産業レポート - 三菱UFJ銀行...1 2016 年12 月 【要 約】 1. 総論...

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1 2016 12 【要 約】 1. 総論 中国鉄鋼業界においては、供給過剰による鋼材市況の低迷を受け、鉄鋼メーカー の収益性悪化が鮮明となるなか、今春以降、中央政府が、粗鋼生産能力の削減を 軸とした国内需給ギャップの是正に注力する姿勢を強く打ち出している。 中央政府の強い意向もあり、今後、中国の需給ギャップは緩やかに改善に向かう 見込み。これを受け、中国国内の鋼材市況も緩やかな回復が見込まれるうえ、 国内で消化し切れない鋼材の海外への流出も抑制されよう。 この結果、世界各地への安価な中国製鋼材の流出拡大には歯止めが掛かる公算が 大きく、世界の鋼材市況も回復に向かうとみられる。 2. 中国鉄鋼業界の展望 中国の鋼材需要をみると、不動産向け需要の減少を主因として、当面は微減基調 が続く公算大。しかしながら、インフラ向け需要の拡大を背景に、その減少 ピッチは次第に緩やかとなろう。 中国の粗鋼生産量は、内需の緩やかな減少、対中保護貿易施策の本格化による 輸出環境の悪化に伴い、当面微減基調が続く見込み。並行して、中央政府による 業界再編等を通じた粗鋼生産能力の削減圧力を背景に、生産実態のある設備の 廃棄・稼動停止が進めば、粗鋼生産量は更に押し下げられよう。 トランプ氏の米大統領就任により、米国の保護貿易姿勢が強まるとの見方が 大勢を占めるが、中国製鋼材の米国への輸出は既に相当程度が制限されて いるため、米国の動向による影響は限定的とみられる。 中国の粗鋼生産能力については、中央政府の意向、鉄鋼業の収益環境の悪化に 鑑みれば、従来のように粗鋼生産能力が一方的に増加していく状況は脱している とみられ、今後は徐々に削減されていくことが見込まれる。 今後の鋼材需給の動向をみるうえでは、粗鋼生産能力の削減、不採算企業の淘汰 に向けた中央政府施策の進捗を精査し、需給ギャップの是正状況を注視していく 必要があろう。 産業レポート 中国鉄鋼業界の現状と今後の展望 神田 壮太 戦略調査部 企業調査室 株式会社 三菱東京 UFJ 銀行 A member of MUFG, a glob

