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土砂供給シナリオと 河岸侵食 平成28年北海道豪雨におけ る橋梁被災を 例とした 検討The Relationship between Sediment Supply and Alluvial Bank Erosion A Case Study of Collapsed Bridges during the 2016 Heavy Rainfall in Hokkaido 井上 卓也 水垣 前田 俊一 矢部 浩規 INOUE Takuya, MIZUGAKI Shigeru, MAEDA Shunichi and YABE Hiroki 2016年8月、 4つの台風の影響によ 北海道は浸水、 河岸侵食、 橋梁被災な ど 多大な 被害を 受け た 。 崩落し た橋の多く は扇頂部に位置し 大量の土砂堆積によ 河床が上昇し ていた。 そこ で、 土砂供給 が橋梁被災に与えた影響を 調べる ために数値解析を行った。 計算の結果、 橋台の被災は、 大規模な 河 岸侵食によ って引き 起こ れ、 河岸侵食幅は土砂供給量に大き な影響を受ける が判明し た。 土砂 の供給量が過大な場合、 砂州の発達に伴っ て流れが外岸へ押し 出さ れ、 大規模な 河岸浸食や橋梁被災 へと 至る 可能性が示さ れた。 に、 河岸侵食は流量の変化にも 影響を 受け 、 ータ ル流量が同じ 洪水上昇期よ 洪水減衰期の方が河岸侵食し やすいこ が確認さ れた。 れは、 洪水減衰期におけ 土砂堆積が砂州の発達を 促進する ためと 推定さ れる キーワ ード 河岸侵食; 土砂供給; 橋梁被災》 In Hokkaido(Japan) , 4 typhoons caused widespread flooding, bank erosion and the collapse of bridges during August 2016. Many of the collapsed bridges were located near the apex of alluvial fans, causing a large volume of sediment deposition. In this study, we perform ed numerical sim ulations to investigate the effect of sedim ent supply on bridge collapse. Our sim ulation results indicate that large river- bank erosion caused the collapse of the bridge abutment set on the river bank. The numerical results showed that the bank erosion width greatly differs depending on the conditions of sedim ent supply. When the sedim ent supply is large, an alluvial point bar formation and development occurs. This point bar pushes the river flow against the outside bank of the bend and promotes bank erosion. Furthermore, river bank erosion also depends on changes in water discharge, the bank erosion width increases during the recession lim b rather than during the rising limb. This is because sediment deposited in the recession limb promote the development of the alluvial point bar. Keywords: bank erosion; sedim ent supply; bridge collapse》 寒地土木研究所月報 №789 2019年2 9

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報 文

土砂供給シナリオと 河岸侵食

-平成28年北海道豪雨における橋梁被災を例とした検討-

The Rela tionship between Sediment Supply a nd Alluvia l B a nk Er osion

-A Ca se Study of Colla psed B r idges dur ing the 2016 Hea vy Ra infa llin Hok k a ido-

井上 卓也 水垣 滋 前田 俊一 矢部 浩規

INOUE T akuya, M IZUGA KI Shigeru, M A EDA Shunichi and Y A BE Hiroki

2016年8月、 4つの台風の影響によ り 北海道は浸水、 河岸侵食、 橋梁被災など多大な被害を受けた。

崩落し た橋の多く は扇頂部に位置し 、 大量の土砂堆積によ り 河床が上昇し ていた。 そこ で、 土砂供給

が橋梁被災に与えた影響を調べる ために数値解析を行った。 計算の結果、 橋台の被災は、 大規模な河

岸侵食によ って引き 起こ さ れ、 河岸侵食幅は土砂供給量に大き な影響を受ける こ と が判明し た。 土砂

の供給量が過大な場合、 砂州の発達に伴って流れが外岸へ押し 出さ れ、 大規模な河岸浸食や橋梁被災

へと 至る 可能性が示さ れた。 さ ら に、 河岸侵食は流量の変化にも 影響を受け、 ト ータ ル流量が同じ で

も 洪水上昇期よ り 洪水減衰期の方が河岸侵食し やすいこ と が確認さ れた。 こ れは、 洪水減衰期におけ

る 土砂堆積が砂州の発達を促進する ためと 推定さ れる 。

《 キーワ ード : 河岸侵食; 土砂供給; 橋梁被災》

In Hokkaido(Japan) , 4 typhoons caused widespread flooding, bank erosion and the collapse of

