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Agilent 差動デバイスの高度な測定と モデリング White Paper

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Agilent差動デバイスの高度な測定とモデリング

White Paper

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この記事では、非線形増幅器の測定に真の差動信号が必要かどうかという疑問に答えます。アクティブ差動回路の非線形特性の測定では、シングルエンド非線形応答を測定して、差動応答を計算すれば十分な場合が多くあります。この記事では、シングルエンド法で非線形差動回路を正しく測定できる理由を説明し、差動回路のテストのトポロジーに関する注意事項を示し、理解を深めるための実験結果とシミュレーション結果を紹介します。

多くの無線デバイスのトポロジーは、従来のシングルエンドから、平衡(差動)入力ドライブに移行しています。過去の研究から、線形領域で動作しているデバイスでは、平衡デバイスの個々のシングルエンド応答を測定して、結果を数学的に合成することにより、差動(平衡)応答を得られることがわかっています[1]。ここで線形領域とは、信号が十分小さくて、デバイスの動作が信号レベルに依存しない領域です。

しかし、多くのアクティブ・デバイスは、このモデルには従いません。例えば、増幅器のバイアス電流は大信号と小信号で異なる場合があります。このようなデバイスは、正しい信号でドライブする必要があります。真の差動信号を実現するには、ドライブ信号を同じ振幅と180度の位相差でDUTの2つの入力ポート(+と-)に印加する必要があります。過去の研究から、真の差動およびコモン・モード・ドライブ(トゥルーモード・ドライブ)を使用すると、線形システムでは校正残差の積み重ねによって不確かさが減少する場合があることが示されています [2]。テスト機器の場合は、ハイブリッドを使用してこのような信号を作成することもできますが、ハイブリッド・ポートから回路接続までの平衡の制御と維持が困難な場合があります。線形回路の場合は、この不平衡は補正できますが [3]、非線形領域で動作している回路の場合は、真の平衡ドライブが必要になる可能性があります。インサーキット・アプリケーションの場合は、バラン(平衡/不平衡変換回路)がしばしば用いられます。バランとデバイス間の接続により位相オフセットが生じるのを防ぐために、バランはデバイスの近くに配置されます。ただし、バランを使うとコモン・モード信号に対するデバイスの応答を測定できず、コモン・モードから差動モードへの変換項の測定もできません。回路の非線形応答を正確に求めるには、被試験デバイス(増幅器)の終端条件を変更することなく、CW/変調信号のシングルエンド、差動、コモン・モード信号をドライブできる、テスト・システムを開発する必要があります。このようなシステムは、Microwave Symposium Digest [4]で初めて提唱され、報告されたもので、さまざまなドライブ信号を使って差動デバイスの利得を測定する能力を持っています。

概要

はじめに

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コモン・モード/差動ドライブ信号の作成に関する問題は、新しい信号源アーキテクチャによって解決されました。これにより、2つのCWまたは変調信号を作成でき、信号源出力の間の振幅/位相関係を任意に制御できます。出力は、非常に小さな分解能(振幅制御では0.05 dB以下、位相制御では0.1°以下)で電子制御できます。この後の「信号源の校正と測定の実行」のセクションでは、このような精密制御が実際のアクティブ・デバイス特性の測定に不可欠であることを示します。

図1に、新しい信号源構成のブロック図を示します。この最初のデモ・システムは、ベクトル変調機能を持つ3つの信号発生器(ESG)を使用しています。この例では、Agilent E4438BモデルのESGを使用していますが、2つのESGには変更が加えられています。このモデルのESGは、図1の下のESGに示されているように、シンセサイザ(CW)信号出力の一部をコヒーレント・キャリアとしてリア・パネルに出力できます。残りの2つのESGは、内蔵信号源をバイパスして、ベクトル変調器の前で信号を入力できるように変更されています。中央のESGへの入力は下のESGからのコヒーレント・キャリアです。この入力が中央のESGのベクトル変調器を通る間に、DC制御を使って出力信号の位相(必要に応じて振幅も)が変更されます。この出力信号は下のESGのベクトル出力とコヒーレントであり、位相を制御できます。この信号は図1の上にある3番目のESGに送られ、ここでもベクトル出力までの間の内蔵信号源をバイパスしています。変調信号の場合は、任意波形発生器(ARB)から下と上の2つのESGに信号が送られるので、2つの出力信号に対して同じ変調が行われますが、キャリア間の位相制御が可能です。2番目のESGの出力信号の位相は、出力信号の振幅が等しく、位相差が180°になるように制御されています。実際には、最初のESGの内蔵任意波形発生器を使用して、最初と3番目のESGをドライブしています。

