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62 ビジネスコミュニケーション 2019 Vol.56 No.2 特集 デジタルトランスフォーメーションの社内推進と そのショーケース化による収益貢献を目指す NTT Com システム部の挑戦 ServiceNow は企業内 IT サービス マネージメントを中心にビジネスプ ロセス変革を提供するプラット フォームとして評判が高く、近年急 成長している SaaS 型サービスであ る。システム部ではデジタルトラン スフォーメーション(以下、DXのショーケースとして社内活用を進 めている。 これまで主に先進的な海外のグ ローバル企業から利用が広がり始め ているが、昨年度あたりから日本国 内でも企業ニーズが急速に高まって きている ServiceNowNTT Com おいてもマネージドサービス部での ServiceNow を活用したマネージド サービスの提供に始まり、来年度に Nexcenter を活用した Service Now 社の日本ロケーションサービ スを開始する予定である。お客さま DX 推進や働き方改革の分野にお ける新たなサービス提供に向け、 ServiceNow 社との協業も深めてお り、それらに先行し社内での実績を 積み重ねている。 最初はカスタマーサービスのオペ レーター向けに、ケースやタスク管 理として活用するところからスター トした。導入前は懐疑的な 意見もあったが、使い始め たら簡易な開発環境およ びモジュールが揃ってい て、工数を抑え開発期間を 大幅に短縮できることが 分かってきた。利用者にも タスク進捗状況やレポー ト表示等の UI が好評であ り、使い易さから効率向上 を実感できるといった声 も上がってくるように なってきた。利用者、開発 者共に「早く安くうまく」 を実現できるポテンシャルが高い サービスであることを実感し活用は 拡大している。 当初は IT サービスマネージメン ト用途を中心とした利用アプリケー ション数が増えていっていたが、 徐々に一般的な社内業務プロセス管 理やナレッジ共有等の用途にも広が りをみせている。現在ではトライア ル利用を含めて約 20 の用途で社内 業務改善プロセス効率化実現に向 けて活用が拡大し、国内で有数の社 内実績を持つサービス提供者として プレゼンスを高めている。 ServiceNow の特長である豊富な 標準モジュールと簡易な統合開発環 境(IDE)を活用することにより、 最小限のコーディングでスピー ディーに実装することが可能であ る。変更の反映も素早く行えるとい う利点を活かし、開発方式にはプロ トタイピングを採用した。アジャイ ル型の開発ではシステム要望元で利 用者でもあるカスタマーサービス部 のメンバーと BizDevOps 体制によ り開発を進めた。 最適な SaaS/PaaS/ パッケージを選択・活用 しながら開発 ・ 業務プロセスの変革を推進 NTT コミュニケーションズ(以下、NTT Com)は目的に応じて SaaS や PaaS、そしてパッケージをうまく選択・活用すること による、「早く安くうまく」を実現するシステム開発、業務変革に取り組んでいる。本稿では自らが実践して成功事例を作り、ショー ケース化することを強く意識した取り組みを紹介する。 〈3. 開発プロセス・業務プロセスの変革〉 NTT コミュニケーションズ株式会社 システム部 (後列左から時計回り) 第二システム部門 担当課長 山崎 正樹担当課長 林 賢二菅原 奈緒美第三システム部門 柳田 尚明「ServiceNow」を活用した業務 効率化・プロセス改善を推進 事例:チケット管理システムの 開発で BizDevOps (※) を実践 ※ BizDevOps:開発部門と運用部門が連携して開 発を行うDevOpsに、ビジネス部門を加えた3 者で協力して IT 推進を行う事を指す。

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62 ビジネスコミュニケーション 2019 Vol.56 No.2

特集デジタルトランスフォーメーションの社内推進とそのショーケース化による収益貢献を目指すNTT Com システム部の挑戦

特集デジタルトランスフォーメーションの社内推進とそのショーケース化による収益貢献を目指すNTT Com システム部の挑戦

 

ServiceNowは企業内 ITサービスマネージメントを中心にビジネスプロセス変革を提供するプラットフォームとして評判が高く、近年急成長している SaaS型サービスである。システム部ではデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)のショーケースとして社内活用を進めている。これまで主に先進的な海外のグローバル企業から利用が広がり始めているが、昨年度あたりから日本国内でも企業ニーズが急速に高まってきている ServiceNow。NTT Comにおいてもマネージドサービス部でのServiceNowを活用したマネージドサービスの提供に始まり、来年度には Nexcenter を活用した Service