bridges during August 2016. Many of the collapsed bridges were located near the apex of alluvial

fans, causing a large volume of sediment deposition. In this study, we per form ed numer ical

sim ulations to investigate the effect of sedim ent supply on bridge collapse. Our sim ulation results

indicate that large river- bank erosion caused the collapse of the bridge abutm ent set on the river

bank. The numerical results showed that the bank erosion width greatly differs depending on the

conditions of sedim ent supply. When the sedim ent supply is large, an alluvial point bar form ation

and developm ent occurs. This point bar pushes the river flow against the outside bank of the bend

and promotes bank erosion. Furthermore, river bank erosion also depends on changes in water

discharge, the bank erosion width increases during the recession lim b rather than during the rising

limb. This is because sediment deposited in the recession limb promote the development of the

alluvial point bar.

《 Keywords: bank erosion; sedim ent supply; bridge collapse》

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1.序論

 平成28年8月、4つの台風の影響により、北海道は記録的な豪雨にみまわれた。河川では大規模な河岸侵食が発生し、100を超える橋梁が被災した。橋梁の被災とそれに伴う道路の寸断は、住民の生活や農作物の輸送に大きな爪痕を残した。 被災した橋梁の多くは、谷地形の出口付近に立地しており、山地から流出した土砂により川底が上昇傾向にあった。このことから、土砂流入が河岸侵食に影響を及ぼした可能性が示唆されているが、両者の関係を検討した事例は少なく、不明な部分が多いのが現状である。 そこで筆者らは、小林橋と九線橋を対象に河岸侵食の発生要因に関する数値解析を行った1)。本報告では、この数値解析結果を紹介するとともに、土砂供給が河岸侵食へ与える影響と今後の河川管理のあり方について考察を加える。

2.橋梁被災の概要

 図-1は小林川に架かる小林橋の被災後の写真である。平時の小林川は、川幅10m程度の小さな河川だが、洪水により左岸が侵食され、川幅が約10倍に広がった。この結果、左岸の橋台は沈下し、背面道路が80mにわたり流失した。右岸付近には砂州が形成されており、橋梁には大量の流木が引っかかっている。 被災時に現場を見ていた国土交通省北海道開発局職員によると、先に橋台背面が侵食され、主流が左岸側へ移り、その後、流れの遅くなった右岸側へ徐々に流木が堆積したとのことだった。このことから、流木の堆積による河道閉塞が被災の主要因ではなく、河岸侵食が被災の主要因と類推される。 図-2は、辺別川に架かる九線橋の被災後の写真である。橋の右岸が長さ約175m、幅23mに渡り侵食され、右岸橋台が洗掘により傾斜沈下し、上部構造主桁にねじれによるひび割れが生じた。洪水時にその場にいた美瑛町職員の話では、橋上面は浸水しておらず、橋台はゆっくりと沈んでいった。このことから、小林橋と同様に、河岸侵食によって橋台を支持する土砂が徐々に流出し、沈下に至ったと推測される。

3.数値解析モデル

 数値解析は、平面2次元河床変動モデル(iRIC

(a)

(b)

図-1 小林橋航空写真(北海道開発局提供)

図-2 九線橋航空写真(北海道開発局提供)

Nays2DH2))を用いて行った。本研究では、iRIC Nays2DHに、土砂トレーサーの移動を表現した岩崎ら3)のモデルを組み込み、上流から流入する土砂の追跡を試みた。岩崎らのトレーサーモデルにおいて、土砂トレーサーは着色砂のように他の土砂と区別されるが、その運動形態は他の土砂と同じである。交換層内のトレーサーの濃度変化は以下の式で与えられる3)。

(1)

ここで、λは空隙率、Laは交換層の厚さ、faは交換層内

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0

50

100

150

200

250

0 2 4 6 8 10 12 14

(m3/s)

