クラウド・ コンピューティングの 現実解 - Oracle...Oracle Magazine 日本版 vol.5...

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SEPTEMBER 2010/ORACLE MAGAZINE 日本版Vol.5 ORACLE.CO.JP/ORACLEMAGAZINE 注目の新テクノロジー、クラウド・コンピューティング。だ が、その利用を通じた次世代コンピューティング環境実現 までの道のりは決して平坦ではない。特集では、現在のク ラウド・コンピューティングが抱える課題と今後の方向性を 示唆していくとともに、オラクルのクラウド・コンピューティ ングに対するスタンス、および適用可能なソリューションに ついて解説する。 システム構築事例 ── 伊藤園、中長期経営計画の実現に向け、 Oracle EBSをビッグバン導入/28 ユーザー事例&パートナー企業探訪 ── 医療情報の柔軟かつ多様な分析を実現する BI システムの構築により病院経営と 研究支援の両面でさらなる効率化を推進 【医療法人財団 白十字会】/30 特集 バーチャル・エンタープライズ オラクルが提供する仮想化ソリューションの全貌 企業情報システムにとってさまざまなメリットをもたらす 仮想化。先 進的な導入事例を取り上げながら、オラクルによる仮想化ソリューショ ンの全貌を紹介していく。 特別企画1 オラクルの エンタープライズ・パフォーマンス マネジメント・ソリューション オラクルが提供する エンタープライズ・パフォーマンス・マネジメント・ ソリューションは企業・組織におけるデータの収集と集約を促進し、計 画立案や予測、実行、報告といった過程を大幅に効率化するための分 析環境を提供する。 特別企画2 クラウド・ コンピューティングの 現実解

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  • SEPTEMBER 2010/ORACLE MAGAZINE 日本版Vol.5ORACLE.C

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    Copyright@

    Oracle C

    orporation Japan発

    行編

    注目の新テクノロジー、クラウド・コンピューティング。だが、その利用を通じた次世代コンピューティング環境実現までの道のりは決して平坦ではない。特集では、現在のクラウド・コンピューティングが抱える課題と今後の方向性を示唆していくとともに、オラクルのクラウド・コンピューティングに対するスタンス、および適用可能なソリューションについて解説する。

    システム構築事例 ── 

    伊藤園、中長期経営計画の実現に向け、

    Oracle EBSをビッグバン導入/28ユーザー事例&パートナー企業探訪 ── 

    医療情報の柔軟かつ多様な分析を実現する

    BIシステムの構築により病院経営と

    研究支援の両面でさらなる効率化を推進

    【医療法人財団 白十字会】/30

    特集

    バーチャル・エンタープライズオラクルが提供する仮想化ソリューションの全貌企業情報システムにとってさまざまなメリットをもたらす「仮想化」。先進的な導入事例を取り上げながら、オラクルによる仮想化ソリューションの全貌を紹介していく。

    特別企画1

    オラクルのエンタープライズ・パフォーマンスマネジメント・ソリューションオラクルが提供する「エンタープライズ・パフォーマンス・マネジメント・ソリューション」は企業・組織におけるデータの収集と集約を促進し、計画立案や予測、実行、報告といった過程を大幅に効率化するための分析環境を提供する。

    特別企画2

    クラウド・コンピューティングの現実解

  • ありがとうウェンディ

     2010年 6月1日、米国に続き日本でも日本オラクルとサン・マイクロシステムズの事業統合が完了。

    「Software. Hardware. Complete.」というコーポーレート・メッセージのもと、「アプリケーションからディスク

    まで」幅広い製品群をご提供できるようになりました。

     ここで、私から皆様にお約束したいことが 2つあります。1つ目は、ご愛顧いただいているサーバーや

    ストレージ、オペレーティング・システムに代表されるサン製品について、「オープンな技術」を継承し、

    今まで以上の研究開発投資を計画して参ります。これにより、一層お客様にご評価いただける製品群を

    提供できると確信しております。そして2つ目のお約束として、オラクルとサン・マイクロシステムズの統合

    による効果を最大化させて参ります。具体的には、双方の技術を融合させた、オラクルならではの

    ソフトウェア・ハードウェア統合型ソリューションをご提供していくということです。その一例が

    「Oracle Exadata」です。すでに業界を越えて、ご採用いただいた実績が数多く出て参りました。当製品は、

    あるお客様において、数十時間もかかっていたバッチ処理をわずか数分に短縮するといった劇的な

    パフォーマンス向上をもたらし、経営のニーズに高次元でお応えすることができました。

     ソフトウェアとハードウェアの統合は、製品のみならず人材面においても進行しております。双方の

    エンジニア・チームはもちろん、営業スタッフ、サポートやコンサルティング・チームのコラボレーションも

    次々と実現されている次第です。今後とも、この統合による価値の最大化に努め、お客様の課題解決に

    貢献して参る所存です。

     お客様、パートナー企業の皆様に対するコラボレーションの一環として、日本オラクルが発刊している

    メディアが「ORACLE MAGAZINE 日本版」です。誌上では、オラクル・コーポレーション(米国)が発行

    する「ORACLE MAGAZINE」の日本版として、IT戦略の立案に役立つ情報をはじめ、オラクルの製品、

    ソリューションの最新動向などをお届けしたいと考えております。本号では、クラウド・コンピューティングに

    対するオラクルの取組みを特集しているほか、Oracle E-Business Suiteの導入事例についてもご紹介して

    参ります。今後より充実した情報提供をおこなっていくためにも、本誌に対する皆様からのご意見や

    ご感想を心よりお待ちしております。

    ORACLE MAGAZINE 日本版「Software. Hardware. Complete.」のメッセージのもと統合化されたソリューションの提供でお客様の課題解決に貢献する

    ORACLE MAGAZINE 日本版日本オラクル株式会社

    専務執行役員システム事業統括 兼 事業推進統括

    大塚 俊彦

    39O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 5

    編集後記

    ■ 世間一般にクラウドは流行語のようになっていますが、皆さんはこのトレンドをどう捉えていますか?ご自身の考えをお持ちですか?今回の特集は、オラクルの「クラウド」に対する考え方を説いてみました。これからの世の中や企業の中で、ITがどういう役割/活躍をするべきなのかを常に考えていれば、流行がどうあろうとオラクルの立ち位置は変わらないような気がします。オラクルには必ずどこへ行っても先回りされている?! と感じるようなものをお伝えしていけるといいな、と思います。 (ゆ)

    ■ 季節が夏のせいか、最近、朝夕の空や雲が美しい気がします。ツイッタ̶上では、さまざまな場所で撮影されたさまざまなな色の空や雲が共有されていて、この新しい技術が現実の生活の中に急速に浸透してきていることが分かります。技術は、技術のための技術ではなく、実際に使われて初めて活きてくるものであり、「クラウド」という技術も単なる流行語ではなく、現実解を手にして初めて、活きてくる=使えるものになると思います。オラクルからの現実解はいかがでしたか? (北)

    ■ クラウド・コンピューティングが注目を集める中で、それをいかに自社の ITインフラに取り入れていくか、悩んでいる情報システム担当者は少なくないはずです。まさに“雲をつかもうとしている”という状況にあるのではないでしょうか。今回の特集では、オラクルのクラウド・コンピューティングに対する取り組みを取り上げました。少しでも“雲を晴らす”ことができたのならば、幸いです。 (伊)

    ORACLE MAGAZINE日本版 Vol.5

    「ORACLE MAGAZINE 日本版 Vol.5」はいかがでしたでしょうか。ORACLE MAGAZINE 日本版では今後も読者の皆様のご要望にお応えし、より充実した内容をお届けするためにも、ぜひ皆様からのご意見、ご感想をお待ちしております。

    E-mail:[email protected]

    「ORACLE MAGAZINE 日本版 Vol.5」のご感想、ご意見をお寄せください

    ORACLE MAGAZINE 日本版 第5号発行日 2010年9月1日発行編集・発行 日本オラクル株式会社 マーケティング本部 〒107-0061東京都港区北青山2-5-8オラクル青山センター TEL:03.6834.6666(代表)

    CopyrightⒸ 2010,Oracle. All rights reserved.OracleとJavaは、Oracle Corporationおよびその子会社、関連会社の米国およびその他の国における登録商標です。文中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標である場合があります。本文掲載の記事、写真、図表の無断転載を禁じます。

    ORACLE MAGAZINE 日本版に関するお問い合わせ、送付先の変更、および停止についても上記Eメールにてご連絡をお願いいたします。その際、お名前・勤務先住所・会社名・所属・役職・勤務先電話番号・Eメールアドレスを必ずご明記ください。

     日本オラクル株式会社の社員犬ウェンディ(2003年1月6日生まれ、享年7歳)が病気のため2010年7月1日午前4時30分に他界しました。 ORACLE MAGAZINEの人気企画で、常に皆様からのご要望も多かった

