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Page 1: NaI - 東京工業大学...NaI 検出器による同時計測 東京工業大学理学部物理学科 柴田研究室 藤井勇紀 平成28 年3 月2 日 概要 本研究の目的は、物理実験において基礎的な技術である「同時計測(Coincidence)」

学士論文

陽電子–電子対消滅からのγ線の

NaI検出器による同時計測

東京工業大学 理学部 物理学科

柴田研究室

藤井勇紀

平成 28 年 3 月 2 日

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概 要

本研究の目的は、物理実験において基礎的な技術である「同時計測 (Coincidence)」

について学ぶと共に、22Na線源の β+崩壊によって生じる陽電子の対消滅につい

て理解することである。陽電子の対消滅は、それによって生成される 2本の γ線

を測定することを通して観測した。同時計測ではNaI検出器 2台を γ線検出器と

して使用し、それぞれの信号に対して CoincidenceをとったものをGATE信号と

して用いた。そのGATE信号が入力されている間のみNaI検出器からのアナログ

信号をADCが取得する。

実験において主に用いた線源は 22Naである。エネルギー較正のために 137Csと60Coも用いた。まず、3つの線源それぞれのシングルスペクトルを取得し、2台の

検出器それぞれでエネルギー較正を行い、光電子増倍管によるゲインが等しくな

るよう調整した。次に、線源として 22Naを用いた同時計測による 2次元プロット

を取得した。このとき、線源からみた検出器同士の成す角度 θ (Opening Angle)を

90度、120度、150度、160度、170度、175度、180度と変えていき、2本の γ線

の角度相関を測定した。

シングルスペクトルの取得では、137Csからは 662 keVの γ線、60Coからは 1173

keVと 1333 keVの γ線、22Naからは 511 keVと 1275 keVの γ線のピークが確認

できた。

同時計測による 2次元プロットの取得では、θ=180°における計数がそれ以外の

角度に比べてたいへん多くなり、2本のガンマ線はほぼ back-to-backに放出される

ことを確認できた。180°以外の角度においては、角度とともに計数が増加してい

くような依存性となった。この依存性をより詳しく理解するために、2本の γ線の

エネルギーの和についてのスペクトルを作成した。その結果、back-to-backに放

出された 2本の γ線のうち片方が途中でコンプトン散乱するという過程に起因す

ることが確認できた。

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目 次

第 1章 序論 3

第 2章 原子核と陽電子の基本的性質 5

2.1 原子核の崩壊 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

2.1.1 α崩壊 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

2.1.2 β崩壊 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

2.1.3 γ崩壊 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

2.1.4 放射能 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

2.2 陽電子の物質中でのエネルギー損失 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.3 γ線と物質の相互作用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.3.1 光電吸収 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.3.2 コンプトン効果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

2.3.3 電子対生成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

第 3章 実験器具 12

3.1 NaIシンチレータ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

3.2 NIMモジュール . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.2.1 Discriminator . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

3.2.2 Coincidence . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

3.2.3 GATE & Delay Generater . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

3.2.4 Signal Divider . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

3.2.5 FAN IN/OUT . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

3.2.6 16CH FIXED DELAY . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

3.2.7 H.V. (High Voltage Power Supply) . . . . . . . . . . . . . . 16

3.3 CAMACモジュール . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

3.3.1 ADC (Analog to Digital Converter) . . . . . . . . . . . . . . 16

3.3.2 Scaler . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

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3.3.3 TDC (Time to Digital Converter) . . . . . . . . . . . . . . . 17

3.3.4 CC-USB . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

3.4 γ線源 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

3.4.1 137Cs線源 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

3.4.2 60Co線源 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

3.4.3 22Na線源 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

第 4章 測定のセットアップ 22

4.1 NaI検出器の配置 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

4.2 測定回路 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

4.2.1 GATE信号 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

第 5章 実験結果 26

5.1 NaIシンチレータ 1台による測定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

5.1.1 エネルギー較正 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 38

5.2 NaIシンチレータ 2台による同時計測 . . . . . . . . . . . . . . . . . 40

5.2.1 2次元プロット . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 40

5.2.2 計数の角度依存性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 44

5.2.3 TDCを用いての測定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 58

第 6章 まとめ 69

付 録A 光電子増倍管と dividerの回路図 73

付 録B 実験で用いた γ線源 75

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第1章 序論

陽電子は電子の反粒子であるため、電子と厳密に等しい質量を持ち、絶対値は

電子の電荷に等しい正電荷を持つと考えられている。陽電子は、1928年にポール・

ディラックによってその存在を予言された。ディラックは非相対論的であったシュ

レーディンガー方程式を相対論的に拡張することによってディラック方程式を考案

したが、この方程式の解には負のエネルギーを持つような解が含まれていた。こ

れをディラックは反粒子を表す解だと解釈することによって陽電子の存在を予言

した。そして、1932年にカール・デイヴィッド・アンダーソンによって陽電子は実

際に宇宙線の中で発見された。アンダーソンは霧箱に磁場をかけることで電荷を

持つ粒子の飛跡を曲げ、その曲率半径から電子と同じ質量でありながら正電荷を

持つ粒子を発見した。陽電子 (positron)という名はアンダーソンによって付けら

れ、この発見によってアンダーソンは 1936年にノーベル物理学賞を受賞した。

陽電子は現在においてもいろんな分野にわたって重要な素粒子である。素粒子

物理学の分野では、加速器によって陽電子を加速し、電子と衝突させて様々な粒

子を生成する等の利用をされている、医療の分野では、放射性薬剤の投与により

人体内部の特定の臓器に分布した放射性同位体の位置を体外に放出される放射線

によって測定するPET(Positron Emission Tomography)等に利用されている。そ

のため、陽電子についての理解は非常に重要である。本研究では、22Naが β+崩

壊して放出された陽電子と物質中の電子の対消滅によって生成される 2本の γ線

の角度相関を測定する。γ線の検出にはNaI検出器を用いる。

本研究の目的は、以下の通りである。

1. 同時計測法の理解

同時計測がどのような回路を用いて行われるのか理解する。

2. 陽電子の対消滅と原子核の β+崩壊についての理解22Naのβ+崩壊における陽電子の対消滅による γ線を測定することによって、

陽電子の振る舞いと原子核の β+崩壊について理解する。

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3. データ解析法の習得

同時計測によって得られたデータをどのように解析するのかを習得する。

本論文の構成は、次のようになっている。第 2章では原子核の崩壊、陽電子の物

質中でのエネルギー損失、γ線と物質の相互作用について簡単に述べる。第 3章で

は実験に用いたNaIシンチレータ、NIMモジュール、CAMACモジュール、γ線

源について述べる。第 4章では測定のセットアップとして 2台の NaI検出器をど

のように配置したかや検出器からの信号をどのような回路を用いて処理したかに

ついて述べる。第 5章では実験結果として検出器 1台で取得したシングルスペク

トル、検出器 2台で同時計測することによって取得した 2次元プロットとその角度

相関について述べる。最後に、第 6章で本論文で述べたことをまとめる。

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第2章 原子核と陽電子の基本的性質

2.1 原子核の崩壊

不安定な原子核が崩壊する際に発生する粒子を放射線と呼ぶ。その原子核崩壊

における代表的なものとして、α崩壊、β崩壊、γ崩壊の 3つが挙げられる。

2.1.1 α崩壊

α崩壊は崩壊の際、原子核が α粒子を放出する。α粒子とはHe原子核であり、

陽子と中性子 2個ずつから構成されている。そのため、終状態の原子核は始状態

の原子核に比べて原子番号 Zが 2だけ減り、質量数Aは 4だけ減る。

(A,Z) → (A− 4, Z − 2) + α

2.1.2 β崩壊

β崩壊は原子核が質量数Aを保存しながら、原子番号 Zと中性子数Nが 1ずつ

変化する崩壊である。Zが増加するかNが増加するかによって β−崩壊と β+崩壊

に分けられる。

中性子が過剰な原子核においては β−崩壊が起こり、束縛されている中性子が陽

子へと崩壊し、電子と反電子ニュートリノを放出する。そのため、原子番号 Zは

1だけ増える。このときのファインマンダイアグラムは図 2.1のようになる。

(A,Z) → (A,Z + 1) + e− + νe

陽子が過剰な原子核においては β+崩壊が起こり、束縛されている陽子が中性子

へと崩壊する。そのとき陽電子と電子ニュートリノを放出する。このときのファ

インマンダイアグラムは図 2.2のようになる。

(A,Z) → (A,Z − 1) + e+ + νe

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図 2.1: β−崩壊のファインマンダイアグラム。この崩壊では中性子中の dクォーク

