事業報告書 - METIはじめに...

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平成27年度国際エネルギー使用合理化等対策事業 (バイオマス等再生可能エネルギー研究人材育成事業) 事業報告書 平成 28 年 3 月 31 日 一般財団法人 新エネルギー財団

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  • 平成27年度国際エネルギー使用合理化等対策事業

    (バイオマス等再生可能エネルギー研究人材育成事業)

    事業報告書

    平成 28 年 3 月 31 日

    一般財団法人 新エネルギー財団

  • はじめに

    本報告書は、平成 27年 4月 15日付で資源エネルギー庁長官官房総合政策課から、一般財団法人新

    エネルギー財団が委託を受けた下記の事業について、その成果をまとめたものである。

    事業の根拠

    契約書番号 20150403財資第 15号

    事業名 平成 27年度国際エネルギー使用合理化等対策事業

    (バイオマス等再生可能エネルギー研究人材育成事業)

    契約期間 平成 27年 4月 15日~平成 28年 3月 31日

    目 次

    1. 事業目的 ........................................................................... 1

    2. 事業内容 ........................................................................... 1

    3. 研究人材育成事業 ................................................................... 1

    3.1 招聘研究の公募と選考結果 ......................................................... 1

    3.2 研究テーマ、招聘研究者、受入れ機関等 ............................................. 2

    3.3 研究概要 ......................................................................... 3

    3.3.1-1 耐熱性セルラーゼ酵素分子のモデリングおよび構築 ............................... 3

    3.3.1-2 木質バイオマスの混焼による石炭火力発電所の低炭素化 ........................... 4

    3.3.1-3 南部タイの農業廃棄物からのエネルギー回収に関する事業可能性に関する検討とベンチ

    プラント運転研修 ............................................................. 5

    3.3.1-4 高品質バイオディーゼル燃料製造のための革新的な固体酸触媒の開発 ............... 6

    3.3.1-5 アジア域でのバイオマス起源の DMEの有効利活用に関する研究 ..................... 7

    3.3.1-6 メタン発酵過程における微生物叢変化の解析 ..................................... 8

    3.3.1-7 水添ガス化によるバイオマスタールからの液体燃料製造 ........................... 9

    3.3.1-8 山仙式バイオチャコール製造法とその生産物の多角的研究とラオスにおける事業モデル

    の提案 ...................................................................... 10

    3.3.2-1 日本型風力発電の風車要素の現地生産に関する研究 .............................. 11

    3.3.2-2 ベトナムの風力導入における障害と対応技術の研究 .............................. 12

    3.3.2-3 ベトナムに於ける台風等の環境条件に適した風力発電装置の研究 .................. 13

    3.3.3-1 ベトナムにおける地熱資源を利用した発電技術に関する調査研究 .................. 15

    3.3.3-2 地熱貯留層評価の改善を目指した産出能力曲線の簡便・高精度構築法の開発 ........ 16

    3.3.3-4 地熱地帯における熱水変質とスケーリングの地化学モデリング .................... 17

    3.3.4-1 タイの地理的、技術的条件に合致した小型水力発電システムの開発 ................ 18

  • (MPS法による流況推定と、ローカルコミュニティへの導入の為のオフグリットシステムの構築)

    ............................................................................ 18

    3.4 成果の取りまとめ ................................................................. 19

    3.4.1 招聘研究に係る総括会合 ......................................................... 19

    3.4.2 研究報告書 ..................................................................... 22

    3.5 研修、現地視察、教育等 ........................................................... 22

    3.5.1 風車工場研修 .................................................................. 22

    3.6 支援作業 ........................................................................ 24

    4. ネットワーク構築及び情報交換のためのセミナー開催 .................................. 25

    4.1 海外ネットワークの構築と維持 ..................................................... 25

    4.1.1 第 11回 ASEAN+3 新・再生可能エネルギー・省エネルギーフォーラム .................. 25

    4.1.2 14回エネルギー政策に関する高級実務者+3ヵ国会議 (14th SOME+3 EPPG) ............ 29

    4.1.3 第 16回エネルギー政策に関する高級実務者‐METI会議 (16th SOME-METI) ............. 31

    4.1.4 第 20回東アジアサミット エネルギー協力作業部会 (20th EAS ECTF Meeting) ........ 33

    4.1.5 APEC風力エネルギー開発促進に関するワークショップ及びベトナム科学技術院との調整 . 35

    4.1.6 第 12回 ASEAN+3 新・再生可能エネルギー・省エネルギーフォーラム .................. 44

    4.2 ネットワーク構築及び情報交換のためのセミナー ..................................... 47

    4.2.1 専門領域に関するワークショップの開催(バイオマス・地熱ワークショップ) ......... 47

    4.2.2 海外セミナー(AREW) ........................................................... 51

    4.3 ホームページによる情報発信・共有 ................................................. 68

    4.3.1 情報発信ウェブサイト」”Asia Biomass Office”の維持更新 ....................... 68

    4.3.2 “Asia Biomass Office”のトップページデザイン変更 .............................. 70

    4.3.3 東アジアの再生可能エネルギーピックス CDの作成 .................................. 71

    4.4 研究機関、関連企業のデータベースの維持・管理 ..................................... 73

    4.4.1 データベースの目的と推移 ....................................................... 73

    4.4.2 データベースの更新 ............................................................. 73

    4.4.3 工業化のためのシーズ・ニーズ調査 .............................................. 73

    4.4.4 再生可能エネルギー研究機関・企業の調査 ......................................... 74

    4.4.5 調査結果 ....................................................................... 74

    4.4.6 ウエブ上への掲載 ............................................................... 80

    4.4.7 アクセス解析 ................................................................... 81

    4.4.8 アクセスに関する考察 ........................................................... 83

    4.4.9 トピックスコンテンツに関する考察 ............................................... 86

    4.5 東アジアサミット各国のバイオマスエネルギーに関する情報発信サイトの維持・更新 .... 88

    4.5.1 海外バイオマスエネルギーデータベース維持更新と情報収集 ........................ 88

    4.5.2 海外ワークショップ(第 8回アジア・バイオマスエネルギーワークショップ) ......... 90

  • 1

    1. 事業目的

    アジア太平洋地域を中心とした新興国は引き続き大幅なエネルギー需要の伸びが見込まれてい

    る。こうした国々における再生可能エネルギーの導入普及は、エネルギーアクセスの向上や気候変

    動対策上重要であることに加えて、我が国のエネルギー安全保障確保にも資する。

    新興国、特に東アジア地域においては、例えばバイオマスエネルギーの原料が豊富でその利活用

    に大きな期待が寄せられている。このため、こうした国々におけるバイオマス等の再生可能エネルギ

    ーに関する研究開発・実用化・制度化等を担う人材の能力向上を図り、我が国の持つ優れた再生可

    能エネルギー技術を現地の実情に応じた形で普及させることで、こうした国々における再生可能エ

    ネルギーの導入拡大に資する。

    具体的には、我が国の技術者・研究者を現地に派遣し、また相手国の技術者・研究者等を共同研究

    者として招へいし、我が国の大学・研究機関、民間企業等との共同研究を行う。

    また、共同研究の成果や育成された人材の一層の活用に向け、産・官・学が連携して研究成果を用

    いた協力事業等を行うためのネットワーキングの維持・強化を図るとともに、交流・情報交換・情報

    提供の機会拡大を図る。

    2. 事業内容

    1) 研究人材育成事業

    東アジア諸国をはじめとする新興国から、バイオマスを含む再生可能エネルギー分野の研究者・

    技術者等を我が国の大学・研究機関、民間企業等に共同研究者として受入れ、新興国・地域における

    再生可能エネルギー利用推進に資する研究等についての講義、演習、見学、グループ討議等を行い、

    それらを踏まえた共同研究の成果をまとめ発表する。本共同研究のため、必要に応じて、日本の研究

    者・技術者を相手国に派遣する。研究内容は、再生可能エネルギーに関する項目のうち、我が国の研

    究・技術等が世界的に優れた水準にあり、本研究を通じて我が国の民間企業等の相手国進出の契機

    となりうるものとする。

    2) 事業のフォローアップ及び各国政府を含む関係機関との情報共有

    共同研究成果の活用に向けて、各国政府・企業・研究機関とのネットワーク構築及び情報交換の

    ためのセミナーを開催する。また、研究人材育成事業のフォローアップを行い、これまでの研修生

    ネットワークと我が国民間企業等関係者の情報交換・交流を行う。

    東アジア諸国をはじめとする新興国のバイオマス等再生可能エネルギーに関する情報発信サイ

    トの維持・更新や、ネットワーク構築・マッチングに資するデータベースの維持・管理を行い、関係

    機関との情報共有・発信を行う。

    3. 研究人材育成事業

    3.1 招聘研究の公募と選考結果

    平成 27年度は公募に対して 6ヵ国 28名の応募があった。

    (分野別:バイオマス 17件、風力 5件、地熱 4 件、水力 2件)、(国別:ベトナム 8件、タイ 7

    件、インドネシア 5件、ミャンマー3件、フィリピン 3件、ラオス 2件)。

    審査の結果 16名が選考されたが、1名の辞退者があり 15名を招聘した。招聘研究者の内訳は、

  • 2

    (分野別:バイオマス 8件、風力 3件、地熱 3件、水力 1件)、(国別:ベトナム 5件、タイ4

    件、インドネシア 3件、フィリピン 1件、ミャンマー 1件、ラオス 1件)