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2016年 12月

【要 約】

1. 総論

中国鉄鋼業界においては、供給過剰による鋼材市況の低迷を受け、鉄鋼メーカー

の収益性悪化が鮮明となるなか、今春以降、中央政府が、粗鋼生産能力の削減を

軸とした国内需給ギャップの是正に注力する姿勢を強く打ち出している。

中央政府の強い意向もあり、今後、中国の需給ギャップは緩やかに改善に向かう

見込み。これを受け、中国国内の鋼材市況も緩やかな回復が見込まれるうえ、

国内で消化し切れない鋼材の海外への流出も抑制されよう。

この結果、世界各地への安価な中国製鋼材の流出拡大には歯止めが掛かる公算が

大きく、世界の鋼材市況も回復に向かうとみられる。

2. 中国鉄鋼業界の展望

中国の鋼材需要をみると、不動産向け需要の減少を主因として、当面は微減基調

が続く公算大。しかしながら、インフラ向け需要の拡大を背景に、その減少

ピッチは次第に緩やかとなろう。

中国の粗鋼生産量は、内需の緩やかな減少、対中保護貿易施策の本格化による

輸出環境の悪化に伴い、当面微減基調が続く見込み。並行して、中央政府による

業界再編等を通じた粗鋼生産能力の削減圧力を背景に、生産実態のある設備の

廃棄・稼動停止が進めば、粗鋼生産量は更に押し下げられよう。

トランプ氏の米大統領就任により、米国の保護貿易姿勢が強まるとの見方が

大勢を占めるが、中国製鋼材の米国への輸出は既に相当程度が制限されて

いるため、米国の動向による影響は限定的とみられる。

中国の粗鋼生産能力については、中央政府の意向、鉄鋼業の収益環境の悪化に

鑑みれば、従来のように粗鋼生産能力が一方的に増加していく状況は脱している

とみられ、今後は徐々に削減されていくことが見込まれる。

今後の鋼材需給の動向をみるうえでは、粗鋼生産能力の削減、不採算企業の淘汰

に向けた中央政府施策の進捗を精査し、需給ギャップの是正状況を注視していく

必要があろう。

取引先情報

写・配布用写以外コピー厳禁 A-1 産業レポート

中国鉄鋼業界の現状と今後の展望 神田 壮太

戦略調査部 企業調査室

株式会社 三菱東京 UFJ銀行

A member of MUFG, a global

financial group

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中国鉄鋼業界の現状と今後の展望|2016年 12月

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社 外 秘

【目 次】

Ⅰ.中国鉄鋼業界の現状 3

1.鋼材需給の概観

2.足元までの需要動向

3.足元までの生産動向

4.足元までの輸出動向

Ⅱ.今後の需給展望 10

1.鋼材需要の見通し

2.粗鋼生産能力・生産量の見通し

Ⅲ.業界動向 12

1.宝鋼集団・武鋼集団の合併について

2.東北特殊鋼の破産について

3.中央政府の施策について

Ⅳ.結論 20

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I. 中国鉄鋼業界の現状

1. 鋼材需給の概観

中国鉄鋼業界においては、2014 年以降、内需の減少に伴う供給過剰の鮮明化によ

り、鋼材価格が著しく下落したことから、鉄鋼メーカーの収益性が大きく低下。

こうした状況に危機感を抱いた中央政府は、今春以降、粗鋼生産能力の削減を軸

に、需給バランスの是正に注力する姿勢を強く打ち出している。

中国における鋼材需給動向を振り返ると、2000 年代初頭から、経済成長を背景と

した内需の拡大が継続。2009 年には、リーマンショックの影響で世界的に鋼材需

要が落ち込むなか、中国においては中央政府の「4 兆元投資」による需要喚起が

奏功した結果、2013 年までは内需の拡大が続いた。

粗鋼生産能力・生産量についても、内需の拡大を受けて増加基調が継続。しかし

ながら、粗鋼生産量は、2014 年以降の景気減速に伴う内需の減少を受け、2015

年には減少に転じた。

一方で、粗鋼生産能力は、雇用維持を企図した省政府が鉄鋼メーカーへの支援を

継続したことを背景に、鉄鋼メーカーの淘汰・集約が進まず、増加基調を維持。

この結果、2015 年の稼働率は 70%を下回った(図表 1)。

図表 1:鋼材需給の推移

(資料)World Steel Association 資料等をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部

企業調査室作成

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中央政府は、国内需給バランスの是正に向けて、2016 年 3 月の全国人民代表大会

(以下、全人代)において粗鋼生産能力を 1 億~1.5 億トン削減する計画を公表。

加えて、需要喚起策として積極的なインフラ投資を実施する意向も表明している

(図表 2)。

図表 2:全人代における公表内容(2016年重点施策)

(資料)新聞報道等をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

内容

余剰生産能力の削減 2020年までに、粗鋼生産能力を1億~1.5億トン削減

不採算企業の淘汰長期に亘って赤字が継続している不採算企業に対して、合併・再編、適切な破産清算等による整理・淘汰を推進

失業者対策構造改革によって発生する失業者への対策として1,000億元の基金を設立、再就職支援等に充当

インフラ投資の実施 鉄道建設に8,000億元、道路建設に1兆6,500億元を投じる

施策

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2. 足元までの需要動向

中国の鋼材需要の内訳をみると、全体の 7 割弱を不動産、インフラ等の建設向け

が占め、次いで 2 割弱を機械(主に建機)向け、1 割弱を自動車向けが占める(図

表 3)。

図表 3:中国における鋼材需要の内訳(2015年)

分野別にみると、自動車向け鋼材の需要は、小型自動車減税施策に伴う自動車需

要の拡大を受けて、2016 年初から増加基調が継続。

一方で、建設向け鋼材の需要については、2016 年前半は過剰在庫を抱える不動産

の需要が振るわず、鋼材需要も前年同期を下回ったものの、後半には不動産への

投機資金の流入に加えて、インフラ向け需要の拡大もあり、建設向け全体では一

時的な回復がみられる(図表 4)。

この結果、2016 年 1~10 月累計の中国における鋼材需要は、前年同期を僅かに下

回る水準。

図表 4:中国における鋼材需要(見掛け消費量)の推移(2016年)