Now社の日本ロケーションサービスを開始する予定である。お客さまの DX推進や働き方改革の分野における新たなサービス提供に向け、ServiceNow社との協業も深めており、それらに先行し社内での実績を積み重ねている。最初はカスタマーサービスのオペレーター向けに、ケースやタスク管理として活用するところからスター

トした。導入前は懐疑的な意見もあったが、使い始めたら簡易な開発環境およびモジュールが揃っていて、工数を抑え開発期間を大幅に短縮できることが分かってきた。利用者にもタスク進捗状況やレポート表示等の UIが好評であり、使い易さから効率向上を実感できるといった声も上がってくるようになってきた。利用者、開発者共に「早く安くうまく」を実現できるポテンシャルが高いサービスであることを実感し活用は拡大している。当初は ITサービスマネージメント用途を中心とした利用アプリケーション数が増えていっていたが、徐々に一般的な社内業務プロセス管理やナレッジ共有等の用途にも広がりをみせている。現在ではトライアル利用を含めて約 20の用途で社内業務改善・プロセス効率化実現に向けて活用が拡大し、国内で有数の社内実績を持つサービス提供者としてプレゼンスを高めている。

 

ServiceNowの特長である豊富な標準モジュールと簡易な統合開発環境(IDE)を活用することにより、最小限のコーディングでスピーディーに実装することが可能である。変更の反映も素早く行えるという利点を活かし、開発方式にはプロトタイピングを採用した。アジャイル型の開発ではシステム要望元で利用者でもあるカスタマーサービス部のメンバーと BizDevOps体制により開発を進めた。

最適なSaaS/PaaS/パッケージを選択・活用しながら開発・業務プロセスの変革を推進NTT コミュニケーションズ(以下、NTT Com)は目的に応じてSaaS や PaaS、そしてパッケージをうまく選択・活用することによる、「早く安くうまく」を実現するシステム開発、業務変革に取り組んでいる。本稿では自らが実践して成功事例を作り、ショーケース化することを強く意識した取り組みを紹介する。

〈3. 開発プロセス・業務プロセスの変革〉

NTT コミュニケーションズ株式会社 システム部(後列左から時計回り) 第二システム部門

担当課長 山崎 正樹氏 担当課長 林 賢二氏菅原 奈緒美氏 第三システム部門 柳田 尚明氏

「ServiceNow」を活用した業務効率化・プロセス改善を推進

事例:チケット管理システムの開発で BizDevOps( ※ ) を実践

※BizDevOps:開発部門と運用部門が連携して開発を行うDevOpsに、ビジネス部門を加えた3者で協力してIT推進を行う事を指す。

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特集デジタルトランスフォーメーションの社内推進とそのショーケース化による収益貢献を目指すNTT Com システム部の挑戦

特集デジタルトランスフォーメーションの社内推進とそのショーケース化による収益貢献を目指すNTT Com システム部の挑戦

がかかる。協力会社社員の勤務初日に入館証発行や PC配布が間に合わず、本格的に業務を開始するまでに数日を要することも珍しくなかった。これらの手続きを効率化するために、ServiceNowの「人事サービスデリバリ」機能をベースとしたシステム開発を行った。日本ではこの機能を導入した初のケースとなった。

開発手法にはスクラムを採用し、2週間に 1回のペースでスプリントを実施している。コーディングは若手社員が中心となって進めている。中にはプログラミング経験がなかったメンバーもいたが、「開発のし易さ」という ServiceNowの特長が活きており、立ち上がりは早い。現在はシステム部内でトライアル的に利用し

を出し、継続して実績を積み重ねている。

システム部は 人事・総務系の業務フロー効率化にも ServiceNowを活用し始めている。例として「協力会社社員の入社手続きの効率化」を挙げることができる。

NTT Comには毎月新規や入れ替わりなどでおよそ 700~ 1,000人の協力会社社員が加わる。その全員にセキュリティ研修を受けてもらうほか、オフィスへの入館証発行、PC

の手配など、働き始めてもらうまでにさまざまな手続きが発生する。この一連の手続きには「複数の管理者、責任者による承認行為」、「システム外での紙ベースによる手続き」、「複数システムへのデータ登録」といったことが原因で、非常に手間と時間