    3.2 研究テーマ、招聘研究者、受入れ機関等

    研究テーマ、招聘研究者、派遣国での所属、日本の受入れ機関を表 3.1-1に示す。

    表 3.1-1 研究テーマ

    1.バイオマスエネルギー

    招聘番号

    招聘者名 タイトル 所属(国) 受入研究者 招聘期間

    1-1Dr. Dominggus Malle

    ドミンガス マレ耐熱性セルラーゼ酵素分子のモデリングおよび構築

    パチムラ大学(インドネシア)

    産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門

    小田原 孝行 1/6-3/15(70日)

    1-2Mr. Dwika Budiantoドウィカ ブディアント

    木質バイオマスの混焼による石炭火力発電所の低炭素化

    技術評価応用庁(インドネシア)

    東京工業大学ソリューション研究機構

    小田 拓也9/15-12/12(89日)

    1-3Dr. Nirattisai Rakmakニラティサイ ラクマック

    南部タイの農業廃棄物からのエネルギー回収に関する事業可能性に関する検討とベンチプラント運転研修

    ワライラック大学(タイ)

    産業技術総合研究所環境管理研究部門

    小寺 洋一9/29-12/9(72日)

    1-4Ms. Supranee Laoubolスプラニー ラオウボル

    高品質バイオディーゼル燃料製造のための革新的な固体酸触媒の開発

    タイ科学技術研究院(タイ)

    産業技術総合研究所創エネルギー研究部門

    鳥羽 誠1/6-3/15(70日)

    1-5Ms. Wanwisa Thanungkano

    ワンウィサ タヌカノアジア域でのバイオマス起源のDMEの有効利活用に

    関する研究国立金属材料技術センター

    (タイ)

    産業技術総合研究所安全科学研究部門

    匂坂 正幸9/29-12/26(89日)

    1-6Ms. Lai Thi Hong Nhung

    ライ チ ホン ニュンメタン発酵過程における微生物叢変化の解析

    ベトナム科学技術院(ベトナム)

    広島大学大学院先端物質科学研究科

    中島田 豊10/1-2/29(152日)

    1-7Dr. Moe Thanda Kyiモエ タンダ キイ

    水添ガス化によるバイオマスタールからの液体燃料製造ミャンマー航空宇宙工学大学

    (ミャンマー)

    群馬大学大学院理工学府

    野田 玲治10/26-3/15(142日)

    1-8Mr. Khammanh Sopraseurth

    カマン ソプラセアス山仙式バイオチャコール製造法とその生産物の多角的研究とラオスにおける事業モデルの提案

    エネルギー鉱業省(ラオス)

    九州工業大学大学院生命体工学研究科

    白井 義人8/23-11/19(89日)

    2. 風力発電

    招聘番号

    招聘者名 タイトル 所属(国) 受入研究者 招聘期間

    2-1Mr. Nguyen Tuan Phongグエン テュアン フォン

    日本型風力発電の風車要素の現地生産に関する研究ベトナム科学技術院

    (ベトナム)

    三重大学大学院工学研究科

    前田 太佳夫10/16-3/15(152日)

    2-2Mr. Nguyen Binh Khanh

    グエン ビン クハンベトナムの風力導入における障害と対応技術の研究

    ベトナム科学技術院(ベトナム)

    三重大学大学院工学研究科

    前田 太佳夫10/16-3/15(152日)

    2-3Mr. Vu Duy Hung

    ウ ズイ ホンベトナムに於ける台風等の環境条件に適した

    風力発電装置の研究ベトナム通産省

    (ベトナム)

    株式会社日立製作所エネルギーソリューション社

    松信 隆10/1-2/4(127日)

    3. 地熱発電

    招聘番号

    招聘者名 タイトル 所属(国) 受入研究者 招聘期間

    3-1Mr. Ngoc Duc Vu

    ゴック デュック ヴォーベトナムにおける地熱資源を利用した発電技術に関する

    調査研究ベトナム通産省

    (ベトナム)

    産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門

    柳澤 教雄10/1-12/19(80日)

    3-2Dr. Khasani Moh Jaelani

    カサニ モー ジャラニ地熱貯留層評価の改善を目指した産出能力曲線の

    簡便・高精度構築法の開発ガジャマダ大学(インドネシア)

    秋田大学国際資源学部

    藤井 光11/15-2/10(88日)

    3-4

    Dr. Maria Ines Rosana DacanayBalangue

    マリア イネス ロサナ デカネイバランゲ

    地熱地帯における熱水変質とスケーリングの地化学モデリング

    フィリピン大学(フィリピン)

    九州大学工学研究院糸井 龍一

    1/15-3/15(61日)

    4. 水力発電

    招聘番号

    招聘者名 タイトル 所属(国) 受入研究者 招聘期間

    4-1Dr. Salisa Veerapunサリサ ヴィーラプン

    タイの地理的、技術的条件に合致した小型水力発電システムの開発(MPS法による流況推定と、ローカルコミュニ

    ティへの導入の為のオフグリットシステムの構築)

    ナレースワン大学(タイ)

    信州大学学術研究院(工学系)

    飯尾 昭一郎10/5-3/4(152日)

  • 3

    3.3 研究概要

    実施した各研究の招聘研究者、受入れ機関担当者、背景、目的、内容他について以下の各項に示す。

    3.3.1-1 耐熱性セルラーゼ酵素分子のモデリングおよび構築

    [1-1] 耐熱性セルラーゼ酵素分子のモデリングおよび構築

    招聘研究者 Dr. Dominggus Malle(ドミンガス マレ)

    パチムラ大学(インドネシア)

    受入機関 産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門 小田原孝行主任研究員

    招聘期間 1/6-3/15(70日)

    1) 研究の背景

    産総研と日本企業が中心となり東南アジアにおいて、糖化酵素を用いたバイオ液体燃料製造拠

    点を計画中である。セルラーゼ酵素(糖化酵素)を耐熱化することでバイオマス糖化行程を高効

    率化(反応時間の短縮、基質溶解性の向上、および、雑菌除去)することができる。その結果、コ

    ストを抑えた液体燃料製造システムの広範な実用化が可能になる。新規酵素の開発およびサンプ

    ル酵素を調製し、海外研究組織と連携・実用化試験を行うことでバイオ液体燃料製造技術の構築

    を目指している。

    バイオマスから液体燃料製造技術開発におけるボトルネックはバイオマスの糖化行程にある。

    昨年度まで産総研バイオマスリファイナリー研究センターにおいて、セルラーゼ酵素によるバイ

    オマス糖化技術を用いた液体燃料製造のための技術開発を進めて来た。今年度の組織改革で今ま

    での研究分野がバイオメディカル研究部門に再編されたのでそこで実施することになった。

    本招聘研究者は、過去 2回本制度においてバイオ燃料製造における酵素耐熱化研究を実施して

    きた。その結果、5℃の耐熱化に成功、さらにバイオマス燃料製造のための予備的試験も行った。

    今年度は 10℃以上の耐熱化を目標値として研究を行い、高効率バイオ燃料製造システムを東南ア

    ジアで普及させるための技術を日本企業と共に実施する。

    2) 目的

    本研究の目的は、バイオ液体燃料製造システム効率化のための、セルラーゼ酵素の耐熱化であ

    る。植物系バイオマスからの液体燃料製造技術開発におけるボトルネックはバイオマス糖化行程

    にある。本研究では、この工程に使用するセルラーゼ酵素を構造解析、分子モデリング、および、

    タンパク質工学的手法により耐熱化することでバイオマス糖化工程を高効率化する。

    招聘研究者の今までの経験と実績から、セルラーゼ酵素の+10℃耐熱化を行い 70℃で働くセル

    ラーゼ酵素の構築を目指す。さらに、得られた耐熱性酵素を使用し、国内外組織と連携して、バイ

    オマス糖化・燃料製造実験を行いその有効性を評価する。

    3) 実施内容

    ・既存の種々セルラーゼ酵素情報について、構造解析に必要な結晶化条件の詳細情報を入手した。

    この情報から新たな酵素タンパク質の不安定領域の解析し、変異導入箇所の探索、および、変異

    酵素遺伝子の設計を行った。

    ・酵素の調製精製し、その活性評価で耐熱温度 70℃を確認した。

    ・バイオ燃料製造試験における耐熱性酵素の有効性についてパチムラ大学と情報交換を行った。

    ・国内企業を訪問し情報交換を行った。インドネシアにおけるバイオ燃料プラントの設計および

  • 4

    に技術移転に関して話し合いを行った。

    4) 実用化・工業化推進に向けて

    有効酵素の開発目途が立った。既に、当該日本企業がタイで本酵素系を用いたバイオ燃料製造

    のパイロットプラント実証を開始していることから、インドネシア等の東南アジア地区での今後

    の技術移転が期待できる。

    5) 招聘研究の総評

    期待通りの成果が得られている。インドネシアおよびパチムラ大学が、今後、当該日本企業の技

    術・プラントを誘致することを期待する。

    3.3.1-2 木質バイオマスの混焼による石炭火力発電所の低炭素化

    [1-2] 木質バイオマスの混焼による石炭火力発電所の低炭素化

    招聘研究者 Mr. Dwika Budianto(ドウィカ ブディアント)