(資料)J.P. Morgan アナリストレポートをもとに三菱東京 UFJ 銀行

戦略調査部企業調査室作成

(注)見掛け消費量は(粗鋼生産量)-{(ネット鋼材輸出量)×(粗鋼換算計数)}

にて算出。

(資料)CISA 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

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また、市中鋼材在庫をみると、足元の一時的な建設向け需要の回復を背景に、

9 月以降は緩やかに減少している(図表 5)。

図表 5:市中鋼材在庫の推移(2016年)

3. 足元までの生産動向

2016 年の粗鋼生産量は、1 月・2 月こそ前年同月を大きく下回ったものの、3 月以

降は前年同月を上回る生産が継続(図表 6)。

3 月以降の増産の背景には、全人代における中央政府施策の公表を受けた需給

タイト化への期待の拡大により、鋼材市況が上昇に転じたことがある。

加えて、8 月以降については、建設向け需要の一時的な回復も粗鋼生産量を押

し上げる要因となっている。

2016 年 1~10 月の累計粗鋼生産量は、年初の減産を 3 月以降の増産が打ち消した

結果、前年同期比では同水準となっている。

図表 6:粗鋼生産量の推移(2016年)

(注)市中在庫量は、主要 26 都市における流通在庫合計。

(資料)CISA 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

(資料)日本鉄鋼連盟資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

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企業別にみると、中央政府・省政府の管轄下にある国有大手と、企業数も多く中

央政府・省政府のコントロールが利き難い民営企業では、生産動向が二極化して

いる(図表 7)。

即ち、国有大手をはじめ CISA(=China Iron & Steel Association、中国鋼鉄工業協

会)会員企業全体においては、中央政府による操業規制等の統制の下、減産基調

が継続。

一方、民営かつ小規模企業を中心とする CISA 非会員企業は、市況回復を受けて

増産傾向を強めており、休止設備の再稼動も活発化している。

図表 7:企業別の粗鋼生産量の推移

(単位:万トン、%)

(前同比) (前同比) (前同比)

1 河鋼集団 4,775 1.3 1,065 ▲ 11.3 2,202 ▲ 9.0

2 宝鋼集団 3,494 ▲ 2.6 869 12.3 1,855 6.0

3 江蘇沙鋼集団 3,421 ▲ 3.2 800 ▲ 5.4 1,654 ▲ 3.9

4 鞍鋼集団 3,158 ▲ 8.1 800 ▲ 5.0 1,636 ▲ 2.4

5 首鋼集団 2,855 ▲ 7.2 607 ▲ 19.2 1,301 ▲ 13.0

6 武鋼集団 2,578 ▲ 6.6 622 ▲ 1.2 1,286 ▲ 1.5

7 山東鋼鉄集団 2,169 ▲ 7.1 544 4.9 1,096 2.0

8 馬鋼集団 1,882 ▲ 0.4 435 ▲ 3.5 892 ▲ 2.6

9 湖南華菱鋼鉄集団 1,487 ▲ 3.3 355 0.1 753 3.3

10 北京建龍重工集団 1,514 ▲ 0.8 362 ▲ 3.4 726 ▲ 5.8

上位10社計 27,334 ▲ 3.7 6,458 ▲ 4.2 13,401 ▲ 3.3

会員企業(除上位10社) 36,024 ▲ 0.5 8,468 ▲ 1.2 17,356 ▲ 1.7

会員企業計 63,358 ▲ 1.9 14,926 ▲ 2.5 30,757 ▲ 2.4

会員外企業 17,025 ▲ 3.7 4,246 ▲ 9.5 9,200 3.4

全国合計 80,383 ▲ 2.3 19,172 ▲ 4.1 39,956 ▲ 1.1

企業名

2015年 2016年

1-12月 1-3月 1-6月

減産基調が継続

3月以降増産が加速

新製鉄所(湛江)の

稼動開始

(注 1)企業名左側の数字は 2016 年 6 月時点の粗鋼生産量国内順位。

(注 2)2015 年 1-12 月、及び 2016 年 1-3 月における「上位 10 社」は、2016 年

6 月時点における国内粗鋼生産量上位 10 社を指す。

(資料)新聞報道をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

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4. 足元までの輸出動向

中国の鋼材輸出は国内需給の調整弁としての性格が強く、国内で消化し切れない

鋼材が、周辺国を中心に輸出されている。

2016 年における輸出量の推移をみると、3 月以降は内需が停滞する一方で増産が

続いた結果、輸出量は前年同月を上回る水準で推移。

しかしながら、8 月以降は、建設向け需要の一時的な回復を背景に、国内販売を

優先する動きがみられたことから、輸出量は前年同月比で減少に転じている(図

表 8)。

図表 8:鋼材輸出量の推移(2016年)