図1 平衡変調信号を発生させるためのブロック図

差動ドライブ信号の作成

変調I/Q入力

ベクトル出力2

内蔵シンセサイザをバイパスする新しい入力

内蔵シンセサイザをバイパスする新しい入力

キャリアの位相制御のためのDC I/Q入力

位相制御されたコヒーレント・キャリア出力

差動出力

波形発生器コヒーレント・キャリア出力

信号源

ベクトル出力1

変調I/Q入力

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実際の測定では、平衡ドライブ信号をプリント基板のトレースに印加する必要があります。CW測定の場合は、トゥルーモード信号はベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)を使用して2ステップで校正できます。ステップ1では、特性が既知のパワー・ディバイダを使ってVNAに基準信号を供給することにより、2つの入力ライン間の位相/振幅オフセットを補正します。ステップ2では、差動出力を信号源に接続し、2つの信号源出力間の振幅/位相差を評価します。この評価は、パワー・レベルおよび周波数毎に行う必要があります。

図2は、差動DUTに対するCW測定システムです。VNAは、出力ポート間のパワーと位相の差を測定できます。ミックスド・モードSパラメータを測定するには、最初に差動ドライブ信号でDUTをドライブして、結果の差動およびコモン・モード出力信号を測定します。次に、コモン・モード入力信号を印加して、コモン・モードおよび差動出力を測定します。これを複数のパワー・レベルで実行することにより、DUTの非線形応答を測定できます。ここには示していませんが、入力基準信号がVNAの基準チャネルに接続されています。この構成で測定されるのは順方向伝送(S21)項だけですが、多くの非線形測定ではこれで十分です。

これと同じシステムを使用して、増幅器のシングルエンド応答を測定できます。このためには、最初に1つの入力を終端し、出力を測定します。次にもう1つの入力を終端し、出力を測定します。

図2 トゥルーモード信号源とVNAを使用した差動増幅器の測定

信号源の校正と測定

4

VNAを同調レシーバ・モードで使用してB1とB2を測定

位相コヒーレント信号源

振幅制御 位相制御

振幅制御

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このシステムでは、出力信号の位相がパワー・レベルによって変化する可能性があるので、パワー・レベル毎に各信号の位相を校正する必要があります。この校正により、差動およびコモン・モード信号の位相誤差は1°未満に減少しました。信号発生器の出力は直接DUTに印加しました。図3に利得を示します。差動利得(SDD21)、コモン・モード利得(SCC21)、コモン・モード/差動変換(SDC21)、差動/コモン・モード変換(SCD21)が示されています。この結果で興味深いのは、シングルエンド・ミックスド・モード測定(各画面のライト・グレーの線)が低いパワー・レベルでトゥルーモード測定と一致しないことです。低いパワー・レベルでは増幅器は完全に線形なので、結果は完全に一致するはずです。しかし、差動ドライブの結果は、特にコモン・モード入力/差動モード出力(右上の画面)で、大きな違いがあり、シングルエンド・ドライブの場合よりもはるかに大きな値になっています。この誤差は、テスト・システムの不完全な信号源整合が、被試験増幅器の入力整合と相互作用した結果であることがわかりました。この場合、完全に整合していない増幅器からの反射が、それぞれの信号源出力で再反射され、真のコモン・モード信号を歪ませて、わずかな差動信号が生じていました。この増幅器ではコモン・モード信号が20 dB以上抑圧され、差動モード信号が20 dB増幅されるので、誤差によって入力に差動モード信号が生じると、SDC21項に大きな誤差が現れます。