    技術評価応用庁(インドネシア)

    受入機関 東京工業大学ソリューション研究機構 小田拓也特任教授

    招聘期間 9/15-12/12(89日)

    1) 研究の背景

    インドネシアには、森林から供給される木質バイオマスや農業廃棄物等の膨大なバイオマス資

    源があるが、その利用率は数%に留まる。一方、同国は豊富な石炭賦存量を有しており、今後しば

    らくは電源構成の中心であり続けることが予想される。同国の石炭発電所にてバイオマスの混焼

    が広く採用されることで、バイオマスの利用先を大幅に増大させることが可能になる。

    2) 目的

    インドネシアの石炭火力発電所においてバイオマスの混焼利用を推進するための基礎的解析を

    行う。本研究により招聘研究者は、バイオマスの混焼に関連する課題を把握すると共に、既設の石

    炭火力発電所の特質に合致した混焼利用計画を提案することが可能になる。更には招聘研究者の

    所属元と連携して、国営電力事業者等に混焼の推進を促すことも目的とする。この目的を達する

    ため、主として混焼の最適化モデルを行い、混焼率上限値の探索、発電効率の向上策等を明らかに

    する。

    3) 実施内容

    ・インドネシア国内における主なバイオマスの種類・分布が整理した上、既存のバイオマスによる

    発電容量等のデータをまとめた。その中から、パーム椰子殻(PKS)のポテンシャルが非常に高

    く、かつ熱量などの特性が低品位炭に近いため、低品位炭との混焼が非常に適切であることが

    分かった。

    ・混焼のモデル化及び解析では同国にある既設の小型火力発電所をベースに、特定の重量比(10%

    ~50%)で PKSとの混焼挙動(温度、速度、排気ガス成分)を調べた。シミュレーション結果か

    ら PKS 重量比が高くなるにつれ混焼温度が上昇したが、NOx 濃度が重量比 25%以上から急激に

    大きくなった(サーマル NOx)。全体の結果から PKS重量比 10~15%が最も良い混焼条件である

    ことが分かった。

  • 5

    ・本招聘研究の成果は日本エネルギー学会誌や国際会議(ACBS 2016)で発表した。

    4) 実用化・工業化推進に向けて

    インドネシアの石炭火力発電所を想定した、バイオマスの混焼を推進するための基礎的解析を

    通じて、混焼推進計画の策定や、混焼の促進に資する知見を習得した。これにより、同国内の主要

    なステークホルダーであるエネルギー鉱物資源省、国営電力会社(PLN)、独立系発電事業者等に

    対して、石炭火力発電所で木質バイオマス混焼の推進に貢献することを目指す。

    5) 招聘研究の総評

    本事業を通して、研究者として様々な知見・情報交換等が大変できた。また、招聘者の所属元

    との連携がより強くなり、両者における今後の活発な研究協力が期待される。

    3.3.1-3 南部タイの農業廃棄物からのエネルギー回収に関する事業可能性に関する検討とベンチ

    プラント運転研修

    [1-3] 南部タイの農業廃棄物からのエネルギー回収に関する事業可能性に関する検討とベンチプ

    ラント運転研修

    招聘研究者 Dr. Nirattisai Rakmak(ニラティサイ ラクマック)

    ワライラック大学(タイ)

    受入機関 産業技術総合研究所環境管理研究部門 小寺洋一上級主任研究員

    招聘期間 9/29-12/9(72日)

    1) 研究の背景

    タイ南部には、世界 1 位のゴムプランテーションの他、油ヤシプランテーションによるパーム

    油生産も盛んに行われており、農業廃棄物からのエネルギーを利用した発電の普及や高度化への

    大きなニーズがある。そのためタイ南部の大規模大学として知られるワライラック大学は、近頃、

    再生エネルギーセンターを設立した。この組織は日本技術のタイ企業への橋渡しや周辺諸国への

    技術移転の中核として有望であると思われる。

    産業技術総合研究所では、日本国内企業、ワライラック大学と連携して油ヤシ処理工場の廃棄

    物処理・エネルギー回収(ガス化発電)の促進に取り組む。この活動を通して、バイオマス利用に

    よる地球温暖化の抑制、当該地域の持続可能な社会の構築を目指す。

    2) 目的

    ベンチプラントや小型商業装置を用いて、農業廃棄物からのガス化技術の習得や運転研修、

    技術評価を行い、システム上の問題点やその解決の手法を検討する。事業性や技術仕様の決定の

    プロセスを理解する。これらを通じて、当該技術移転に役立つ人材育成を行う。

    3) 実施内容

    ・国内企業の協力を得て部分燃焼ガス化装置及び熱分解ガス化装置を使用して、運転技術の習熟

    化や分析作業を行った。

    ・ガス化理論を構築し、ガス化プロセスの評価手法を確立した。

    ・部分燃焼ガス化では、理論的に必要な酸素量の確定、反応熱や断熱ガス化温度を算出することが

    できた。熱分解ガス化では、分解熱と供給すべき熱量を算出することができた。

    ・別の国内企業の協力のもと、技術移転で考慮すべき技術仕様、農業廃棄物のエネルギー回収の事

  • 6

    業性に関する支配因子について理解を深めることができた。

    4) 実用化・工業化推進に向けて

    関係企業では、すでに 20kWの小型バイオマスガス化発電装置を完成している。当面、タイへの

    普及を目指しながら、さらに 100kW クラス機の開発を共同して進め、並行して、対象廃棄物の乾

    燥、破砕の技術的検討、地元事業主体の選定を進める。

    5) 招聘研究の総評

    3ヶ月の招聘研究であったが、前年度までの成果と合わせて、日本側として、ガス化の基礎理論、

    技術面での技術移転の準備は完了した。地元事業主体の確定と現地技術スタッフの教育が次の課

    題である。

    3.3.1-4 高品質バイオディーゼル燃料製造のための革新的な固体酸触媒の開発

    [1-4] 高品質バイオディーゼル燃料製造のための革新的な固体酸触媒の開発

    招聘研究者 Ms. Supranee Laoubol(スプラニー ラオウボル)

    タイ科学技術研究院(タイ)

    受入機関 産業技術総合研究所創エネルギー研究部門 鳥羽 誠研究グループ長

    招聘期間 1/6-3/15(70日)

    1) 研究の背景

    バイオディーゼル燃料は、原材料費が製造コストの多くを占めている。原材料費の低減はバイ

    オディーゼル燃料の低価格化につながり、市場導入拡大を目指す東南アジア諸国の政策への技術

    的な支援となりうる。低コスト化に寄与しうる原料として、パーム油精製工程での廃棄物である

    パーム脂肪酸蒸留物(PFAD)など、酸価が高く既存の製造プロセスの原料受け入れ基準を満たさな

    い低品位原料が挙げられる。そのため、低品位原料のバイオディーゼル燃料化を可能にする燃料

    製造法の開発が期待される。

    2) 目的

    低品位原料に含まれる遊離脂肪酸や水分に高い耐久性を有するエステル交換用触媒として、不

    均一系固体触媒が挙げられる。低品位原料のバイオディーゼル燃料化においては、不純物への耐

    久性のみならず、共存する遊離脂肪酸のエステル化機能も有することが必須となる。本研究では、

    PFAD 等の低品位原料から高品質バイオディーゼル燃料製造技術の確立のため、産総研でのこれま

    での知見を活用し、高耐酸性、高耐水性を有する高活性エステル化/エステル交換用チタン含有

    固体酸触媒を開発する。

    3) 実施内容

    触媒の低価格化を目的として、市販のシリカにチタン原料を担持する方法で触媒の調製を行っ

    た。担持するチタン種は、配位子を交換により構造を変化させた。

    バイオディーゼル燃料製造は、PFADおよび粗ジャトロファ油を用いて、200℃でメタノールとの

    エステル交換反応を行った。生成油は、EN14214準拠の方法で、組成分析を行った。触媒活性は、

    チタン種およびシリカ担体の細孔径に依存した。遊離酸含有量の高い PFADでは、遊離酸が多く残

    存しており、高酸価原料の場合は、反応の多段階化や触媒量の最適化が必要であると考えられた。

  • 7

    4) 実用化・工業化推進に向けて

    本研究で開発した技術の工業化おいては、触媒の耐久性や固体触媒への転換によるプロセス設

    計、廃触媒等の廃棄物処理低減効果および純度の高いグリセリンの売却によるコスト試算が必要

    となる。これらの算出根拠となる技術データは現時点では十分ではなく、今後も継続して所得し

    ていく必要がある。企業化においては、バイオ燃料の資源国である東南アジア地域での立地が好

    ましく、製造はリファイナリー等の燃料油の製造、販売メーカが好ましいと考えられる。

    5) 招聘研究の総評

    今回の招聘研修により、招聘研究者は、固体触媒の調製法やこれを用いるバイオディーゼル合

    成反応の基本を十分身につけたと考える。ただし、短期間の研修では技術の取得は可能であるが、

    それを使いこなして研究開発を発展さる過程で、課題を見出し、これをクリアして工業化に導く

    ことまでを身につけることは難しい。今後、一定の時間をかけた別スキームでの研究の発展を望

    みたい。

    3.3.1-5 アジア域でのバイオマス起源のDMEの有効利活用に関する研究

    [1-5] アジア域でのバイオマス起源の DMEの有効利活用に関する研究

    招聘研究者 Ms. Wanwisa Thanungkano(ワンウィサ タヌカノ)