(a)5

(b) 10

(c)14

(m)

(m)

(m)

(d) 14

(m)

↑ ↑

65m

0

20

40

60

80

100

0.01 0.1 1 10 100 1000mm

におけるトレーサー濃度、fIは交換層と遷移層の間のトレーサー濃度、ηは河床高、tは時間、qbは単位幅当たりの掃流砂量であり、Meyer-Peter and Müllerの式より算出される。土砂トレーサーおよびその他の土砂の体積保存には、芦田らによる多層モデル4)を適用し、河岸侵食には、河岸の角度が安息角以上になると崩落するモデルを採用した。

4.小林橋における検討

4.1 計算条件

 ピーク流量は痕跡水位より逆算した232m3/sとし、流量波形は近隣のペケレベツ川において流出解析より求められた波形を用いた5)(図-3)。計算時間は砂が

活発に移動する流量70m3/s以上の13時間とし、初期河床は国土地理院のDEMデータを用いて作成した。土砂トレーサーは上流端から供給し、供給土砂量は動的平衡条件で与えた。粒径は河床材料調査(図-4)をもとに、45mm(d60粒径)を単一粒径として与えた。 Run 1-1では橋梁上部の流木を考慮せず、Run 1-2では流木堆積範囲に不透過の障害物を設置した。流木が堆積した時間が不明なため、障害物は計算初期から設置した。

4.2 計算結果

 図-5a~cにRun 1-1における流入土砂(トレーサー)の堆積厚を示す。流入土砂が小林橋の右岸から左

図-5 Run 1-1の計算結果

図-4 洪水後の小林橋周辺の粒度分布図-3 小林川の推定流量

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m3/s

hr

Run 2-1 28

Run 2-2 100 3

Run 2-3 200 3

Run 2-4 300 3

Run 2-5 200 7

Run 2-6 300 7

Run 2-7 200 300 3

Run 2-8 300 200 3

Run 2-9 200 3

Run 2-10 300 3

(m)

69m

0

20

40

60

80

100

0.01 0.1 1 10 100 1000mm

(2016/11/18)(2016/11/18)

050100150200250300350

0 10 20 30 40 50 60

m3/s

28225650

図-6 Run 1-2の河床変動高

図-8 九線橋付近の推定流量1)

図-7 九線橋付近の河床材料調査結果1)

表-1 数値実験条件

ける平成28年洪水の推定流量は328m3/s、平成22年洪水の推定流量は236m3/sである(図-8)。 Run 2-1では、モデルの妥当性を検証するために、平成28年洪水の推定流量ハイドロを与え、右岸侵食幅が再現できるか確認した。Run 2-2~2-4では、流量規模の影響を分析するために、100m3/s、200m3/s、300m3/sを一定流量で3時間与える計算を実施した。Run 2-5およびRun 2-6では、洪水継続時間の影響を調べるために、200m3/s一定および300m3/s一定の条件下で、洪水時間を7時間とした計算を実施した。 河岸侵食は流量減衰期に進行する場合が多い例えば6)。

岸へ向かって徐々に堆積し、砂州が横断方向に発達している様子が見てとれる。図-5dの河床変動高をみると、左岸付近の河床は3m以上低下しているが、流入土砂は1m近く堆積していることから(図-5c)、一度大きく侵食した箇所に上流から流入した土砂が再堆積し、砂州を形成することで、流れが外岸へ押し出され、河岸侵食を進行したと推測される。河岸侵食の幅は65mであり、実際の侵食幅80mよりは少ないものの概ね一致する結果となった。 図-6に流木を考慮したRun 1-2の河床変動高を示す。左岸側の河岸侵食幅69mであり、流木堆積を想定していないRun 1-1よりも4m増加した。計算において、流木は不透過かつ洪水初期からの堆積を想定している。実際の木は水を透過し、洪水ピークから減衰期にかけて堆積したと想定される。つまり、計算上の方が実現象より流木堆積の影響が大きい設定となっている。それにも関わらず、侵食幅の増加はわずか4mであった。このことから、流木堆積が被災の主要因では無かったと考えるのが妥当であろう。