    「社員犬Wendyのオフィス探犬隊」はお休みいたします。 これまで皆様に可愛がっていただき、本当にありがとうございました。ウェンディに代わり、御礼申し上げます。

  • O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 5 3

    クラウド・コンピューティングの現実解

    戦略立案、計画、実行──成功を導く分析を実現する

    オラクルのエンタープライズ・パフォーマンスマネジメント・ソリューション

    デスクトップからデータセンターまで──オラクルが提供する仮想化ソリューションの全貌

    バーチャル・エンタープライズ

    伊藤園、中長期経営計画の実現に向け、Oracle EBSをビッグバン導入継続的成長を促進するための事業基盤を整備

    特別企画1 ── 16

    特集── 04

    特別企画2 ── 24

    システム構築事例 ── 28

    本誌は、オラクル・コーポレーション(米国)発行「ORACLE MAGAZINE」に掲載された記事を抜粋、翻訳、および再構成したものと、日本オラクルが独自に企画編集した記事で構成しています。

    Vol.3 MARCH・2010

    企業情報システムにとってさまざまなメリットをもたらす「仮想化」。先進的な導入事例を取り上げながら、オラクルによる仮想化ソリューションの全貌を紹介していく。

    注目の新テクノロジー、クラウド・コンピューティング。だが、その利用を通じた次世代コンピューティング環境実現までの道のりは、決して平坦ではない。本特集では、現在のクラウド・コンピューティングが抱える課題と今後の方向性を示唆していくとともに、オラクルのクラウド・コンピューティングに対するスタンス、および適用可能なソリューションについて解説する。

    オラクルが提供する「エンタープライズ・パフォーマンス・マネジメント・ソリューション」は企業・組織におけるデータの収集と集約を促進し、計画立案や予測、実行、報告といった過程を大幅に効率化するための分析環境を提供する。

    ORACLE MAGAZINE日本版 VOL.5 SEPTEMBER 2010 Contents

    ユーザー事例&パートナー企業探訪 ──30医療情報の柔軟かつ多様な分析を実現するBIシステムの構築により病院経営と研究支援の両面でさらなる効率化を推進医療法人財団白十字会株式会社NSソリューションズ西日本

    Topics from Oracle ──34高い技術力で守られる安全で快適な空の旅全日空のITシステム基盤を支える日本HPのORACLE MASTER Platinum全日本空輸株式会社全日空システム企画株式会社日本ヒューレット・パッカード株式会社

    コラム&ニュースNEWS&TOPICS──36

    Cover Illustration : I-hua Chen

  • 特集

    4 O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 5

    インターネットを介してソフトウェアやハードウェア

    をサービスとして提供する、注目すべきトレンドのテ

    クノロジーがクラウド・コンピューティングだ。その

    企業における利用を後押しすべく、オラクルはパブ

    リック・クラウドやプライベート・クラウドなど、さま

    ざまな形態における製品ラインナップとソリューショ

    ンを提供してきた。本特集では、オラクルが推進す

    るクラウド・コンピューティングへの取組みをレポー

    トするとともに、企業が将来的なクラウド・インフラ

    の導入をおこなうにあたっての現実解を探っていき

    たい。

    プライベート、パブリック、そしてハイブリッド──。次世代クラウドの実現を支援するオラクルの取組みとは

    特集

    PART 1

    クラウド・コンピューティングの“現実解”

  • Illustration by I-hua Chen

    クラウド・コンピューティングの“現実解”

    5O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 5

    プライベート、パブリック、そしてハイブリッド──。次世代クラウドの実現を支援するオラクルの取組みとは

    オラクルの技術が支えるクラウド・コンピューティング活用事例「導入のポイントとメリット」

    PART 2

  • 特集

    クラウドの実現に向けた現実的な“解”とは

     企業システムの今後の在るべき姿とは、果たしてどのようなものなの

    か。戦略的なIT投資を推し進める上で、この問いに対する正しい“解”

    を導き出すことが、いずれの企業においてもきわめて重要な経営課題と

    なっている。ITが業務基盤としてこれほど浸透したなかで、ITシステム

    とビジネスとを切り離して考えることは、もはや不可能だからだ。

     オラクル・コーポレーション(米国)で社長を務めるチャールズ・E・フィリ

    ップス Jr.は2009年、日本経済新聞主催による世界経営者会議の壇上

    で、冒頭の疑問に対する今後のITシステムの潮流を提示した。いわく、

    システム開発は「構築型」から「設定型」へ。プロジェクト期間は「数年」

    から「数カ月」へ。インテグレーションは「複雑」から「簡素化」へ。各種

    のITリソースは「拡散」から「集約」へ。これらを総じて考えれば、ITシ

    ステムは今後「作らないシステム」を指向することになる。

     こうした流れのなか、注目を集めている新テクノロジーが“クラウド・コ

    ンピューティング”である。

     もっとも、その利用を通じた次世代コンピューティング環境の実現まで

    の道のりは決して平坦ではない——。日本オラクル テクノロジー製品事

    業統括本部兼クラウド&EA統括本部常務執行役員/統括本部長の

    三澤智光は、そう強調する。その理由の1つとして、“クラウド・コンピュ

    ーティング”という言葉の定義の不明確さにあるという。

     「一言でクラウド・コンピューティングといっても、そのなかにはさまざま

    な技術が包含されています。企業システムにクラウド・コンピューティング

    を適切に取り入れていくためには、まずは個々の技術やサービスを的確

    に把握しておくことが欠かせません」

     対してオラクルは、3つの側面から企業におけるクラウドの利用促進を

    サポートしてきた(図1)

     第1に挙げられるのが「SaaS(Software as a Service)」プロバイダー

    としての側面である。オラクルがSaaS型CRMアプリケーション「Siebel

    CRM On Demand(現、Oracle CRM On Demand)」の国内提供に

    乗り出したのは2006年10月のこと。以来、ビジネス・コラボレーション・ツ

    ール「Oracle Beehive」といったアプリケーションの拡充とともに、マネー

    ジド・アウトソーシング・サービスである「Oracle On Demand」のサービ

    スの拡張に力を入れてきた。今ではそれらの事業規模は数百億円規模

    に達し、SaaSプロバイダーとしてリーディング・カンパニーの一角を担うま

    でに成長を遂げている。

     また、パブリック・クラウド・プロバイダーに対する“Enabler”としての側

    面も見逃すことができない。実はアマゾンやラックスペースなどすでにパ

    ブリック・クラウド・プロバイダーとして成功を収めている企業の約8割に

    おいて、オラクルの技術が広く利用されている。

     そして、プライベート・クラウドを構築するための製品提供もいち早く

    着手し、多くの顧客も支援してきた。プライベート・クラウドを活用したグ

    ローバル・シングル・インスタンス化プロジェクトを進めるヒューレット・パッ

    カードも同社の顧客の1つだ。同様に、グローバルキャリアの英国BT

    (旧社名:ブリティッシュ・テレコミュニケーションズ)や、ドイツ銀行など、国

    内外の大手企業もオラクル製品のユーザーに名を連ねる。

     「私たちはこれまで、顧客のニーズにも長らく耳を傾け、さまざまなア

    プローチでクラウド・コンピューティングの実装に取り組んで参りました。

    そこでの豊富なノウハウがあるからこそ、オラクルは経営課題を解決す

    プライベート、パブリック、そしてハイブリッド──。次世代クラウドの実現を支援するオラクルの取組みとは日本オラクルは、企業におけるクラウド・コンピューティングの利活用をテーマにしたイベント「Oracle Cloud Computing Summit」を開催。その基調講演で日本オラクルの常務執行役員テクノロジー製品事業統括本部長兼 クラウド&EA統括本部長を務める三澤智光は、同社のクラウド戦略を披露した。ここでは、その講演内容に基づきながら、現在のクラウド・コンピューティングが抱える課題と今後の方向性、そして、オラクルのクラウド・コンピューティングに対するスタンス、および適用可能なソリューションについて、その概要を紹介していく。

    Part1

    O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 56

  • クラウド・コンピューティングの“現実解”

    るための現実的な“答え”として、さまざまな形態のクラウド・コンピューテ

    ィングを提示することができているのです」(三澤)