地域別にみると、自国・地域に大手高炉メーカーが存在する欧米等は、アンチダ

ンピング(以下、AD)等の保護貿易措置の積極的な発動により中国からの輸入を

抑制する一方、ASEAN、中東等、内需を自国の上工程のみで賄えない地域におい

ては、中国からの輸入が増加している(図表 9)。

図表 9:中国の地域別輸出量

(資料)中国海関統計等をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

(資料)日本鉄鋼連盟資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行

戦略調査部企業調査室作成

保護貿易施策の強化に

伴い欧米向けは減少

周辺国へは流入が加速

(単位:千トン)

国・地域2015年

1-8月

2016年

1-8月増減率

日本 730 767 5%

韓国 8,704 9,747 12%

台湾 1,597 1,837 15%

ASEAN 22,203 26,853 21%

中東 6,477 7,989 23%

EU 4,899 4,365 ▲ 11%

米国 1,615 583 ▲ 64%

中南米 6,439 5,002 ▲ 22%

アフリカ 5,724 6,221 9%

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特に中国からの輸出量が多い ASEAN についてみると、自国の鉄鋼メーカー

の成長や雇用の維持を企図して AD が発動されるケースもあるが、鋼材調達

を中国からの輸入に大きく依存していることから、熱延・冷延コイル等の主

要品目に対して欧米ほどの高い AD 税を課すことができず、中国製鋼材の流

入が続いている。

斯かるなか、中国鉄鋼メーカーは、税率が低い地域・品目については AD 課税後

も価格競争力を保持できることに加え、税率が高い場合は添加物の変更によって

AD 対象から外れる製品に作り変える等の対策を講じ、輸出を継続している模様。

また、近年では、域内に高炉が存在せず、AD 発動の懸念が小さいアフリカへの

輸出も拡大している。

なお、トランプ氏の次期米大統領就任が決定したことを受け、米国の保護貿易姿

勢が強まるとの見方が大勢を占めるが、鉄鋼については従前から厳しい対中保護

貿易措置が採られており、中国からの米国向け輸出は既に大きく落ち込んでいる

ことから、影響は限定的とみられる。

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II. 今後の需給展望

1. 鋼材需要の見通し

2016 年の鋼材需要は、足元でこそ建設向け需要の一時的な拡大がみられるものの、

通年ベースでは前年比減少となる見込み。

8 月以降の需要拡大は、不動産・インフラ等の建設向け需要の増加が背景。今後

は、インフラ向け需要こそ底堅い推移が見込まれるものの、不動産向け需要につ

いては、9 月末以降、各省政府による投資抑制施策の実施を受けた不動産投資の

減速に伴い、2016 年末に掛けて減少傾向を辿る公算が大きい。

中期的には、鋼材需要を大きく底上げする要因は見当たらないものの、自動車向

け需要の底堅い推移、インフラ向け需要の拡大に伴う建設向け需要の減少ピッチ

の鈍化を背景に、鋼材需要全体の減少幅は縮小していくことが見込まれよう。

2. 粗鋼生産能力・生産量の見通し

内需の停滞、並びに中央政府による粗鋼生産能力の削減施策の進展(詳細は

「Ⅲ. 業界動向」の「3. 中央政府の施策について」にて後述)につれ、粗鋼生産

能力・生産量は減少傾向を辿ろう。

足元の増産は、需給タイト化への期待を背景とする鋼材価格の上昇、建設向け需

要の一時的な回復によるもの。需要拡大が続かず、供給のみ増加すれば需給が緩

み、鋼材価格の下落に繋がることから、粗鋼生産量は再び減少する公算が大きい。

並行して、中央政府による粗鋼生産能力の削減圧力を背景に、生産実態のある高

炉の廃棄・稼動停止が進めば、粗鋼生産量は更に押し下げられよう。

また、主要輸出先である ASEAN における鋼材自給率の上昇を企図した上工程の

増強も、中国の輸出量、並びに粗鋼生産量に影響を与えることになろう(図表 10)。

即ち、今後 ASEAN における上工程の稼動開始に伴い、中国製鋼材に対する保護