5.九線橋における検討

5.1 計算条件

 九線橋は平成22年洪水において、河床洗掘により中央の橋脚が被災している。そこで、右岸橋台が被災した平成28年洪水との比較により、被災要因の抽出を試みる。 初期地形は平成21年LPデータ、河床材料粒径は調査結果から40mm(単一粒径)を用いる(図-7)。九線橋地点の流量は観測されていないため、下流にある辺別川18号水位流量観測所のデータを、九線橋上流域の流域面積(76.4km2)と18号観測所上流域の流域面積(189km2)の比で補正し用いる。九線橋地点にお

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0

5

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15

20

25

0 100 200 300 400

(m)

(m3/s)

0

5

10

15

20

25

0 2 4 6 8(m

)

(hour)

354

356

358

360

362

364

366

0 20 40 60 80 100

(m)

(m)

0hr

300 m3/s

200 m3/s

Flow

そこで、流量上昇期と減衰期の河岸侵食幅の違いについて感度分析を行った。Run 2-7は流量上昇期を想定し、200m3/sから300m3/sに3時間掛けて線形的に流量を増加させおり、Run 2-8は流量減衰期を想定し、300m3/sから200m3/sに流量を減少させている。Run 2-7とRun 2-8は累計流量が同じである。 九線橋の直上流は砂防区間となっており、渓流保全工が昭和59年~平成元年にかけて整備されている。辺別川流域は、昭和56年洪水の後、平成22年洪水まで大きな出水を経験しておらず、平成22年洪水時に上述の砂防施設が大きな効果を発揮し、土砂の流出が減少していた可能性がある。そこで、計算領域上流端から動的平衡流砂量を与えた場合(Run 2-3,2-4)、土砂供給量を与えない場合の比較を行った(Run 2-9,2-10)。

5.2 計算結果

 図-9は再現計算における河床変動高のコンター図である。図-1aに示した航空写真と同様に、右岸橋台付近まで河岸が侵食されており、左岸には砂州が形成されている。また、河岸侵食は橋の上流側から下流へ向かって進行しており、「橋台を回り込むように侵食が上流から進行した」という美瑛町職員の証言と傾向が一致する。 図-10は、Run 2-2~2-4における九線橋右岸の河岸侵食幅を示している。流量規模は河岸侵食幅に大きな影響を与え、300m3/s(平成28年洪水規模)を与えた場合の侵食幅は20m、200m3/s(平成22年洪水規模)で5m、100m3/sだと河岸侵食は発生しない結果となった。 図-11は、Run 2-5~2-6における九線橋右岸の河岸

図-9 河床変動高コンター図(再現計算)1) 図-12 流量上昇期と減衰期の比較(Run 2-7、2-8)1)

図-11 洪水継続時間と河岸侵食幅(Run 2-5、2-6)1)

図-10 流量規模と河岸侵食幅(Run 2-2~2-4)1)

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Flow

 流量上昇期を想定したRun 2-7の右岸の河岸侵食幅は10mであった。一方、流量減衰期を想定したRun 2-8の侵食幅15mであり、上昇期に比べ侵食しやすい結果となった(図-12)。Run 2-8の低水路河床高はRun 2-7より高いことから、減衰期に生じる埋め戻りによ

侵食幅を示している。これによると、洪水継続時間は河岸侵食幅に影響を与えるが、3時間以降の侵食幅はあまり変わらない結果となった。これは、左岸側の砂州が3時間程度で概ね平衡に至り、流れがそれ以上右岸側へ寄らなくなるためである。

図-13 土砂供給がある場合の解析結果(Run 2-3,Run 2-4)1)

図-14 土砂供給がない場合の解析結果(Run 2-9,Run 2-10)1)

14 寒地土木研究所月報 №789 2019年2月

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り、砂州の形成が助長され、河岸侵食zが促進したと推測される。 Run 2-3、Run 2-4の解析結果は、上流端に動的平衡流砂量を与えた場合であり、どのケースでも橋脚付近の河床が上昇しており(図-13)、平成22年洪水時に生じた河床洗掘と中央橋脚の被災を説明できない。そこで、砂防施設の影響で土砂供給が殆どなかった場合を想定したのが、Run 2-9とRun 2-10である(図-