    クラウドの将来は“ハイブリッド”型へと進化

     企業がクラウド・コンピューティングの利用を通じて期待するものは次

    の二つに集約される。容易で迅速なシステムの立ち上げに代表される

    「スピード/柔軟性の向上」と、運用費の削減をはじめとした「コスト効

    果の向上」だ。事実、パブリック・クラウド・サービスを利用すれば、サー

    ビスによっては、わずか数分後には指定したリソースの利用環境を整備

    でき、1時間当たり数セントというきわめて低廉なコストで利用できるよう

    になる。

     だが、現時点では、パブリック・クラウド・サービスが用いられている領

    域は、開発系や情報系、CRM、SFAなど企業システムの一部に限ら

    れているのが実情だ。情報系にせよ勘定系にせよ、事業継続性を担保

    するためには高セキュリティ、高パフォーマンス、高可用性を確保するこ

    とが不可欠となる。この点で、パブリック・クラウドに懸念を示す企業は決

    して少なくない。今後のミッションクリティカル分野での利用拡大にあたっ

    ては、この課題を解決する手法を見出すことが欠かせない。

     単一企業グループ内のみで利用するプライベート・クラウドであれば、

    自社のシステム部門が運用/管理をおこなうことで、パブリック・クラウド

    と比較し、さらに高いセキュリティや高可用性を確保することも可能と

    なる。

     そこで、将来的なクラウド・コンピューティングの導入を見据えるにあた

    っては、システム要件やコスト、セキュリティ等に応じてパブリックとプライ

    ベート・クラウドを使い分けることが重要となるわけだ。すなわち、パブリ

    ックとプライベートの2つのクラウドを必要に応じて使い分ける「ハイブリッ

    ド・クラウド」である(図2)。

    ハイブリッド・クラウドを見据えたプライベート・クラウドの導入が不可欠

     このようなハイブリット・クラウドの実現を見据えたクラウド・コンピューテ

    ィングの導入に際しては、既存資産を生かしつつ徐々に移行していくの

    が重要となる。企業は、効果的なクラウド導入の現実解として、プライベ

    ート・クラウドの構築からスタートしていくことが肝要となるだろう。

     一般にプライベート・クラウドといえば、「仮想化技術」をベースにITイ

    ンフラをサービスとして提供する、「プライベートIaaS型」のものが想起さ

    れがちだ。対して、今後、利用が進むと予測されるのが「プライベート

    PaaS型」のモデルである。

     「プライベートIaaS型はアプリケーションごとにデータベースやアプリケ

    ーション・サーバーが必要となり、システムが複雑化する可能性がきわめ

    て高いと予想されます。対してオラクルが提案するプライベートPaaS型

    のモデルは、それらを標準化したプラットフォームに格納し、アプリケーシ

    ョンだけをシェアして利用する仕組みをとっています。これにより、運用

    の手間が大幅に削減され、開発生産性も高められるようになるのです」

    (三澤)

     従来、ITシステムはアプリケーションごとに専用のハードウェアで構築

    され、そのことがシステム間連携の困難さを招いてきた。だが、プライベ

    図1:クラウド・コンピューティングにおけるオラクルの3つの立場

    ■オラクルは、SaaSプロバイダー(パブリック・クラウド)

    ■オラクルは、パブリック・クラウド・プロバイダーに対するEnabler

    ■オラクルは、プライベート・クラウド構築に対する製品提供

    ユーザー企業の一例

    サービスの一例

    ユーザー企業の一例

    ・Oracle On Demand・Oracle Beehive On Demand・Oracle CRM On Demand

    ・Rackspace Hosting・Amazone Web Services

    ・Hewlett-Packard ・BT・Deutsche Bank ・Credit Suisse

    O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 5 7

  • 特集

    である。グリッドを利用することで、ハードウェアの可用性と性能を飛躍

    的に高められるようになる。こうしたことから、いわば仮想化は、IT部門

    の利便性を向上させるための技術、グリッドはユーザー部門の利便性

    を向上させる技術に位置づけることができる(図3)。

     では、仮想化とグリッドはいかに使い分けるべきなのか。この疑問を解

    くためのヒントはサーバー・リソースの平均使用率にある。

     仮想化環境では、複数の論理サーバーを稼動させるために、高性

    能なサーバーを利用せざるを得ない。だが、そのためにリソースの余剰

    を生み出しやすく、結果的にシステムのROI(return on investment)

    を低下させる要因にもなっている。対してグリッドでは、コモディティ・サ

    ーバーを利用した段階的なシステム増強により、柔軟かつ適切にリソー

    スを増強でき、ひいてはコストも最適化される。

     「仮想化を用いた場合には、確かにハードウェアを集約でき、その分、

    運用コストを大幅に削減できるものの、集約されているが故にシステム

    障害に直面した場合には復旧に多大な時間が必要になります。しかし、

    グリッドを併用し、データベースやミドルウェアなどを共用すれば、リソー

    スの使用効率が必然的に高まり、何台ものサーバーが同時稼動してい

    ることから万一のシステムダウンも防ぐことができます。したがって、事業

    継続性とシステム保守作業の容易化を実現する上で、『仮想化+グリッ

    ド』の手法こそ現実的な“解”に位置づけられるのです」(三澤)

    ート・クラウドの概念をシステムに取り入れた際には、インフラ・レイヤーと

    アプリケーション・レイヤーが疎結合な関係となり、ひいては柔軟性を飛

    躍的に向上することができる。さらにセルフサービスやポリシーベースの

    リソース管理の概念を取り入れ、そのメリットを最大限に享受できる環境

    を実現し、必要に応じてパブリック・クラウドの利用環境も整備する。こう

    したハイブリッド型システムこそ、今後の企業における次世代コンピュー

    ティング環境、目指すべきクラウド・コンピューティングの将来像と言える

    だろう。

    クラウド・コンピューティングを実現する“仮想化”+“グリッド”のテクノロジー

     では、ハイブリット・クラウドを念頭においたプライベート・クラウドの導

    入にあたり必要となるテクノロジーにはどのようなものがあるだろうか。ク

    ラウド・コンピューティングの要素技術として広く知られるものが「仮想化」

    だ。1つの物理サーバーを複数の論理サーバーにみたてて利用できるよ

    うにする仮想化は、ハードウェア資源の有効活用のみならず、環境構

    築にあたってのスピードの向上も実現する。

     仮想化に加えて、クラウド・コンピューティングの要素技術となるもの

    が、複数の物理サーバーを1つの高性能サーバーに見立てる「グリッド」

    図2 ハイブリッド・クラウドへ向けた企業システムの進化

    サイロ型 共通基盤化 プライベート・クラウド ハイブリッド・物理サーバー・専用環境・静的・ヘテロ環境

    ・仮想化・シェアードサービス・動的・標準化された部品

    ・セルフサービス・ポリシーベースの リソース管理・従量課金

    ・パブリック・クラウドとの 連携・相互運用性・クラウド・バースティング

    App1 App2 App3

    App1 App2

    Private PaaS

    Private IaaS

    App3 App1 App2

    Private PaaS

    Private IaaS

    App3 App1 App2

    Private PaaS

    Private IaaS

    App3

    SaaS IaaS PaaS

    SaaS

    IaaS

    PaaS

    Virtual Private Cloud

    パブリック・クラウド

    パブリック・クラウドの進化

    プライベート・クラウドへの進化

    ハイブリッド

    O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 58

  • クラウド・コンピューティングの“現実解”

     そして、物理環境と仮想化環境両方の管理、アプリケーションからディ

    スクまでのスタック全体にまたがった管理をおこなうための運用管理ツー

    ルとしては「Oracle Enterprise Manager 11g」が提供されている。同

    ツールによって動的なキャパシティ調整やセルフサービス、従量課金等の

    機能を最大限活用した、高度なプライベート・クラウド環境が実現される。

     加えて、より強固なクラウド基盤の構築に向け、オラクルが近い将来

    の発表を予定している新製品が「Oracle WebLogic Virtualization

    Option」だ。一般に仮想化環境では仮想化ソフトウェアとアプリケーショ

    ンの間で稼動するOSこそが、パフォーマンスのボトルネックとなってき

    た。同製品は仮想化ソフトウェア上で直接Javaエンジンを稼動させるア

    プローチによって、この課題を抜本的に解決するものだ。

     実際に、Oracle WebLogic Virtualization Optionを用いることで、

    仮想化環境向けにチューニングされた従来型のシステムよりも30%程度

    の処理速度の向上が、さまざまなテストによってすでに実証されている。

    OSの膨大な設定ファイルが不要になることから、JVM層までの必要容

    量が1ギガバイト(GB)から50メガバイト(MB)にまで大幅に削減されると

    ともに、OSに起因するセキュリティの脆弱性もすべて払拭される。

    「OSの層を取り除くことでシステムの構造をきわめて簡略化でき、開発

    作業の負荷を大幅に軽減することもできます。ひいては人的なミスの削

    減も見込め、さらにセキュリティもはるかに強固になることで、これまで困

    アプリケーションからインフラまで幅広い製品群を提供

     これまでの説明を踏まえ、効果的なクラウド・コンピューティング導入を

    実現するため、オラクルが提供している製品群を紹介していこう(図4)。

     まず、アプリケーション・グリッドを構築するための代表的な製品が

    「Oracle WebLogic Server」だ。同製品は何百、何千台もの物理サ

    ーバーを論理的に1つのサーバーとして扱うことを可能にしつつ、きわめ

    て高い拡張性と可用性を確保するものと位置づけられる。

     「Javaを用いたグリッド環境の弱点の1つにガベージコレクションを挙

    げることができますが、オラクルのJRockit Real Timeはガベージコレク

    ションの影響を平準化/極小化することに成功した数少ないJavaVMで

    あり、すでに世界中で多くの導入実績を誇っています。加えてJavaVM

    はブラックボックスになりがちですが、オラクルの技術を用いることで障害

    直前までのJavaVMの挙動を的確に可視化することで、障害原因追究

    と復旧に要する時間や労力を少なくすることができます。」(三澤)

