ローカルな一次文献を使用することも奨励されています。

トピックの選択「課題論文」では、DPの「美術」の領域に関係したトピックを選ぶことができますが、

科目の他の領域のトピックを探究することもできます。重要なのは、「美術」の領域内で生

徒が特に抱いている興味や情熱を反映したトピックを選ぶことです。

アイデアは、次のようなところから得られるかもしれません。

•生徒自身が美術を創作したプロセスおよび作品

•生徒自身の美術ジャーナル

避けるべきトピック

•一般的な美術史の教科書や百科事典といった全般的な二次文献をまとめるだけで

答えることのできるトピック。

•基本的に説明や記述に終始する論文へとつながる可能性の高いトピック。例えば、

美術史の多数の側面やきわめて長い時代を取り上げるトピック。

•芸術家の伝記を取り上げるトピック。ただし、具体的な研究課題(リサーチクエス

チョン)を設定して、特定的な、願わくば生徒の個人的な結論に到達できる場合は

例外とする。

詳細―科目別

美術

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き194

「美術」と他の科目

トピックは、「美術」に直接的に関係していなければなりません。他の科目の「課題論

文」として提出するのがふさわしい場合もあることに注意してください。例えば、以下の

ような論文がこれに該当します。

•「グリーン・アーキテクチャー」(環境に配慮した建築)についての論文で、美的な

側面ではなく技術に重点を置く場合は、「環境システムと社会」の論文として提出

したほうがよいでしょう。

•映画についての論文で、視覚的な側面に重点を置かない場合は、「映画」の論文と

して提出したほうがよいでしょう。

トピックの例

以下の例は、あくまでも参考という位置づけです。(表の右側のような)幅広いトピック

ではなく、(表の左側のような)的の絞れたトピックを選ばなければなりません。

 的の絞れたトピック  幅広いトピック

芸術家の役割は「個人、市民、隠喩の具象にな

ることだ」としたグレイディ・ゲルブラヒトの

主張は、どの程度、インタラクティブな美術作

品で具現化されているか。

インスタレーション芸術

ハイダ・グワイのファースト・ネーションズが

先ごろ立てたトーテムポールの芸術的な意義

北米大陸の先住民族の芸術

死体を操作することは、どの程度、芸術と見

なされるか:ダミアン・ハーストとグンター・

フォン・ハーゲンスの作品に見られる科学、芸

術、および死の表現の相互依存性を考察する

ダミアン・ハーストとグンター・フォン・

ハーゲンスによる死の表現

研究課題(リサーチクエスチョン)