が uクォークへと変化し、電子と反ニュートリノが生成されている。

図 2.2: β+崩壊のファインマンダイアグラム。この崩壊では陽子中の uクォークが

dクォークへと変化し、陽電子とニュートリノが生成されている。

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このように β崩壊では 3個の粒子へと崩壊するため、それぞれの粒子が持つ運

動エネルギー分布は連続分布となる。ここで、原子核は電子やニュートリノに比

べて非常に重いため、原子核の反跳エネルギーは無視することができ、崩壊によ

るエネルギーはほぼ電子 (または陽電子)と反ニュートリノ (またはニュートリノ)

で分けることになる。そのため、電子 (または陽電子)の運動エネルギーの値が最

大となるのは、反ニュートリノ (またはニュートリノ)の運動エネルギーがほぼ 0

の場合である。

さらに、β崩壊した原子核は励起状態にあり、次の γ崩壊が続けて起こる。

2.1.3 γ崩壊

γ崩壊は励起状態にある原子核が光子を放出することによってより低い状態に

遷移する崩壊であり、核種が変わらないため質量数と原子番号はともに変化しな

い。一般に、核子の励起状態の寿命は非常に短い (10−10 s以下)であるが、半減期

が 2.55 mである 13756 Baのように非常に長い寿命を持つものも存在する。

2.1.4 放射能

放射性原子核の線源の放射能はそれが崩壊する割合として定義される。これは、

単位時間あたりに崩壊する確率を表す崩壊定数 λと線源中の放射性原子核の数N

を用いて式 (2.1)で表される。

dN(t)

dt= −λN(t) (2.1)

この微分方程式を解くことによって、式 (2.2)が得られる。

N(t) = N(0)e−λt (2.2)

さらに、単位時間当りの崩壊数 I(t)は式 (2.3)で得られる。

I(t) = −dN(t)

dt= λN(0)e−λt (2.3)

また、放射性原子核の寿命 τ、半減期 t 12は式 (2.4)で定義される。

τ =1

λ=

t 12

ln2(2.4)

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2.2 陽電子の物質中でのエネルギー損失

荷電粒子が物質に入射すると、物質中の電子をより高いエネルギー準位へと励

起したり電子を完全に取り去って電離することによってエネルギーを失い入射粒

子は減速していく。単位質量長さ当りに失うエネルギーはBethe-Blochの式によっ

て表される。入射粒子が陽電子の場合、これは式 (2.5)で表される [1]。

− dE

ρdx= 2πNar

2emec

2Z

A

1

β2

[ln

τ 2(τ + 2)

2(I/mec2)2+ F (τ)− δ

](2.5)

NA :アボガドロ数

re :古典的電子半径

me :電子質量

ρ :物質の密度

Z :物質の原子番号

A :物質の質量数

β : v/c

τ :入射粒子の運動エネルギー/電子の質量エネルギー

I :物質の原子の平均励起エネルギー

ここで F (τ)は式 (2.6)で表される。

F (τ) = 2 ln 2− β2

12

(23 +

14

τ + 2+

10

(τ + 2)2+

4

(τ + 2)3

)(2.6)

また、入射粒子が陽電子の場合、原子核の電場によって加速度を受け、電子とは異

なる制動放射を起こすため、その分のエネルギー損失を足し合わせる必要がある。

制動放射による影響は高エネルギーにおいて優勢となる。制動放射によるエネル

ギー損失と電離によるエネルギー損失が同等になるエネルギーEc(critical energy)

は計算されており [1]、代表的な物質でのEcを表 2.1に示す。

この Ecよりも低いエネルギーにおいては電離によるエネルギー損失が優勢と

なる。

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表 2.1: 代表的な物質での critical energy。このエネルギーより十分高い領域では、

制動放射によるエネルギー損失が優勢となり、低い領域では、制動放射による影

響は無視できる。物質 Ec (MeV)

鉛 9.51

銅 24.8

鉄 27.4

アルミニウム 51.0

アクリル樹脂 100

2.3 γ線と物質の相互作用

γ線と物質の相互作用は主に、光電吸収、コンプトン効果、電子対生成の 3つが

ある。ここでは各過程がどのような過程であるかを模式的な図と共に説明する。

2.3.1 光電吸収

光電吸収は、γ線が原子に衝突し、その際全エネルギーEγ = hνを失い、電子

はEe = hν − Iを得て原子から放出される過程である。ここで、Iは原子の結合エ

ネルギーである。Eγが小さい領域においてはこの過程が支配的である。

図 2.3: 光電吸収の模式図。原子に束縛された電子 (主にK殻電子)が入射した γ線

によってエネルギーを得て原子から放出されている。

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2.3.2 コンプトン効果

コンプトン散乱は、γ線が自由電子と衝突し、エネルギーの一部を電子に与え

て方向を変えて飛んでいく過程である。下図のように入射 γ線と散乱 γ線のエネ

ルギーをそれぞれ hν ′と hν、反跳電子のエネルギーをEe、入射 γ線と散乱 γ線の

成す角を ϕ1、入射 γ線と反跳電子の成す角を ϕ2とすると、運動量保存則とエネル

ギー保存則より式 (2.7)、式 (2.8)、式 (2.9)が導出できる。

図 2.4: コンプトン効果の模式図。エネルギー hνの γ線が電子にEeだけ与え、方

向を変えて飛んでいっている。

hν ′ =hν

1 + ζ(1− cosϕ1)(2.7)

Ee = hν2ζ cos2 ϕ2

(1 + ζ)2 − ζ2 cos2 ϕ2

(2.8)

tanϕ2 =cot(ϕ1/2)

1 + ζ(2.9)

ここで、ζは γ線のエネルギーを電子の質量エネルギーで割ったものである:

ζ = frachνmec2 (2.10)

2.3.3 電子対生成

電子対生成は γ線が原子の中の原子核の電場中において 1組の電子・陽電子対

を生成する過程である。真空中では運動量保存則とエネルギー保存則を同時に満

たすことができないため、この過程は起こりえない。この過程が起こるためには、

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γ線のエネルギーが電子と陽電子の質量エネルギーの和である 1.022 MeV以上で

ある必要があり、1.022 MeV以上の γ線が有していた余剰なエネルギーは全て電

子と陽電子の運動エネルギーとして分配される。高エネルギーの γ線において最

も支配的な過程である。

図 2.5: 電子対生成の模式図。真空中ではこの過程は起こりえないため、原子中で

電子対生成が起こっている。

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第3章 実験器具

3.1 NaIシンチレータ

シンチレータは、荷電粒子やガンマ線等の放射線が入射した際に可視光を放出

する検出器である。シンチレータに放射線が入射すると、シンチレータ内の物質

が励起され、励起された物質は短時間でより低いエネルギー準位へと遷移し、そ

の際に可視光を放出する。その可視光をシンチレーション光と呼ぶ。放出された

可視光は光電子増倍管を通して電気信号へと変換される。シンチレータは用いら

れる結晶によっての有機シンチレータと無機シンチレータの 2つに分けられる。本

実験で用いたNaIシンチレータは無機シンチレータに分類される。

NaIシンチレータとは、タリウム活性化ヨウ化ナトリウム NaI(Tℓ)のことであ

り、ヨウ化ナトリウムNaIに活性化物質として微量なタリウムTℓが混ぜられてい

る。このNaI(Tℓ)のエネルギーバンド図を図 3.1に示す。

図 3.1: NaI(Tℓ)のエネルギーバンド図。上下の領域がNaIの伝導帯と価電子帯で

あり、Tℓを混ぜることによってそこから少しずれた位置に新しいエネルギー状態

が形成される。[2]

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活性化物質を用いる主な理由として次の 3つがある。第1に、活性化物質の準位