    国立金属材料技術センター(タイ)

    受入機関 産業技術総合研究所安全科学研究部門 匂坂正幸招聘研究員

    招聘期間 9/29-12/26(89日)

    1) 研究の背景

    バイオマスを原料とした DME(dimethyl ether)[以降、バイオ DMEと記述]の LCA分析は産総研

    をはじめ世界のいくつかの機関で実施されている。しかし近年の技術革新は目覚ましく、環境面、

    経済面での実用化への道が開かれつつある。用途も自動車燃料から調理・暖房用燃料などの可能

    性が広がり、国際的に流通するエネルギー源としての価値が拡大している。そのため、新たな導入

    環境下での DMEの有する環境特性、実用の可能性判断が求められている。

    2) 目的

    当研究では、アジア域でのバイオ DME のエネルギーとしての可能性と LCAによる環境影響の傾

    向、社会への効果を明らかにする。。

    3) 実施内容

    a.バイオ DMEの可能性

    ASEAN地域を対象に、エネルギー需給の概要、農業残渣の発生量推定、残渣からのバイオ DME 製

    造量推計を実施した。その結果、同地域の液化石油ガス消費量の約 3 倍、軽油消費量に匹敵す

    る程度のバイオ DMEが生産可能であることがわかった。

    b.バイオ DMEの GHG削減効果

    バイオ DME によるライフサイクルでの GHG 排出量を推計したところ、二酸化炭素換算で 3,300

    万トン/年程度の削減に寄与する可能性が得られた。ASEAN 域内ではインドネシア、タイ、マレ

    ーシアでの削減効果が高いのに対し、ラオスは豊富な水力エネルギーを有すること、ミャンマ

  • 8

    ーではエネルギー需要地が分散するなどの理由により、GHG排出削減が地域により限定的である

    ことも推察された。

    c.バイオ DMEの社会影響

    バイオ DMEの経済性についてはプロセス、システムの最適化が進展していないことから、代替す

    る化石燃料と同等の価格を前提に影響の推定を行った。その結果、以下の点に集約された。

    ・エネルギーの国産化が図れ、エネルギー安全保障が高度化できる。

    ・燃料輸入代金の支払いを軽減でき、エネルギー輸出の可能性も視野に入ることから、貿易収支

    の改善が図れる。

    ・農業従事者の収入の改善が図れ、国内の生活格差是正、それによる社会不安の軽減に寄与する

    可能性がある。

    ・近代的なエネルギーへの転換が進み、ヒト健康被害の減少、情報格差是正などの社会影響が期

    待される。

    4) 実用化・工業化推進に向けて

    ASEAN 地域でのバイオ DME の生産/消費・環境/社会影響の可能性が高く推察されたが、実用化

    に向けては、経済性を有することが前提であり、地域、利用法を特定して注意深く導入の段階を

    見極める必要性、が確認された。

    5) 招聘研究の総評

    招聘研究者、受入研究者の興味が合致し、連日、中身の濃い議論ができたことは大変有意義で

    あった。どのようにその成果を外部に発表していくか、さらに議論を進めたい。

    3.3.1-6 メタン発酵過程における微生物叢変化の解析

    [1-6] メタン発酵過程における微生物叢変化の解析

    招聘研究者 Ms. Lai Thi Hong Nhung(ライ チ ホン ニュン)

    ベトナム科学技術院(ベトナム)

    受入機関 広島大学大学院先端物質科学研究科 中島田 豊教授

    招聘期間 10/1-2/29(152日)

    1) 研究の背景

    ベトナム科学技術院(VAST)では、環境汚染物質低減と再生可能エネルギーガス製造を目的と

    して、家畜糞尿、農作物残渣のメタン発酵技術開発が行われている。しかし、現地調査では十分

    な性能が発揮されていない状況であった。また、ベトナム沿岸地域で海水レベルでの塩の存在に

    より有機廃水処理に支障をきたしているとの報告があり、メタン発酵の適用範囲の拡大も求めら

    れている。

    2) 目的

    上記、ベトナムにおけるメタン発酵不具合の理由としては、メタン発酵を司る微生物群が適切

    に管理されていないこと、または微生物群自体が現地処理プロセスに適さないことが予想された。

    そこで、 本研究では、将来、塩含有有機廃棄物も対象とすることを想定し、我々が有する海洋性

    微生物群を用いた各種有機物を基質としたメタン生成ポテンシャル評価・菌叢解析による発酵プ

  • 9

    ロセス評価を行った。

    3) 実施内容

    ・ 食品系廃棄物を想定してデンプン(糖)、ウシ血清アルブミン(タンパク質)、油脂(glyceryl

    trioleate)などをモデル基質、海洋底泥を微生物源として海水条件にてメタン発酵試験を行

    った。その結果、全てのモデル基質から顕著なメタン生成が見られ、ほぼ理論通りのメタン生

    成ポテンシャルが得られた。本成果は、海洋微生物資源が様々な有機廃棄物に対して優れたメ

    タン生成能力を持つものであることを明確に示すものである。

    ・ 上記発酵における主要微生物を明らかにすることは、プロセス管理、および最適化に重要であ

    る。そこで、汚泥から抽出した微生物ゲノム DNAの 16s rRNA遺伝子を増幅後、変性ゲ勾配電

    気泳動法による解析を行った。その結果、基質が異なっていても強く発現する遺伝子バンドが

    認められたことから、高機能性を有する微生物の存在が示唆された。同時に、次世代シーケン

    サー法による解析も行った。解析に時間を要するために共同研究期間中に結果は得られていな

    いが、共同研究者が現在も研究を引き続き進めており、その結果を含め論文化など成果の取り

    まとめを行う予定である。

    4) 実用化・工業化推進に向けて

    招聘研究を通じて修得した耐塩メタン発酵性能解析技術や知見に基づき、現地において VASTを

    中心としたメタン発酵プロセスを主体としたバイオマス資源のエネルギー化プロセスの実用化を

    進めることが可能な状況になっている。さらに、今回の機会を足がかりとして、バイオマスなど再

    生可能エネルギー利用に関して、広島大学、国内参画企業からの技術移転・ライセンシング、およ

    びコンサルティング業務を可能とする、VASTおよびベトナム国内企業との協力体制を模索したい。

    5) 招聘研究の総評

    これまで、3年にわたって VAST研究者を受け入れてきた。一昨年、昨年度は技術習得を中心と

    した研究であったが、本年度は、現地調査に基づき、実際ベトナムで必要とされる技術も考慮した

    研究開発を行った。このようなことから、今後は招聘研究者を中心として、VAST が単なる研究機

    関ではなく、運転・管理・最適化・適用範囲の拡大など、日本国内の関連企業と連携可能な実用化

    ハブ機関として機能できる基盤でき上がってきたと考えている

    3.3.1-7 水添ガス化によるバイオマスタールからの液体燃料製造

    [1-7] 水添ガス化によるバイオマスタールからの液体燃料製造

    ・ 招聘研究者 Dr. Moe Thanda Kyi(モエ タンダ キイ)

    ・ ミャンマー航空宇宙工学大学(ミャンマー)

    ・ 受入機関 群馬大学大学院理工学府 野田玲治准教授

    ・ 招聘期間 10/26-3/15(142日)

    1) 研究の背景

    ミャンマー政府は、再生エネルギー開発の育成を加速するため、外国資本の導入による民間セ

    クターの参加を拡大する政策を進めている。バイオ燃料技術およびプロセッシングの研究開発を

    支援する策定プロジェクトには、人材育成、建設設備の更新、品質および施設の標準化、バイオ燃

  • 10

    料の製造と流通が含まれる。群馬大学は様々なバイオマス転換技術を保有しており、そのうちの

    バイオマス液化プロセス技術を習得する。

    2) 目的

    ベンチスケールおよびパイロットスケール試験装置を用いて、以下の成果を得る。

    ・触媒再生の好適条件の明確化

    ・液体燃料収率を最大化する好適反応条件の明確化

    以上の成果に基づいて、ミャンマーにおける適正バイオマス利用技術を提案する。

    3) 実施内容

    ・コーキング(炭素の析出)した CoMo 触媒について、触媒温度を 500℃以下でコーク酸化除去条

    件を検討し、触媒劣化なく再生できた。

    ・バイオマスタールの水添ガス化反応条件について、硫化水素分圧が低い条件で水添ガス化した

    場合コーキングが生じやすい。事前に触媒硫化を行うとコーキングは抑制されるが、生成した

    液体燃料中の酸素含有率が高くなる。原料ガス中に 0.1~数%の硫化水素を含む条件で水添ガス

    化を行うことが望ましいことを明らかにした。

    ・ミャンマーの技術水準に合わせた液体燃料転換プロセスを提案した。

    4) 実用化・工業化推進に向けて

    本研究事業を通じて、ミャンマーにおいてバイオマス液体燃料技術開発を実施するための実験

    装置の製作法、実験方法、および液体燃料の分析方法を習得した。実験結果に基づいて提案したミ

    ャンマーにおけるバイオマス液体燃料利用の適正プロセスをもとに、国際共同研究の枠組みでの

    応募をめざして、日本側、ミャンマー側の体制作りに着手した。

    5) 招聘研究の総評

    ミャンマーにおける研究開発水準が把握でき、両国で共同して地域分散型のバイオマス転換技

    術開発が可能である感触が得られた。今後、具体的な協働の枠組みを確立できるよう協力してゆ

    きたい。

    3.3.1-8 山仙式バイオチャコール製造法とその生産物の多角的研究とラオスにおける事業モデル

    の提案

    [1-8] 山仙式バイオチャコール製造法とその生産物の多角的研究と

    ラオスにおける事業モデルの提案

    ・ 招聘研究者 Mr. Khammanh Sopraseurth(カマン ソプラセアス)

