子どもの年齢と法 - Osaka City...

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子どもの年齢と法(4) はじめに 第1章 個別的検討 第1節 政治参加 1.憲法改正国民投票権 2.選挙権 3.選挙権に基づく資格・権利 4.選挙運動 5.住民投票権 6.請願権 第2節 有害環境・行為 1.公営ギャンブル 2.有害図書 3.有害電子情報 4.飲酒・喫煙 5.有害行為 6.子どもによる危険行為 (以上,60巻 3・4 号) 第3節 性被害・虐待 1.法定強姦・強制わいせつ 2.淫行 3.児童買春・ポルノ 4.虐待 第4節 少年非行・犯罪 1.少年法上の「少年」 2.保護処分 3.刑事処分 第5節 学校教育 1.就学前 2.小中学校 3.高等学校 4.大学 第6節 社会保障 1.社会保険 2.社会手当 3.社会福祉サービス 4.公的扶助 (以上,61巻 1・2 号) 第7節 1.労働基準法上の「年少者」 2.労働契約・賃金 3.就業制限 4.使用禁止 第8節 資格・免許等 1.欠格事由 2.受験資格 第9節 1.手術に際しての輸血 2.不妊手術 3.臓器移植 4.AID(非配偶者間人工授精) 5.医療費補助 6.健康診査・予防接種 (法雑 ’15)61― 4 ―1

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子どもの年齢と法(4)

米 沢 広 一

目 次は じ め に第1章 個別的検討第1節 政 治 参 加1.憲法改正国民投票権 2.選挙権 3.選挙権に基づく資格・権利4.選挙運動 5.住民投票権 6.請願権

第2節 有害環境・行為1.公営ギャンブル 2.有害図書 3.有害電子情報 4.飲酒・喫煙5.有害行為 6.子どもによる危険行為 (以上,60巻 3・4 号)

第3節 性被害・虐待1.法定強姦・強制わいせつ 2.淫行 3.児童買春・ポルノ 4.虐待

第4節 少年非行・犯罪1.少年法上の「少年」 2.保護処分 3.刑事処分

第5節 学 校 教 育1.就学前 2.小中学校 3.高等学校 4.大学

第6節 社 会 保 障1.社会保険 2.社会手当 3.社会福祉サービス4.公的扶助 (以上,61巻 1・2 号)

第7節 労 働1.労働基準法上の「年少者」 2.労働契約・賃金 3.就業制限4.使用禁止

第8節 資格・免許等1.欠格事由 2.受験資格

第9節 医 療1.手術に際しての輸血 2.不妊手術 3.臓器移植4.AID(非配偶者間人工授精) 5.医療費補助 6.健康診査・予防接種

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第10節 家 族1.民法上の「成年」年齢 2.親権 3.婚姻 4.養子縁組 5.氏の変更6.認知 7.遺言 8.子どもの引渡 9.離婚後の養育費10.性同一性障害者の性別の変更 (以上,61巻3号)

第11節 訴訟・審判等1.訴訟(手続行為)能力 2.陳述聴取 3.宣誓 4.国選弁護人

第12節 国 籍1.認知された子の日本国籍取得 2.帰化 3.重国籍者の国籍選択4.国籍の再取得 5.届出

第13節 そ の 他1.道路歩行 2.情報請求 3.損害賠償 4.未成年者略取・誘拐罪等5.旅券 6.外国人の在留 7.皇族 (以上,本号)

第2章 全体的検討む す び

第11節 訴訟・審判等

1.訴訟(手続行為)能力

民事訴訟の場合,民事訴訟法31条は,「未成年者……は,法定代理人によら

なければ,訴訟行為をすることができない」と規定している。民法では,未成

年者はあらかじめ法定代理人の同意があれば有効に法律行為ができる(民法5

条)。しかし,訴訟追行は取引行為に比べて複雑で見通しがつきにくく,未成

年者保護の必要性が一層高い1),攻撃防御の中で絶えず行為の効果を予測し,

行為の是非を判断するためには民法上の行為能力よりも高度の能力を有する,

訴訟行為の効力を後に取消しにより遡及的に覆滅させることは手続の安定を害

する2)ため,訴訟では,法定代理人の同意では足りず,法定代理人によっての

み訴訟追行が許されるとされた。

「ただし,未成年者が独立して法律行為をすることができる場合」には,単

独で訴訟行為をすることができる(民事訴訟法31条ただし書き)。すなわち,

独立して営業を営むこと,持分会社の無限責任社員になることを法定代理人か

ら許された未成年者は,営業等に基づく行為に関しては行為能力者とみなされ

論 説

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る(民法6条,会社法584条)から,営業等に関する訴訟については訴訟能力