生徒は、トピックを選択後、的の絞れた研究課題(リサーチクエスチョン)を設定しな

ければなりません。

研究課題(リサーチクエスチョン)と「美術」の間のつながりは、単に偶発的なつなが

り以上のものであるべきです。さもなければ、あまり重要性の高くない題材を使用してしま

い、探究の過程を混乱させるだけでなく、議論の説得力を下げてしまう危険性があります。

指導教員は、研究課題(リサーチクエスチョン)が以下の要件を満たしていることを確

認しなければなりません。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 195

•生徒が入手できる芸術的な文献を使用して答えることができる。

•関係する芸術の理論や概念を応用することができ、実際にそれを奨励する。

•体系的な探究を促して、批判的な美術分析と詳細な理解を証明できるようにする。

生徒は、自分が個人的に興味を感じる研究課題(リサーチクエスチョン)を設定して、

さまざまな文献を用いて自分の議論を支えるよう、奨励されるべきです。また、適切な文献

(一次と二次)および適切な研究方法を特定して選定できるよう、支援を受けるべきです。

場合によっては、研究の初期の段階で、十分な文献がないため探究ができないことが明

らかになる場合もあります。このような場合は、研究の焦点を変更すべきです。

トピックの取り扱い研究課題(リサーチクエスチョン)を設定した後、生徒は、研究の計画を立てるべきで

す。この計画は、十分に柔軟性をもたせることで、クリエイティブにトピックを探究でき

るようにすべきです。生徒は、研究の過程でリスクをとることを恐れるべきではありませ

ん。オリジナリティは奨励されており、また多数の異なる研究モデルを使用してみること

も奨励されています。

研究課題(リサーチクエスチョン)にとって適切で、かつ深く踏み込んだ研究を可能に

する方法論を使用することは、非常に重要です。

研究課題(リサーチクエスチョン)にとって適切なアプローチは、いくつも存在するか

もしれません。例えば、以下のようなアプローチです。

•一次文献(作品と作家)と二次文献(美術についての資料)を使うことで、さまざ

まな解釈を確立し評価する。

•二次文献を分析して、美術の特定の側面を探究し説明する。

•一次文献を使用して、美術の特定の側面に重点を置いて分析する。

•作品の複製物を収集し分析することで、場合によっては類似または相違する画像の

比較を導く。

生徒はまた、作品を取り巻いている他の問題についての認識も示すべきです。

•研究対象に選んだ美術の起源と目的を分析することによって、その価値と限界に対

する認識を示しているか。

•研究課題(リサーチクエスチョン)に文脈をもたらし、その質問に完全かつ効果的

に答えるにあたって、美術に対する十分な理解を一貫して示しているか。

この分析を通じて得られる重要性の高い結果は、確実な裏づけによって支えられた議論

に統合すべきです。

•どのような証拠を、自分のコメントや結論を支えるのに使えるか。

•その証拠は、関連性と信頼性が高いか。単純に自分の先入観に基づいたものではな

いか。

「課題論文」の重点は常に、記述による分析、解釈、評価、および健全な議論の構築と展

開であるべきです。

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「課題論文」(EE):指導の手引き196

視覚的な参考資料

視覚的な参考資料を適切に盛り込んで議論することは必須です。ただし、その種の資料

は、分析や議論を直接的に支える、あるいは分析や議論に直接的に関係するものでなけれ

ばなりません。画像は、適切に提示して出典を明記し、論文の本論に含め、その画像に最

初に言及する箇所にできるだけ近いところに表示すべきです。

「課題論文」への個人的な関与を促すため、ローカルな一次文献の使用は、可能であるか

ぎり奨励されています。一次文献にアクセスできない場合は、質の高い複製物や画像に頼

ることは認められます。

論文執筆の過程で参照したリソースを批判的に評価することが、生徒には期待されてい

ます。それには、以下のような問いかけを行うことが役立つでしょう。

•自分の考えや意見や主張を支えるには、どの文献が重要か。

•自分の分析に寄与しないのは、どの文献か。

「美術」の「課題論文」は正式な論文です。つまり、生徒は、評価規準の要件に注意を払

わなければなりません。指導教員と生徒の両方が評価規準を頻繁に確認しながら執筆の過

程を進めていくことで、プロジェクトの焦点を鋭く絞り込み、それを維持するのに役立つ

でしょう。

トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、アプローチ提案の例

生徒は、トピックを選択し、研究課題(リサーチクエスチョン)を設定した後、その答

えを研究するための方法を決めることができます。これには、幅広いアプローチを大雑把

に説明した表明文を書くとよいかもしれません。以下の例は、あくまでも参考という位置

づけです。

トピック パブロ・ピカソの作品に見られる文化的な影響

研究課題(リサーチクエスチョン)

ピカソは、個人として天才であったのか、それとも文化を盗んだ

のか。

アプローチ ピカソの作品の画像を選んで、それらがどの程度、他の文化的な

ソースから借用された可能性があるかを考察する。

トピック 建築への影響:ポンピドゥー・センター

研究課題(リサーチクエスチョン)

リチャード・ロジャースとレンゾ・ピアノは、パリのポンピ

ドゥー・センターの設計・建設を手がけるにあたって、ピエール・

シャローが設計したラ・メゾン・デ・ヴェーレにどのように影響

を受けていたか。

アプローチ この2つの建築に見られる様式の類似性を独自に考察する。

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詳細―科目別

「課題論文」(EE):指導の手引き 197

トピック 移住の経験が作家の作品に及ぼす影響

研究課題(リサーチクエスチョン)