間のエネルギー差が小さくなり結晶の準位間より遷移しやすくなる。第2に、活

性化物質の準位間での遷移によって放出されるシンチレーション光が可視光領域

となる。第3に、発生したシンチレーション光が再びシンチレータに吸収されて

しまう自己吸収が起こらなくなる。吸収される光の波長は主に結晶の準位によっ

て決まるのに対し、シンチレーション光の波長は活性化物質の準位で決まるため、

自己吸収を抑制できる。

本実験でガンマ線検出器として用いたNaIシンチレータを図 3.2に示す。これは

応用光研の 88/DMであり、dividerを装着して用いる。(付録A参照)

図 3.2: 本研究で用いたNaIシンチレータと光電子増倍管。それぞれ図中の容器内

に固定されており、図の左側に NaIシンチレータ、右側に光電子増倍管が配置さ

れている。右端の端子に dividerを装着して用いる。

3.2 NIMモジュール

光電子増倍管から出力される電気信号はNIMモジュールおよび後述するCAMAC

モジュールによって処理される。本節では、用いたNIMモジュールについて説明

する。用いたNIMモジュールを図 3.3に示す。

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図 3.3: 本研究で用いたNIMモジュール。左側から、GATE & Delay Generater 2

台、FAN IN/OUT、Signal Divider、Coincidence、Discriminator、16CH FIXED

DELAYである。

3.2.1 Discriminator

Technoland corporation社のN-TM 405  8CH Discriminatorを使用している。

入力されたアナログ信号の波高がスレッショルドを超えたとき、デジタル信号を

出力するモジュールであり、スレッショルド電圧と出力パルス幅は各チャンネル毎

に独立して調整可能である。入力がデジタル信号である必要があるモジュールに

入力する場合、このモジュールを通してアナログ信号をデジタル信号に変換する。

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3.2.2 Coincidence

Technoland corporation社のN-TM 103 3CH 4-Fold Coincidenceを使用してい

る。各チャンネル毎 3つの独立したCoincidence回路が内蔵されており、1 ∼ 4つ

(可変)の入力に同時にデジタル信号が入力された場合にのみデジタル信号を出力

するモジュールである。本実験では 2つのNaI検出器から信号が同時に来たとき

のみデータを取得するようCAMACのGATE信号として用いている。

3.2.3 GATE & Delay Generater

Technoland corporation社の N-TM 307 2CH Gate & Delay Generator Type

2を使用している。入力されたデジタル信号を指定した分だけ遅れらせて出力す

るモジュールである。出力するデジタル信号の時間幅を調整することもできる。

Coincidenceからの信号のタイミングと時間幅を調整するために用いている。

3.2.4 Signal Divider

Technoland corporation社のN-TM 227 8CH Signal Dividerを使用している。検

出器からのアナログ信号を 2つの信号に分割する為のモジュールであり、光電子

増倍管からのアナログ信号を分割するために用いている。

3.2.5 FAN IN/OUT

Phillips ScientificのModel 740 Linear Logic Fan In/Outを使用している。デジ

タル信号が入力されると全く同じ信号を 4つまで出力できるモジュールである。1

つの出力を複数のモジュールに入力する場合に用いている。

3.2.6 16CH FIXED DELAY

HOUSHIN(豊伸電子株式会社)のN009-300 16CH 300ns FIXED DELAYを使用

している。デジタル信号が入力されると 300 nsecだけ遅延させて出力するモジュー

ルである。後述するCAMACモジュールのTDCに入力するために用いている。

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3.2.7 H.V. (High Voltage Power Supply)

REPIC(林栄精器株式会社)のRPH-030 -3.2kV 4ch高圧電源を使用している。光

電子増倍管用の高圧電源を供給するモジュールであり、各チャンネルの出力電圧

及び電流は、フロントパネルの 4桁 LEDで確認できる。

3.3 CAMACモジュール

次に、CAMACモジュールについて説明する。図 3.4には、用いたCAMACモ

ジュールを示す。

図 3.4: 本研究で用いたCAMACモジュール。上から、Scaler、ADC 2台、TDC、

Display、CC-USBである。

3.3.1 ADC (Analog to Digital Converter)

Technoland corporation社のC-QV 715 16CH CHARGE INTEGRATING ADC

を使用している。GATE信号が入力されている間のみ入力されたアナログ信号を

電荷量に比例したデジタル値に変換するモジュールである。8CHのうち 2CHを使

い、2つのNaI検出器のアナログ信号をそれぞれ受け取っている。

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3.3.2 Scaler

Technoland corporation社のC-SE 113 8CH 20MHz SCALERを使用している。

入力されたデジタル信号の数を数えるモジュールである。それぞれのNaI検出器

からの信号とCoincidenceからの信号をカウントしている。

3.3.3 TDC (Time to Digital Converter)

Technoland corporation社のC-TS 103 8CH Long Range High Resolution TDC

を使用している。START信号と STOP信号の時間差を測定するモジュールであ

る。Coincidenceを START信号とし、それぞれの検出器からの信号を STOP信号

としている。

3.3.4 CC-USB

WIENER Plein & Baus GmbHの CC-USB CAMAC Controller with USB in-

terfaceを使用している。このモジュールはクレートコントローラであり、PCと

USB接続をすることによってPC上でCAMACを操作できる。CAMACで収集し

たデータを蓄えておき、一定量貯まる毎に PCで測定データを読み出している。

3.4 γ線源

ここでは実験に用いた γ 線源について説明をする。本実験で主に用いたのは、22Na線源であるが、エネルギー較正のために用いた 137Cs線源と 60Co線源につい

ても述べる。

3.4.1 137Cs線源

137Csは次のように β−崩壊する。

13755Cs →137

56Ba + e− + νe

この 137Csの崩壊図を図 3.5に示す。

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図 3.5: 137Csの崩壊図。137Csは 137Baの励起状態に崩壊し、137Baは基底状態に遷

移する際に 662 keVの γ線を放出する。

3.4.2 60Co線源

60Coは次のように β−崩壊する。

6027Co →60

28Ba + e− + νe

この 60Coの崩壊図を図 3.6に示す。

図 3.6: 60Coの崩壊図。60Coは 60Niの励起状態に崩壊し、60Niは 1173 keVと 1333

keVの γ線を放出しながら段階的に基底状態に遷移する。

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3.4.3 22Na線源

22Naは次のように β+崩壊する。

2211Na →22

10Ne + e+ + νe

この 22Naの崩壊図を図 3.7に示す。

図 3.7: 22Naの崩壊図。22Naは 22Neの励起状態に崩壊し、22Neは基底状態に遷移

する際に 1275 keVの γ線を放出する。β+崩壊の際に放出される陽電子が物質中

で対消滅した場合には、このほかに γ線が放出される。

ここでβ+崩壊後の原子は、原子番号が 1減っており、電子が 1つ余分となる。その

ため、β+崩壊によって放出された陽電子の運動エネルギーの最大値は、原子のエ

ネルギー準位差からさらに、電子と陽電子の質量エネルギーの和である 1022 keV

を引いたものとなる。つまり、22Naの崩壊によって放出される陽電子の運動エネ

ルギーの最大値は、図 3.7にある値から 1842 - 1275 - 1022 keVとして計算でき、

その値は 545 keVである。

2.2節で述べたように、陽電子の物質中でのエネルギー損失は電離によるエネ

ルギー損失と制動放射によるエネルギー損失を考える必要がある。しかし、22Na

からの陽電子は最大で 545 keVのエネルギーしか持たないため、アクリル中での

critical energy、100 MeVに比べて非常に小さい。そのため、制動放射によるエネ

ルギー損失は無視することができる。電離によるエネルギー損失は式 (2.5)で表さ

れる。アクリル中では図 3.8のようになる。

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図 3.8: アクリル中での陽電子のエネルギー損失。横軸は陽電子の持つ運動エネル

ギー、縦軸は陽電子が単位長さ当りに失うエネルギーの量を表している。

このエネルギー損失から荷電粒子の飛程R(物質中に入射してから静止するまでの

距離)を決定することができ、次の式で表される。

R(T0) =

∫ T0

0

(−dE

dx

)−1

dT (3.1)

ここで、T0は入射時の荷電粒子の運動エネルギーであり、545 keVを代入すると、

R(545 keV) = 1.15mm (3.2)

となる。今回用いた線源は図 3.9に示すように、アクリル樹脂によって覆われた円

板型の密封線源である。図からわかるように、線源からアクリル樹脂の外側まで

の最短距離は 3 mmであるため、陽電子が最大の運動エネルギーを持っていたと

してもアクリル樹脂中で静止する。

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図 3.9: 22Na線源の見取り図。線源の上面には線源名と日本アイソトープ協会に