を有する3)。

労働契約に関しては,未成年者に行為能力が認められ,未成年者は,単独で

労働契約を締結し,自ら賃金請求権を行使することが許されている(労働基準

法58条1項,59条)。そこで,未成年者に労働契約や賃金に関する訴訟につい

て訴訟能力が認められるかが問題となる。多数説は,労働契約関係に入った後

は,当該未成年者をめぐる労働契約の内容や職場関係は,現実に当該未成年者

自身の意思に基いて履行され形成されているとの実情を重視して,その点を肯

定する4)。他方,少数説は,賃金請求は事実行為であり,58条も労働契約につ

いての行為能力を認めたものでないので,訴訟能力まで認めたものではない5)

とする。

また,婚姻によって成年に達したとみなされる未成年者(民法753条)も,

訴訟能力を有するとされる6)

人事訴訟の場合,身分上の行為が対象となり,本人の意思を重視すべきこと

から,未成年者も意思能力を有する限り訴訟能力が認められる(人事訴訟法13

条1項)。身分上の行為はできるだけ本人の意思に基づいて行わせようとする

民法の態度に対応するものである7)。意思能力があるかどうかは,個別具体的

な判定を必要とする。15歳未満の者を養子とする縁組(民法797条)の場合に,

法定代理人が未成年者に代わって承諾をすることとされていることに鑑み,養

子縁組事件については15歳未満に達しない養子は訴訟能力を有しないと解され

るほか,その他の場合にも14,5歳程度に達していなければ訴訟能力を有しな

いものと解される8)。

もっとも,未成年者自らが実際に訴訟を追行するのは容易ではなく,困難が

生じる。そこで,裁判長は必要と認めるときは,申立てに基づき,又は職権で,

弁護士を訴訟代理人に選任することができる(人事訴訟法13条2項,3

項)―裁量的選任。

家事事件の場合,その中には身分関係以外の事件類型や複雑な事件も多く,

一般的に訴訟と比べて判断能力が低い者でも家事事件の手続を追行するのが可

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能であるとは必ずしもいえないことから,家事事件手続法は,未成年者は原則

として,家事事件において手続行為能力を有しないとした(17条1項)9)。

しかし,身分関係が問題とされている類型の事件などでは,本人の意思を尊

重すべきなので,家事事件手続法17条により準用される民事訴訟法28条の特別

の定めとして,事件類型ごとに,意思能力がある限り手続行為能力を認める規

定を置いている(118条を準用する151条2号―子の監護に関する処分の審判

事件,168条―子に関する特別代理人の選任の審判事件等,177条―未成年後

見人の選任の審判事件等,235条―都道府県の措置についての承認の審判事件

等,240条3項―施設への入所等についての許可の審判事件等の各規程10))。

もっとも,未成年者の手続遂行能力を補うため,裁判長は必要と認めるとき

は,申立てに基づき,又は職権で,弁護士を訴訟代理人に選任することができ

る(家事事件手続法23条1項,2項)―裁量的選任。

財産関係の家事調停については,未成年者は,原則として手続行為能力はな

い(民訴31条)ので,法定代理人によってのみ調停行為をすることができる。

ただし,未成年者であっても,既婚者は調停行為をすることができるし,独立

して法律行為をなしうる場合(民6条1項,商5条)は調停行為をすることが

できる11)。

身分関係の家事調停については,当事者本人の人格に最も影響が大きい行為

であるから,できるだけ本人の意思に基づくことが望ましいと考えられ,意思

能力がある限り調停行為をすることができる(家事事件手続法252条1項)12)。

2.陳 述 聴 取

家事事件の場合,家事事件手続法は,15歳以上の子の陳述を聴かねばならな

い範囲を旧法(家事審判規則)より拡大し,子の監護に関する処分の審判事件

(152条2項)及びその保全処分事件(157条2項),養子縁組許可の審判(161

条3項1号),特別養子縁組の離縁の審判事件(165条3項1号),親権に関す

る審判(169条1項ないし4号)及びその保全処分事件(175条2項),未成年

後見人又は未成年後見監督人の選任に関する審判事件(178条1項1号),児童

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福祉法に規定する審判事件(236条1項),生活保護法等規定する施設への入所