14)。Run 2-9(流量200m3/s・給砂無し)の結果を見ると、橋脚周辺の河床が低下し、河床洗掘によって橋脚が被災した平成22年洪水と類似した結果となった。一方、Run 2-10(300m3/s・給砂無し)の場合、橋脚上流側で発生した河岸侵食によって土砂供給がなされるため、河床低下は起こらなかった。ただし、侵食幅は10mと土砂供給がある場合の20mに比べ減少する結果となった。

6.考察

6.1 土砂供給と河岸侵食の関係

 Eke et al.7)の蛇行研究によると、蛇行にはbank pull とbar pushの2つのパターンがある。bank pullは河岸が先に侵食され、これに付随するように内岸が堆積する蛇行形態であり、bar pushは固定砂州の成長に伴い、流れが外岸へ押し出され、蛇行が発達する現象である。小林橋や九線橋の事例は、土砂供給の増加により、固定砂州の幅や波高が増大し8)、河岸侵食がさらに進むbar push型の蛇行と捉えることができる。 固定砂州ではなく、交互砂州を対象とした研究でも、河床が上昇し河床縦断形状が凹型になるとき、波長の短い砂州が形成されることが指摘されている9)。波長の短い砂州により、側方へ向かう強い蛇行流が生じれば、河岸侵食が進行しやすくなる可能性は高いと推察される。また、Mizugaki et al. が行った複列砂州河道を対象とした実験10)においても、今回の検討と同様に、土砂供給の増加に伴い、河岸侵食幅が増加することが示されている10)。ただし、その影響は上流域に限定されるようである10)。これは、土砂供給の影響が下流に伝搬するのに時間がかかること、伝搬している間にその影響が拡散してしまうためと推定される。

6.2 流砂系シナリオを考慮した河道計画

 河道計画においては、河床変動計算などの境界条件(上流端から与える土砂量)は平衡給砂量を与える場合がほとんどであり、治山・砂防施設の有無・効果を

考慮した土砂量を想定することは少ない。この背景には、山地上流域からの土砂生産・流出と下流河道での土砂輸送の実態把握が困難であることが挙げられる。 流砂系の土砂動態を把握するためには、地形・地質や降雨分布といった山地上流域の土砂生産に大きく関わる要素のみならず、下流河道への土砂輸送過程においてダムなどの横断構造物による水・土砂輸送の不連続についても考慮する必要がある。また、扇状地河川では、上流からの土砂が氾濫堆積しながら、蛇行して河岸侵食による土砂供給もあり得る。砂防ダムによる土砂の捕捉は、氾濫堆積を減じる可能性はあるが、水はそのまま通過するため、下流での扇状地堆積物(粗粒な砂礫)を侵食する可能性がある。 上述のように複雑な流砂系の影響を河道計画へ反映するためには、気候変動のCO2排出シナリオのように、山地上流部から下流河川への確率的な土砂生産・流出を、流砂系シナリオとして設定するのも一つの方法である。本研究の九線橋の検討事例は、流砂系シナリオの重要性を示す良い例となっている。土砂供給が多ければ橋台が被災し、少なければ橋脚が被災する。今後は、様々な流砂系シナリオを設定し、事前にその対策を講じる必要がある。 7.結論

 本研究では、平成28年8月北海道豪雨で橋梁被害を受けた、小林川(小林橋)・辺別川(九線橋)において、洪水前後の流路変動を再現する数値計算を実施し、供給土砂が河岸侵食や砂州・蛇行に与える影響を分析した。この結果、土砂の供給量が過大な場合、砂州の発達に伴って流れが外岸へ押し出され、大規模な河岸侵食や橋梁被災へと至る可能性が示された。 最新の気候変動に関する研究によると、将来的に土砂生産が増大する可能性が指摘されている11)。また、平成30年9月6日の北海道胆振東部地震では、大規模な斜面崩壊が広範囲に発生し、土砂生産の増大と河床上昇が懸念されている。河床上昇は、流下能力の減少を招くだけでなく、河岸侵食のリスクを増加させる可能性がある。様々な土砂生産シナリオを想定した河道計画の見直しが必要であろう。