図3 非線形増幅器のミックスド・モード測定とトゥルーモード測定:最初のテスト

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図4は、信号源ドライブ入力にアッテネータ(パッド)を追加して、整合を35 dB以上改善した場合の結果です。トゥルーモード・ドライブとミックスド・モード・ドライブの低パワー応答は、4つの差動利得パラメータすべてで一致しています。ただし、SDC21(コモン・モード/差動モード変換)には異常な動作が見られます。信号源ドライブの変化に応じて、応答に不連続の急激な変化が発生しています。この現象の原因は、ドライブ信号の位相誤差に起因するのではないかと考えました。元のドライブ信号は、±0.5 dBの確度で校正されています。これは、内蔵信号源が標準ドライブ構成で1°ステップで位相を変更できるので便宜上選択したものです。これで十分のようですが、コモン・モード信号の1°の位相誤差から生じる差動モードの誤差信号は、-35 dBという望ましくない差動入力信号となります。これは、20log(tan(1°))で計算できます。これは非常に小さい信号のように思われますが、このデバイスではこれが18 dB増幅され、コモン・モード信号が約20 dB減衰される結果、出力信号は38 dB増加することになります。このため、測定対象の信号よりも誤差信号の方が実際には大きな出力になります。

図4 非線形増幅器のミックスド・モード測定とトゥルーモード測定:パッドを使って信号源整合を改善した結果

この結果を検証するために、校正アルゴリズムを変更して、ドライブ信号の位相確度を0.1度にしました。図5にこの改善の結果を示します。補正ポイントに対応するステップの大きさがはるかに小さくなっています。ここでは、コモン・モード抑圧比が大きく、差動モード利得が大きい別の増幅器を使用しました。この場合でも、0.1°の誤差の影響がSDC21のトレースにわずかに見られます。それでも、このシステムは、きわめて正確な真の差動モード、コモン・モード、シングルエンド信号を供給できます。

図5で真に注目すべきことは、左上の差動モード利得SDD21が、純粋な差動モード信号でドライブした場合でも、シングルエンド測定のミックスド・モード・パラメータから計算した場合でも、正確に一致していることです。この図から、この差動増幅器では、圧縮領域で完全に非線形動作しているにも関わらず、真の差動モード信号を使ってテストする必要がないことがわかります。逆に、増幅器をコモン・モード信号でドライブした場合は、真のコモン・モード・ドライブが非線形動作を示していなくても、非線形動作はかなり変動します。1つ注意すべきことは、このような比較を正確に行うには、パワーに関する一貫した基準が必要なことです。ここでは、小さな出力信号が一定のときに同じ入力ドライブで信号を比較しています。差動モードでドライブされる信号では、X軸(パワー軸)を変更する必要があります。これは、信号源のドライブ・パワー設定を同じにしたときに、差動ドライブ信号がシングルエンド・ドライブ信号の2倍の大きさ(6 dB上)であることに対応するためです。このために、差動ドライブのプロットはシングルエンド・ドライブのプロットよりも6 dB上から始まっています。同じ信号源の場合は、SDD21の計算に使用するシングルエンド・ドライブの入力パワーは、真の差動信号の対応する入力値よりも6 dB小さくなります。

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SDC21やSCD21などのクロス・モード項の場合は、各モードに対して定義されている適切なインピーダンスを考慮するための調整も必要です。一般的に、(S21伝達特性の)これらの項は以下のように表されます。

(1)

また、(1)より、aとbの値は以下のように求められます。

(2)

ここで、ScdとSdcの場合は、インピーダンス項は打ち消し合うことがわかります。VNAは順方向および逆方向電圧(V+とV-)を測定するので、トゥルーモード・パラメータの値は通常の実測の電圧波から以下のように調整する必要があります。

(3)

また、(1)から、差動モードとコモン・モードのインピーダンスの比は4:1なので、補正係数は以下のようになります。

(4)