事例:協力会社社員の入社手続きの効率化

「ゼロからのスタートでしたが、利用者、開発者が一体となって取り組み、メンバー全員が ServiceNow

を理解し使ってみようという意識が高く、アジャイル型の開発に合った形で順調に進めることができました。実装自体はほぼ 1カ月の短期間で完成し、実際の利用者と一緒に双方で満足のいく開発ができたことはよい経験となりました。」(山崎氏)「システム部が一方的に開発したものを提供しそれを使ってくださいと言うのでは駄目です。今回の例で言えば『これは良いから使いたい』と利用者にも言ってもらえて、共同で開発に取り組めることが理想です。そうなるような環境作りを心がけています。」(林氏)システムは 2017年 5月に初期リ

リースし、プロトタイピングによる開発はより規模の大きい設備故障管理向けシステムの開発等でも成果

スクラムを採用し若手社員が中心となってコーディング

BeforeAfter

NTTCom 管理者/担当者(データ入力や確認稼働の削減)

システム外での非効率な手続き

ライフサイクル管理&ワークフロー人事サービスデリバリ

手続きの自動運行化と進捗の可視化

不透明な進捗管理

仕掛中

システム

自動運行化

進捗可視化

協力会社 社員(メールによる煩雑な確認削減)

何度もメールで依頼/紙で提出

サービス センター

人事サービスデリバリ

Photo Pleadge Security

Photo

Pleadge Security

ポータル化

契約会社社員本人による 情報登録

契約担当者/SM実施責任者(確認プロセスの効率化)

SIMS GERP+

複数回に及ぶ承認行為

ダッシュボード

人事サービスデリバリ

誓約書 セキュリティ研修

・誓約書 ・セキュリティ研修 ・パートナー情報 ・契約情報

OK

OK OK

OK

協力会社社員情報 契約情報

一括OK

パートナー証 発行システム等

自動突合

自動連携

承認行為の一本化

図 1 協力会社社員の入社手続き効率化

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ながら機能改善が進められている。「従来の手続きでは、協力会社から収集して担当者が投入していた情報を、協力会社側で直接システムへ投入できるようにしました。また紙で実施していた誓約書への署名をWeb上で行えるようなデジタライゼーションも行いました。人が介在する作業を極力減らし、確認漏れやミスによる手戻りが発生しづらくなりました。勤務初日から時間を無駄にすることなく業務を開始しやすくなったと考えています。」(柳田氏)このシステムは 2019年度中に全社展開することが予定されている。

システム部では ServiceNowを活用した開発プロセスの変革を継続し、自身のシステムリリースの効率化を進めている一方で、PaaS環境の社内提供も進めている。特長の 1つである最小限のコーディング、いわゆる「ローコード開発」で開発初心者でも希望のアプリケーションを

オンデマンド型 PaaS 環境提供を目指す

作れる点を活かし、利用者自身が簡易に効果的なものをすぐに作れる環境作りを進めている。菅原氏は次のように語る。「期待しているのはコーディングが不要な『ノーコード開発』です。ServiceNow の特長を活かしつつ要望に沿った雛形ア

プリケーションを複数用意し、利用者自身が簡単にカスタマイズしてすぐに利用できる環境を提供していきたいです。関係者と協力しながら『ノーコード』を実現したいと考えています。」

システム部は業務プロセスの可視化や自動化にも力を入れている。その一環で進められているのが、Robotic Process Automation(以下、RPA)による業務の自動化だ。従来のツールやシステムも有効に活用しつつ、業務を自動化・効率化している。「これまでの自動化の取り組みは、草の根的に行われていました。そうした RPAを『野良ロボ』と呼んでいますが、ガバナンスを利かせるため、またツールのライセンスを有効活用するためにも、『野良ロボ』を排除し、RPAを一元管理できるシステムを用意しました。」(岡田氏)

RPAの一元管理に加え、2018年上期には新たに 14組織において 29

RPAを活用し 2018年上期に15,000 時間を削減

案件の自動化に取り組み、26のロボットが稼働している。業務時間の削減効果は、2018年上半期だけでも約 15,000時間以上になる見込みだ。以下に個別の事例をいくつか紹介する。

社員の異動があるたびに、社内システムのアカウント登録、変更が発生する。時には 1人につき約 20システムへのデータ入力を要する、大変な作業である。組織変更の際には人手では間に合わないため、その都度数百~数千万円という費用をかけて移行プログラムを作成していた。