よってつけられた線源番号が記載されている。線源はアクリルで覆われており、線

源は直径 10 mmの円板型をしている。線源の厚さは無視できるほど薄い。

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第4章 測定のセットアップ

4.1 NaI検出器の配置

本実験では、2つのNaI検出器を用いて、2本の γ線を同時計測する。このとき

の 2つのNaI検出器と鉛ブロックの配置を図 4.1に示す。

図 4.1: NaI検出器の配置図

図は平面図である。NaI結晶が隠れてしまうため省略したが、NaI検出器の上面に

も鉛を配置している。この鉛ブロックを配置するのは、環境放射線を防ぐためだ

けでなく、一方のNaI検出器へ入射した γ線がもう一方のNaI検出器へ入射する

のを防ぐ役割も担っている。図中の NaI1、NaI2と書かれた部分が NaI結晶であ

り、それぞれに光電子増倍管 (PMT)が付いている。また、θは 2本の γ線の成す

角度を表しており、θ = 180の場合、2本の γ線は正反対に放出されていることに

なる。

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4.2 測定回路

NaI検出器から出力された信号は図 4.2に示した測定回路によって処理される。

ここで、破線によって囲まれた部分がCAMACモジュール、それ以外の部分はNIM

モジュールである。

図 4.2: 測定回路図

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線源から放出された γ線はNaI結晶へと入射し、光電子増倍管によって電気信

号に変えられる。その電気信号をオシロスコープによって観測したものを図 4.3に

示す。

図 4.3: 光電子増倍管からの電気信号。

光電子増倍管からの信号が Singnal Dividerによって 2つに分割され、片方は

Discriminatorに、もう一方は 200 nsだけ遅延させてCAMACのADCに入力され

る。ここでの遅延はケーブルディレイを用いて行われている。Discriminatorへ入力

された信号はデジタル信号に変換され、Coincidenceに入力される。Coincidenceは

NaI1とNaI2の両方から信号が来た場合のみデジタル信号を出すため、これを調整

してADCのGATE信号として用いる。SCALERへの入力もCoincidenceの出力と

Discriminatorの出力を用いているが、それぞれのモジュールから直接出力できる

数に限りがあるため、FAN IN/OUTを通して出力数を増やしている。TDCへの入

力は START信号としてCoincidenceの出力を、STOP信号 (TDC-ch1、TDC-ch2)

として 300 nsだけ遅延させたDiscriminatorの出力を用いている。遅延させる理由

としては、START信号として用いている Coincidenceの出力は Discriminatorの

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出力に対して処理を行っており、そのままだと START信号の方が後に入力されて

しまい、動作しなくなるためである。

4.2.1 GATE信号

図 4.2から分かるように、ADCのGATE信号には、Coincidenceからの信号を

Gate & Delay Generatorによって ADCのアナログ入力信号とタイミングを合わ

せるために調整してから入力している。ADCに入力された信号とGATEに入力さ

れた信号を比較したものを図 4.4に示す。ここで、ADCに入力される信号は図 4.3

で示したものと同じものである。また、Gate & Delay Generatorからは ADCの

GATEのほかに別のGate & Delay Generatorへと入力し、その出力を元のGate

& Delay GeneratorのVETOへ入力している。これは同時計測が短い時間で連続

して起こった場合に 2つ目のGATEを発生させないようにするためである。1度

GATE信号が入力されると一定時間、別の信号は禁止するようになっており、今

回の実験においてその入力禁止時間は 200µsに設定した。

図 4.4: ADCに入力された信号とGATEに入力されたアナログ信号の比較。ADC

からの信号に対してGATE信号は十分長く、タイミングもあっていることが確認

できる。

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第5章 実験結果

5.1 NaIシンチレータ1台による測定

今回の実験の主な目的は 2台の検出器による同時計測であるが、そのための準

備としてまずNaI検出器 1台での γ線測定をNaI1、NaI2それぞれで行い、光電子

増倍管のゲインがNaI1とNaI2で等しくなるよう印加電圧を調整する。

NaI検出器 1台は、図 4.2で示した回路では行えないが、3.2.2で述べたように本

実験で用いたCoincidenceモジュールは入力数を 1 ∼ 4つの間で変えられるため、

Coincidenceへの入力をNaI1からの信号のみにすれば、NaI2からの信号は無視す

ることができ、測定回路は実質的に図 5.1のようになる。NaI2でのシングルスペ

クトルは図中のNaI1をNaI2に変えて取得する。

図 5.1: NaI検出器 1台での測定回路。図 4.2と比較して、Coincidenceへの入力を

NaI1からの信号のみに変わっている。NaI2のシングルスペクトルを取得する場合

はこの図中のNaI1をNaI2に変えるだけで良い。

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初めに、137Csを線源として用いてシングルスペクトルの測定を 3分間行った。

その結果を図 5.2、図 5.3に示す。エネルギー-Channel数の較正がNaI1とNaI2で

等しくなるようにNaI1とNaI2のH.V.の値を調整した。

図 5.2: NaI1で取得した 137Csのシングルスペクトル。横軸はADCのChannel、縦

軸はそのChannelの計数を表している。

図 5.3: NaI2で取得した 137Csのシングルスペクトル。横軸はADCのChannel、縦

軸はそのChannelの計数を表している。

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この図をみると、計数は 0 Channelから 50 ChannelまでChannelと共に急激に

上がっていき、そこから緩やかに減少している。さらに、480 Channel付近にピー

クがみられる。137Csが放出するのは 662 keVの γ線のみであるため、このピーク

は 662 keVの γ線が光電吸収されたことによるピークだと考えられる。それより

低いエネルギー領域における計数は 662 keVの γ線がコンプトン散乱されたもの

とバックグラウンドが合わさった分布だと考えられる。50 Channel以下でスペク

トルが切れているのはDiscriminatorの効果である。

この光電吸収ピークに対して平均値を求めるため、式 (5.1)で表される f(x)に

よるフィッティングをROOTと呼ばれるプログラムを用いて行った。ここで 1次

関数はバックグラウンドを、ガウス関数がピークを表している。ピークの平均値

は式中の p1であり、標準偏差は p2である。

f(x) = p0 exp

[−(x− p1)

2

2p22

]+ p3x+ p4 (5.1)

フィッティングの結果得られた関数を図 5.4、図 5.5に赤線で示す。各パラメータ

の値は図中右上に書かれている値となった。図中のパラメータから分かるように

光電吸収ピークの NaI1における平均値が 487 hannel、標準偏差が 14.3 Channel

であり、NaI2における平均値が 470 Channel、標準偏差が 16.6 Channelである。

これらの値が 662 keVに対応するものとして 5.1.1においてエネルギー較正を行

う。したがって 半値全幅平均値 = 2.35 p2

p1で定義されるエネルギー分解能は NaI1について

2.35×14.3487

= 6.90%、NaI2について 2.35×16.6470

= 8.30%である。

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図 5.4: NaI1による 137Csのシングルスペクトルの 662 keV光電吸収ピークのフィッ

ティング結果。赤線がフィッティング関数を表す。

図 5.5: NaI2による 137Csのシングルスペクトルの 662 keV光電吸収ピークのフィッ

ティング結果。赤線がフィッティング関数を表す。

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次に、60Coを線源として用いてシングルスペクトルの測定を 3分間行った。そ

の結果を図 5.6、(5.7に示す。

図 5.6: NaI1による 60Coのシングルスペクトル

図 5.7: NaI2による 60Coのシングルスペクトル

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この図をみると、137Csと同様に計数は 0 Channelから 50 ChannelまでChannel

と共に急激に上がっていき、そこから緩やかに減少している。さらに、850 Channel

付近と 970 Channel付近にピークがみられる。60Coが放出するのは 1173 keVと

1333 keVの γ線であるため、このピークはそれらのエネルギーを持つ γ線が光電吸

収されたことによるピークだと考えられる。それより低いエネルギー領域における

計数はそれらの γ線がコンプトン散乱されたものとバックグラウンドが合わさった

分布だと考えられる。50 Channel以下でスペクトルが切れているのはDiscriminator

の効果である。

これらの光電吸収ピークに対して平均値を求めるため、式 (5.1)で表される f(x)