     データベースとストレージのグリッドを構築するにあたっては、「Oracle

    Real Application Clusters(Oracle RAC)」やOracle Databaseを導

    入することで、ストレージ層を仮想化するのに必要とされる機能

    「Automatic Storage Management」を無料で利用できる。

    図3 クラウド・コンピューティングにおける要素技術と利用目的

    複数の仮想化されたリソース

    仮想化ソフトウェア

    シングルの物理リソース(ハードウェア)

    主にIT部門の利便性を向上させる

    ・1つのリソースを複数のリソースに分割して見せる・ハードウェアとソフトウェアの分離独立【利用目的】ハードウェア資源を有効活用する環境構築のスピードを向上する

    ユーザー仮想化

    単一に仮想化されたリソース

    グリッド・ソフトウェア

    複数の物理リソース(ハードウェア)

    主にユーザー部門の利便性を向上させる

    ・複数のリソースを1つのリソースに集約して見せる

    【利用目的】可用性と性能を向上させる

    ユーザーグリッド

    O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 5 9

  • 特集

    難だった基幹系システムへの適用も進めやすくなるのです」(三澤)

    システムにクラウドを適用する新たな仕掛け

     ただし、一定規模以上のシステムは多層/多重化されるシステム構

    成が一般的であり、仮想化技術を活用して迅速なシステム展開をおこ

    なうにあたっては一筋縄ではいかなかったのが実情だ。ミドルウェアとデ

    ータベースとの接続の再定義や、各サーバー間をクラスタ構成にするた

    めの作業が必要となるからだ。

     この問題の解決に向けたアプローチが、「複雑なシステム環境を2つ

    の構成要素に分けて考える」(三澤)というもの。具体的には、システム

    を構成するミドルウェア、データベースといったシステム構成部品を「VM

    テンプレート」として用意し、次に、各システム構成部品に割り当てる

    CPU、メモリなどのサーバー・リソースの容量や接続定義などのシステ

    ム構成情報を「メタ・データ」としてそれぞれ用意。デプロイメント・エンジ

    ンがこの2つを組み合わせ、事前に定義された構成情報に従いシステ

    ム全体をサーバー環境に自動的に展開するというわけだ。作業を対話

    式のウィザードで進めるための「Oracle Virtual Assembly Builder」

    も、リリースする予定なのだという。

     「従来であれば仮想化環境を用意し、OSを載せた上でデータベー

    ス、ミドルウェアをインストール、設定する作業が必要とされていました。

    ですが、オラクルではOSやアプリケーションが乗ったVMのイメージをイ

    ンターネット経由で提供しています。それらの利用を通じて、作業を大幅

    に軽減できるようになります」(三澤)

     開発環境から本番環境へ、また日本国内で稼動しているシステムを

    海外の各拠点へ展開させる際には、システム構成情報のみを変更する

    だけで、容易且つ、迅速にシステムを展開することができるわけだ。

     「Oracle Enterprise Managerの最新版で、仮想化環境における

    サービスレベルを自立的に維持する仕組みの提供を予定しています。

    CPUやメモリ、ストレージの使用状況を継続してトラッキングできることか

    ら、サービスの利用量に応じた従量課金の仕組みも容易に実現できるよ

    うになります」(三澤)

    超高速処理のOracle Exadataクラウド基盤を実現

     そして企業におけるさらなるクラウドの利用を後押しする製品となるも

    のが、2009年1月から販売を開始した「Oracle Exadata」だ。「Oracle

    Exadataは当社にとって初のハードウェア製品です。そのコンセプトは、

    ハードウェアとソフトウェア双方の利点を完璧に融合させたもの、と言えま

    す。事業統合により一体化したサン・マイクロシステムズのハードウェア・

    図4 クラウド・プラットフォームを具現化するオラクルの製品群

    アプリケーション・グリッド・Oracle WebLogic Server・Oracle Coherence In-Memory Data Grid・Oracle JRockit Real Time・Oracle Tuxedo

    データベース・グリッド・Oracle Real Application Clusters ・Oracle In-Memory Database Cache・Sun Oracle Database Machine

    ストレージ・グリッド・Automatic Storage Management・Oracle Exadata Storage Server

    インフラストラクチャ・Oracle VM・Oracle Enterprise Linux

    運用管理・Oracle Enterprise Manager

    DataWarehouse

    Sales App ERP App Custom App

    アプリケーション・グリッド

    データベース・グリッド

    ストレージ・グリッド集中/一元管理

    O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 510

  • クラウド・コンピューティングの“現実解”

    テクノロジーの実装により、さらなる機能強化も図られています」(三澤)

     その構成は「まさにグリッドの集大成」(三澤)である。合計8台のデー

    タベース・グリッドと14台のストレージ・グリッドが1つの筐体内に収容され

    る。それらはスーパー・コンピューター並みの40Ggpsのインフィニバンド・

    スイッチで接続されている。これにより圧倒的な処理速度が実現され、1

    時間30分を要していたクエリが1分に、4時間のバッチ処理が10分に、

    EUC処理が20分から30秒にまで短縮されるなど、その驚異的な能力

    はすでに多くの企業で実証済みだ。また、SQL処理に要する時間が短

    縮されれば電力使用料も当然削減される。ストレージの集約を通じ、単

    位面積あたりの設置コストや運用コストの削減も見込むことができる。

     「これほど高い処理能力を備えたOracle Exadataであれば、ERP

    やCRMなど用途の異なる複数のデータベースを統合するマルチ・テナ

    ント型のプラットフォームとして利用できます。筐体にサーバーを追加する

    ことで、処理能力のリニアな増強がおこなえます。Oracle Exadataの

    利用を通じ、クラウドのプラットフォームを容易に整備できるわけです」

     処理能力の圧倒的な高さはビジネスにも大きなメリットをもたらす。受

    注から配送までの期間を短縮できれば、顧客満足度の向上と在庫削

    減の双方も実現される。また、より多くの過去データを基に売れ筋商品

     本特集ではオラクルによる、プライベート・クラウド構築のためのソリューション群について主に解説してきたが、企業が求める多様なクラウド・コンピューティングへのニーズに対応するためにも、パブリック・クラウド・サービスの提供にも注力している。その代表的なサービスが、「Oracle On Demand」だ。Oracle On Demandは、SaaSアプリケーションとマネージド・アプリケーションの豊富なポートフォリオを提供。リスクの軽減とコストの削減を実現する一方で、迅速なビジネス成果をもたらす。 Oracle On Demandによって提供されているサービスには、以下のメニューがある。

    ●ホスティングおよびマネージド・アプリケーション・Oracle E-Business Suite On Demand・PeopleSoft Enterprise On Demand・JD Edwards EnterpriseOne On Demand・Oracle Hyperion On Demand・Oracle Technology On Demand・Oracle On Demand for Siebel CRM・On Demand for Business Intelligence・Oracle SaaS Platform On Demand・On Demand for U.S. Federal Government・Oracle Markdown Optimization On Demand・Oracle Transportation Management On Demand・Oracle Beehive On Demand

    オラクルが提供するパブリック・クラウド・サービス●SaaS型アプリケーション

    ・Oracle CRM On Demand・Oracle Beehive On Demand

     以上、提供ラインナップを一覧で挙げたが、Oracle On Demandは、「Oracle Applications」「Oracle Fusion Middleware」および

    「Oracle Database」といったオラクル製品群のスタック全体を用意しており、企業のパブリック・クラウド活用を強力にサポートしている。 こうした幅広いメニュー体系と実績が評価され、実際に Oracle On Demandは「マネージド・アウトソーシング・ベンダートップ50」において第2位を獲得している。 先に掲げてきたアプリケーション・サービスのみならず、システム・サポートにおけるサービスとして提供されているのが、「My Oracle Support」だ。これは、ユーザー固有のシステムの問題に合わせた運用サポートを可能にすることで、問題解決の迅速化だけでなく、未然防止でシステム管理にまつわるコストを削減する次世代レベルのサポート・ポータルである。 具体的には、ネットワークを介してユーザーが導入、運用しているオラクル製品の構成情報の収集や、集中管理を実施する。そして、Web画面を介して最新のサポート情報や製品アラート、すばやくアクセス可能なパッチ情報も提供する。こうしたさまざまな機能群を用意することにより、プロアクティブな問題解決を支援するのである。