RPAで 1,000人分の登録作業を自動化することにより、1人あたり 3~ 4秒で登録を完了できる。人が行うのは RPAの実行開始だけであり、大幅に手間が軽減される。組織変更のたびに発生していた移行プログラムの作成コストも不要になった。

NTT Comではシフト勤務が可能となっているため、勤務管理システムに予め各自の勤務開始 /終了時間を登録している。この情報を Outlook

のスケジューラーに反映するには各自が人手で行う。この作業も RPAで自動化すれば、勤務管理システムへの登録を行うだけで良い。

PC上で個人が行う操作を自動化する「デスクトップ型」RPAに加え、

事例:アカウント登録の自動化

事例:勤務管理システムからOutlook へスケジュールを反映

ショーケース化を視野に「エンタープライズ RPA」を整備

NTT コミュニケーションズ株式会社 システム部 第三システム部門

(後列左から時計回り)久保田 圭介氏 恩田 雅大氏担当課長 野澤 直之氏 松本 康次氏主査 佐藤 亮太氏 岡田 具明氏

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特集デジタルトランスフォーメーションの社内推進とそのショーケース化による収益貢献を目指すNTT Com システム部の挑戦

特集デジタルトランスフォーメーションの社内推進とそのショーケース化による収益貢献を目指すNTT Com システム部の挑戦

ロボットの動作環境を仮想的に提供する「仮想ロボット型」RPA、スケジュール実行や他システムとの連携も行う「バックグラウンド型」RPA

の活用も進めている。「仮想ロボット型 RPAはチームで行うようなボリュームのある業務の自動化に向いています。現在ハイスペックな環境を用意しトライアル的に 4部署へ導入しているほか、機密情報の保護などについて整理しているところです。」(松本氏)バックグラウンド型 RPAは決まった時間にまとめて処理を実行するなど、バッチ処理的な使い方に向いている。RPAによる他システムとの連携には「APIが用意されていないシステムとも連携できる」というメリットがある。これにより従来は自動化が難しかった業務の効率化

タル化基盤」の実現だ。一例を挙げると、NTT Comが扱う重要な情報の 1つ、契約書のOCR化がある。契約書のような紙ベースの情報を OCRでデジタル化することにより、人による入力の手間とミスを減らすことができる。また、チャットボットと AIを連携させ自動応答するような仕組みもすでに存在している。「RPAの対象は『手作業領域』であるのに対し、チャットボットやAIが対象とするのは『意思決定領域』です。OCRやチャットボットなどによるコグニティブ(認知)と、AIによる判断、RPAによる手作業の自動化を掛け合わせることで、仮想的な労働者、いわゆるデジタルレイバーのようなものへと進化させることを目指しています。」(佐藤氏)

も、コストをかけることなく実現可能になる。システム部は自社のクラウドサービス EnterpriseCloudを活用し、各種 RPAを統合的に管理する仕組みを「エンタープライズ RPA」(図 2)としてまとめており、ショーケース化を視野に入れている。

RPA活用を推進するチームは「業務プロセス改善」の意味も込め BPD

(Business Process Digitalization)チームと呼ばれている。目指しているのは RPA 活用だけではなく、チャットボットや AI、OCRなども活用し、これまでシステム化が困難とされていた業務プロセスをデジタル化するための「業務プロセスデジ

自動化に留まらず「デジタルレイバー」へと進化させる

エンタープライズRPA クラウド環境

従来型(RDA)

システム操作

‹C› バックグラウンド型 スケジュール実行

外部システム連携

受発注

電子決裁

調達管理

旅費申請・ ・ ・

エンタープライズRPA

クライアント

受発注受発注受発注

電子決裁電子決裁電子決裁

調達管理調達管理調達管理

旅費申請旅費申請・・・

社内システム

業務PC 仮想ロボ

バックグラウンド型 外部システム連携バックグラウンド型

仮想ロボ‹B› 仮想ロボット型

クラウド環境

‹C› スケジュール実行飼いロボ

管理統制 サーバ ‹A›

デスクトップ型 飼いロボ

エンタープライズRPA

‹A›デスク

リモート実行

RDS接続 システム操作

鈴を付ける

野良ロボ

図2 エンタープライズ RPA