による ROOTを用いたフィッティングをそれぞれのピーク周辺で行った。フィッ

ティングの結果得られた関数を図 5.8、(5.9に赤線で示す。各パラメータの値は図

中右上に書かれている値となった。図中のパラメータから分かるように光電吸収

ピークのNaI1の 1173 keVにおける平均値が 862 hannel、標準偏差が 18.4 Channel

に、1333 keVにおける平均値が 972 hannel、標準偏差が 19.5 Channelに、NaI2の

1173 keVにおける平均値が 840 Channel、標準偏差が 18.3 Channelに、1333 keV

における平均値が 954 Channel、標準偏差が 20.3 Channelに対応するものとして

5.1.1においてエネルギー較正を行う。これらの値から得られるエネルギー分解能

はNaI1について 1173 keVのピークでは 2.35×18.4862

= 5.02%、1333 keVのピークでは2.35×19.5

972= 4.71%、NaI2について 1173 keVのピークでは 2.35×18.3

840= 5.12%、1333

keVのピークでは 2.35×20.3954

= 5.00%である。

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(a) NaI1 による 60Co のシングルスペクトルの 1173 keV 光電吸収ピークのフィッティング結果

(b) NaI1 による 60Co のシングルスペクトルの 1333 keV 光電吸収ピークのフィッティング結果

図 5.8: NaI1で取得した 60Coのシングルスペクトルをフィッティングしたもの。赤

線がフィッティング関数を表す。

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(a) NaI2 による 60Co のシングルスペクトルの 1173 keV 光電吸収ピークのフィッティング結果

(b) NaI2 による 60Co のシングルスペクトルの 1333 keV 光電吸収ピークのフィッティング結果

図 5.9: NaI2で取得した 60Coのシングルスペクトルをフィッティングしたもの。

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最後に、本実験の目的である 22Naを線源として用いてシングルスペクトルの測

定を 3分間行った。その結果を図 5.10、図 5.11に示す。

図 5.10: NaI1による 22Naのシングルスペクトル

図 5.11: NaI2による 22Naのシングルスペクトル

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この図をみると、137Csと同様に計数は 0 Channelから 50 ChannelまでChannel

と共に急激に上がっていき、そこから緩やかに減少している。さらに、380 Channel

付近と 920 Channel付近にピークがみられる。22Naが放出するのは 1275 keVの γ

線のみであるが、3.4.3で述べたように 22Naは β+崩壊の際に陽電子を放出するた

め、その陽電子が対消滅することによってほぼ 2本の γ線となる。エネルギーが

2本に等分配されたとすると、1本の γ線が持つエネルギーは電子と陽電子の質量

エネルギーの和を 2で割ったものである 511 keVとなる。図中のピークはそれら

の γ線が光電吸収されたことによるピークだと考えられる。それより低いエネル

ギー領域における計数はそれらの γ線がコンプトン散乱されたものとバックグラ

ウンドが合わさった分布だと考えられる。

これらの光電吸収ピークに対して平均値を求めるため、式 (5.1)で表される f(x)

によるROOTを用いたフィッティングをそれぞれのピーク周辺で行った。ガウス

関数がピークを表しており、求めたい平均値というのはここでの p0である。フィッ

ティングの結果得られた関数を図 5.8、(5.9に赤線で示す。各パラメータの値は図

中右上に書かれている値となった。図中のパラメータから分かるように光電吸収

ピークのNaI1の 511 keVにおける平均値が 372 hannel、標準偏差が 13.3 Channel

に、1275 keVにおける平均値が 929 hannel、標準偏差が 18.6 Channelに、NaI2の

511 keVにおける平均値が 359 Channel、標準偏差が 13.5 Channelに、1275 keV

における平均値が 910 Channel、標準偏差が 20.3 Channelに対応するものとして

5.1.1においてエネルギー較正を行う。これらの値から得られるエネルギー分解

能は NaI1について 511 keVのピークでは 2.35×13.3372

= 8.40%、1275 keVのピーク

では 2.35×18.6929

= 4.71%、NaI2について 511 keVのピークでは 2.35×13.5359

= 8.84%、

1275 keVのピークでは 2.35×20.3910

= 5.24%である。これらのエネルギー分解能の値

を 137Cs、60Coの各ピークでの値と共に表 5.1に示す。

表 5.1: それぞれの光電吸収ピークのエネルギー分解能137Cs 60Co 60Co 22Na 22Na

662 keV 1173 keV 1333 keV 511 keV 1275 keV

NaI1 6.90 % 5.02 % 5.12 % 8.40 % 4.71 %

NaI2 8.30 % 4.71 % 5.00 % 8.84 % 5.24 %

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(a) NaI1による 22Naのシングルスペクトルの 511 keV光電吸収ピークのフィッティング結果

(b) NaI1 による 22Na のシングルスペクトルの 1275 keV 光電吸収ピークのフィッティング結果

図 5.12: NaI1で取得した 22Naのシングルスペクトルをフィッティングしたもの。

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(a) NaI2による 22Naのシングルスペクトルの 511 keV光電吸収ピークのフィッティング結果

(b) NaI2 による 22Na のシングルスペクトルの 1275 keV 光電吸収ピークのフィッティング結果

図 5.13: NaI2で取得した 22Naのシングルスペクトルをフィッティングしたもの。

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5.1.1 エネルギー較正

図 5.4、図 5.5、図 5.8、図 5.9、図 5.12、図 5.13の 5つの光電吸収ピークからそ

れぞれの検出器についてエネルギー較正を行う。それぞれの光電吸収ピークの平

均値とそのピークに対応するエネルギー値を表 5.2にまとめる。

表 5.2: それぞれの光電吸収ピークの平均値とそのピークに対応するエネルギー値エネルギー (keV) NaI 1 (Channel) NaI 2 (Channel)

511 372 ± 0.2 359 ± 0.1

662 487 ± 0.6 470 ± 0.6

1173 862 ± 0.3 840 ± 0.4

1275 929 ± 0.4 910 ± 0.5

1333 972 ± 0.3 954 ± 0.3

ADCのChannelからエネルギー値への変換式を式 (5.2)でフィッティングした。

E (keV) = a× Channel + b (5.2)

その結果、p0 、p1は表 5.3のようになった。この結果を図 5.14に示す。横軸は

Channel、縦軸はエネルギーを表している。

表 5.3: エネルギー較正結果NaI1 NaI2

a 1.37 ± 6.71×10−4 1.38 ± 5.40×10−4

b 1.87 ± 0.476 15.1 ± 0.285

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(a) NaI1のエネルギー較正

(b) NaI2のエネルギー較正

図 5.14: NaI検出器のエネルギー較正

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5.2 NaIシンチレータ2台による同時計測

同時計測によって 22Naから放出される γ線を 5時間測定した。

5.2.1 2次元プロット

22Naからの γ 線を同時計測した結果を図 5.15から図 5.21に示す。図 5.15が

θ=90、図5.16がθ=120、図5.17がθ=150、図5.18がθ=160、図5.19がθ=170、

図 5.20が θ=175、図 5.21が θ=180の結果を表している。

図 5.15: θ=90における2次元プロット。横軸はADC1のChannel数、縦軸はADC2

の Channel数を表している。色が赤い点が最も計数が多く、青い点が最も計数が

少ない。縦軸と横軸に対称な形になっている。少なくとも片方が 350 Chennelと

して検出されたものが多い。それ以外に両方とも 50 Channel付近の位置にピーク

が存在している。

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図 5.16: θ=120における 2次元プロット。縦軸と横軸に対称な形になっている。

少なくとも片方が 350 Chennelとして検出されたものが多い。それ以外に両方と

も 50 Channel付近の位置にピークが存在している。

図 5.17: θ=150における 2次元プロット。縦軸と横軸に対称な形になっている。

少なくとも片方が 350 Chennelとして検出されたものが多い。50 Channel付近の

ピークが 90、120に比べて青色に近くなっており、他のイベントの計数が相対的

に多くなっている。

41

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図 5.18: θ=160における 2次元プロット。縦軸と横軸に対称な形になっている。

少なくとも片方が 350 Chennelとして検出されたものが多い。50 Channel付近の

ピークが 90、120に比べて青色に近くなっており、他のイベントの計数が相対的

に多くなっている。

図 5.19: θ=170における 2次元プロット。縦軸と横軸に対称な形になっている。

少なくとも片方が 350 Chennelとして検出されたものが多い。160のとき 2つに

わかれていたピークがくっついて 1つになっている。

42

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図 5.20: θ=175における 2次元プロット。縦軸と横軸に対称な形になっている。