    を探ることで、売上拡大につなげることができる。トレーサビリティや各種

    の法規制にも円滑に対応できる。ある大手製造小売業ではOTLP

    (On-Line Transaction Processing)とバッチ処理の性能向上による経

    営のリアルタイム化を目的にOracle Exadataを導入。また、カルチュア・

    コンビニエンス・クラブでは、データウェアハウス系のバッチ処理データと

    OTLP系データを統合管理できる点を高く評価し、同社のポイントサー

    ビス「Tポイント」のユーザー分析基盤にOracle Exadataを採用。現

    在、システムの構築を進めている最中だ。

     「OLTP処理や、バッチ処理など、情報処理の特性ごとに専用のデ

    ータベースを用意した場合、それらを連携させる際に、処理速度が低

    下するケースがあります。しかし、Oracle Exadataでデータベースを統

    合することにより、そのような事象は発生しません」(三澤)

     プライベート・クラウド構築支援のため、幅広いサービスをオラクルは

    提供し続けている。そして、サン・マイクロシステムズと一体化することよ

    り、「アプリケーションからディスクまで」の統合環境を扱えるようになっ

    た。サン・マイクロシステムズ自身もクラウドの基盤技術に関して長年に

    わたって開発を続けてきており、両者のテクノロジーが融合した今後、さ

    らなるクラウド・コンピューティング・ソリューションの拡充が期待される。

    O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 5 11

  • photo by Charty De Meer

    特集

    理、コントロールなどに関する不安を払しょくしました」

      クラウド・コンピューティングに着目しているのはエンブリー・リドル航空

    大学だけではない。クラウド・コンピューティングは、共有されたコンピュ

    ーティング・リソースへのオンデマンドによるアクセスを可能とするものであ

    り、数多くの企業や組織のIT部門で注目を集めている。

     とりわけ関心を集めているのは、自社独自のクラウド、つまり社内で運

    用、管理される「プライベート・クラウド」である。グリッド・コンピューティン

    グ、仮想化、クラスタリング、SOA、ID管理といった実証済みのテクノロ

    ジーをベースとしたこの新しいアーキテクチャは、スモールスタートから

    拡張していくことができ、ビジネスの急速な変化に対応してリソースを柔

    軟に調整するのに適している。そして、プライベート・クラウドにはパブリ

    ック・クラウドにない利点がある。たとえば、セキュリティ、データのプライ

    バシー保護、コンプライアンス、サービス品質のコントロールがより確実な

    ものとなる。オラクル・コーポレーション(米国) 製品開発担当ヴァイス・プ

    レジデント リチャード・サーワルは次のように説明する。

    「単一の組織が専用で使用するプライベート・クラウドでは、セキュリティ

    とプライバシー、コンプライアンス、法律上または契約上の義務などをし

    っかりとコントロールしながら、クラウド・コンピューティングが有する機敏さ

    と効率性を活かすことができます。高度なセキュリティが求められる大規

    模な企業では、この利点はとくに大きなものとなります」

     こうした見解は多くの企業で共有されている。オレゴン州ポートランド

    で開催された「2009年スーパーコンピューティング会議」で95人のIT担

    当役員を対象として実施された調査によれば、自社のファイアウォール

    内でクラウド・コンピューティングを展開する意向を示した回答者は85%

    近くにのぼる。調査対象となったのは製造、政府、教育などの分野の

    オラクルの技術が支えるクラウド・コンピューティング活用事例「導入のポイントとメリット」

    Part1では、オラクルのクラウド・コンピューティングに対するスタンスや、クラウドを支えるオラクルのさまざまなテクノロジーについて解説してきた。続くPart2では、先進企業によるオラクルを活用したクラウド・ソリューションの事例を題材に取り上げ、提供されたテクノロジーや製品群によってどのような問題が解決され、そしていかなるメリットがもたらされたのか、紹介していこう。

    デヴィット・ヴァウム

    Part2

    プライベート、パブリック・クラウドを統合

     プライベート・クラウドを構築し、セキュリティを確保しながらプライベー

    ト・クラウドとパブリック・クラウドを統合する。このためにオラクルのテクノ

    ロジーを使う企業や組織が増えている。 後述するエンブリー・リドル航空

    大学もそうした組織の1つだ。パブリック・クラウドのサービスとプライベート・

    クラウドのサービスを統合し、さらにそれらを学内のさまざまなアプリケーシ

    ョンと連携させるため、オラクルのミドルウェアのテクノロジーを頼りとしてい

    る。その結果、セキュアでありながら柔軟性を確保した一連のITサービ

    スを構築した。伸縮自在のキャパシティとユーザーへの高いサービスレベ

    ルが担保できたことで、業務の継続性を実現したのである。

     エンブリー・リドル航空大学は「Oracle Identity Manager」を利用

    し、絶えず変化する大量のユーザーを効率的かつセキュアに管理して

    いる。学生や教職員のアクセス権や要件の変更、設定や解除は自動で

    実行される。Oracle Fusion Middlewareに含まれるこのID管理シス

    テムは、パブリック・クラウドとプライベート・クラウドの両方のコンピューテ

    ィング・サービスに加え、アプリケーション・サービス・プロバイダによって

    提供されるホスティングされたアプリケーションの利用をも可能にする。し

    かもユーザーのオンライン利用には、一貫した整合性が確保される。

     「クラウド・サービスの魅力は低コストと便利さにありますが、アクセス

    とIDの管理、リソースの安全な提供といった課題への対処が必要にな

    ります」と語るのは、同大学でミドルウェアを担当するエリック・フィッシャ

    ー氏である。

     「オラクルのID管理ツールは、『私のデータを誰が所有しているか』と

    いった懸念や、データのセキュリティやITリソースへのアクセス許可、管

    「クラウド・サービスの魅力は低コストと便利さにありますが、アクセスとIDの管理、リソースの安全な提供といった課題への対処が必要になります」と、エンブリー・リドル航空大学でミドルウェアを担当するエリック・フィッシャー氏は語る

    O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 512

  • クラウド・コンピューティングの“現実解”

    率化させた。フィッシャー氏は、「Oracle Identity Managementを使っ

    てクラウド・システム上のすべてのアカウントをリアルタイムで作成、管理

    しています。さらにOracle Portal用に作成されたトークンのAPIメカニ

    ズムを使ってシングルサインオンも実現しています」と、話す。

     学生は大学のポータルにログインし、リンクをクリックすることで、別途

    認証を受けなくてもそれぞれのメールアカウントを利用できるようになった。

     「この仮想インフラストラクチャのおかげで、メールにアクセスしようとす

    るユーザーからのヘルプコールはずっと少なくなりました」(フィッシャー氏)

     大学では毎日2,000近いアカウントの変更が必要となるが、この作業も

    新しいID管理システムによって自動化された。以前はこの作業に少なく

    見積もっても24時間を費やしており、アカウントの更新された学生への

    配布も遅れがちだった。現在、フィッシャー氏のチームがこの作業に要

    する時間は1日に30分ほどだという。Oracle Identity Managerを通じ

    てセルフサービスのオプションが使いやすくなったこともあり、ヘルプデス

    クに寄せられるアカウント関連のコールは40%減少している。

     さらに同大学では、Oracle Virtual Directoryを使って、クラウド・ベ

    ースのスパム対策ソリューションやホスティングされたアプリケーション(フ

    ライト管理システム、セルフヘルプ/ヘルプデスクのシステム、学位監査

    システムなど)のためにアカウントと認証のサービスを用意している。

     「こうしたサービスを導入するうえでOracle Virtual Directoryは非

    常に役に立ちました。というのも、エンタープライズ・ディレクトリを大幅に

    IT担当役員であり、「クラウド・コンピューティングでもっとも心配なのはセ

    キュリティ」との回答は49%に達した。

    クラウドの中でIDを管理する

     エンブリー・リドル航空大学はアリゾナ州プレスコットとフロリダ州デイト

    ナビーチのキャンパスに加え、米国、欧州、カナダ、中東の170余りのセ

    ンターや、オンライン学習を通じて年間3万5,000人を超える学部生と大

    学院生に対して教育活動を実施している。このように多様で地理的に

    分散した教育環境の中、大学のIT部門は、キャンパスのサービスとア

    プリケーションへのセキュアなアクセスを確保するとともに、オンライン学

    習でセルフサービス化された学生や教職員のニーズに対処するという

    課題に直面している。 フィッシャー氏は言う。

     「Oracle Identity Management Suiteは、サーバーがどこに置か

    れていても、問題ありません。このソフトウェアを使うことによって、キャン

    パスの内外を問わず、メールサービスやその他のホスティングされたア

    プリケーションにシングルサインオンでアクセスできるようになりました。学

    内に置かれたディレクトリの場合と同様に、わずか数ミリ秒のうちにユー

    ザーアカウントの作成、更新、管理が実行されるのです」

     エンブリー・リドル航空大学はOracle Identity Managementを使

    い、パブリック・クラウドをベースとしたメールサービスへの認証をより効

    Private Cloud

    アプリケーションの開発者またはビルダー開発者は共有コンポーネントを使ってアプリケーションを作成し、セルフサービスによってアプリケーションを導入する

    チャージバックアプリケーションのオーナーはそれぞれの方針に基づいてキャパシティを調節し、セルフサービスでモニタリング(監視)する。さらにアプリケーションの使用状況を測定し、各部署にチャージバックする