等の許可の審判事件(240条4項)等について,15歳以上の子の陳述聴取を義

務づけている13)。これは,陳述の聴取が,言語的な表現による陳述者の認識,

意見,意向等の聴取であることから,陳述聴取の対象が子である場合は,子に

自らの認識や意見,意向を表明する能力が具わっていることが前提となり,一

般的にその能力をもつ年齢として15歳が相当とする考え方である14)。

もっとも,家庭裁判所は子の陳述の聴取等の適切な方法により「子の意思を

把握するように努め,審判をするに当たり,子の年齢及び発達の程度に応じて,

その意思を考慮しなければならない」と規定する家事事件手続法65条は,15歳

未満の子の場合にも適用されるから,15歳未満の子の陳述を聴取する必要がな

いというわけではない。子の具体的な状況に応じて,その必要性を判断すべき

こととなる。これらの規定は,児童の権利条約12条の趣旨に沿った内容となっ

ている15)。

他方,特別養子縁組の離縁の申立を却下する場合,養子の陳述を聴かなくて

もよい(家事事件手続法165条4項)。それは,養子自身が養子であることを知

らない場合が多いことに配慮したためである16)。なお,(旧)家事審判規則64

条の13は,養子の陳述を聴取しなければならないとしていたが,上記の趣旨か

ら家事事件手続法はそれを変更している17)。

また,親権の一時停止・喪失の場合とは異なり,民法766条(離婚後の子の

監護に関する事項),民法819条(離婚又は認知の場合の親権者の指定)の場合

には,子の申立権は家事事件手続法には規定されていない18)。

人事訴訟の場合も,人事訴訟法32条4項が,裁判所は,監護者の指定その他

の子の監護に関する処分,親権者の指定について裁判をするときは,子が15歳

以上であるときは,その子の陳述を聴かねばならないと規定している。

3.宣 誓

民事訴訟法201条2項は,「16歳未満の者又は宣誓の趣旨を理解することがで

きない者を証人として尋問する場合には,宣誓をさせることができない」と規

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定している。16歳に達していなければ,宣誓の趣旨を十分に理解できるものと

認められても,宣誓させることはできない19)。16歳未満の者に対しては,政策

的観点から画一的に宣誓を禁じたものである20)とされる。

もっとも,宣誓をさせないで尋問した証人の証言は当然証拠能力がないとは

いえない(大判大正 10・10・8 民ろく7輔1698頁)。証拠価値は,抽象論とし

ては証拠価値が低い場合が多いといえるが,具体的には裁判所の自由心証によ

る判断に任せられる21)。

他方,刑事訴訟法155条1項は,「宣誓の趣旨を理解することができない者は,

宣誓をさせないで,これを尋問しなければならない」と規定している。宣誓の

趣旨―刑事訴訟法規則118条2項の趣旨,すなわち,良心に従って真実を述べ

なければならない義務があること―を理解する知的・精神的能力を宣誓能力

という。宣誓能力の有無は,裁判所が個々の場合につき判断すべきものであり,

疑問があるときは,宣誓前に,この点について尋問し,必要はあるときは,宣

誓の趣旨を説明しなければならない22)(刑事訴訟法規則116条)。

もっとも,宣誓無能力者であっても,証言能力が肯定される場合はあり,そ

の場合の証拠価値は,裁判所の自由心証による判断に任せられることになる

4.国選弁護人

刑事訴訟法37条1号は,「未成年者」の「被告人に弁護人がないときは,裁

判所は,職権で弁護人を附することができる」と規定している23)。防御能力が

類型的に劣っていると考えられるためである24)。

刑事訴訟法規則279条も,「少年の被告人に弁護人がないときは,裁判所は,

なるべく,職権で弁護人を附さなければならない」と規定している。

1) 岡 伸浩『民事訴訟法の基礎[第2版]』69頁(2008年)。2) 増田勝久「家事審判手続における子どもの地位と子どもの代理人」ジュリ1407号49頁(2010年)。3) 松本博之・上野泰男『民事訴訟法[第7版]』234頁(2012年)。4) 岡,前掲・註(1)69-70頁。5) 柳川真佐夫『判例労働法の研究』887頁(1950年)。