少なくとも片方が 350 Chennelとして検出されたものが多い。160のとき 2つに

わかれていたピークがくっついて 1つになっている。

図 5.21: θ=180における 2次元プロット。縦軸と横軸に対称な形になっている。

NaI1、NaI2共に 350 Channelでとして検出されたイベントがほとんどである。350

Channel以下の領域は満遍なく様々なエネルギーの γ線検出されており、コンプト

ン散乱によって検出されたイベントも非常に多かったといえる。

43

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全ての角度において 2次元プロットが縦軸と横軸に対称な形になっているのは、

NaI1とNaI2を入れ替えたとしても相対的な位置関係が変わらないためである。さ

らに、それぞれの角度におけるCoincidenceをとった信号の全計数とNaI1、NaI2

それぞれの全計数を表 5.4に示す。ここで、計数はポアソン分布に従うため、誤差

は計数の平方根で表した。

表 5.4: 各角度におけるCoincidence信号、NaI1、NaI2それぞれの全計数θ () Coincidence信号 (counts) NaI 1 (counts) NaI 2 (counts)

90 9178 ± 95.8 1.07×107 ± 3270 8.89×106 ± 2980

120 9722 ± 98.6 1.08×107 ± 3290 9.07×106 ± 3010

150 12608 ± 112 1.12×107 ± 3350 8.80×106 ± 2970

160 13207 ± 115 1.15×107 ± 3390 8.46×106 ± 2910

170 14231 ± 119 1.11×107 ± 3340 9.30×106 ± 3050

175 16229 ± 127 1.11×107 ± 3330 8.90×106 ± 2980

180 690243 ± 831 1.13×107 ± 3360 8.36×106 ± 2890

5.2.2 計数の角度依存性

5.2 で示したそれぞれの角度におけるの 2次元プロットを見ると、全体としての

形は全ての角度でおおよそ同じである。しかし、ピーク (図中の赤点)の位置と全計

数には角度依存性が現れている。この依存性について詳しく調べるために、ADC1

とADC2のチャンネルについて和をとったヒストグラムを図 5.22~図 5.28に示す。

44

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図 5.22: θ=90においてADC1とADC2のチャンネルについて和をとったヒスト

グラム。横軸がADC1とADC2のチャンネルの和、縦軸が計数を表している。100

Channel付近から急激に計数が多くなり、400 Channelから 600 Channelにピーク

がある。さらに、およそ 1100 Channelか急激に計数は減っているが、1300 Channel

で再び急激に多くなりピークとなっている。

図 5.23: θ=120において ADC1と ADC2のチャンネルについて和をとったヒス

トグラム。100 Channel付近から急激に計数が多くなり、400 Channelから 600

Channelにピークがある。さらに、およそ 1100 Channelか急激に計数は減ってい

るが、1300 Channelで再び急激に多くなりピークとなっている。

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図 5.24: θ=150において ADC1と ADC2のチャンネルについて和をとったヒス

トグラム。100 Channel付近から急激に計数が多くなり、400 Channelから 650

Channelにピークがある。さらに、およそ 1100 Channelか急激に計数は減ってい

るが、1300 Channelで再び急激に多くなりピークとなっている。

図 5.25: θ=160においてADC1とADC2のチャンネルについて和をとったヒスト

グラム。100 Channel付近から急激に計数が多くなり、400 Channelと 700 Channel

にピークがある。さらに、およそ 1100 Channelか急激に計数は減っているが、1300

Channelで再び急激に多くなりピークとなっている。

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図 5.26: θ=170においてADC1とADC2のチャンネルについて和をとったヒスト

グラム。100 Channel付近から急激に計数が多くなり、400 Channelと 750 Channel

にピークがある。さらに、およそ 1100 Channelか急激に計数は減っているが、1300

Channelで再び急激に多くなりピークとなっている。

図 5.27: θ=175においてADC1とADC2のチャンネルについて和をとったヒスト

グラム。100 Channel付近から急激に計数が多くなり、400 Channelと 750 Channel

にピークがある。さらに、およそ 1100 Channelか急激に計数は減っているが、1300

Channelで再び急激に多くなりピークとなっている。

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図 5.28: θ=180においてADC1とADC2のチャンネルについて和をとったヒスト

グラム。300 Channelまでは計数が徐々に多くなっていき、300 Channelから 600

Channelまでは幅の広いピークのようになっている。さらに、700 Channelにはと

ても大きなピークがある。

これらの図を見ると、θ=180とそれ以外ではヒストグラムに大きな差があるこ

とが確認できる。しかし、今見ているエネルギー領域の γ線はNaI検出器におい

て光電吸収とコンプトン散乱の両方で測定されるため、それぞれのピークがどの

ような過程に対応しているのかが判別しづらい。そこで、少なくとも片方の NaI

において 511 keVの γ線が光電吸収によって観測された過程のみを見てみる。具

体的には、シングルスペクトルの 511 keVのピークから 2σ程度の幅に入るイベ

ント以外をカットする。図 5.29~ 図 5.35にイベントをカットした 2次元プロット

とADC1、ADC2の和をとったヒストグラムを示す。(a)が 2次元プロットであり、

(b)が和をとったヒストグラムである。

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(a) イベントカット後の 2次元プロット。(b) イベントカット後の ADC1、ADC2の和をとったヒストグラム。

図 5.29: θ=90において少なくとも片方の γ線のエネルギーが 511 keVのピーク内

に入ることを要求したイベントのみを残した 2次元プロットと和のヒストグラム。

(a) イベントカット後の 2次元プロット。(b) イベントカット後の ADC1、ADC2の和をとったヒストグラム。

図 5.30: θ=120において少なくとも片方の γ 線のエネルギーが 511 keVのピー

ク内に入ることを要求したイベントのみを残した 2次元プロットと和のヒストグ

ラム。

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(a) イベントカット後の 2次元プロット。(b) イベントカット後の ADC1、ADC2の和をとったヒストグラム。

図 5.31: θ=150において少なくとも片方の γ 線のエネルギーが 511 keVのピー

ク内に入ることを要求したイベントのみを残した 2次元プロットと和のヒストグ

ラム。

(a) イベントカット後の 2次元プロット。(b) イベントカット後の ADC1、ADC2の和をとったヒストグラム。

図 5.32: θ=160において少なくとも片方の γ 線のエネルギーが 511 keVのピー

ク内に入ることを要求したイベントのみを残した 2次元プロットと和のヒストグ

ラム。

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(a) イベントカット後の 2次元プロット。(b) イベントカット後の ADC1、ADC2の和をとったヒストグラム。

図 5.33: θ=170において少なくとも片方の γ 線のエネルギーが 511 keVのピー

ク内に入ることを要求したイベントのみを残した 2次元プロットと和のヒストグ

ラム。

(a) イベントカット後の 2次元プロット。(b) イベントカット後の ADC1、ADC2の和をとったヒストグラム。

図 5.34: θ=175において少なくとも片方の γ 線のエネルギーが 511 keVのピー

ク内に入ることを要求したイベントのみを残した 2次元プロットと和のヒストグ

ラム。

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(a) イベントカット後の 2次元プロット。(b) イベントカット後の ADC1、ADC2の和をとったヒストグラム。

図 5.35: θ=180において少なくとも片方の γ 線のエネルギーが 511 keVのピー

ク内に入ることを要求したイベントのみを残した 2次元プロットと和のヒストグ

ラム。

計数が大きく異なるため、θ=180とそれ以外について別々に考察を行う。

まず、θ=90~ θ=175の和のヒストグラムを見ると、全ての角度で1300 Channel

付近にピークが確認できる。これはエネルギーに変換するとおよそ 1800 keVに相

当する。これは 511 keVと 1275 keVの和、1786 keVと一致するため、22Naから

放出された 1275 keVの γ線と β崩壊によって生成された陽電子由来の 511 keVの

γ線が同時に 2つのNaI 検出器に入射し、光電吸収したものだと考えられる。こ

の過程を図にしたものを図 5.36に示す。

この 511 keV+1275 keVのピークに対して積分を行った結果を表 5.5に示す。

この表からわかる通りこのピークの計数は角度によってあまり変わらず、統計

誤差の範囲におおよそ収まっている。そのため、全計数の角度依存性の原因はこ

の過程ではないことが確認できた。

さらに、この過程に関連して 1275 keVの γ線が光電吸収ではなく、コンプトン

散乱によってそのエネルギーの一部が観測されるという過程も考えられる。全て

の角度で低エネルギー側から 1100 Channelまでほぼ一定量測定されているものが

その過程によるものだと考えられる。1100 Channelは 1550 keVに相当し、これは

511 keVと、式 (2.8)で計算できる 1275 keVの γ線がコンプトン散乱によって測

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図 5.36: 22Naから放出された 1275 keVの γ線と陽電子の対消滅による 511 keVの