貿易措置の発動が本格化すれば、中国の輸出量は抑制され、つれて粗鋼生産量に

も減少圧力が掛かるとみられる。

図表 10:ASEANにおける粗鋼生産能力の推移と見通し

(資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

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この結果、中期的には、中国において内需の減少量以上に粗鋼生産能力・生産量

が減少するとみられることから、需給ギャップは緩やかに改善に向かおう(図表

11)。

図表 11:中国における粗鋼生産能力・生産量・見掛け消費量の見通し

(資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

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III. 業界動向

1. 宝鋼集団・武鋼集団の合併について

2016 年 6 月、中国の大手国有鉄鋼メーカーである宝鋼集団と武鋼集団は、経営統

合に向けた協議の開始を発表。同年 9 月には、両社の合併が正式決定された。

(1) 合併に至る経緯

業界構造をみると、中国には 500~700 社の鉄鋼メーカーが存在しており、そのう

ち国有企業は 100 社程度。国有企業のなかでも、中央政府が管轄するのは宝鋼集

団、鞍鋼集団、武鋼集団の 3 社に限られ、その他の企業は省政府が管轄(図表 12)。

図表 12:中国鉄鋼業界構造の概観

ともに中央政府管轄である宝鋼集団と武鋼集団の合併は以前から取り沙汰されて

おり、今回の合併には、中央政府の意向が働いたとみられている(図表 13)。

図表 13:宝鋼集団・武鋼集団の合併に至る経緯

(資料)ヒアリングをもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

(資料)新聞報道をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

時期 内容

2013年8月・宝鋼集団総経理の馬氏、武鋼集団総経理に就任・鄧氏、武鋼集団董事長に就任。共産党書記を兼任

2015年6月 馬氏が鄧氏の後任として武鋼集団董事長に昇格

2015年8月 鄧氏が汚職により失脚、共産党追放

2016年6月 宝鋼集団・武鋼集団が統合に向けた協議の開始を発表

2016年9月 宝鋼集団・武鋼集団の合併が正式決定

2016年10月 合併草案を発表

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合併に際しては、宝鋼集団が「中国宝武鋼鉄集団」に社名変更し、武鋼集団を子

会社化。製鉄事業については、宝鋼集団傘下の宝山鋼鉄が武鋼集団傘下の武漢鋼

鉄を吸収合併することにより、宝山鋼鉄に集約する計画(図表 14)。

図表 14:宝鋼集団・武鋼集団の合併案とシナジー効果

合併により、中国宝武鋼鉄集団の国内における自動車用鋼板シェアは約 6 割、電

磁鋼板シェアは約 7 割に上るとみられ、高級鋼分野における価格交渉力の向上が

期待できる。

また、製鉄所の統廃合、物流の効率化といった生産合理化によって、コスト競争

力も向上する見込み。合併に先駆け、両社は粗鋼生産能力の削減計画も公表して

いる(図表 15)。

図表 15:宝鋼集団・武鋼集団における粗鋼生産能力の削減計画

(資料)ヒアリング、新聞報道をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

(注)新疆八一鋼鉄は宝山鋼鉄の子会社。

(資料)新聞報道をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

宝鋼集団 武鋼集団

削減目標2018年までに1,220万トン

(うち465万トンを2016年中に削減)

2018年までに442万トン

(うち140万トンを2016年中に削減)

対象企業宝山鋼鉄(920万トン)

新疆八一鋼鉄(注)(300万トン)武漢鋼鉄

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中国宝武鋼鉄集団は、既存製鉄所において粗鋼生産能力を削減することに加え、