    ・ エネルギー鉱業省(ラオス)

    ・ 受入機関 九州工業大学大学院生命体工学研究科 白井義人ディレクター・教授

    ・ 招聘期間 8/23-11/19(89日)

    1)研究の背景

    ラオスの主エネルギー源は未だに薪であり、効率も悪く、煙害もひどい。せめて炭をエネルギ

    ー源に替えることを強く願っている。一方、島根県益田市の有限会社山本粉炭工業の開発した山

    仙式平窯炉は設備投資額の圧倒的な低さと極めて生産性が高いことから、優れた適正技術として

    広く知られつつある。ラオス政府は最近この点に注目し、JICA の支援の下、本格的な導入を検討

  • 11

    するようになった。一方、そこで生産された炭は我が国では土壌改良剤として広く使われており、

    特に、島根県では広く利用されている。この点にもラオス政府は高い関心を示している。農業が主

    力産業であるラオスにおいては未だに土壌の改善がなされているところが少ない。

    また、この炭化技術はダムの流木のような濡れたバイオマスの利用も可能であり、関西電力が

    協力する水力発電用ダムの流木も検討されている。しかし、本炭化法は長期にわたる技術習得(修

    行)が必要であり、その意味では、人材育成の仕組みを作ることが最も重要である。

    2) 目的

    招聘研究者は、技術オーナーである山本粉炭工業を適宜訪問し、技術ノウハウの習得と窯の構

    造の理解に努める。山本粉炭工業社長は高齢で、海外に長期に滞在することはできない。そのた

    め、技術の利用を希望する者が日本でそれを学ぶ以外方法はない。その結果を適宜、九州工大に持

    ち帰り、ラオスでの事業モデルの作成に活かす。これらが本研究の目的である。

    3) 実施内容

    ・ 招聘研究者は山本粉炭工業に滞在して本炭化工程全てを実地体験することで山仙式炭化法を

    習得した。その際、炉の構造と注意点を学ぶとともに、ラオスにおける建設・設置コストを試

    算した。また、人材育成計画を具体化した。

    ・ 招聘研究者は九州工大で山仙式炭化法の構造、設計、プロセス、関連設備、運転・訓練等につ

    いて精査し、事業採算性の検討も含めた報告書にまとめた。

    ・ 招聘研究者はマレーシアプトラ大学に滞在して、ケニンガウパームオイル工場に設置された山

    仙式平窯炉で炉の調整、運転に携わり、ラオス展開に向けたシミュレーションを行った。

    4) 実用化・工業化推進に向けて

    山仙式平窯炉での炭製造においては運転ノウハウの習得が最も重要な課題である。これに関し

    て山本粉炭工業が JICAの普及・実証事業に申請を計画し、ラオスからの研修生の受入を計画して

    いる。この事業が採択されれば、ラオスでの実用化・工業化推進が大きく前進すると思われる。

    5) 招聘研究の総評

    山仙式炭化法の技術、設計、事業採算性、人材育成計画等のラオスへの技術移転に関する検討

    をやり遂げた。今後、本法のラオスでの普及を大いに期待する。

    3.3.2-1 日本型風力発電の風車要素の現地生産に関する研究

    [2-1] 日本型風力発電の風車要素の現地生産に関する研究

    ・ 招聘研究者 Mr. Nguyen Tuan Phong(グエン テュアン フォン)

    ・ ベトナム科学技術院(ベトナム)

    ・ 受入機関 三重大学大学院工学研究科 前田太佳夫教授

    ・ 招聘期間 10/16-3/15(152日)

    1)研究の背景

    ベトナムでは風力産業の育成に積極的で既にタワー、発電機の製造を行っており、さらに生産

    品目の拡大を計画している。日本の風車製造は、タワー等の大型鉄鋼部品は海外業者に生産委託

    をしているケースが多く、海外業者の設計製造能力の維持向上が必要である。この観点から、優れ

  • 12

    た製造ポテンシャルを持つベトナムにおいて、風車や部品の設計、製造能力向上のための研究は、

    我が国の風力産業にとっての海外進出のための足場作りに有効である。

    2) 目的

    中型・大型風車の設計から製造に至るまでに必要な技術について、日本の技術を下敷きにベトナ

    ムの状況、能力にふさわしい風力関連の製造品、製造方法を明らかにし、自国での産業展開を図る

    基礎とする。並行して、日本と共同実施しているベトナムでの 3次元風況計測の支援を実施する。

    3) 実施内容

    ・ 日本とベトナムの風力関連産業の調査と、日本の風車メーカとの連携により以下の成果を得

    た。

    ・ ベトナムでは欧米の風車メーカや投資家により、すでに 3 社が風車タワーの製造を行ってい

    る。低コストの鉄鋼製品はベトナムの得意とするところであるが、付加価値は小さい。

    ・ 複合材料の製造はベトナムでは実績がないため、高度な解析と製造管理を要求されるブレード

    の製造を始めるには時間を要する。したがって、強度部材ではないナセルカバー等の複合材料

    製品から手掛けて、ブレード製造に進むのが良い。

    ・ ベトナムでは 1社が風車の発電機を製造している。ベトナムでは機械部品の製造に関する設備

    が整っているため、今後、風車の発電機の製造は期待でき、また現在のところ競争も少ない。

    ・ 風車の運転条件が厳しい日本と同様に、ベトナムでも風車の制御システムや利用率向上のため

    のメンテナンス技術は今後必要となる。

    ・ 日本のソニック製自動気象計測システムを Dak Lak 県に設置し、2016 年 1 月から観測を開始

    した。

    4) 実用化・工業化推進に向けて

    本招聘事業で得られた知見をベトナムの製造能力や環境に適合させ、ベトナムにおける風車及

    び部品の製造に必要な条件を整えていく。また、Dak Lak県に設置したソニック製自動気象計測シ

    ステムから得られるデータを用いて、日本製の中型風車と大型風車の設置を想定したときの発電

    量試算を実施する。

    5) 招聘研究の総評

    日本の風力産業の製造バックヤードとして期待されるベトナムに対して、設計・製造能力の育

    成や拡大は日本とベトナムの両国に対して発展的な成果が期待できる。さらにベトナムにおける

    風力の健全な発展のためには、日本製風車の導入促進も期待できる。

    3.3.2-2 ベトナムの風力導入における障害と対応技術の研究

    [2-2] ベトナムの風力導入における障害と対応技術の研究

    ・ 招聘研究者 Mr. Nguyen Binh Khanh(グエン ビン クハン)

    ・ ベトナム科学技術院(ベトナム)

    ・ 受入機関 三重大学大学院工学研究科 前田太佳夫教授

    ・ 招聘期間 10/16-3/15(152日)

    1)研究の背景

  • 13

    ベトナムの再生可能エネルギー導入目標の最大値は風力発電であり、2020 年に電力供給の 1%

    として 1GW、2030年には 2.7%として 6.2GWを設定している。この目標に向けて 54箇所でプロジェ

    クトが計画され風況観測が行われているが、2015 年までの設置はわずか 3 件 138MW で、計画と大

    きく乖離している。欧米とは異なり、ベトナムと日本では台風の襲来、山岳や島嶼の複雑地形で誘

    起される乱流、島嶼等の小規模系統での電力安定性確保、狭隘地での輸送や建設等、風力導入につ

    いて似た環境にある。今後発展するベトナム風力市場には、日本の技術及び風力発電機器は大き

    な競争力を持っている。

    2) 目的

    日本では風力発電の導入初期から 20年近くを費やして、様々な障害を克服する技術、手法を開

    発してきた。これらの解決策は日本と類似の環境にあるベトナムでも有効であると考え、本研究

    では、ベトナムと日本の風力環境条件を比較検討し、その結果からベトナムにおける風車導入条

    件の整理と課題解決の方策を得る。

    3) 実施内容

    ・ ベトナムにおける風力発電導入の障害と、その解決策を調査し以下のようにまとめた。

    ・ 風力発電導入に不可欠なベトナム全土の風況データベースの構築が必要である。

    ・ 設置済の風車は欧米からの輸入であり、ベトナムの風特性に適していない。そのため、ベトナ

    ムの条件に適した風車の導入が必要である。

    ・ 風力発電単価が 7.8 UScents/kWh と魅力的ではなく、11 UScents/kWh の確保が必要である。

    ・ 風力導入のためのインフラや人的資源が限られており、また風車関連機器のベトナムでの現地

    生産が遅れている。風力分野の生産技術や研究開発、技術者トレーニング等の強化が必要であ

    る。

    ・ 風力導入のための国内投資が限られている。その解決のためには、ベトナム政府による風力推

    進政策や支援、風力導入のための手続きの確立が必要である。

    4) 実用化・工業化推進に向けて

    風力導入に関するベトナムと日本の類似性から、極値風速や乱流強度をサイト評価に適用する

    「日本型風力発電導入ガイドライン」をベトナムにおいても導入することを検討する。また、日本

    における風車の製造や組立の技術やプロセスをより実践的に理解し、ベトナムに適用するための

    研究を行う。

    5) 招聘研究の総評

    ベトナムは今後風力の大量導入が期待されるが、適切な知見がないと日本がこれまで経験して

    きたトラブルの二の轍を踏むことになる。ベトナムの環境条件に適合した風車を選定・設計する

    ために要求すべき強度条件を仕様として提示でき、その結果、故障・事故が発生することなく健

    全に寿命を全うする風車を導入することにより、持続的な風車市場が形成されると期待できる。

    3.3.2-3 ベトナムに於ける台風等の環境条件に適した風力発電装置の研究

    [2-3] ベトナムに於ける台風等の環境条件に適した風力発電装置の研究

    ・ 招聘研究者 Mr. Vu Duy Hung(ウ ズイ ホン)