論 説

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6) 松本他,前掲・註(3)234頁,山本 弘・長谷部由紀子・松下淳一『民事訴訟法[第2版]』104頁(2013年)。

7) 松川正毅・本間靖規・西岡清一郎(編)『新基本法コンメンタール人事訴訟法・家事事件手続法』36頁[高田昌宏執筆](2013年)。8) 松本博之『人事訴訟法』111頁(2006年)。9) 秋武憲一(編)『概説家事事件手続法』61頁[高橋信幸執筆](2012年)。10) 秋武,前掲・註(9)61頁。11) 秋武,前掲・註(9)282頁[高取真理子執筆])。12) 秋武,前掲・註(9)282頁。13) 金子 修『逐条解説家事事件手続法』552頁,578頁,秋武,前掲・註(9)129頁[竹内純一執筆]。

14) 松川他,前掲・註(7)386頁[近藤ルミ子執筆]。15) 秋武,前掲・註(9)129-30頁[竹内純一執筆]。16) 金子,前掲・註(13)538頁。17) 金子,前掲・註(13)538頁。18) 横田光平「子どもの意思・両親の権利・国家の関与」法時83巻12号14頁(2011年)。

19) 賀集 唱・松本博之・加藤新太郎(編)『基本法コンメンタール民事訴訟法2[第3版追補版]』202頁[井上哲男執筆](2012年)。

20) 兼子 一(原著)『条解民事訴訟法[第2版]』1110頁[松浦 馨・加藤新太郎執筆](2011年)。

21) 秋山幹男・伊藤 眞・加藤新太郎・高田裕成・福田剛久・山本和彦『コンメンタール民事訴訟法Ⅳ』212頁(2010年)。

22) 伊藤栄樹・亀山継夫・小林 充・香城敏麿・佐々木史朗・増井清彦(編)『注釈刑事訴訟法第2巻[新版]』356頁[亀山継夫執筆](1997年)。

23) 高齢者につき,刑事訴訟法37条2号は,被告人が70歳以上であるときは,「裁判所は,職権で弁護人を附することができる」と規定している。

24) 三井 誠・河原俊也・上野友慈・岡 慎一(編)『新基本法コンメンタール刑事訴訟法』56頁[岡 慎一執筆](2011年)。

第12節 国 籍

1.認知された子の日本国籍取得

国籍法3条は,認知された非嫡出子は,届出時に「20歳未満」であれば,法

務大臣への届出によって日本国籍を取得できると規定している。20歳未満に限

定したのは「父と子の国籍が同一であるのが望ましいと考えられるのは,子が

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20歳未満である場合であり,一般に20歳を超えると従来の国籍を有した外国で

その国の社会と結合した生活関係が形成されているのが通常であるから,届出

のみで日本国籍の取得を認めるほど日本の社会との結合関係が認められないと

考えられたからである」1)とされる。

2.帰 化

帰化の要件の一つとして,国籍法5条1項2号は「20歳以上で本国法によっ

て能力を有すること」を求めている。「20歳以上」とされたのは,「帰化が許可

されれば日本法が本国法になるのであるから,日本民法上成年に達し(3条

[現,4条]),日本法上も成年者として年齢上行為能力者となることを要件と

する趣旨である」2)とされる。

「本号は直接満20歳以上であることを条件としていると解されるから,帰化

申請者が20歳未満の既婚者である場合にも,この規定によって20歳以上に達し

ているものと擬制すべきではない」3)とされる。

なお,「帰化実務上は,外国人の未成年の子が実親とともに帰化を申請する

場合には,実親の帰化が許可されれば,その子は日本国民の実子にあたるから,

便宜的に8条1号に該当する者として扱い,現に日本に住所を有する限り帰化

申請を認めている」4)。

3.重国籍者の国籍選択

国籍法14条1項は,外国の国籍を有する日本国民(重国籍者)は,重国籍者

となった時が「20歳に達する以前であるときは22歳に達するまでに,その時が

20歳に達した後であるときはその時から2年以内に,いずれかの国籍を選択し

なければならない」と規定している。「20歳を一応の基準としたのは,国籍が

基本的人権保障の基準として重要な意義を有するものであるから,国籍選択は

できる限り重国籍者本人によって行われるのが望ましいこと,20歳未満の者に

ついては通常社会生活の主体となることも少なく,行動範囲も狭いので,重国

籍であることにより生じる弊害が比較的少ないし,たとえ弊害があったとして

論 説

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も,重国籍者本人に選択させる必要性をより一層重要とみるべきこと,20歳に