γ線が 2つのNaI検出器に入射する過程の模式図。

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表 5.5: 各角度における 511 keV+1275 keVのピークの計数θ () 511 keV+1275 keVのピークの計数 (counts)

90 763 ± 27.6

120 761 ± 27.6

150 844 ± 29.1

160 821 ± 28.7

170 846 ± 29.1

175 805 ± 28.4

定され得る最大のエネルギー 1062 keVとの和におおよそ等しい。そのため、1100

Chennelは 1275 keVの γ線のコンプトンエッジであるといえる。

800 Channelよりも低いエネルギーでは、各角度でヒストグラムに違いがみられ

る。それぞれの 2次元プロットを見てみると、最大値である点 (図中の赤い部分)

がズレていき、θが大きくなるにつれてNaI1、NaI2共に 511 keVへと近づいてい

ることが確認できる。このピークの位置に対応するエネルギーについてまとめた

ものを表 5.6に示す。表の一番右の値は最大ピークが対応するNaI1とNaI2のエネ

ルギーの和から 511 keVを引いたものである。少なくとも片方のNaIでは 511 keV

の γ線を光電吸収したという条件を課しているため、この値も一緒に示した。こ

表 5.6: 各角度における最大ピークの位置が対応するエネルギー最大ピークが対応する エネルギーの和から

θ () NaI1 + NaI2のエネルギー (keV) 511 keVを引いた値 (keV)

90 760 250

120 830 320

150 900 390

160 980 470

170 1000 490

175 1000 490

こで、θ=180以外の場合において、γ線が 2つのNaI検出器に入射する過程を考

えてみると、陽電子の対消滅による 2本の γ線のうち片方がアクリル中でコンプト

ン散乱し入射するという過程が挙げられる。この過程の模式図を図 5.37に示す。

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図 5.37: 22Naから放出された陽電子の対消滅による 511 keVの γ線のうち片方が

NaI1に入射し、もう一方がコンプトン散乱後NaI2に入射する過程の模式図。

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2本ともコンプトン散乱するという過程も考えられるが、1本のみコンプトン散

乱する過程に比べれば確率は低いといえる。この 1本のみコンプトン散乱し、入射

する過程の場合、コンプトン散乱した方の γ線のエネルギーは式 (2.7)から分かる

ように角度に対して依存性を持つ。このコンプトン散乱した γ線のエネルギーの

角度依存性と表 5.6の右端の値とを比較したものを図 5.38に示す。なお、式 (2.7)

中の ϕ1とOpening Angle θは θ = 180− ϕ1 (degree)という関係にある。図中の横

図 5.38: コンプトン散乱した γ線のエネルギーの角度依存性と実験で得られた値

を比較したグラフ。横軸はOpening Angle θ、縦軸はエネルギーを表す。

軸の誤差は、図 3.9と図 4.1を元に、線源から出た陽電子の対消滅によって生成さ

れた γ線が 2つのNaI検出器に入射し得る角度から決定した。縦軸の誤差は、図

5.29~ 図 5.35での今みているピークの幅から決定した。図 5.38では、θ=150を

除いて誤差の範囲内で一致しているため、このピークは図 5.37のような過程だと

いえるだろう。

θ=150が一致しなかったのは、この測定のみ日をおいて測定したためにセッティ

ングがわずかにずれてしまったこと等が理由として考えられる。計数の角度依存性

についても、コンプトン散乱の微分断面積を表すKlein–Nishinaの公式、式 (5.3)

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から分かるように ϕ1が小さい、つまりOpening Angle θが大きいほど微分断面積

は大きくなるため、依存性としては一致している。なお、式中の reは古典電子半

径である。

dΩ=

r2e2

[1

1 + α(1− cosϕ1)

]2 [1 + cos2 ϕ1 +

α2(1− cosϕ1)2

1 + α(1− cosϕ1)

](5.3)

次に、θ=180のヒストグラムでは、700 Channel付近に大きなピークがあり、こ

れはエネルギーに変換するとおよそ 1000 keVに対応する。そのため、このピーク

は 2つのNaI検出器に 511 keVの γ線が入射し、共に光電吸収されたものだと考

えられる。この過程の模式図を図 5.39に示す。

図 5.39: 22Naから放出された陽電子の対消滅による 2本の γ線が NaI1、NaI2に

入射する過程の模式図。

ピークよりエネルギーの低い領域では、300 Channel付近から 570 Channel付

近までほぼ一定量の計数となっている。350 Channelはおよそ 510 keVに、570

Channelはおよそ 850 keVに対応する。片方のNaIに入射した 511 keVであるた

め、もう一方は 0~ 350 keVである。この 350 keVというのは式 (2.8)において

hν=511 keV、ϕ2=0 とした場合のEeに一致する。そのため、これは 2つのNaI

検出器に入射した 511 keVの γ線のうち、片方が光電吸収、もう一方がコンプト

ン散乱によって測定されたものだと考えられる。

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5.2.3 TDCを用いての測定

図 4.2に書かれている通り、今までに述べたような測定と同時にTDCによる測

定も行った。このTDCによる測定は、測定の同時性について検証するために行っ

た。NaI1からの信号を TDCの Ch1に入力し、NaI2からの信号を Ch2に入力す

る。同時性を見るための測定であるため、TDCの各Chでの測定結果は、あまり意

味を持たず、各Chについて差をとった値によって同時性が確かめられる。TDCの

Ch1とTDCのCh2との差を横軸に、計数を縦軸にとったものを図 5.40~ 図 5.46

に示す。

図 5.40: θ=90における時間差の 1次元ヒストグラム。横軸はTDC1とTDC2の

差を表している。

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図 5.41: θ=120における時間差の 1次元ヒストグラム。横軸はTDC1とTDC2の

差を表している。

図 5.42: θ=150における時間差の 1次元ヒストグラム。横軸はTDC1とTDC2の

差を表している。

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図 5.43: θ=160における時間差の 1次元ヒストグラム。横軸はTDC1とTDC2の

差を表している。

図 5.44: θ=170における時間差の 1次元ヒストグラム。横軸はTDC1とTDC2の

差を表している。

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図 5.45: θ=175における時間差の 1次元ヒストグラム。横軸はTDC1とTDC2の

差を表している。

図 5.46: θ=180における時間差の 1次元ヒストグラム。横軸はTDC1とTDC2の

差を表している。

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これらの図を見てみると、全ての角度でTDC間の時間差が小さいほど計数が多

くなっている。時間差の大きさが 40 nsよりも大きい領域で計数がほぼ 0即ちゼ

ロの近傍であるのは、Discriminatorの出力の時間幅が 40 nsに設定しているため

である。ここで時間差 0 nsが正確に最も高くなっていないのは、ケーブルの長さ

や PMTの応答特性等がわずかに異なるためである。θ=180における時間差の 1

次元ヒストグラムについて横軸の+1 nsを中心として、おおよその半値全幅を確

認し、同時計測の時間分解能を見積もってみると、FWHM(半値全幅) = 1 nsと

なった。しかし、統計量が少ないこともあるが、1つのきれいなピークではなくい

くつかのピークが重なり合っているようにみえる。これについて考えるために、2

つのNaI検出器のエネルギー差と時間差をそれぞれ軸にした 2次元プロットを作

成した。これを図 5.47~ 図 5.53に示す。

図 5.47: θ=90において 2つの NaI検出器のエネルギー差と時間差をそれぞれ軸

にした 2次元プロット。横軸が時間差、縦軸がエネルギー差を表している。

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図 5.48: θ=120において 2つのNaI検出器のエネルギー差と時間差をそれぞれ軸