異文化体験は、顧雄(Gu Xiong)の作品にどのように影響してい

るか。

アプローチ 中国からカナダに移住した経験がどのように表れているかを、一

部の作品を選んで考察する。

「使い回し」についての重要な注意事項生徒は、「課題論文」がDPの評価のために提出する他の成果物と重複しないようにしな

ければなりません。例えば、「美術比較研究」の課題で選んだ作品や作家を「課題論文」で

も使用することは、適切ではありません。

「美術」の「課題論文」と内部評価「美術」の「課題論文」は、内部評価課題の延長ではありません。生徒は、この2つの違

いを理解しなければなりません。

これらの違いを生徒に理解させるうえで、指導教員は重要な役割を果たします。学問的不正

行為があったと判断されれば、ディプロマを取得できなくなる可能性があります。

「課題論文」の評価規準の解釈

規準A:焦点と方法

(要素:トピック、研究課題(リサーチクエスチョン)、方法論)「課題論文」は、「美術」と深い関係のある研究課題(リサーチクエスチョン)に基づい

て、具体的かつ的の絞れた論文にまとめられていなければなりません。ここでの「美術」

とは、伝統的な形式のいわゆる「ファインアート」だけでなく、建築、デザイン、コンテ

ンポラリーな形式の美術文化を含むものとして理解すべきです。

タイトルは、研究の意義を明確に示すものでなければなりません。ある作家の生涯を単

純に説明したり、無作為に選んだ2人の作家の作品を比較したりするだけのものであって

はなりません。

オリジナルの作品を参照する機会をもたらすトピックは良いトピックですが、これは必

須の要件ではなく、図書館でできる研究をためらうべきではありません。

これまでに多数の研究が成されてきた人気の高いトピック(バンクシーやフランスの印

象派についての論文など)を選ぶ場合は、新しい視点、焦点、解釈を導く可能性のある研

究課題(リサーチクエスチョン)を立てるよう努力しなければなりません。

研究の意義は、説明されなければなりません。また、その研究課題(リサーチクエスチョ

ン)が既存の美術の知識とどう関係するのかについても、何らかの説明を加えなければな

りません。

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「課題論文」(EE):指導の手引き198

「美術」の論文では、文献に視覚画像が含まれることが期待されます。これには、(研究

の領域にもよりますが)生徒自身の写真を含むこともできます。

生徒は、十分に計画を立てたうえで論文を執筆したこと、および研究課題(リサーチク

エスチョン)にとって適切なアプローチを選んだことを実証する必要があります。

規準B:知識と理解

(要素:知識と理解、コミュニケーション)生徒は、研究領域に関連する文献を批判的に認識し、特に作品を歴史的、社会的、文化

的な文脈に位置づける文献を認識しなければなりません。

インターネットは視覚資料の良い情報源となりますが、論文の議論を支える記述文献を

選ぶ際は、インターネットの文献のみに頼らず他の文献にも幅を広げることが期待されて

います。

生徒は、正式な芸術的側面を議論する際に適切な用語(要素やデザイン原則の理解に関

係する用語など)を流暢に使用して、「美術」の知識と理解を示さなければなりません。

美術史の専門家、批評家、および文化研究分野の学者などが使用する語彙(美術の時代

や様式に関係した適切な語彙を使用すること)も重要です。また、論文全体を通じて、首

尾一貫した文体を維持するよう努めなければなりません。

規準C:批判的思考

(要素:研究、分析、議論と評価)美術分野(美術史、美術批評、文化研究)の学術論文に精通している生徒は、明晰かつ

一貫性のある論文にする必要があることを認識しているでしょう。

論文では、研究課題(リサーチクエスチョン)に明らかに関係のある議論を展開するう

えでその下地となるものが必要であることを、生徒は認識しなければなりません。

明確かつ論理的な議論は、しばしば、論文全体を通じて研究課題(リサーチクエスチョ

ン)を一貫して参照することによって達成されます。

個人的な見解は、「美術」においてはよく論じられるかもしれませんが、なおも論理的な

議論によって支えられている必要があります。その過程では、画像を参照したり、作家へ

インタビューしたり、現場を訪問したりするほか、記述文献を注意深く評価することが行

われます。

伝記的な情報が議論の展開に役立つことはあるかもしれませんが、単純に作家の生涯を