なれば日本法によれば成年となり,自己の行為についての判断能力を有するこ

とになり,重国籍者本人が国籍選択をするに適した法律状態になることを考慮

したものである。国籍選択については,事の性質上慎重な判断が必要になるの

で,それに2年間の熟慮期間を付けることにしたのである」5)とされる。

4.国籍の再取得

国籍法17条1項は,外国で出生し,日本国籍留保をしなかったために「日本

の国籍を失った者で20歳未満のものは,日本に住所を有するときは,法務大臣

に届け出ることによって,日本の国籍を取得することができる」と規定してい

る。20歳未満のものに,帰化によらずに届出によって簡易・迅速に日本国籍の

再取得を認めたのは,「一方では,日本法によって未成年であるうちは,比較

的日本社会への適合性もあり,二重国籍の弊害も少ないと考えられ,他方では,

20歳を過ぎてからも外国に生活の本拠を有した者は,その外国人としての社会

生活の状況,その外国の社会との関係からみて,届出のみによって日本国籍の

取得を認めるほどの日本社会との関連性を認めることができないからであ

る」6)とされる。

5.届 出

国籍法18条は,国籍(再)取得の届出,帰化の許可の申請,日本国籍選択の

宣言,国籍離脱の届出は,本人が「15歳未満であるときは,法定代理人が代

わってする」と規定している。「このような国籍法上の要式行為について,

個々の表意者に関して個別的に意思能力の有無を判断することはできる限り回

避するのが適切である」「そこで,意思能力を欠く可能性の高い一定年齢に達

しない者については常に法定代理人が代わってしなければならないものとし,

逆に,その年齢に達した者については本人自身がしなければならないとしたの

である」,「行為の性質上できる限り本人の意思を重視すべきであるから,財産

的行為能力と区別して15歳という基準年齢を設定しているのである」,養子縁

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組(民法797条)遺言(民法961条)が15歳を基準としていることが参考とされ

たのであろう7)とされる。

1) 木棚照一『逐条註解国籍法』225頁(2003年)。2) 木棚,前掲・註(1)269-70頁。3) 木棚,前掲・註(1)270頁。4) 木棚,前掲・註(1)318頁。同趣旨のものとして,横尾継彦・篠崎哲夫『帰化手続の手引き(新版)』30頁(2005年)参照。

5) 木棚,前掲・註(1)401-2 頁。6) 木棚,前掲・註(1)439頁。7) 木棚,前掲・註(1)449-450頁。

第13節 そ の 他

1.道 路 歩 行

道路交通法14条3項は,児童(6歳以上13歳未満の者)若しくは幼児(6歳

未満の者)を保護する責任のある者は,交通のひんぱんな道路又は踏切若しく

はその附近の道路において,児童若しくは幼児に遊戯をさせ,又は自ら若しく

はこれに代わる監護者が付き添わないで幼児を歩行させてはならないと規定し

ている。違反した場合の罰則は定められていない。

2.情 報 請 求

情報公開法,情報公開条例は,「何人」にも請求権を認め(例,行政機関の

保有する情報の公開に関する法律3条),未成年者について特に定めるところ

はない。この点については,情報公開法による請求に関し未成年者本人を保護

すべき理由は一般的には見出しがたいし,開示請求された情報の内容に鑑みて

特に保護すべき理由がある場合には,不開示情報(例えば5条1号)に該当す

るとして実体法的観点から制約すればよいということであろう1)とされる。

それに対して,個人情報保護法,個人情報保護条例は,「何人」にも開示請

求権を認めつつ,未成年者の法定代理人による請求権を定めている(例,行政

機関の保有する個人情報の保護に関する法律12条,27条)。

論 説

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そこで,未成年者と法定代理人の請求権との関係が,問題となる。この点,