現在武鋼集団において計画されている新鋭製鉄所の能力増強を見送る見込み。今

後、合併によって生産体制の合理化が進捗すれば、粗鋼生産能力の削減に繋がる

公算が大きい。

一方で、合併に際しては、機能が重複する既存設備の廃棄や人員の再配置等を要

することに加え、両者はいずれも中国国内において最大規模の鉄鋼メーカーであ

り、企業文化が異なることから、両社の融和、合併によるシナジー効果の発揮に

は相応の時間を要するとみられる。

(2) 中国鉄鋼業界への影響

中央政府は、今回の合併を機に更なる業界再編の進展を図ることで、上位企業に

ついては技術力・コスト競争力の向上を通じた国際競争力の強化を、業界全体で

は生産合理化に伴う粗鋼生産能力の削減を推進していく意向。

足元では、鞍鋼・本鋼の合併が取り沙汰されているほか、河鋼・首鋼の合併案も

浮上している模様(図表 16)。

図表 16:大手鉄鋼メーカーの再編構想

但し、これらの合併案については、宝鋼集団・武鋼集団と異なり、管轄が違う企

業同士の合併となることから、業界再編が順調に進捗するかは不透明。

今後の業界再編の動向をみるうえでは、中央政府と省政府、あるいは省政府同士

が、雇用、税収の配分をいかに調整するかという点を注視する必要がある。

(注)粗鋼生産量は、合併対象 2 社の 2015 年実績を単純合算したもの。

(資料)ヒアリング、新聞報道をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

宝鋼集団 中央政府

武鋼集団 中央政府

鞍鋼集団 中央政府 ・管轄主体の相違

本渓集団 遼寧省 ・過去に破談した経緯あり

河鋼集団 河北省

首鋼集団 北京市(不明)

・企業文化の相違

・管轄主体の相違

粗鋼生産量(百万トン)