にした 2次元プロット。

図 5.49: θ=150において 2つのNaI検出器のエネルギー差と時間差をそれぞれ軸

にした 2次元プロット。

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図 5.50: θ=160において 2つのNaI検出器のエネルギー差と時間差をそれぞれ軸

にした 2次元プロット。

図 5.51: θ=170において 2つのNaI検出器のエネルギー差と時間差をそれぞれ軸

にした 2次元プロット。

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図 5.52: θ=175において 2つのNaI検出器のエネルギー差と時間差をそれぞれ軸

にした 2次元プロット。

図 5.53: θ=180において 2つのNaI検出器のエネルギー差と時間差をそれぞれ軸

にした 2次元プロット。

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ここで、図中の横軸と縦軸の正負がどのような意味を持つかを表 5.7に整理して

おく。

表 5.7: 軸の正負が持つ情報(縦軸 , 横軸) エネルギーの大小 どちらの信号が早く入力されたか

(正 , 正) NaI1 > NaI2 NaI1

(正 , 負) NaI1 > NaI2 NaI2

(負 , 正) NaI1 < NaI2 NaI1

(負 , 負) NaI1 < NaI2 NaI2

この表を元に図を見ると、多くのイベントが表中の (正 , 負)と (負 , 正)に分布

している。つまり、NaIで検出されたエネルギーが高い方が信号の入力が早いとい

うことになる。この原因として入力されたエネルギーの大きさ毎のNaI検出器か

らの信号の立ち下がりの早さの違いが考えられる。入射した γ線のエネルギーが

高い場合と低い場合におけるNaI検出器の信号の比較を図 5.54示す。

図 5.54: エネルギーが大きい場合と小さい場合のNaI検出器の信号の比較。赤い

線がエネルギーが高い場合のアナログ信号、青い線がエネルギーが低い場合のア

ナログ信号である。エネルギーが高いものは早く、低いものは遅くスレッショル

ドを超えていることが分かる。

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 さらに、実際にオシロスコープを用いて信号の時間差を確認したものを図 5.55

に示す。この図は 22Naからの信号を観測したものである。図中における黄色は

NaI1の信号、水色はその信号をDiscriminatorによってデジタル信号に変換したも

のである。(a)の図でのアナログ信号は大きく立ち下がっており、-75 mV程度ま

で下がっている。この場合、アナログ信号入力からデジタル信号出力まで約 12 ns

となっている。(b)の図でのアナログ信号は (a)に比べて立ち下がりは小さく、-40

mV程度までしか下がっていない。こちらの場合は、アナログ信号入力からデジタ

ル信号出力まで約 20 nsとなっている。これらを比較すると、エネルギーが高い場

合のほうが 8 ns程度早くスレッショルド電圧を超えていることが確認できる。

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(a) エネルギーが高い場合のアナログ信号とそれが Discriminator によって変換されたデジタル信号。

(b) エネルギーが低い場合のアナログ信号とそれが Discriminator によって変換されたデジタル信号。

図 5.55: エネルギーが大きい場合と小さい場合のNaI検出器の信号の比較。エネ

ルギーが大きいものは早く、小さいものは遅くスレッショルドを超えていること

が分かる。

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第6章 まとめ

本研究では、22Naから γ線を同時計測することを通じて原子核の β+崩壊とそ

れによって生じる陽電子についての理解を行った。同時計測には、γ線検出器とし

てNaI検出器 2台を用い、2つのNaIからの信号に対してCoincidenceをとったも

のをGATE信号として用いるよう回路を構成した。そのGATE信号が入力されて

いる間のみNaI検出器からのアナログ信号をADCが取得する。

同時計測を行う前に、3種類の線源のシングルスペクトルを取得した。3種類の

線源とは、同時計測でも用いる 22Naの他に、エネルギー較正用の 137Csと 60Coで

ある。

• 137Cs

662 keVのγ線が光電吸収によって測定されたピークが確認できた。そのピー

クの平均値は 487 Channelであった。

• 60Co

1173 keVと 1333 keVの γ線が光電吸収によって測定されたピークが確認で

きた。1173 keVのピークの平均値は 862 Channelであり、1333 keVのピー

クの平均値は 972 Channelであった。

• 22Na

陽電子の対消滅による 511 keVと 1275 keVの γ線が光電吸収によって測定

されたピークが確認できた。511 keVのピークの平均値は 372 Channelであ

り、1275 keVのピークの平均値は 929 Channelであった。

2台の検出器それぞれでエネルギー較正を行い、光電子増倍管によるゲインが等し

くなった。

次に、線源として 22Naを用いた同時計測を行った。このとき、線源からみた検

出器同士の成す角度 θ(Opening Angle)を 90度、120度、150度、160度、170度、

175度、180度と変えていき、2本の γ線の角度相関を測定した。θが大きくなる

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と、計数が大きくなり、形成されるピークの位置が移動していった。この移動して

いるピークは対消滅によって生成された 511 keVを持つ 2本の γ線のうち片方は

光電吸収され、もう一方は生成直後にアクリル中でコンプトン散乱するという過

程によるものだと考えられる。コンプトン散乱した γ線のエネルギーの角度依存

性と実験でのエネルギーの角度依存性は一致した。さらに、計数についても θと

ともに大きくなるという傾向は一致する。

最後に、TDCによる同時性の検証を行った。その結果、測定されたイベントの

うち多くがほぼ時間差なく測定されていた。10 ns程度の時間差を持つようなイベ

ントも存在し、これはスレッショルドまでの立ち下がりの速度に起因するものだ

と確認できた。

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謝辞

本研究を進めるにあたり、ご指導とご協力を頂いた多くの方々に深く感謝致し

ます。

指導教員の柴田利明教授には、研究テーマの考案から論文の執筆に至るまで多

くの助言を頂きました。

中野健一助教には、CC-USBでのデータ収集の方法、ROOTを用いた解析方法

をご指導頂くとともに、研究の進行状況に応じた適切な助言を頂きました。

小林慶鑑氏には、検出器の使い方等、研究に必要となる基礎的な技術について

ご指導頂きました。

齋藤航氏には、CAMACでの測定方法等、研究の初期段階においてて多くの助

言を頂きました。

矢澤友貴孝氏には、共にNaI検出器を用いた研究を行い、データ収集、解析、結

果についての議論等、様々な面で協力を頂きました。

宮崎拓人氏、国定恭史氏、玉虫傑氏には、研究に関する議論や生活面において

お世話になりました。

以上の方々のご協力のおかげで、研究を行い、本論文を書き上げることができ

ました。改めて、皆様に感謝の意を表します。

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参考文献

[1] William R.Leo: Techniques for Nuclear and Particle Physics Experiments 2nd

Edition, Springer-Verlag

[2] Glenn F.Knoll 著 「放射線計測ハンドブック」 第 3版 日刊工業新聞社

[3] 東京工業大学 大学院「物理基本実験」テーマB 「NaIシンチレータによる

ガンマ線の測定」 テキスト

[4] 東京工業大学 物理学科  3年前期学生実験テキスト 「物理学実験第一」(放

射線計測の章)

[5] 長島順清 著 「素粒子物理学の基礎 I」 朝倉書店

[6] W.Heitler 著 沢田克郎 訳 「輻射の量子論 上」 吉岡書店

[7] C.M.Davisson: ”Interaction of Gamma Radiation with Matter” in Alpha-,

Beta-, and Gamma Ray Spectroscopy, ed. by K.Siebahn, Norh-Holland

[8] H.A.Bethe, E.E.Salpeter ”Quantum Mechanics of One- and Two-Electron Sys-

tems.” in Atoms I / Atome I, ed. by S.Flugge, Springer-Verlag

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付 録A 光電子増倍管とdividerの

回路図

図 3.2の NaI検出器に装着する dividerの写真を図 A.1に、回路図を図 A.2に

示す。

図 A.1: 本研究で用いたNaIシンチレータに装着する divider。それぞれの穴に図

3.2の右端にある端子を装着して使用する。中心にくぼみがあるため、間違った端

子が入ることはない。

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図 A.2: 本研究で用いたNaIシンチレータに装着する dividerの回路図。点線内は

光電子増倍管であり、図 3.2の内部にある。

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付 録B 実験で用いたγ線源

(a) 137Csの崩壊図

(b) 60Coの崩壊図

(c) 22Naの崩壊図

図 B.1: 実験で用いた実験で用いた γ線源の崩壊図

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