この場合、電圧は、ネットワーク・アナライザ・チャネルb、a、rの実測値です。したがって、パワー(X)軸は、Sdcでは-3 dB、Scdでは+3 dBで再正規化する必要があります。

図5 非線形増幅器のミックスド・モード測定とトゥルーモード測定:位相校正の改善後

Sdc = bdac、 Scd = bc

ad

Sdc = 12

•Vd out

Vc in、 Scd = 2 •

Vc out

Vd in

Sdc =√Zc

√Zd•

V-

V+、 V- = Vd out , V+ = Vc in

Scd =√Zd

√Zc•

V-

V+、 V- = Vc out , V+ = Vd in

ac =Vc

+

√Zc、 bc =

Vc-

√Zc、 ad =

Vd+

√Zd、 bd =

Vd-

√Zd

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非線形デバイスに対するその他の測定

前記のテストを、リミット型の別の増幅器に対して実行した結果を図6に示します[5]。この場合は、結果は図5と大きく異なっています。特に、差動利得圧縮がシングルエンド・ドライブと真の差動ドライブの間で一致していません。さらに奇妙なことに、真のコモン・モード信号でドライブすると、シングルエンド信号でドライブしてミックスド・モードを計算した場合よりも、コモン・モード利得がはるかに大きな圧縮を示しています。この増幅器の動作をモデリングする回路トポロジーと、図5で測定したものを、この後に示します。

図6 リミット型非線形増幅器のミックスド・モード測定とトゥルーモード測定:差動利得SDD21がトゥルーモード信号で測定した場合とシングルエンド・ミックスド・モード測定の場合とで異なります。

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非線形動作を予測する回路モデル

シングルエンド信号は、図7に示すように、差動信号とコモン・モード信号の重ね合わせとして考えることができます。この信号を、差動モード利得とコモン・モード抑圧を示す増幅器に印加する場合を考えます。これを図8に示します。この場合、シングルエンド信号を印加しても、出力は主に差動信号になります。図9に示すのはデュアル・ステージ増幅器であり、出力ステージにもコモン・モード抑圧があるので、出力信号はほぼ純粋な差動信号です。

図5でテストした増幅器の非線形動作は、図9の増幅器のモデルで説明できます。ここでは、非線形動作は、大きなコモン・モード抑圧比を持つ差動入力ステージの後の、出力ステージで発生します。増幅器の出力ステージは、出力波形の正の部分をクリップします。このような場合では、シングルエンド入力に対する第1ステージの出力信号は、トゥルーモード差動ドライブの場合とほぼ同じです。圧縮が発生する最終ステージへの入力をこの信号がドライブする場合は、出力信号の圧縮動作は、図10に示すように、真の差動モード信号でドライブした場合と同じになります。また、興味深いことに、この増幅器は圧縮領域に入るとより多くのコモン・モード信号を発生します。これは出力での非対称のクリッピングに起因します。一般的に、このようなクリッピングは最適化されていない増幅器の特徴です。バイアス・レベルを変更すると増幅器の圧縮ポイントが上がる可能性があるからです。図11は同様の増幅器を示していますが、この場合は、出力ステージのクリッピングが対称的なので、出力にコモン・モード信号は生じません。シングルエンド・ドライブでも差動ドライブでも同じ結果が生じることに注意してください。ただし、ミックスド・モード・パラメータSDC21をシングルエンド・ドライブから計算した場合は、やはりいくらかの圧縮が見られます。これに対して、図12は大きなコモン・モード信号で増幅器をドライブした結果を示します。コモン・モード信号は抑圧されるため、出力ステージをドライブする信号はわずかしか残らず、圧縮は生じません。ここでは、増幅器を多少興味深いものにするために、第1段にいくらかのモード変換(コモン・モードから差動モードへの利得)を加えています。