60.7

47.5

76.3

企業名(案) 組み合わせ 管轄 合併における課題

中国宝武鋼鉄集団

鞍本鋼鉄集団

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中国鉄鋼業界の現状と今後の展望|2016年 12月

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(3) 日系鉄鋼メーカーへの影響

両社の合併によるシナジー効果の発現には時間が掛かるとみられるうえ、自動車

用鋼板、電磁鋼板のいずれにおいても、日系鉄鋼メーカーは高い技術力、広範な

拠点網を背景に、ユーザーニーズを満たす高品質製品の安定的な供給が可能であ

ることから、短期間でシェアが落ち込む懸念は僅少。

特に、日系鉄鋼メーカーの主要取引先である日系完成車メーカーは、品質・

安定供給に対する要求水準が極めて高いことから、中国鉄鋼メーカーがその

要求水準を満たすには多大なコスト・労力が掛かる。

従って、日系鉄鋼メーカーと日系完成車メーカーの取引については、中国鉄

鋼メーカーが積極的に参入する誘因が小さいことから、短期的にみれば、中

国宝武鋼鉄集団による影響は限定的と考えられる。

但し、中長期的にみれば、中国宝武鋼鉄集団がノウハウを蓄積し、日系鉄鋼メー

カーの取引を脅かすことも想定しうる。斯かる状況下、日系鉄鋼メーカーには、

現状の優位性を維持・拡大すべく、①継続的なコスト削減と研究開発、②下工程

の積極展開による安定供給能力・ユーザー接点の強化、といった従来の戦略を着

実に進め、製品・サービスを一層高度化していくことが求められよう。

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2. 東北特殊鋼の破産について

(1) 破産に至る経緯

東北特殊鋼は、2004 年設立の電炉メーカー。2015 年における特殊鋼生産量は中国

第 3 位。

同社は、過剰な設備投資により債務が大きく膨らんだ一方、内需の縮小、供給過

剰による鋼材価格の下落を受けて、業績・資金繰りが著しく悪化。

2016 年 3 月には、期日を迎えた CP の償還が滞り、地方政府傘下の国有企業とし

ては初のデフォルトに陥った。

これ以降、同社は CP 償還期日の度に合計 9 度に亘るデフォルトを発生させ、2016

年 10 月には正式に破産手続きに入った(図表 17)。

図表 17:東北特殊鋼の破産経緯

(2) 中国鉄鋼業界への影響

これまで、中国においては、地元の雇用や税収の維持を企図して、省政府による

鉄鋼メーカーへの支援が行われており、赤字が継続しても淘汰されず、操業を継

続するメーカーが散見されていた。

斯かるなか、特に景気減速が顕著である遼寧省において、2 万人近い従業員を抱

える東北特殊鋼の破産は同省経済に大きな悪影響を与えるとみられることから、

同省による資金繰り支援等の救済が行われるとの見方が根強く残っていた。

実際、同社は昨年も社債約 13 億元についてデフォルトに陥る可能性があると

発表したものの、最終的には政府系の中国国家開発銀行が支援し、これを回

避した経緯にある。

しかしながら、今回、遼寧省が東北特殊鋼の破産を受け入れたことについては、

不採算企業の淘汰に向けた中央政府の意向が働いていた模様。今後は、不採算企

業に対する中央政府の支援姿勢が消極化することにより、企業淘汰が進む蓋然性

が高まっている。

(資料)新聞報道をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

時期 内容

2016年3月総額8.5億元のCPを償還できず、地方政府

傘下の国有企業としては初のデフォルト

8月 債権者集会開催、債権者が破産整理を提案

9月債権者が大連市中級人民法院に同社の破産整理を申請

10月 破産・会社更生手続き入り

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3. 中央政府の施策について

中央政府は、粗鋼生産能力の削減目標 1 億~1.5 億トンの達成に向け、各施策を

徐々に具体化している(図表 18)。

図表 18:中央政府の施策実施動向

施策内容をみると、中央政府は、粗鋼生産能力・生産量削減に向けた各種規制の

強化と並行して、方針に従い、実際に削減を行った鉄鋼メーカーには資金的な支

援を実施する等、硬軟織り交ぜた取り組みによって実効性を高める姿勢を鮮明化。

具体的には、環境規制の強化を通じた鉄鋼メーカーの操業規制や、全国一斉査察

等によって鉄鋼メーカーの監督を強化する一方、設備廃棄に対する奨励金、失業

者保険等を専用基金(工業企業構造調整専門奨励補助資金)から拠出している(図

表 19)。

図表 19:足元までの政府施策の運用例

CISA発表によれば、中国における 2016年 1~10月累計の粗鋼生産能力削減量は、

既に 2016 年の年間削減目標である 4,500 万トンに到達。既述の施策を通じて、粗

鋼生産能力の削減は進展しつつある。

但し、現時点で削減実績として計上されているのは、既に生産実態の無い設備が

大半。2017 年以降も削減を進めていくうえでは、生産実態のある設備も含めて廃

棄することが求められよう。

(資料)ヒアリング、新聞報道をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

(資料)ヒアリングをもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

時期 内容

2016年3月 全人代において、李克強首相が最大1.5億トンの粗鋼生産能力の削減を宣言

6月 国家発展改革委員会が2016年の削減目標を4,500万トンに設定

7月 ・国家発展改革委員会が、各省政府に対して粗鋼生産能力の削減目標を

 個別の設備毎に具体的に示し、期限を設けるよう指示

・中央政府が環境保護における査察チームを全国に派遣

8月 ・国家発展改革委員会が、各省政府における粗鋼生産能力削減の進捗状況を

 定期報告させ、11月末までに2016年の年間削減目標を達成する旨発表

・併せて、監督査察10チームを全国に派遣

10月 中央政府が粗鋼生産能力の削減目標を1.4億トンに明確化

施策 内容

環境規制の強化河北省唐山市における世界園芸博覧会、杭州におけるG20会合開催等に際し、各地で高炉の操業規制を実施

全国一斉査察の実施地方政府や企業における粗鋼生産能力の削減状況を調査し、監督を強化

「工業企業構造調整専門奨励補助資金」の活用

杭州鋼鉄、宏興鋼鉄、重慶鋼鉄等に対して補助金を支給、高炉の廃棄やリストラ対象社員の再就職を支援

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なお、中国における余剰生産能力は一般に 4億トン程度とされているものの、

実際は 1 億~2 億トン程度である可能性も指摘されている。

この点、中央政府は各省政府に対して、具体的な削減計画の策定を指示。各省政

府は、削減目標と達成期限を公表している(図表 20)。

図表 20:各省政府における粗鋼生産能力の削減目標

削減計画においては、各省毎に「いつ、どの企業の、どの高炉を廃棄するか」と

いう点まで詳細に定められており、中央政府による進捗状況の監視の強化に繋が

っている。

これまでは、中央政府が各種施策を掲げながらも粗鋼生産能力の削減が進捗しな

かったものの、今回は、①鉄鋼需要の減少に伴う鉄鋼メーカーの収益性の悪化、

②失業者対策の整備、③削減実績を省政府役人の人事考課対象として算入、とい

った要因により、粗鋼生産能力の削減が進捗する蓋然性は高まっている(図表 21)。

図表 21:業界環境・中央政府の姿勢の変化

(資料)ヒアリングをもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

(資料)新聞報道をもとに三菱東京 UFJ 銀行

戦略調査部企業調査室作成

地域削減目標(万トン)