  • 14

    ・ ベトナム通産省(ベトナム)

    ・ 受入機関 株式会社日立製作所エネルギーソリューション社

    松信 隆チーフプロジェクトマネージャー

    ・ 招聘期間 10/1-2/4(127日)

    1)研究の背景

    ベトナムを含む東アジアでは、台風、雷など過酷な条件が想定される。風車の国際規格

    IEC61400-1ed.3 などでは、サイトの自然条件などへの適合性評価手法を必ずしも充分に規定して

    いない。日本電機工業会(JEMA)などが検討している「風力発電所のサイト適合性評価手法」の内容

    を取り入れながら、ベトナムへの環境に適合し得る風車の仕様について検討することが重要であ

    る。

    2) 目的

    ベトナムに来襲した台風の軌跡を風速データから、ベトナム各地に建設する風力発電に求めら

    れる強度及び関連の機能性能の要求を明らかにする。乱流についても、山岳地、島嶼の地形、風況

    から想定される乱流の特性を推定し、風力発電に求められる強度及び関連の機能性能要求を明ら

    かにする。以上の機能性能要求を満たす風力発電装置及び関連機器に求められる仕様の概要を明

    らかにする。

    3) 実施内容

    ・ ベトナムの環境条件を把握、分析し、ベトナムの台風軌跡及び風速などの条件を検討した。ベ

    トナムの山岳地など複雑な地形における風車の乱流強度を解析し、評価した。ベトナムの山岳

    地では、日本製風車の適合性が確認され、ベトナムの環境に耐える風力発電装置の要求仕様の

    策定とベトナムにおける最適風車の要件案を策定した。

    ・ 日本製風車を導入した場合の利点評価、海外風車と日本製風車の発電量比較、事業収支の概算

    計画を通して、日本型風車の適用が可能な地域がベトナム国内に存在することを確認した。

    4) 実用化・工業化推進に向けて

    現在のベトナム国内の風力発電計画地の中で、山岳、丘陵地域などに日本の環境に類似した課

    題を有する風力発電所候補地を摘出することができた。今後、日本製風車を導入した場合の発電

    単価の算出、競合機との発電単価の相違など評価し、ベトナムの売電価格など経済的に成立し得

    る風力発電立地点の選定、事業化検討などにつなげて、実用化・工業化推進に向けて検討を継続し

    ていきたい。

    5) 招聘研究の総評

    ベトナムの風力プロジェクトを的確に評価分析することを通して、現在の計画地の中で、山岳、

    丘陵地域などに日本の環境に類似した課題を有する風力発電所候補地を摘出し、日本製風車の導

    入促進を緒に付けた。欧米製の風車と日本製風車の得失評価により、ベトナムの風力発電事業の

    健全な成長につなげることが可能となった。

  • 15

    3.3.3-1 ベトナムにおける地熱資源を利用した発電技術に関する調査研究

    [3-1] ベトナムにおける地熱資源を利用した発電技術に関する調査研究

    ・ 招聘研究者 Mr. Ngoc Duc Vu(ゴック デュック ヴォー)

    ・ ベトナム通産省(ベトナム)

    ・ 受入機関 産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門 柳澤教雄主任研究員

    ・ 招聘期間 10/1-12/19(80日)

    1)研究の背景

    ベトナムにおける再生可能エネルギー利用率の向上をめざすにあたり、地熱・温泉資源の評価

    および発電技術の導入可能性の評価が重要となる。それには、すでに地熱発電・温泉発電の利用を

    進めている地域での実情を調査することが必要であるが、日本は、地熱資源調査、実証試験、発電

    機製造などが行われ、調査には最適の地域である。

    2) 目的

    将来のベトナムにおける地熱資源の利用(発電や熱利用)に必要な技術(資源調査、発電技術

    など)について調査し、ベトナムの状況との適応性を評価する。

    3) 実施内容

    ・ 温泉発電技術や、日本の地熱の状況、東南アジア地域の地熱ポテンシャルについて産総研の研

    究者と意見交換を行い、また、国際的な地熱開発動向調査のために ICEF会議に参加した。

    ・ 静岡県熱川地域や福島県土湯温泉といった温泉バイナリー発電が行われている地域の視察を

    現場担当者と意見交換を行った。

    ・ 温泉発電導入のために必要なマニュアルの参考とするために、エンジニアリング協会を訪問

    し、温泉発電導入に必要な制度や技術などについて調査を行った。

    ・ 日本における地熱発電の現状を調査し、秋田県の澄川地熱発電所を訪問した。

    ・ ベトナムにおける地中熱利用導入に必要な技術等を習得するために、10/26-11/6 につくば及

    び秋田大学で実施された地中熱のトレーニングコースに参加した。

    ・ ベトナムにおける地熱資源調査のレビューを行い、日本の事例との比較検討を行った。

    4) 実用化・工業化推進に向けて

    本招聘プログラムでは、日本で開発が進められている温泉発電や地中熱利用などの地熱利用の

    技術とその開発プロセスを調査し、導入先のポテンシャル等に対応する開発計画立案についてベ

    トナムを対象に実施した。そのプロセスは今後、様々な国で適用できると考えられる。

    5) 招聘研究の総評

    日本において地熱研究を行っている産総研の研究者との様々な意見交換や実際に稼働している

    地熱発電所および温泉バイナリー発電所の見学、また温泉バイナリーを推進しているエンジニア

    リング協会の訪問などを通し、将来のベトナムの地熱利用に向けての足がかりにするためには、

    十分な研究であったと考えられる。

  • 16

    3.3.3-2 地熱貯留層評価の改善を目指した産出能力曲線の簡便・高精度構築法の開発

    [3-2] 地熱貯留層評価の改善を目指した産出能力曲線の簡便・高精度構築法の開発

    ・ 招聘研究者 Dr. Khasani Moh Jaelani(カサニ モー ジャラニ)

    ・ ガジャマダ大学(インドネシア)

    ・ 受入機関 秋田大学国際資源学部 藤井 光教授

    ・ 招聘期間 11/15-2/10(88日)

    1)研究の背景

    地熱発電における生産井の蒸気・熱水産出能力は通常は坑井内に計測器を設置して測定される。

    しかし、この本測定作業は大きなコストと長い時間を要するため、操業中の地熱フィールドでは

    実施頻度が小さく、これが地熱貯留層からの最適な生産計画立案と貯留層管理の障害となってい

    る。すなわち、地上における簡易測定のみで生産井の能力を推定する方法を開発できれば、地熱発

    電所における長期間における安定操業への貢献は大きいと考えられている。

    2) 目的

    日本最大の地熱発電所である大分県八丁原地熱発電所において取得された試験データを用い

    て、地熱フィールドにおける生産井周辺地盤の貯留層シミュレーションおよび生産井内流動シミ

    ュレーションを行い、地熱井の産出能力曲線の信頼性向上およびデータ取得の低コスト化を目指

    す研究を行う。そして、この成果により地熱開発における開発費・操業費の削減を目指す。

    3) 実施内容

    本招聘研究では大分県八丁原地熱発電所において取得された試験データの詳細な分析により、

    地熱生産井における生産挙動の安定化に要する生産時間の推定法について検討した。さらに、貯

    留層シミュレーションと生産井内流動挙動計算を用いて、坑底圧力と坑口圧力の関係についての

    簡便な推定法を提案した。なお、シミュレーションにおいては貯留層温度、深度、岩石パラメータ

    などを変化させて様々な条件を想定した感度計算を行い、様々なフィールドの条件に適用可能な

    結果を提供した。なお、滞在期間中に得られた研究成果は、世界で最も権威ある地熱関連学術誌

    Geothermics誌に原著論文として現在投稿中である。

    4) 実用化・工業化推進に向けて

    本招聘研究で実証された簡便な地熱生産井における産出能力の推定方法は、世界のさまざまな

    地熱発電国において、技術提供・コンサルティング業務の一部として使用可能であり、地熱開発現

    場ではデータ取得法などについて実地指導も視野に入れている。また、本研究は日本の地熱開発

    企業の協力を得て実施されており、同社との連携も今後さらに強めて進めていきたい。

    5) 招聘研究の総評

    招聘研究者は、熱帯に位置するインドネシアから寒さの厳しい冬の秋田を長期訪問したにもか

    かわらず、3ヶ月間の研究期間全体において体調を崩すことなく、精力的な研究活動を継続した。

    研究成果は Geothermics 誌に投稿できるだけの高水準なものが得られており、本招聘研究の成果

    は満足できるものであったと考えられる。

  • 17

    3.3.3-4 地熱地帯における熱水変質とスケーリングの地化学モデリング

    [3-4] 地熱地帯における熱水変質とスケーリングの地化学モデリング

    ・ 招聘研究者 Dr. Maria Ines Rosana Dacanay Balangue

    (マリア イネス ロサナ デカネイ バランゲ)

