基本行動の大切さ

ソレキア株式会社　首都圏第三インフラサービス統括部　　第二カストマサービス部

山 岡　 圭 吾

私は、主に金融系端末やＡＴＭ等の保守を担

当しております。これはＣＥとして10年ほど経

験を積み、担当機器の障害対応についてもかな

り自信がついてきた時期の話になります。

その日、Ａ銀行からＡＴＭの障害コールがあ

りました。内容は、「補充しようとした紙幣が

全てリジェクトされる」というものです。具体

的なエラーコード等は不明でしたが、念のため

想定される部品の配送を手配し、急いでお客様

のもとに向かいました。

現地に到着し、担当者様に詳しい話をお伺い

したところ、現金精査時にお金を回収するとこ

ろまではうまくいったが、その後の補充時に紙

幣が全てリジェクトされてしまうとのこと。実

際に補充操作をしていただいたところ、確かに

全てリジェクトされてエラーが発生し、停止す

るのが確認できました。これまでの経験から、

「リジェクトが多い」という現象であれば鑑別

ユニットや搬送系の清掃等で復旧できる見込み

がありますが、「全てリジェクト」の場合は、

補充カセットの金種設定に問題があるか、そう

でなければ、鑑別ユニットが完全に故障してい

るかのどちらかであると考えました。

まず補充カセットの設定確認を行い、次に鑑

別ユニットの点検・清掃を行いました。補充カ

セットの設定に問題はありませんでしたが、念

のため別のカセットを使用していただき、再度

補充操作をご依頼しました。「もし、これで復

旧しないようであれば、鑑別ユニットの交換が

必要だな…」と考えながら動作を見守りました

が、結果、現象は変わりませんでした。

この時点で自分の中では、鑑別ユニットの交

換がほぼ決定していましたが、念のため、該当

のエラーで他に原因が考えられないかコールセ

ンターに問合せをあげたところ、「旧紙幣が混

入していないか確認してほしい」との回答が

返ってきました。

なるほど、確かに補充する紙幣に旧紙幣が混

入していたらリジェクトされるだろう。ＡＴＭ

の新券対応時には、補充時の旧券の扱いについ

てご説明した記憶もある。しかし、新券発行か

らかなりの年月（７年）が経過していて、もう

世の中では旧紙幣はほとんど流通していない。

１枚２枚じゃなく全部リジェクトされるのだか

ら原因とは関係ないのでは…などとコールセン

ターの回答に疑問を抱きつつも、「お手数です

が、旧紙幣が混入していないか確認していただ

けますか？」と担当者様にご依頼したところ、

快くご了承いただけました。ちょうどＡＴＭの

利用顧客の少ない時間帯であったのが、不幸中

の幸いであったと思います。

担当者様と一緒に紙幣の確認を始めました

が、この確認作業、千円札は肖像が夏目漱石と

野口英世で違っていて見分けがつきやすいので

すが、一万円札は新旧ともに福沢諭吉であり見

分けがつきにくい。微妙に模様の違う紙幣を見

分けるために数百枚ある紙幣を全て同じ向きに

揃え直し、混入した紙幣がないか１枚１枚探し

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ましたが、結局１枚も発見されませんでした。

あとはハード交換で対応するしかないと判断し

た私は、担当者様にさらに作業時間がかかるこ

とをお詫びし、鑑別ユニットの交換を行いまし

た。

交換が終了したのは、入店からすでに１時間

半が経過した頃でした。交換後、動作確認のた

め再度補充操作をご依頼しましたが、結果は現

象変わらず。一向に改善されない現象と、担当

者様が不信感を抱き始めている雰囲気により、

「なぜだ」と少しパニックを起こしかけました

が、なんとか冷静さを取り戻しました。

さらに動作を詳しく調べると、どうやら千円

札は正常に補充ができますが、一万円札のみ

100％リジェクトすることが分かりました。し

かし、一向に原因が分かりません。現象が改善

しない以上、さらに他の部品を交換するしか手

段はありませんが、鑑別ユニット以外のハード

障害で、このような現象が発生する事例は聞い

たことがありません。状況をコールセンターに

報告し、過去の事例で他に被疑部品がないかの

問合せをあげましたが、過去事例では、すべて

旧紙幣の除去で復旧しているとのこと。旧紙幣

の混入がないことは確認済みですが、何か見落

としている気がします。「まさか…」と思いな

がら、もう一度紙幣の確認をすることにしまし

た。

「あ！」なんということでしょう！

「あ！」と、担当者様も気づかれました。

旧紙幣の混入どころではありません。数百枚

ある一万円札がすべて旧紙幣だったのです。旧

紙幣の中から旧紙幣を探そうとしていたのだか

ら、見つかるはずもありませんでした。そもそ

も、新旧の一万円札には模様以外に決定的な違

いがありました。新一万円札にはホログラムが

ついており、一目瞭然だったのです。なぜこん

な簡単なことに気づかなかったのでしょうか？

その後、紙幣を全て新紙幣と交換して補充動

作を行っていただいたところ、なんの問題もな

く正常終了しました。装置が復旧したことで担

当者様もほっとした様子で「こんなことで呼ん

でしまって申し訳ありません」とおっしゃって

下さいましたが、申し訳ないのはこちらの方で

す。こんな単純な切り分けミスで、いったいど

れだけの時間を無駄にしたのでしょうか。障害

対応に自信がある、などと思っていた私は、心

底恥ずかしくなりました。

報告書を書きながら、なぜこんなことが起き

たのかを考えました。単純なスキル不足でしょ

うか？いいえ、旧紙幣を補充した場合の動作も、

新旧一万円の見分け方も知識としては持ってい

ました。実際に数百枚の紙幣を確認して、それ

でも旧紙幣だと気づかなかったのは思い込みと

慢心によるものです。この現象の場合の原因は

これだ、今回の障害には旧紙幣は関係ない、補

充する紙幣は新紙幣のはずだ、模様の違う紙幣

を探せばいい…。まっさらな気持ちで障害対応

に当たっていれば、「あ、これは旧紙幣ですね」

の一言により５分で解決できていたはずです。

もし、ＡＴＭ利用者の混雑する時間帯であれ

ば、業務影響によりお客様の信頼を大きく失っ

ていたでしょう。いえ、たとえ業務影響がなく

とも今回の対応により多少なりとも信頼を失っ

てしまったと思います。

日々の確実な作業の積み重ねが、お客様から

の信頼を獲得できる方法だと、再認識させてく

れたこの出来事を忘れず、ひとつひとつの行動・

確認を確実に、そしてＣＥとしての基本行動を

守って作業を行っていきます。

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