医療経営論⑭ まとめと今後の展望

担当

安川文朗

２０１７年７月２５日

本稿議で学んだ内容 ①日本の医療制度の特徴から、医療機関が直面する課題の特徴を知る

保険制度による医療 ⇒ 患者の負担軽減 Ｂｕｔ 過剰診療の温床

フリーアクセスの功罪 ⇒ 受診の利便性 Ｂｕｔ 医師の疲弊

公定価格制度 ⇒ 医療機関の安定収益の源泉 Ｂｕｔ 質や技術を反映しない経済評価

医療費増の源泉？

②民間病院と公立病院の事例からみる、医療経営の要諦

１）医療経営を考える視点 ・効率的な情報管理 ・効率的な情報伝達システム＝指示命令システムの確立 ・医療にかかわる人材の確保と有効な活用 ・経営の持続可能性を保証するための制度への適切な対応 ・職場や仕事に対する職員のコミットメントを強める方策

２）医療サービスの主な（５つの）特性 ・人の生命にかかわるサービスであり、「リスク」が大きい ・「命は平等」という強い価値観により、「公平性」が求められる ・「不確実性」と「情報の非対称性」が強い ・専門職を活用した対人サービス ・ ほとんどの医療機関が中小規模の非営利組織である

３）民間病院の経営改善実現の条件 ・目標（ミッション）の設定 ・それに必要な資源（人、モノ、情報）の確保 ・経営戦略の明確化 ・経営改善の具体的な果実の提示（患者サービス） ４）公立病院の役割 ・地域の基幹病院としての伝統的機能 ・民間病院に次いで多い病院数と病床数 ・不採算医療の引き受け⇒採算のとれない患者を受け入れる義務 ・自治体からの経済的援助を受ける例外的施設⇒民間病院との大きな差異 ・経営効率が大胆に改善できない課題⇒公務員としての医療者、公営事業としての病院

③医療経営の指標とその意味ー実際のデータから

１）医療機関経営評価の３つの視点 ・経営における「収益性」 ⇒ どれくらいの収益が確保されているか ・経営の「安全性・安定性」⇒ どのくらい経営の持続性があるか ・経営の将来性を担保する「機能性」⇒ 今後どんなサービスが提供可能か

２）公立病院の経営分析に使われる指標の例 ・経常収支比率 ・医業収支比率 ・職員1人1日あたり診療収入（医師、看護師） ・病床あたり診療収入/診療費用

（医業収入＋医業外収入）/（医業費用＋医業外費用）×100 医業収入/医業費用×100

患者1人1日当たり収入×職員1人あたり患者数

入院総収益/病床数 総費用/病床数

④21世紀の医療経営に影響を及ぼすもの ・人口動態の大きな変化 ⇒ 日本では人口減少社会に転換

・受療動向の変動 ⇒ 疾患別の動向変化、 「病院医療」から「在宅医療」へ

・予想を超える技術革新 ⇒ 人工知能、遺伝子治療/再生医療、ＩＴの浸透 ・国民のマインドセットの変容 ⇒ 恩恵から権利へ、「特別な場」から「生活の一部」へ

これからの医療経営

１）エビデンス(証拠)に基づく経営の重要性 ２）一施設の経営から地域単位での経営へ ３) 医療システム改革の推進役としての役割

１）エビデンス(証拠)に基づく経営の重要性

医療＝ＥＢＭ(Evidence Based Medicine)

治療効果・副作用・予後の臨床結果に基づき医療を行うこと。なるべく客観的な疫学的観察や統計学による治療結果の比較に根拠を求めながら、患者とも共に方針を決める

高度な情報管理の成否が医療の成否を決定する

経営判断の成否も、高度な情報管理の成否によらざるをえない

２）一施設の経営から地域単位での経営へ

施設単位 地域単位 国単位

ファイナンス

ファシリティ

リソース

クオリティ

病院財務管理

病院施設管理

人事管理 Ordering

TQM

BSC

地域医療計画

地域再開発と医療資源のリニューアル

医療施設連携・ 集約化と均霑化

電子カルテネットワーク

持続可能な医療財源 (保険Ｖ.Ｓ.税 等)

安全で清潔な施設基準の検討

医師/看護師養成 医療関連産業の奨励

安全基準、医療の品質評価システム

医療のマネジメント-階層的理解

３) 医療システム改革の推進役としての役割

医療制度改革の視点 ①適切で効率的な医療の提供 ②公正・公平な医療のための診療報酬制度の見直し

どのような診療報酬が望ましいのか？

最も信頼できる情報を持っているのは、医療機関や現場の医療従事者

医療経営論の要諦

１．医療経営は、単に当該組織の経営的判断についての議論ではない ⇒ 医療制度の方向性や社会経済の動向に決定的に左右される ＊医療費抑制策 ＊経済成長と社会保障 ＊高齢社会における意識と価値観 ２．医療経営の実践における「効率性」「専門性」「質」 ⇒

(１)社会的使命・役割の達成 ⇒限りある医療資源の効率的使用の有無

(２)専門性の発揮 ⇒ 医師、看護師などの人的資源の効果的かつ機能的な活用の有無

(３)質の担保と機会主義の排除 ⇒ 経営資源の安全管理及

3．持続可能な医療を実現するために、医療経営は何をすべきか ⇒ 患者と医療従事者ともに受入れ可能な医療環境の創出 ＊医療人のワーク・ライフ・バランス ＊持続可能な負担と給付のデザイン ＊地域における社会資本（ソーシャル・キャ ピタル）としての医療機関の再編 ＊医療と介護の連続性の確保

４．エビデンス・ベースド・マネジメントの実践 ⇒ 経営管理の情報、経営の成果を比較可能で保存可能な資源として活用する ことの重要性

＊視覚化、標準化された経営＝それは単なる「金太郎あめ」ではなく、「独自性」の高い医療経営を行うための基盤形成

試験の概要(8月１日実施) 16時10分～ 本校舎308

１．試験の目的と範囲

1）医療経営の前提としての、日本の医療制度 ・日本の医療制度の特徴 ・保険制度や公定価格制度の効果と課題

2）医療機関の特性と病院組織 ・病院組織の構造と特性 ・組織構造と経営との関係

3）公立病院の役割と課題 ・民間病院との基本的違い ・公立病院の経営特性や経営手法

4）経営指標についての整理 ・経営指標の意味

２．試験の形式

問題数 全部で5問 問題形式 ・文中に適当な語句や数字を入れて文章を完成させる問題 ・図表などをみて、文章の説明の正誤を問う問題 ・ある事柄について知っていることを問う問題 ・語句の説明問題

３．注意事項

1）持ち込み不可 2）出席率が２/３に満たない者（公欠扱いの場合を除く）は受験を認めない（受けても採点しない） ３）不正行為には厳罰もって処す（全単位はく奪等）