    ・ フィリピン大学(フィリピン)

    ・ 受入機関 九州大学工学研究院 糸井龍一教授

    ・ 招聘期間 1/15-3/15(61日)

    1)研究の背景

    高温の地熱資源の開発において掘削された坑井から酸性の流体を生産する場合がある。このよ

    うな酸性流体は、坑井のケーシング並びに地上設備の腐食を引き起こす原因となっている。流体

    の酸性化の原因を化学的に解明し、酸性化の予測ができればこのような坑井を有効利用する対策

    を講じることが可能である。そのためには、坑井から得られた岩石試料の鉱物組成を明らかにし、

    その結果を用いた岩石-水反応の化学平衡計算による流体組成の数値シミュレーション手法の確

    立が必要である。

    2) 目的

    地熱資源の開発はより温度の高い深部を目指して開発が進められている。同時に地熱流体の化

    学特性が過酷な条件となることが予測される。したがって、地下深部の地熱流体が有する特性を

    考慮し、周辺岩石との化学反応モデルを開発し、それに基づいた化学数値シミュレーションを実

    施し、流体特性を予測する技術を開発する。

    3) 実施内容

    地熱貯留層を構成する岩石の鉱物組成および生産流体の化学分析結果を日本国内ならびにフィ

    リピンの地熱開発地域から入手した。国内のデータについては NEDOの地熱開発促進調査データベ

    ース(栗野・手洗地域)から、フィリピンのデータについては、現在開発が進んでいる新規開発地

    域から入手した。これらのデータを使用し、生産流体の種々の鉱物に対する飽和指数を算出し、蒸

    気分離後の熱水中の鉱物種の析出可能性を検討した。さらに、地球化学反応を定量的に解析する

    ソフトウェア(CHIM XPT)を用い坑井内あるいは貯留層内での沸騰を仮定した場合に析出する可

    能性のある鉱物種を抽出した。その結果、硬石膏や黄鉄鉱の析出可能性が示唆された。しかし、こ

    れらの鉱物と地熱流体の反応により流体の酸性化を検討するまでには至らなかった。これについ

    ては、今後の課題である。

    4) 実用化・工業化推進に向けて

    深部地熱貯留層おける流体の化学性状を化学モデリングに基づいた数値シミュレーションによ

    り予測することができれば、技術コンサルティング会社との連携により流体特性を考慮した対応

    策ならびに地表設備メーカとの連携により耐腐食性を備えた設備の開発が可能となる。

    5) 招聘研究の総評

    研究で使用する地球科学反応ソフトウェアの整備ならびに使用するデータ入手に時間を要した

    ため、当初の目的を十分に達成することができなかったが、地球科学モデリングとその有効性に

    ついては本研究で確認することができた。また、招聘研究者の研究に対する取り組みは真摯であ

    り、研究者として模範的な態度であった。

  • 18

    3.3.4-1 タイの地理的、技術的条件に合致した小型水力発電システムの開発

    (MPS法による流況推定と、ローカルコミュニティへの導入の為のオフグリットシステムの構築)

    [4-1] タイの地理的、技術的条件に合致した小型水力発電システムの開発

    (MPS法による流況推定と、ローカルコミュニティへの導入の為のオフグリットシステムの構築)

    ・ 招聘研究者 Dr. Salisa Veerapun(サリサ ヴィーラプン)

    ・ ナレースワン大学(タイ)

    ・ 受入機関 信州大学学術研究院(工学系)飯尾昭一郎准教授

    ・ 招聘期間 10/5-3/4(152日)

    1)研究の背景

    昨年度の招聘により、タイへの水力発電システム導入実現につながる水車設計法、性能評価法、

    好適流況条件等を修得した。さらに帰国後、招聘研究者グループの踏査により複数の小水力発電

    候補地を確認するとともに、水車導入時の河川管理者、ローカルコミュニティとの連携体制の構

    築を進めた。研究対象としている水車は開放型であり落差が比較的得やすい堰堤への設置を想定

    している。そのため、堰堤からの越流水の状況が水車性能を大きく左右する。一般的に、水車設置

    地点ごとに流況が異なるため、最終的には実地調査が欠かせないが、その前段階において机上で

    設置可能性を概略でも評価できれば、移動をともなわない効率的な選定ができるようになる。

    ところで、昨年度の招聘研究の成果として、タイの山間部の無電地域において水力ポテンシャ

    ルと電力需要が存在しており、オフグリッドシステムのニーズが高いことがわかっている。オフ

    グリッドの場合には、水車の運転状況は電力需要で変化するため、水力ポテンシャル(入力)と発

    電量(出力)、電力需要(消費)とのバランスを考慮したシステム構成が必要となる。

    上記の机上検討による適地選定方法の確立と、オフグリッドシステムの構成方法を習得するこ

    とは、タイへの小水力発電の導入において、その意義は大きい。

    2) 目的

    ・昨年度着手した流体シミュレーション手法を水車導水路の流れ場解析に応用し、流路形状と水

    流状況との関係を評価する。

    ・小水力発電用のオフグリッドシステム構成を理解し、システム設計ができるようになる。

    3) 実施内容

    ・流体シミュレーション手法には粒子法(MPS法)を用い、昨年度の羽根車内部の流動解析用プロ

    グラムコードを開放型水車の導水部の流動解析に使用できるように変更した。その結果、導水

    部の曲率半径と、水流の速度・水深との関係を定量的に求めることが可能になった。

    ・オフグリッドシステムには、整流器、インバータ、コンバータを用いた単純な構成を選択し、実

    験室内でシステムを構築した。特に、PM発電機の使用を前提として、流況、水車仕様、発電機

    の発生電圧・周波数、電力需要それぞれの関係からシステム内のパラメータ調整方法、運用方

    法を習得した。これにより、無電地域で電力供給が可能となるシステム構築ができるようにな

    った。

    4) 実用化・工業化推進に向けて

    2016 年度に実施となるタイでの再生可能エネルギー普及にかかる公募事業へ応募し、ローカル

    コミュニティへの導入実証試験、技術者育成ワークショップや小水力発電ユニットの実用化に向

    けた実施体制の構築を計画している。また、水力発電システムを製造可能な技術を有する地元企

  • 19

    業とのミーティングを実施し、今後の方針についての検討を開始している。

    5) 招聘研究の総評

    タイの地理的、技術的条件に合致した小水力発電システムの開発を目指して、当初の計画にし

    たがって招聘研究が実施された。この成果が実用化・工業化の大きなきっかけとなることを期待

    する。

    3.4 成果の取りまとめ

    3.4.1 招聘研究に係る総括会合

    平成 28 年 2 月 29 日に東京・池袋で「平成 27 年度研究者招聘プログラム総括会合」を開催し、

    招聘研究者から招聘研究の背景、成果、今後の工業化・産業化に関しての報告があった。併せて修了

    証書を授与した。

    1) 総括会合

    開催日時: 平成 28年 2月 29日(月)

    開催場所: 東京・池袋サンシャインシティ文化会館

    参 加 者: 招聘研究者 8名、受入機関 5名、資源エネルギー庁 1名、新エネルギー財団 6名

    計 20名

    2)発表及び議論の概要

    (1)耐熱性セルラーゼ酵素の創生 Dr. Dominggus Malle (インドネシア)

    ・研究成果である耐熱性セルラーゼはバイオ燃料製造のバイオマス基質の糖化工程に利用可能。

    ・今後の実用化のために、日本企業の協力を得てパイロットプロジェクトを計画したい。

    ・今後の招聘事業に対する提案:2カ年制を取り入れ、一年目は研究室での作業、二年目は研究成果

    に基づく企業との共同研究に参加することで、産業化・工業化が促進されるのではないか。

    ・質疑応答:

    ・対象とするバイオマスの原料、インドネシアでの可能性は。 → 木材、インドネシアには油や

    しの植林や木材や廃材が多い。

    ・招聘研究の目的として木質バイオマス糖化反応時間の短縮とあるがどの程度か。→ 条件にもよ

    るが、例えば 1.4時間が 30分位になる。

    ・バクテリア汚染を除くことに対して製造プロセス側での利点は何か。→元々の酵素の耐熱(活動)

    温度が例えば 40℃であるとバクテリア汚染によりプロセス歩留りは下がるが、70℃ではバクテリ

    アは活動しないので歩留りは上がる。

    (コメント)

    ・実用化に向けて日本の機械メーカが関心を持っている。インドネシアだけではなく、東アジアの

    各国にも本技術によるプロセス・設備技術を広めようと考えている。

    ・本招聘プログラムでは国研、大学が受入機関の場合は研究協力機関として企業を挙げて貰ってい

    る。最初は大学等であってもゆくゆくは民間企業に招聘者を受け入れていただき日本の技術・産

    業が海外で普及することを期待。

  • 20

    (2)高品質バイオディーゼル燃料製造に資する固体酸触媒の開発 Ms. Supranee Laoubol(タイ)