    ユーザーアプリケーションのユーザーは必要に応じてソフトウェアにアクセスする

    プライベート・クラウドは会社や組織のファイアウォールの内側でのみ実行され、開発とシステム導入のプラットフォームとしてデータベース、ミドルウェア、開発ツールなどを含む

    セルフサービス・インターフェイス 共有コンポーネント

    Oracle EnterpriseManager

    Oracle FusionMiddleware

    OracleDatabase

    アプリケーション群

    OracleVM

    OracleEnterprise Linux

    クラウド・コンピューティングクラウド・コンピューティングはインターネットを介したサービスとしてソフトウェアとハードウェアを配布するアーキテクチャであり、企業が必要とするリソースへのアクセスが可能になる

    プライベート・クラウドの仕組み Illustration by I-hua Chen

    O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 5 13

  • 特集

    業務の多くをアウトソーシングして、戦略的に重要な業務に専念できるか

    らだ。フィッシャー氏はその一例として大学の学習管理システムを挙げ

    る。このシステムはアプリケーション・サービス・プロバイダーによってホス

    ティングされ管理されているが、ユーザーは大学のポータルを通じて直

    接アクセスできる。 「言うまでもなくアプリケーション・サービス・プロバイダ

    ーのほうが私たちよりもシステムをよく知っていますので、システムのアッ

    プグレードなどはプロバイダに任せたほうがよいのです」と同氏は言う。

     「IDとアクセスのコントロールを巡る問題さえクリアすれば、パブリック・

    クラウドからのサービスの利用は非常にコスト効率のよいものとなります。

    施設、帯域幅、データストレージなどはすでにクラウド・プロバイダーが

    用意しています。同じサービスを自前で提供しようとすれば、これらのリ

    ソースを大学側で用意する必要があります。オラクルは、クラウド・サー

    ビスをさらに有効活用していけるよう、機会を広げてくれたのです」

    進化するクラウド・コンピューティングのテクノロジー

     パブリック・クラウドとプライベート・クラウドを可能にしたのは、グリッド・

    コンピューティング、仮想化、SOA、管理自動化といった、オラクルの中

    で年月を経て進化してきた実証済みのテクノロジーだ。瞬時に追加でき

    るアプリケーションや、柔軟性のあるキャパシティなど、クラウドで実現さ

    れることのベース技術となるのは、仮想化とグリッドのアーキテクチャに加

    え、共有インフラストラクチャ上で簡単に導入、移動、拡張できる仮想ス

    タックの「イメージ」のメカニズムである。Oracle Enterprise Manager

    はグリッドが実現するダイナミックなプロビジョニングの機能を利用して、

    リソースプール全体の調整、パフォーマンスの監視、リソースのコントロ

    ールを実行する。

     アイルランドのリメリックに本社を構えるアドバンスド・イノベーションズ

    は、グローバルなサプライチェーンのネットワーク管理における世界的な

    リーダー企業である。同社はパブリック・クラウドにホスティングされている

    オラクルのソフトウェアを利用して、世界各地の顧客、供給先、さらには

    設計や製造のパートナーなどのさまざまなニーズに対応している。アドバ

    ンスド・イノベーションズにとってクラウド・コンピューティングは同社のグロ

    ーバルなビジネスを推進するエンジンともいえる。

     同社は電子製品の設計、製作、販売に向けてグローバルなサプライ

    チェーンのネットワークを構築し管理することをビジネスとしている。同社

    のIT担当シニア・ヴァイス・プレジデントであるマイケル・ヒギンズ氏は言う。

     「誰かが新しいMP3プレーヤのアイデアを当社に持ち込んだとしましょ

    う。当社はこの顧客のために設計と試作品製作の段取りを取り付けま

    す。 続いてNPI(new product introduction:新製品導入)と呼ばれる

    段階を経ます。顧客が製品に満足すれば、50万個のプレーヤの製造

    がおこなえるよう手配します。世界各地の当社のパートナーを動員し、

    顧客に代わってこのようなフローを実行しているのです」

     アドバンスド・イノベーションズは設計技術者などを直接雇用している

    修正しなくても利用者の意向に合わせた属性を迅速に設定できるように

    なったからです」とフィッシャー氏は言う。

    連携サービスを最大限に活用する

     フィッシャー氏によると、次の課題は「Oracle Identity Federation

    11g」によるクロスドメインのユーザーアクセスの実現だという。Oracle

    Identity Federation 11gはマルチプロトコルのフェデレーション・サーバ

    ーであり、大学における既存のIDとアクセスの管理システムを拡張する。

     「LDAP認証は第一世代のソリューションとしては申し分ありません

    が、今後求められるのは連携認証(federated authentication)をサポ

    ートするSAMLの使用です」と、フィッシャー氏は言う。Oracle Identity

    Federation 11gを使えば、ユーザーIDと認証情報の管理とメンテナン

    スのコストを増やさなくても、ベンダーとホスティングモデルの間でユーザ

    ーIDをセキュアに共有できるようになる。

     エンブリー・リドル航空大学はシングルサインオンのプロセスを中央に

    集中させ、キャンパス内外のどこであっても情報システムやアプリケーシ

    ョンを簡単に追加できるようにするため、「Oracle Access Manager」

    の使用を検討している。「どこかの部署が新しいアプリケーションを使い

    たいと言ってきた場合、オラクルはアカウントを管理するあらゆる選択肢

    を提供してくれるのです」と、フィッシャー氏は言う。

     こうした柔軟性によってITチームの業務効率が一段とアップする。と

    いうのも、サードパーティのアプリケーションの管理や日常のメンテナンス

    エンブリー・リドル航空大学(Embry-Riddle Aeronautical University)

    erau.edu所在地 アリゾナ州プレスコットとフロリダ州デイトナビーチ業 種 教育と研究従業員 4,310人オラクル製品Oracle Identity and Access Management Suite、Oracle Identity Management、Oracle Access Manager、Oracle Identity Manager、Oracle Internet Directory、Oracle Virtual Directory、Oracle Database、 Oracle Real Application Clusters、Oracle Portal

    アドバンスド・イノベーションズ(Advanced Innovations)

    advancedinnovationsinc.com所在地 リメリック(アイルランド)業 種 サプライチェーン管理従業員 40人オラクル製品Oracle Database、MySQL、Oracle SOA Suite、Oracle WebCenter、Agile Product Lifecycle Management Applications、Oracle E-Business Suite、Oracle Business Intelligenceソリューション

    企業プロフィール

    O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 514

  • クラウド・コンピューティングの“現実解”