謝辞:本研究の一部は、北海道大学の清水康行教授、泉典洋教授との共同研究「流砂系シナリオの変化と砂州と蛇行の挙動」(河川整備基金)において実施したものです。両先生には、河床変動解析の解釈に関して

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海道豪雨土木学会調査団報告書.6) 桑村貴志,河合崇,永多朋紀:音更川における堤

防流出の原因分析,国土交通省国土技術研究会,2012.

7) Eke, E., Parker, G. and Shimizu, Y. : Numerical modeling of erosional and depositional bank processes in migrating river bends with self-formed width: Morphodynamics of bar push and bank pull, J. Geophys. Res. Earth Surf., 119, 2014, doi.org/10.1002/2013JF003020.

8) Inoue, T. , Parker , G. , and Stark, C. P. : Morphodynamics of a bedrock-alluvial meander bend that incises as it migrates outward: approximate solution of permanent form. Earth Surf. Process. Landforms, 2016, doi.org/10.1002/esp.4094.

9) 高畑知明,泉典洋:河床上昇・低下に伴う河床勾配の時間変化を考慮した砂州の線形安定解析,土木学会論文集 A2,67(2),2011,doi.org/10.2208/

  jscejam.67.I_661.10)Mizugaki, S., Inoue, T. and Yamaguchi, S. :

EXPERIMENT ON BANK EROSION AND SEDIMENTATION IN ALLUVIAL FAN USING MIXED-SIZE AND COLOR-CODED PLASTIC MEDIA, IAHR-APD, Yogyakarta, Indonesia, 2018.

11)川越清樹,小野圭介,青木春奈:気候変動に伴う斜面崩壊に起因した土砂生産量の推計,河川技術論文集,16,2010.

ご意見を頂きました。また、橋梁の被災状況に関しては、専門家である国土技術政策総合研究所の西田秀明様、西藤淳様、当研究所の西弘明様、佐藤京様にご協力頂きました。ここに記して感謝の意を表します。

参考文献

1) 井上卓也,サムナー圭希,加藤一夫,六浦和明,矢部浩規,清水康行:2016年北海道豪雨における九線橋被災メカニズムの調査と解析,河川技術論文集,23,2017.

2) Nelson, J. M., Shimizu, Y., Abe, T., Asahi, K., Gamou, M., Inoue, T., Kakinuma, T., Kawamura, S., Kimura, I., Kyuka, K., McDonald, R. R., Nabi, M., Nakatsugawa, M., Simoes, F. R., Takebayashi, H. and Watanabe, Y. : The International River Interface Cooperative: Public Domain Flow and Morphodynamics Software for Education and Applications, Advances in Water Resources, 93A, 2016, doi:10.1016/j.advwatres.2015.09.017.

3) 岩崎理樹,Gary Parker,清水康行:自由砂州の影響を受けるトレーサーの移動分散に関する数値解析,土木学会論文集B1,71(4),2015,doi.org/10.2208/jscejhe.71.I_877.

4) 芦田和男,江頭新治,劉炳義:蛇行流路における流砂の分級および河床変動に関する数値解析,水工学論文集,35,1991,doi.org/10.2208/prohe.

  35.383.5) 土木学会・北海道豪雨災害調査団,2016年8月北

井上 卓也INOUE Takuya

寒地土木研究所寒地水圏研究グループ寒地河川チーム主任研究員博士(工学)技術士(建設)

前田 俊一MAEDA Shunichi

寒地土木研究所寒地水圏研究グループ上席研究員(特命事項担当)技術士(建設・総合技術監理)

水垣 滋MIZUGAKI Shigeru

寒地土木研究所寒地水圏研究グループ水環境保全チーム主任研究員博士(農学)

矢部 浩規YABE Hiroki

寒地土木研究所寒地水圏研究グループ寒地河川チーム上席研究員博士(工学)

16 寒地土木研究所月報 №789 2019年2月