説明するだけでは必ずしも有益ではない可能性があります。

生徒が自分自身の研究を評価し、特に研究の結果として未解決のまま残された問題やさ

らなる研究課題(リサーチクエスチョン)があればそれに言及することが重要です。

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「課題論文」(EE):指導の手引き 199

規準D:形式

(要素:構成とレイアウトの要素)この規準では、学術研究論文の形式に関する一般的な基準に、生徒の論文がどの程度

則っているかを評価します。また、これらの形式が、論文を読み、理解し、評価するとい

う点でどれだけ効果を示しているかも評価します。

選んだトピックの領域にとって適切なのであれば、セクションとサブセクションを使う

ことは認められます。選んだトピックにとって適切な形式を、生徒は認識すべきです。

画像の使用注意深く選定し、適切に参照した画像は、「美術」の論文において不可欠な部分を構成し

ます。画像は、本論でそれについて言及する箇所に表示します。高い解像度でスキャンま

たはコピーして、合理的なサイズにすべきです。

画像を参照することは、文章を記録することと同じくらい重要です。その参照には、以

下の情報が含まれていなければなりません。

•作家またはデザイナーの名前

•作品のタイトル

•所有者

•(関係がある場合)寸法および媒体

•画像をスキャンまたはダウンロードした出典

生徒は、論文の本論に含める画像それぞれに短いキャプション(作家の名前と作品のタ

イトル)をつけるべきです。完全な詳細は、参考文献目録の直後に記した画像の一覧に入

れることができます。

オリジナルでない素材はすべて、注意して認識しなければなりません。特に、引用やア

イデアの参照と明記には注意する必要があります。このことは、印刷媒体や電子媒体の文

献で出版された画像、視聴覚資料、文章、グラフ、データにあてはまります。参照がこの

手引きで定められた最低要件(著者名、発行日、文献名、必要に応じてページ番号)を満

たしていない場合、かつ一貫して使用されていない場合は、学問的不正行為の可能性があ

るケースと見なされます。

参考文献目録はきわめて重要であり、標準的な形式で付記されなければなりません。表

紙、目次、ページ番号などは、論文の形式の質を高めるものになっている必要があります。

論文は、4000 語(日本語の場合は 8000 字)以内で書かなければなりません。4000 語

(日本語の場合は 8000 字)を超えた時点で、試験官はそこから先を読まず、また評価もし

ないことを、生徒は認識する必要があります。

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「課題論文」(EE):指導の手引き200

規準E:取り組み

(要素:計画および進捗についての振り返り)この規準は、研究の焦点と研究過程に対して生徒がどのように取り組んだかを評価しま

す。試験官が計画および進捗についての振り返りフォーム(RPPF)」を検討したうえ

で、論文の評価の最後にこの規準の評価を下します。

生徒は、論文を完成させる過程で自分が下した意思決定や計画策定のプロセスについて

の振り返りを提出します。この振り返りでは、どのようにしてトピックを選んだか、使用

した研究方法やアプローチを選んだかを示さなければなりません。この規準で評価するの

は、計画のプロセスを通じて意思決定にどの程度の理由づけが見られたか、および生徒が

スキルと理解をどのように発達させたかです。

生徒は、例えば以下のような点を振り返ることができます。

•選択したアプローチとストラテジー、その相対的な成功度

•自分が習得した「学習の方法」のスキル、学習者として自分がどのように成長したか

•研究の結果として、自分の概念理解がどのように発展あるいは変化したか

•研究の過程で直面した困難、それをどのように克服したか

•研究の結果として浮上した疑問

•同じ研究をもう一度やるとしたら、何をどのように変えてみるか

効果的な振り返りとは、「課題論文」の過程を通じて生徒がたどった道のりを示すもので

す。生徒は、自分が実践した手順を単純に描写する以上の批判的思考と振り返りの証拠を

示さなければなりません。

振り返りは、研究過程における生徒の思考、創造性、オリジナリティについて、試験官

に洞察をもたらす必要があります。生徒の「声」が明確に伝わり、研究の過程で起こった

学びが示されていなければなりません。