    ルのコラボレーションソフトウェアのおかげで、セキュアな共有ワークスペ

    ースにCAD/CAMのドキュメントをアップロードし、このドキュメントを見

    る必要のある社員やパートナーにアクセス権限を割り当てるだけで済む

    ようになりました。バージョン管理やチェックアウトとアクセスのコントロール

    はシステムによって自動的におこなわれます。ファイルをサーバーに置く

    必要もなければ、いたるところにメールすることもありません。必要なファ

    イルはオラクルのソフトウェアを通じてクラウド内のワークスペースから取

    り出せるようになったのです」 と、話す。

    Oracle VMの活用によりインフラの迅速な立ち上げが可能に

     クラウド・コンピューティングを利用し始めたころ、アドバンスド・イノベー

    ションズはオラクルのソフトウェアの大幅なアップグレードを決定した。以

    前なら、環境をコピーし、アップグレードされたソフトウェアをテストするた

    め、余分なサーバーが必要だった。対照的に、クラウドの中では、ボタン

    をクリックするだけで既存のインフラストラクチャのクローンが作成される。

    アップグレードがうまくいったことを確かめたら、余分なインスタンスはシャ

    ットダウンすればよい。「必要なコストは、追加サーバーを使用した時間

    分の料金だけです」とヒギンズ氏。

     ヒギンズ氏は、パブリック・クラウドとプライベート・クラウドのどちらにと

    っても重要な要素として「サーバーの仮想化」を指摘する。各アプリケー

    ションを専用のハードウェアとソフトウェア上で動かそうとすれば、そのた

    めのハードウェアとソフトウェアを個別に購入、設定し、割り当てなけれ

    ばならない。仮想化されたサーバーなら、テクノロジーのスタックを仮想

    マシンのイメージとしてプリパッケージすることができる。これらのプリパッ

    ケージ資産を仮想サーバー上に迅速かつ簡単に導入し、さらにそのプ

    リパッケージを別のサーバーに複製するかまたはライブで移行して、使

    用可能なリソースを最適化できる。

     「Oracle VM」は非常に効率的なサーバー仮想化ソリューションであ

    り、インストール済みで設定済みのソフトウェアイメージの導入やこれらイ

    メージの複製とライブ移行に使用するOracle VMテンプレートをサポー

    トしている。このため、テスト環境から実働環境への移行とアップグレー

    ドが簡単になる。また、実働環境を容易に拡張できるため、作業負荷の

    急速な増加にも対応できるようになる。

     ヒギンズ氏がとくに気に入っているのは、インフラストラクチャを導入し

    拡張する際、サーバーの購入、設置、設定、割当てといった煩雑な作

    業が不要な点だ。コストを節約できるという効果はもちろんだが、ビジネ

    スでも大きな利益を得られる。 ヒギンズ氏は次のように結論付ける。

     「IT資産のほとんどをクラウドの中に置いた結果、当社のTCO(総保

    有コスト)はサーバー・インフラストラクチャにおいて40%節減されました。

    もっとうれしいのは、当社のユニークなビジネスモデルに100%適合した

    アプリケーションを配布できるようになったことです」

    わけではない。また、試作品製作のショップや自前の工場を抱えている

    わけでもない。同社が有しているのは、世界各地の有能な技術者や専

    門家との密接な関係だ。同社の約40人の社員がこれらの人材をうまく

    組み合わせて調整しているのだ。これら社員の活動の中心となるのが、

    「仮想コラボレーション」である。コンピューティング・サービスをクラウドの

    中に置く理由もここにある。「ユーザーの多くはアドバンスド・イノベーショ

    ンズの社員ではない場合が多く、アプリケーションの提供先には顧客、

    製造パートナー、供給プロセスにおけるパートナー、輸送ロジスティック

    スのパートナーなども含まれます」とヒギンズ氏は言う。

     「オラクルの卓越したミドルウェア技術は、当社のポータルを顧客やパ

    ートナーをも含むポータルへと変身させてくれました。Oracle Database

    上で動いている当社のOracle E-Business Suiteには、顧客のレコード

    や発注レコードをはじめとするすべての情報が保存されています」

    リソースをクラウド環境へ移行し管理の手間を削減する

     アドバンスド・イノベーションズは「オラクルのソフトウェアをクラウド環境

    に置いたほうがより身軽になれる」と考えた。ライセンスとサポートに関す

    るオラクルのポリシーは柔軟であり、オラクルのソフトウェアを自社のデー

    タセンターに置くこともできれば、パブリック・クラウドに置くこともできる。ヒ

    ギンズ氏は、「当社では、サーバーを持つということから完全に訣別した

    いと考えています。そうしたことから、本番アプリケーションをすべてクラ

    ウドベースで配布することが目標となっています」と説明する。

     アドバンスド・イノベーションズはオラクルのテクノロジースタックをすべ

    てパブリック・クラウドに置いている。このスタックには、「Oracle

    Database」「Oracle SOA Suite」「Oracle WebCenter」に加え、会社

    とその顧客、パートナー、仕入先間のメールを処理しコラボレーションを

    効率化するためのソフトウェアも含まれている。さらに「Orac le

    E-Business Suite」や、「Oracle Business Intelligence」ソフトウェア

    がこれに加わる日もそう遠くはないという。クラウド環境下で企業向けコ

    ラボレーション・ソフトウェアを活用することで、コミュニケーションと協業

    が一段と効率的になった、とヒギンズ氏は語っている。

     仮想インフラが同社にとってどのように役に立っているのか、アドバン

    スド・イノベーションズとその設計パートナーとの関係がどのように変わっ

    たかをヒギンズ氏に聞いた。

     「以前は次のような手順を踏んでいました。まず、当社がプリント基板

    の新しい回路図を考え出したとします。この場合、設計技術者が

    CAD/CAMのダイアグラムを組み立て、リメリックの技術者にメールで

    送信します。リメリックの技術者は新しい基板のコストやその他の仕様

    を計算し、この情報を中国オフィスの技術者に送り、さらにこれが調達

    担当者に転送されます」

     このプロセスが大きく変わったわけだ。ヒギンズ氏は、「今ではオラク

    O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 5 15

  • The Virtual Enterprise

    16 O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 5

  • 特別企画 1│バーチャル・エンタープライズ

    O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 5 17

    デスクトップからデータセンターまで──オラクルが提供する仮想化ソリューションの全貌

    企業情報システムにとってさまざまなメリットをもたらす「仮想化」。オラクルでは以前からこの仮想化テクノロジーを活用

    したソリューション群を提供してきた。さらに、サン・マイクロシステムズの統合により、「デスクトップ」から「データセン

    ター」に至る幅広い仮想化ソリューションを提供できるようになった。ここでは、先進的な導入事例を取り上げながら、オ

    ラクルによる仮想化ソリューションの全貌を紹介していこう。

    デビット・A・ケリーIllustration by I-hua Chen

    バーチャル・エンタープライズ

    特別企画1

     JPモルガン・チェースは12ヵ月の間に米国の大手投資銀行および証

    券会社であるベアー・スターンズと、米国最大の貯蓄貸付組合であるワ

    シントン・ミューチュアルを買収したのに伴い、この2つの大企業を迅速

    に統合する必要に迫られていた。

     「買収はインフラに大きな影響を与えるので、顧客や新しいデータベ

    ースを取り込む準備を常におこなっておかなければなりません。ワシント

    ン・ミューチュアルの場合のような大規模な合併交渉をおこなうときには、

    とくにそうです」と、JPモルガン・チェースの主席データベース・アーキテ

    クトであるシル・ヴィディヴェール氏は話す。ヴィディヴェール氏は社内の

    企業システム・インフラグループの一員であり、このグループは事業体か

    らの要件を集め、その要件を実現しサポートするためのインフラ・ソリュ

    ーションを設計している。ヴィディヴェール氏自身は、企業テクノロジーに

    おけるデータベースのアーキテクチャ、パフォーマンス、キャパシティ・プ

    ランニングを管理している。

     ヴィディヴェール氏と企業テクノロジーグループにとって、「グリッド」と

    「仮想化」のテクノロジーは、これらの課題に対処するための主要戦略

    となるものだった。

     「グリッドと仮想化は、合併や迅速な新組織の受入れをおこなうにあ

    たり、不可欠なテクノロジーです」と、ヴィディヴェール氏は語る。

     「これらのテクノロジーはデータセンター・フットプリントの削減、節電、

    ハードウェア使用の最大化、そして全体的なコスト効率の改善にも役立

    ちます」(ヴィディヴェール氏)

     仮想化によってもたらされるメリットを認識する企業は増えている。ま

    たサン・マイクロシステムズの買収に伴い、現在のオラクルはストレージ、

    サーバー、デスクトップの仮想化に加え、統合管理とアプリケーションか

    らディスクまでのすべてのソフトウェアおよびハードウェアスタックを仮想

    化する能力を備えた「デスクトップからデータセンターまで」という仮想化

    戦略を持っている。

     「Oracle VMは企業が仮想化の目的を達成するのに役立っています

    が、現在ではサン・マイクロシステムズとオラクルのソリューションを組み

    合わせることにより、もっとも総合的な“デスクトップからデータセンターま

    で”の仮想化と統合管理、そしてサポートを実現しています」と、オラク

    ル・コーポレーション(米国)のチーフ・コーポレート・アーキテクト、エドワ

    ード・スクリーベンは語る。

     「オラクルのこの1つのスタックを選べば、1社からサポートを受けられ

    ます。これは顧客にとって大きな利点だと考えています」(スクリーベン)

    仮想化には計画が必要

     仮想化には優れた計画、信頼性のあるインフラ、そして確固とした管

    理戦略が必要である。だが、サーバー統合やエネルギーコストの削減

    からハードウェア活用の改善まで、その見返りは大きなものだ。加えて

    ITの柔軟性、機敏性、効率という点でさらに大きな見返りを期待できる

    ため、仮想化は将来への重要な道筋とも言えよう。

  • The Virtual Enterprise

     「クラウド・コンピューティングによって、人々はより長期的なインフラへ

    の影響を考え直す必要に迫られています」と、IDCのシステム・ソフトウ

    ェア・プログラム担当バイス・プレジデント、アル・ジレン氏は述べる。

     「どのような新しいシステムを採用するにしても、それが将来のインフ

    ラ・アーキテクチャと互換性があるようにしたいはずです。クラウド・コンピ

    ューティングの導入を望むすべての企業は、その第一歩として仮想化を

    導入する必要があります」(ジレン氏)