文言上又は「手引」において,15歳を境界年齢とする条例が幾つか存する。た

とえば,三田市個人情報保護条例17条は,何人も……開示を請求することがで

きる(1項),15歳未満の者……の法定代理人は,本人に代わって……開示を

請求することができる。ただし,本人が反対の意思を表示したときは,この限

りではない(2項)と定め,その手引において,代諾養子(民法797条),遺言

能力(民法961条)等との整合性を考慮し,その判断能力の有無の基準を15歳

としたと説明している。高槻市個人情報保護条例14条は,何人も……開示を請

求することができる(1項),未成年者……の法定代理人は,本人に代わって

前項の規定による開示の請求……をすることができる。ただし,当該未成年者

の利益に反すると認められる場合にあっては,この限りでない(2項)と定め,

その「手引」において,未成年であっても,自己情報の持つ意味や内容を理解

できる意思能力を有する場合は,本人による開示請求を認めることとする。具

体的には,15歳以上の者は,印鑑登録を受けることができること(高槻市印鑑

条例2条),遺言をすることができること(民法961条)などから,社会通念上

意思能力を有すると考えられると説明している2)。

なお,(旧)埼玉県公開条例に基づいて,親が子どもの調査書の「公開」を

請求した事例において,浦和地判平成 9・8・18 行集48巻 7・8 号562頁は,子

は「既に18歳であって,自ら公開請求をするかどうかを十分判断しうる年齢に

達していた」「子は,相応の年齢に達した時には,親に対する関係においても

プライバシーを保護される権利を有している」と述べて,親に請求権はないと

している。

3.損 害 賠 償

民法712条は,「未成年者は,他人に損害を加えた場合において,自己の行為

の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは,その行為について

賠償の責任を負わない」と規定している。

法律行為に関しては,取引の安全を保障する趣旨から,成年に達しているか

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否か(民法4条)によって,一義的に定められている。それに対して,不法行

為の場合,責任能力の有無が基準となるが,一律に何歳で責任能力が備わると

断ずることはできず,個別具体的に判断しなければならない。もっとも,小学

校を卒業する12歳程度の知能が備わっているかどうかが,だいたいの目安とな

る3)とされる。判例も,12歳(小学校卒業)ぐらいから責任能力を認めている。

近時の裁判例は,中学生となった12歳又は13歳について,責任能力を肯定する

ものが多い4)。

なお,被害者の過失相殺(民法722条)能力につき,判例は,事理弁識能力

があれば足り,責任能力までは要しないとしており,6,7歳で,事理弁識能

力があるとして過失相殺が肯定されている5)。

4.未成年者略取・誘拐罪等

刑法は,「営利,わいせつ,結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的

で,人を略取し,又は誘拐した者は,1年以上10年以下の懲役に処する」(225

条)との営利目的等略取及び誘拐罪に加えて,「未成年者を略取し,又は誘拐

した者は,3月以上7年以下の懲役に処する」(224条)との未成年者略取及び

誘拐罪を規定している6)。両方とも親告罪である(229条)。

婚姻した未成年者は,親権に服さないから,本罪の未成年者から除外すべき

であるとの説もあるが,多数説は,含ませるべきであるとする7)。

年長の未成年者についても,一般的には被誘拐者が同意したとしても誘拐罪

が成立する余地は残ることになるが,成人に近い者の連れ出しを一律に処罰す

べきかには疑問もあるとの指摘がある8)。

刑法226条の2は,「人を買い受けた者は,3月以上5年以下の懲役に処す

る」(1項),「未成年者を買い受けた者は,3月以上7年以下の懲役に処する」

(2項)と規定し,未成年者の場合を厳罰化している。更に,特別法として,

児童買春・ポルノ法8条1項は,買春・ポルノ目的での児童(18歳未満)の人

身売買を1年以上10年以下の懲役に処している。

刑法は,「人を欺いて財物を交付させて者は,10年以下の懲役に処する」

論 説

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(246条)との詐欺罪に加えて,「未成年者の知慮浅薄……に乗じて,その財物