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次に取り上げるモデルは、コモン・モード抑圧が起きる前の入力ステージに圧縮があり、出力ステージは差動で圧縮がわずかしかないものです。このようなモデルを図13に示します。これはシングルエンド信号により、第1ステージに圧縮を起こす出力差動レベルでドライブされています。この例では、入力ステージは2つの別々の増幅器によってモデリングされていますが、実際には、これは差動利得ステージの入力にある保護ダイオードを表しています。次に、図14のように、同じ増幅器モデルをトゥルーモード差動信号により同じ差動出力レベルにドライブした場合を考えます。この場合、同じ公称出力電圧を得るには、各入力のドライブはシングルエンド入力の場合の半分になり、図13と比べると圧縮が見られなくなります。実際には、出力を基準にすると、同じ利得圧縮に対して、トゥルーモード差動ドライブの場合は出力パワーが3 dB高くなると予想されます。これは図6の左上部分に示された結果とよく一致します。最後に、真のコモン・モード・ドライブの場合は、大きな圧縮が生じることは明らかです。前の例で、回路トポロジーによってコモン・モード信号が圧縮が起きるより前に抑圧されていたのとは対照的です。このトポロジーでは、コモン・モード利得に大きな圧縮が生じることが予想されます。これは図5のSCC21の結果とは全く対照的ですが、図6の右下のプロットとはよく一致しています。

図7 シングルエンド信号は差動信号とコモン・モード信号から構成されていると考えることができます。

図8 シングルエンド信号を差動DUTに印加すると、出力に大きな差動信号が現れます。

+ポート

-ポート

1 Vシングルエンド 1 V差動 1/2 Vコモン

差動入力 コモン・モード入力差動出力

コモン・モード出力

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図9 2ステージの増幅器にシングルエンド信号を入力すると、出力はほぼ純粋な差動信号になります。

図10 2ステージの増幅器をシングルエンド信号でドライブし、出力ステージの圧縮により出力信号の正の半分がクリップされる場合は、このクリッピングにより、圧縮が増えるとコモン・モード信号が増えます。

図11 出力ステージが出力信号を対称的にクリップする場合は、コモン・モード信号は抑圧されます。

差動コモン・モード

差動

コモン・モード

差動コモン・モード

差動

コモン・モード

差動コモン・モード

差動

コモン・モード

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図12 増幅器を真のコモン・モード信号でドライブした場合は、第1ステージでコモン・モードが抑圧されるため、出力ステージをドライブする信号はわずかであり、圧縮は生じません。

図13 この増幅器の第1ステージにはコモン・モード抑圧がなく、第2ステージにはコモン・モード抑圧があります。ここでは入力ステージは正の半サイクルを圧縮します。与えられた公称差動出力電圧に対してシングルエンド信号に圧縮が生じることに注意してください。

図14 リミット型増幅器を真の差動モード信号でドライブした場合は、圧縮は生じません。

差動

コモン・モード

差動コモン・モード コモン・モード

差動コモン・モード入力

差動

コモン・モード

コモン・モード

差動

コモン・モード入力

差動

コモン・モード

コモン・モード

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回路ベース・シミュレーションによる結果の確認

増幅器の動作点に対する影響を評価するために、高周波差動増幅器回路のモデルを作成し、さまざまな入力ドライブ信号で、回路トポロジーを変化させて評価しました。基本回路を図15に示します。2ステージの差動利得の後に低インピーダンスの出力ドライバがある増幅器です。この回路に対して異なる信号でシミュレーションを行いました。1つの例を図16の4つのグラフに示します。上の2つは真の差動ドライブであり、下の2つはシングルエンド・ドライブです。左のプロットは+/-入力への入力であり、出力は最初の差動ステージの出力(ハイパワー・ステージの前)です。この図から、このデバイスでは、大きな歪みと圧縮があるにもかかわらず、第1ステージの出力は入力ドライブに関わらずほぼ同じであることがわかります。この場合、入力回路は入力の差動電圧にのみ感度が高く、コモン・モード電圧には感度は高くありません。したがって、明らかに歪みは主に出力によるものです。差動電圧入力はどちらの場合も同じです。もう1つの実験として、図17のように入力の両端に1個のダイオードを追加して、同じ実験を繰り返しました。結果を図18に示します。中央のグラフが差動入力電圧、すなわちVin+とVin-の差を示します。