    ・ASEAN 諸国では BDF 混合ディーゼル燃料の導入が計画されており、低品位原料を利用可能とする

    本研究成果は燃料コストの削減に資する。

    ・未精製のジャトロファ油等低品位の非食糧を原料にできる、処理作業の単純化、廃棄物の最小化、

    副産物として高品質のグリセロールが取得できる。

    ・今後の実用化のためには、実験データに基づく実用化調査と LCA分析、実用化レベルの触媒生産、

    パイロットスケールプラントでの実証実験、燃料需要に基づく商業規模のプラント設計が必要。

    (質疑応答)

    ・POMEと PFADとの違いは何か → PFADは蒸留液の廃液で POMEはパーム搾油工場からの廃水全体。

    ・固定触媒 Ti-Q10は高価ではないか。→ 材料や製造プロセスの改良でコスト低減を図る。

    (3)バイオガス生産中の微生物群の変化に関する研究 Ms. Lai Thi Hong Nhung(ベトナム)

    ・今後の実用化のためには、VAST・広島大学・産総研との共同研究、日本企業からの技術移転、ベト

    ナム企業との技術開発が期待される。

    ・今後の招聘事業に対する提案:バイオマス研究の機会を多くして欲しい。

    (質疑応答)

    ・ベトナムに帰国後、微生物の収集や分析に問題はないか。→ 広島大学で得た知識や技術を活用

    する。受入機関と連携する。実証段階では更なる支援が必要。

    ・既設バイオガス発生装置で動作しないものたある原因は何か。→微生物がその環境に適応してい

    ない。ベトナム企業、バイオガス発生プラントへ招聘事業で得た技術を移転し、またコンサルタ

    ント業務を行いたい。

    (4)バイオマスタールからの液体燃料製造 Dr. Moe Thanda Kyi(ミャンマー)

    ・ミャンマーでは農作物が豊富であり、地方都市で生産されるバイオマス資源を利用した液体燃料

    製造が期待されている。

    ・今後の研究課題:パラメータのさまざまな条件を検討する。

    (質疑応答)

    ・使用したターの内容は何か。 → ターの製造で得られる高比重のヘビーターを今回の研究で使用。

    残りの比重の低いライトターの利用も検討したい。

    (5)現地生産における日本型風車の構造要素に関する研究 Mr. Nguyen Tuan Phong(ベトナム)

    ・ベトナムでの現地生産を進めるには、さらなる日本型風車技術の研究とベトナムの状況にあった

    技術を学ぶことが必要であり、まずベトナムの風況データ観測と分析が必要。

    ・今後の招聘事業に対する提案:風車メーカで直接学べる機会は研究者にとって有益。風力だけで

    なく、水力についての研究も有意義である。

    (質疑応答)

    ・現在のベトナムの風車関連メーカ → 4社あり、タワーと発電機を製造

    ・風速計で 2Dに対し 3Dの利点は → 垂直方向の風速、方向のデータ取得

    ・ベトナムで製造可能な風車部品は → 重量鉄鋼品、ナセル等のプラスティック製品、次はブレ

    ード

  • 21

    (6)ベトナムでの風車生産における障害と解決法 Mr.Nguyen Binh Khanh (ベトナム)

    ・日本の経験を学ぶことでベトナムでの風力開発の問題点の解決策を講じる一助となる。

    ・ベトナムの風況に合った風車生産技術の開発を行う。

    ・今後は国が信頼性の高い風況データベースを作成することが重要となる。

    ・今後の招聘事業に対する提案:ベトナムの風況に適した日本の風車技術を学ぶためにベトナムか

    ら研究者を招聘してほしい。

    (質疑応答)

    ・風況測定で、欧米よりも日本のほうがベトナム環境に即したものは何か。→ 高精度測定、乱流(3D

    測定)

    (7)Biliran地熱発電所からの酸性流出物の研究 Dr. Maria Ines R.D.Balangue(フィリピン)

    ・酸性流出物の性質の分析で同様のプロジェクトでのスケーリングや腐食問題の対策に役立てる。

    ・地熱発電での問題点の一つは井戸からの蒸気の含有物により、酸化、腐食、スケーリング等が発

    生することである。水-岩石反応のデータ蓄積は、地熱開発場所の選定また長期にわたる設備維

    持に貢献。

    (8)流況の MPS調査と独立型電源システムの導入 Dr. Salisa Veerapun (タイ)

    ・タイの地理的および技術レベルに適した小水力発電の開発が必要。

    修了証書授与

  • 22

    3.4.2 研究報告書

    招聘研究者は共同研究完了時に、受入れ研究機関の指導を得ながら研究報告書を作成した。それ

    らを、統合、編集して本年度の研究報告書とした。

    3.5 研修、現地視察、教育等

    3.5.1 風車工場研修

    平成 27年度のベトナムから招聘した 3名の研究者の研究課題である「ベトナムへの大型風力の

    導入および工業化」に対して、日本の大型風力発電装置製造工場の見学および技術者との情報交換

    を行い、研究の一助とするために、風車工場での研修を行った。

    1) 概要

    期間:平成 28年 1月 18~19日

    訪問先 :日立製作所(大甕工場:PCS組立ライン,山手工場:風力発電機加工・組立ライン、埠

    頭工場:風車ハブ・ナセル組立ライン)

    出張者:国際協力部 永尾主幹、玉田調査役

    三重大学 環境エネルギー工学研究センター長 工学研究科 前田教授

    招聘研究者 ・Mr. Vu Duy Hung、MOIT(受入機関:日立製作所)

    ・Mr. Nguyen Binh Khanh、VAST(受入機関:三重大学)

    ・Mr. Nguyen Yuan Phong、VAST(受入機関:三重大学)

    (1)大甕工場

    ・「インフラシステム社」と「インフラシステム社、大みか事業所」の説明

    ・風力発電用と太陽光発電用の PCS 組立ラインを主体として工場見学。PCS 単体としての外販と自

    社発電機組付け用として生産。

    ・主な質疑応答

    ・ベトナム、台湾、フィリピンなど日本と風況が似ている国に於いても欧州製の風車が導入され

    ており、局地風や台風などの影響で風車に被害が出ている。

    ・GEは IEC規格のクラスⅢ、日立はクラスⅠとⅡを生産しており、日立の風車がアジア諸国に広が

    るよう活動を行う。

    (2) 山手工場

    ・発電機の部品加工から組み立てを中心に工場見学、風力発電用としては 1.8MW(2 台/日)、2MW

    (20台/月)、5MWの 3種類を生産中。

    ・招聘研究者の研究内容紹介と質疑応答

    ① Hung氏:Study of introduction of wind turbine system in the typhoon dominated South

    East Asia region

    ベトナムの年平均風速、ベトナムで設置されている風車の容量、乱流強度について議論した。

    ② Khanh氏:Study on barriers and solutions to wind energy introduction in Vietnam

    質疑応答:ベトナムの FITの現在値 7.8US¢/kWhに対して MOITは 10.4 US¢/kWhを提案してい

    るとのことであるが、価格根拠について議論した。

  • 23

    ③ Phong氏:Study on local production of structure element of Japanese type wind

    Turbine

    (質疑応答)

    ・ベトナムに進出した風車タワーメーカーの生産能力の合計は 700 本/年という説明に対して、設

    備の理論的生産能力か、採算実績か、またタワー、ナセル、ブレードなど毎にメーカ名と生産能

    力/実績を明らかにする。

    ・ベトナムは何を製造することを望んでいるのか明確にしてほしい。タワーなどの鋳造や鍛造から

    始めることが出来るのではないか。

    ・日本としてはベトナムには鋳鍛品、複合材製品の製造能力があると考えているが、本研究内で精

    査を進めて欲しい。

    ・中国の例では、自動車部品を製造していたメーカが風力等の部品供給業者としての能力を有して

    いたことが参考になる。ベトナムの類似産業を調査することが役に立つ。

    (3) 埠頭工場訪問(ナセル工場)

    ハブとナセルの組立を主体に見学。日立は 2015 年 3 月現在で、日本国内で 95 基の 2MW と 1 基

    の 5MW(実証中)を設置。

    パワーコンディショナー工場 日立の説明を聞く招聘研究者と指導教授

    ナセル組立工場(埠頭工場)の 100kW(椛島洋上)と 2MWブレードの前

  • 24

    3.6 支援作業

    研究人材育成事業遂行の準備、調整、事務手続き、研究支援として以下の作業を行った。

    研究人材育成事業実施に必要な情報収集・調査

    研究者ネットワーク活用による共同研究の掘起し

    受入機関・共同研究者マッチング

    共同研究者・研究案件の募集・審査

    研究人材の招聘及び派遣業務(現地受入れ前手続き、受入支援を含む)

    研究人材育成プログラムの調整

    国内外における共同研究及び附帯業務の実施、管理

    招へい期間中の招聘研究者の事業面・生活面における支援・管理

    相手国政府・カウンターパートや関係機関との連絡・調整

    その他の関連作業

  • 25

    4. ネットワーク構築及び情報交換のためのセミナー開催

    バイオマス技術を含む再生可能エネルギー関連の国内外の会議へ参加し、諸外国をはじめ日本国

    内における再生可能エネルギーに係る幅広い情報収集を行うと同時に、国内外の再生可能エネルギ

    ー研