     ジレン氏は、この数年間での仮想化における最大の変化は、ソリュー

    ションの成熟とコストの低下であると言う。

     「今日では、仮想化テクノロジーは2年前にはなかったようなパッケー

    ジングで提供されています」(ジレン氏)

     もちろん、多くの企業にとっての疑問は“何から始めるべきか”という点

    である。まずは、仮想化にはテクノロジー・インフラと企業戦略によってさ

    まざまな側面があることを理解することだ。実際、「Oracle Real

    Application Clusters(Oracle RAC)」といった長年培われてきたオラ

    クルのソリューションは、「Oracle Database 11g Release 2」のインスタ

    ンス・ケージングやサーバー・プーリングなどの新機能を活用することによ

    り、仮想化機能を提供できるようになっている。さらに、企業はOracle

    VMなどのハイパーバイザー・ベースのソリューションや、「Oracle

    Solaris Containers」などのOSに組み込まれた仮想化へも発展できる。

     だが、仮想化はもはやサーバーに限ったことではない。新たなソリュ

    ーションでは、企業は「デスクトップ(セキュリティの向上やデプロイ問題

    の削減のため)」から「ストレージ(パフォーマンス、信頼性、柔軟性の改

    善のため)」までのすべてを仮想化できる(囲み記事「デスクトップからデ

    ータセンターまで」を参照)。

     仮想化戦略を成功させるには、企業は仮想化と管理の両方に対す

    る統合的なアプローチを採る必要がある。IDCのジレン氏は、仮想化環

    境の導入を成功させることに関して、管理の重要性を強調する。

     「企業がきわめて総合的かつ一貫性を持ったシステム管理ツールを

    使っていない場合には、まずそれを始める必要があります。なぜなら、

    それが仮想化を活用していくために重要な1つの要素となるからです。

    適切な管理計画を立てずにインフラを仮想化すべきではありません」と、

    ジレン氏は強調する。

    グリッドから仮想化のメリットを得る

     JPモルガン・チェースは経営課題を克服するための戦略計画を立て

    た。この課題には「データの増加」「コンピューティング要件」「買収企業

    の統合」が含まれる。

     「当社の最大の課題の1つは、データ量の急激な増加と保存要件に

    対応することです」と、前述のヴィディヴェール氏は話す。

     「数年前は1テラバイト(TB)のデータベースは巨大であると思われて

    いましたが、今日では100TBや200TB以上のデータベースは驚くにあ

    たりません。現在、コネチカット州にある当社の1つの事業体のために

    Linux上で『Oracle Automatic Storage Management』とOracle

    RACを使い、Oracle Database 11gで200TB以上のストレージ・フット

    プリントを持つ統合データベースクラスタ環境を設計しています」(ヴィデ

    ィヴェール氏)

     このような巨大なデータ要件があるため、データベースそのものを効

    率的に管理するだけでなく、ストレージもコスト効率よく管理し、テラバイ

    トに及ぶデータを1秒未満の応答時間で顧客に提供することは重要とな

    る。これを実現するために、ヴィディヴェール氏のグループはOracle

    Database 11g Release 2の仮想化機能を活用した、より機敏性と拡張

    性が高いアーキテクチャを築き上げた。

     「私たちはOracle Database 11g Release 2テクノロジーから仮想化

    に関する従来のメリットのほとんどすべてを引き出せます」と、ヴィディヴ

    ェール氏は述べる。

     「Oracle Database 11g Release 2は大きく進歩しており、インスタン

    ス・ケージング、サーバー・プーリング、Oracle Automatic Storage

    Management Cluster File System、そしてアドバンスト・コンプレッショ

    ン(データ圧縮)などの優れた新しいテクノロジーを備えています」(ヴィデ

    ィヴェール氏)

     Oracle Database 11g Release 2により、JPモルガンではコストを削

    減しつつ、ビジネスの変更の必要性に伴う動的なコンピューティング要

    件に適応できる柔軟性のあるコンピューティング・グリッドも作成できるよう

    になった。「新機能によりインフラを最大限に活用でき、ハードウェア・リソ

    ースをさらに効率的に使うことで莫大なコストの節約になります」と、ヴィ

    ディヴェール氏は言う。

     JPモルガン・チェースでのグリッド・コンピューティングと仮想化戦略の

    もう1つの重要な要素はOracle RACであり、これは高い可用性を提供

    するだけにとどまらない。「当社には同時に約5,000セッションに対処する

    1つのデータベースがあります」と、ヴィディヴェール氏は語る。

     「私たちはOracle RACを使い、1つのトランザクションを複数のノード

    に分散させることなく、これらのセッションを複数のクラスタ・ノードに分割

    します。これらのグリッド・コンピューティング・テクノロジーを活用し、複数

    のデータベースをOracle RACクラスタ内に統合しながら、Oracle

    O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 518

    インスタンス・ケージング、サーバー・プーリング、アドバンスト・コンプレッションなどの仮想化テクノロジーにより、「Oracle Database 11g Release 2は大きく進歩しました」と、JPモルガン・チェースの主席データベース・アーキテクト、シル・ヴィディヴェール氏は語る。

    photo by Catherine Gibbons

  • 特別企画 1│バーチャル・エンタープライズ

    Databaseの自動負荷管理とリソース管理機能を使って分離と優先順

    位付けもおこなっています」(ヴィディヴェール氏)

     JPモルガンは、「Oracle Exadata」を使ってデータベース・グリッドお

    よび仮想化戦略をさらに発展させようとしている。ヴィディヴェール氏は、

    「Oracle Database Machineを使うことで、ローカルにストレージを備え

    データベースI/Oが外部に出て行かないOracle Enterprise Linuxを

    利用したクラスタに注目しています」と語る。さらに、「これはパフォーマン

    スの改善だけでなく、ストレージの節約にハイブリッド列単位圧縮を利用

    できることにもなります。その結果、テラバイトの情報を以前よりかなり効

    率的に格納でき、かつてのメインフレームやプライマリー・ストレージのよ

    うな莫大なコストもかかりません」と補足する。

     この機敏性のあるインフラの根底には、Linuxサーバーの拡張性の

    高いクラスタが存在する。「Linuxはクラスタ、コスト削減、仮想化をコ

    モディティ化するための道を開きます」と、ヴィディヴェール氏は述べる。

    O r a c l e M a g a z i n e 日 本 版 v o l . 5 19

     サン・マイクロシステムズの買収に伴い、オラ

    クルには現在、アプリケーションからディスクま

    でのすべてのハードウェアおよびソフトウェアス

    タックを仮想化して管理する総合的な仮想化ソ

    リューションがある。

    ●デスクトップ仮想化 デスクトップ仮想化は、個々のデスクトップ環

    境を物理的なマシンから切り離すことで使用す

    るすべてのプログラム、アプリケーション、プロ

    セス、データを中央で保存、および実行し、セ

    キュリティ、信頼性、メンテナンス・コスト、そし

    て管理の容易性を向上させる。

     オラクルにはデスクトップ仮想化をサポート

    する4つの製品が存在する。

    ・「Oracle Virtual Desktop Infrastructure」は、

    データセンターにホスティングされた仮想化

    デスクトップ OSの管理、ホスティング、および

    アクセスを提供する。

    ・「Oracle Secure Global Desktop」は、Windows

    PC、Mac OS Xシステム、Oracle Solarisワーク

    ステーション、Linux PC、およびシンクライアン

    トから集中化されたサーバー・ホスティング型

    の Windows、UNIX、メインフレーム、および

    ミッドレンジ・アプリケーションへの安全なア

    クセスを提供する。Oracle Secure Global

    Desktopはフルスクリーン・デスクトップ環境

    へのアクセスも提供し、管理者はサーバー・

    ベースのアプリケーションとサーバー・ホス

    ティング型デスクトップ環境の両方にアクセス

    できる単一のソリューションを利用できる。

    ・オラクルの「Sun Ray」クライアントはサーバー・

    ホスティング型仮想デスクトップを表示する低

    コストの機器である。このクライアントは「Sun

    Ray Software」や「Oracle Virtual Desktop

    Infrastructure」と連携して機能する。Sun Ray

    SoftwareはOracle SolarisやLinuxデスクトップ

    の セッション を提 供し、(O r a c l e V i r t u a l

    Desktop Infrastructure がなくても)Windows

    Terminal Serverへのリモート接続が可能であ

    る。したがって、Sun Rayシンクライアントは、

    Oracle Virtual Desktop InfrastructureやOracle

    Solaris、Linux、Windows Terminal Serverの

    セッションからSun Ray Softwareを直接介して