ここでは明らかに、入力波形が入力の非線形性によって歪んでいます。注目すべきこととして、入力に大きな非線形性があるにもかかわらず、第1ステージの出力はトゥルーモード・ドライブでもシングルエンド・ドライブでも同じです。差動電圧、すなわち+入力と-入力の差を取ることにより、どちらのドライブでも入力における差動電圧は同じであり、出力の非線形性は差動信号に対してのみ感度が高いことがわかります(増幅器の第1ステージのコモン・モード抑圧のために、コモン・モード信号により非線形性が生じません)。3番目の実験として、各入力とグランドとの間にダイオード・リミッタを接続しました。入力電圧ドライブを上げて、シングルエンド入力の場合にダイオードがオンになるようにし、差動信号の場合は一定の出力を維持するためにシングルエンドの場合の半分の値を各入力に対して使用しました。結果を図20に示します。中央の差動出力のグラフは、トゥルーモードとシングルエンドの差動電圧の比較に便利なように重ね合わせてあります。ここでようやく出力波形に差がでています。これは、シングルエンド信号に圧縮があり、トゥルーモード信号に圧縮がないからです。これらの実験から、非線形差動回路のテストにトゥルーモード・ドライブが必要になる条件をさらに絞り込むことができます。

図15 シミュレーションで使用したGilbert Cell差動増幅器

差動モードの入力と出力を持つGC増幅器

RF入力

RF出力

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図16 トゥルーモード(上)とシングルエンド(下)の入力(左)と出力(右)

図17 入力の両端にリミッタ・ダイオードを接続した非線形差動増幅器の回路図

RF入力

RF出力

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図18 入力の両端にダイオードを接続した増幅器の入力(左)、差動入力(中央)、出力(右)。上がトゥルーモード、下がシングルエンド。

図19 入力とグランドの間にダイオードを接続した差動増幅器

差動モードの入力と出力を持つGC増幅器

RF入力

RF出力

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変調(2トーン)測定

図17と図19の作成に使用したものと同じ回路を使用して、2トーン信号源を入力し、トゥルーモード差動ドライブとシングルモード・ドライブを行いました。図21と図22に、図17と図19の回路の2トーン応答を示します。ここでは出力波形に多少の違いが見られます。入力信号は、差動出力パワーが等しくなるように調整されています。図19の回路では、図21(中央)に示すように、差動入力電圧が明らかに異なっています。これはシングルエンド信号のクリッピングのためです。図23に2トーンのスペクトラムを示します。シングルエンド・ドライブでは、同じ出力信号に対して約1 dB異なるTOIが生じていることがわかります(この場合、シングルエンド・ドライブ信号の入力レベルは、メイン・トーンの出力レベルがトゥルーモード・ドライブ信号の場合と同じになるように上げられています)。入力とグランドの間にダイオードがある場合を除いて、2トーン応答はトゥルーモード・ドライブとシングルエンド・ドライブで一致しています。このシミュレーションの結果から、通常の差動増幅器、すなわち圧縮が生じるステージより前のステージにコモン・モード抑圧がある増幅器では、2トーンまたは変調歪みの結果はシングルエンド・ドライブでも真の差動モード・ドライブでも同じになることがわかります。このシミュレーション結果は、Microwave Symposium Digest [4]で報告されている測定結果を確認するものです。

図20 入力とグランドの間にダイオードを接続した増幅器のシングルエンド入力(左)、差動入力(中央)、出力(右)。中央のプロットは、トゥルーモード(高いピーク)とシングルエンド(低いピーク)の差動入力電圧を重ね合わせたもの。

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図21 入力の両端にダイオードを接続して2トーンでドライブした増幅器のシングルエンド入力(左)、差動入力(中央)、出力(右)。上はトゥルーモード、下はシングルエンド。出力が同じであることに注意。