達成期限(年)

河北省 4,913 2020

江蘇省 1,750 2020

山東省 1,000 2018

天津市 900 2020

遼寧省 602 2016

雲南省 453 2018

四川省 420 2017

浙江省 300 2020

甘粛省 300 2020

湖北省 200 2018

湖南省 50 2016

新疆ウイグル自治区

30 2016

全国合計 10,918 2020

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河北省や遼寧省等、既存設備の廃棄分の範囲内であれば粗鋼生産能力の新増設を

認める「等量置換」が実施されている地域もあるものの、既述の状況に鑑みれば、

中国においては、粗鋼生産能力が一方的に増加していく状況からは脱していると

みられる。

こうしたなか、今後中央政府の施策が徹底されることにより、粗鋼生産能力は緩

やかに減少することが見込まれよう。

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IV. 結論

中国鉄鋼業界においては、供給過剰による鋼材市況の低迷を受け、鉄鋼メーカー

の収益性悪化が鮮明となるなか、今春以降、中央政府が、粗鋼生産能力の削減を

軸とした国内需給ギャップの是正に注力する姿勢を強く打ち出している。

中央政府の強い意向もあり、今後、中国の需給ギャップは緩やかに改善に向かう

見込み。これを受け、中国国内の鋼材市況も緩やかな回復が見込まれるうえ、国

内で消化し切れない鋼材の海外への流出も抑制されよう。

この結果、世界各地への安価な中国製鋼材の流出拡大には歯止めが掛かる公算が

大きく、世界の鋼材市況も回復に向かうとみられる。

(1) 鋼材需要

中国の鋼材需要は、足元では前年同期を僅かに下回って推移。今後は、各省政府

による不動産投資抑制施策を受け、需要の約 7 割を占める建設向け鋼材の消費量

減少が見込まれるため、2016 年通年での鋼材需要は前年比微減、2017 年以降も微

減基調が続く公算が大きい。

但し、減少ピッチについては、自動車向け鋼材需要が引き続き堅調に推移すると

みられることに加え、インフラ投資の拡大による建設向け鋼材需要の下落幅の縮

小を受け、鋼材需要全体では次第に緩やかとなろう。

(2) 粗鋼生産量

中国の粗鋼生産量は、足元では微増程度で推移しているものの、内需の微減が見

込まれるうえ、輸出量も大幅な増加は見込み難いことから、2016 年通年では前年

比微減となる見込み。2017 年以降も、内需の緩やかな減少、対中保護貿易施策の

本格化による輸出環境の悪化に伴い、粗鋼生産量は微減基調が続こう。

並行して、中央政府による国内鉄鋼メーカーの再編等を通じた粗鋼生産能力の削

減圧力を背景に、生産実態のある設備の廃棄・稼動停止が進めば、粗鋼生産量は

更に押し下げられよう。

トランプ氏の米大統領就任により、米国の保護貿易姿勢が強まるとの見方が

大勢を占めるが、中国製鋼材の米国への輸出は既に相当程度が制限されて

いるため、米国の動向による影響は限定的とみられる。

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(3) 粗鋼生産能力

中国の粗鋼生産量は、足元でこそ大幅な削減には至っていないものの、中央政府

の意向、鉄鋼業の収益環境の悪化に鑑みれば、少なくとも従来のように粗鋼生産

能力が一方的に増加していく状況は脱しているとみられ、今後は徐々に削減され

ていくことが見込まれる。

(4) 需給バランス

以上を踏まえると、中国においては、内需の減少量以上に粗鋼生産能力・生産量

が減少するとみられることから、需給ギャップは緩やかに改善に向かおう。

今後の鉄鋼需給の動向をみるうえでは、粗鋼生産能力の削減、不採算企業の淘汰

に向けた中央政府施策の進捗を精査し、需給ギャップの是正状況を注視していく

必要があろう。

以 上

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