を交付させ……者は,10年以下の懲役に処する」(248条)との準詐欺罪を規定

している。

準詐欺罪は,実際にはあまり活用されていない。相手方が知慮浅薄であって

も,手段が欺罔行為である場合は,詐欺罪(246条,罰則は同じ)が成立す

る9)。

婚姻による成年擬制は,未成年者保護の見地から考えて本罪には適用されな

いと解すべきであるとされる10)。

5.旅 券

旅券法5条1項は,旅券の有効期間を,「20歳」以上は10年,「20歳」未満は

5年と規定している。5年という有効期間は,「未成年者の場合その海外渡航

は,親権に属する監護教育権(民法第820条)及び居所指定権(同第821条)の

効力からも,その都度親権者等の承認ないし同意を前提としているのであるか

ら,10年という長期の固定期間の旅券は適当ではないと言うことと,年少時は

容貌の変化が激しいので旅券に貼付した写真と所持人との近似性を確保するた

めからの要請でもあり,妥当なものと考えられる」11)とされる。

6.外国人の在留

出入国管理及び難民認定法は,「本邦に上陸しようとする外国人」に指紋,

写真等の「個人識別情報」の提供義務(6条3項),「本邦に在留する外国人」

に旅券又は在留カードの携帯義務(23条1項,2項,5項)を原則として課し

ているが,「16歳に満たない」者には,その義務を免除している。それは,「本

人の事理弁別能力,……義務教育終了年齢等を勘案して,その年齢を16歳以上

と定めたものである」12)とされる。

上述の出入国管理及び難民認定法は,16歳を境界年齢としている13)が,そ

れに加えて,出入国管理及び難民認定法施行規則5条3項(16歳未満の上陸申

請は親等が行い得る),被収容者処遇規則12条(収容所等に収容される者の指

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紋押捺,写真撮影等は16歳以上の者を対象とする)も,16歳を境界年齢として

いる。

7.皇 族

皇室典範22条は,「天皇,皇太子及び皇太孫の成年は,18年とする」と規定

している。これは,(旧)皇室典範13条をそのまま引き継いだものである14)

(それ以外の皇族の成年については特段の定めがないことから,民法により20

歳となる)。政府は,18歳と定めた理由を,天皇が未成年であることによる摂

政設置期間をできるだけ短期にする,国事行為が内閣の助言と承認に基づく行

為であり18歳に達すれば十分その任に堪えるためであると説明している15)。

皇室典範11条1項は,「年齢15年以上の内親王,王及び女王は,その意思に

基き,皇室会議の議により,皇族の身分を離れる」と規定している。政府は,

その理由を,「皇族たる身分を御離れになる場合に於きましては,御一人の意

思だけではいけない。……皇室会議で議すると云う趣旨に致しますれば理論に

も合ひ,実際に無理がない」(金森国務大臣の昭和21年の答弁),「年齢も満15

年以上としておりますが,これも身分上の意思決定をする能力という限界を満

15年ということにしたはずでございます」(宇佐美宮内庁長官の昭和52年の答

弁)と説明している16)。

1) 横田光平「民法成年年齢引下げと公法学の課題」筑波法政48号33頁(2010年)。2) 同様のものとして,神戸市個人情報保護条例15条2項の「手引き」がある。3) 遠藤 浩(編)『基本法コンメンタール・債権各論Ⅱ[第4版]』67頁[潮見佳男執筆](2005年)。4) 安倍嘉人・西岡清一郎(監修)『子どものための法律と実務』395頁[田口治美執筆](2013年)。5) 第一東京弁護士会少年法委員会『子どものための法律相談』396頁(2010年)。6) 未成年者の場合とは異なり,成人を客体とする場合には,特定の目的がなければ誘拐罪は成立しない。未成年者を客体として,224条に該当していても,さらに重い225条の罪の要件を充たすときは,225条が優先的に適用される(浅田和茂他(編)『新基本法コンメンタール刑法』491頁[高山佳奈子執筆](2012年))。224条の刑が225条よりも軽いことは「子のいない夫婦による子ども欲しさの犯行」を想定した減軽類型であるためだと解されてきた(佐久間 修「逮捕監禁罪と略取誘

論 説

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拐罪の諸相(1)」警察学論集57巻12号182頁(2004年)。7) 浅田他,前掲・註(6)490頁[高山佳奈子執筆]。8) 浅田他,前掲・註(6)489頁[高山佳奈子執筆]。9) 浅田他,前掲・註(6)567頁[川口浩一執筆])。10) 浅田他,前掲・註(6)567頁[川口浩一執筆])。11) 旅券法研究会(編)『逐条解説旅券法』119頁(1999年)。12) 坂中永徳・斎藤利男『出入国管理及び難民認定法逐条解説[改訂第3版]』462頁(2007年)。

13) 出入国管理及び難民認定法19条の5第1項も,在留カードの有効期間を定めているが,交付の日に16歳に満たない者は,16歳の誕生日としている(2号,4号))。

14) 平田 厚「成年年齢引下げの意義と課題」戸籍時報646号6頁(2009年)。15) 園部逸夫『皇室法概説』254頁(2002年)。16) 園部,前掲・註(15)564頁,567頁。

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