図22 入力とグランドの間にダイオードを接続して2トーンでドライブした増幅器の入力(左)、差動入力(中央)、出力(右)。上はトゥルーモード、下はシングルエンド。

図23 入力とグランドの間にダイオードを接続して2トーンでドライブした増幅器のTOIスペクトラム。左はトゥルーモード、右はシングルエンド。

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この記事では、さまざまな構成の差動増幅器に対するトゥルーモードの差動ドライブとミックスド・モードのシングルエンド・ドライブの新しい解析の結果を示しました。増幅器の非線形性が差動ステージの後にある場合、あるいは入力の非線形性が差動的性質を持つ場合は、シングルエンド・ドライブとトゥルーモード・ドライブの結果の間に実質的な違いは存在しません。増幅器の入力が非線形でかつ差動でなく、非線形性が入力とグランドの間にある場合のみ、シングルエンド・ドライブとトゥルーモード・ドライブの間に違いが見られました。これはCWと変調信号(2トーン)のどちらの信号に対しても成り立ちました。違いがあった場合でも、出力に対して正規化した場合は、その差は-23 dBcのTOI信号で1 dBの差でした。これらの結果から、差動増幅器の非線形特性は、シングルエンド測定だけから求めることができます。

重要なポイントの再確認:● トゥルーモード・ドライブとシングルエンド・ミックスド・モード測定の間の相関は、回路のトポロジーに強く依存します。

● 大部分の回路では、非線形応答は同じです。● 非線形部分が平衡ステージの前にあり、かつ非線形性が差動的でない回路の場合のみ、シングルエンド測定で異なる結果が生じます。

● デバイスが通常の差動デバイス(非線形性が平衡ステージの後にあるもの)の場合は、トゥルーモードとシングルエンドの測定は同じ結果を与えます。

測定システムに関する最後のコメント

上記のように、コモン・モード抑圧のステージの後に非線形ステージがある通常の差動デバイスでは、シングルエンド測定システムで測定を行い、ミックスド・モード・パラメータを計算すれば十分です。ただし、図6で測定したような入力に制限ステージがあるデバイスでは、トゥルーモード・ドライブが必要になることがあります。ただし、トゥルーモード・ドライブは実際にトゥルーモードの信号を発生させる必要があり、通常の誤差補正手法(例えば、信号源と負荷の整合を計算してデータを後処理することにより理想的でない機器を補正する手法)などでは、正しい結果が得られません。これは、DUTの動作が入力端子に実際に印加された電圧に依存するからです。さらに、この電圧はDUTとテスト機器の特性に依存します。このため、トゥルーモードのテスト・システムは、図2のシステムのように理想的な整合を持つか、DUTからの反射に応じてアクティブにドライブ信号を変更するための振幅/位相制御を実現する必要があります。

まとめ

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[1] D. E. Bockelman, W. R. Eisenstadt, "Combined Differential and Common-ModeScattering Parameters: Theory and Simulation", IEEE Transactions onMicrowave Theory and Techniques, Vol. 43, No. 7, July 1995, pp. 1530-1539

[2] D. E. Bockelman, W. R. Eisenstadt, R. Stengel, "Accuracy Estimation of Mixed-Mode Scattering Parameter Measurements", IEEE Transactions on MicrowaveTheory and Techniques, Vol. 47, No. 1, January 1999, pp. 102-105

[3] D. E. Bockelman, W. R. Eisenstadt, "Calibration and Verification of a Pure-Mode Network Analyzer", IEEE Transactions on Microwave Theory andTechniques, Vol. 46, No. 7, July 1998, pp. 1009-1012

[4] J.Dunsmore, "New Methods & Non-Linear Measurements for ActiveDifferential Devices",Microwave Symposium Digest, 2003 IEEE MTT-SInternational ,Volume: 3 , 8-13 June 2003, pp. 1655-1658.

[5] J.Dunsmore, "New Measurement Results and Models for Non-linearDifferential Amplifier Characterization", Conference Proceedings. 34thEuropean Microwave Conference, 2004, pt. 2, pp. 689-692 vol.2

参考文献

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